残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO

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一章

岐路

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 ――スパッ!

 デライラが逆袈裟に長剣を一閃。彼女を迎撃しようと剣を振り下ろしていたオーガの右手が宙に舞う。

「なっ!?」

 イヴァン副ギルド長が目を剥く。自分があれほど手こずっていた相手の右腕を、僅か一振りで切り飛ばしてしまったのだから無理もないか。
 しかも見た目はイヴァン副ギルド長の大剣よりずっと細くて華奢な剣だ。それが紙でも切り裂くようにあっさりとだもんね。

 だけどそれで戦闘は終わりじゃない。右腕を失ったくらいでオーガの戦闘力は下がらない。左腕で猛烈なパンチを繰り出し、リーチの長い脚で蹴りを見舞ってくる。本能で相手を殺しにくる戦闘種族がオーガだ。

「なんでしょう? 更に動きが良くなっているような気がします」
「そうだな。もしやあの剣のせいか?」

 うん。言われてみれば。イヴァン副ギルド長の上を行く動きをしているように見える。あれは僕のバフの影響だけじゃなさそうだね。

「ちょっとあの子、どうしちゃったの? あれじゃイヴァン以上じゃない」
「いや、それよりあの剣だ。何だよありゃ」

 支援するのも忘れてデライラの戦いに見入っているギルドのトップ二人。
 イヴァン副ギルド長のようなパワーでゴリ押しする戦い方ではなく、スピードを活かしたヒット&アウェイ。この戦い方は一撃必殺とはいかない。でも、彼女の戦闘スタイルはずっとこうだ。こうなんだけど……
 ほんの数回斬り付けただけでオーガ隊長は深手を負い、既に虫の息だ。普通の剣ならかすり傷すら付ける事が難しいオーガ相手に。

「いやあああああああっ!!」

 咆哮を上げながらデライラが跳躍する。
 今からオーガ隊長の首を刈るぞ。その意図が見える高さ。
 もはや立っているのがやっとのオーガ隊長は抗う事も出来ずに棒立ちだ。
 一筋の煌めきが尾を引き、オーガ隊長の後方にデライラが着地する。それと同時にオーガ隊長の首がずり落ちた。
 うん、明らかにあの剣を持つまでの動きとはまったく別人のように見えるね。剣の切れ味の比較の話じゃなくて、なんて言うんだろう?
 人間としての性能が上がっている――?

「あの剣の影響なのは間違いなさそうですが、いきなりアレでは……」

 ノワールが心配そうな顔をする。うん、そうなんだ。僕達は自分の魔力で身体強化してるから、人間離れした動きをしても骨や筋肉が耐える事が出来る。だけどデライラは自力での身体強化は出来ないはず。それを僕のバフで運動能力やパワーを底上げしているに過ぎない。
 つまり、外部の力で強制的に、言い換えれば無理矢理身体能力をあげられている状態だ。多分物凄い負担が掛かっているんじゃないかな?

「くっ……」

 やっぱりか。どうやら僕の予想は間違っちゃいないみたいだね。デライラは苦しそうな表情で膝を付いてしまった。

「大丈夫かデライラ!」
「デライラ!?」

 ギルド長と副ギルド長が彼女へ駆け寄り様子を見ている。

「急激な負担で身体が悲鳴を上げたのだろう? 少しばかり休めば問題なかろうが、この先の戦闘では使い物になるまい」
「そうだね」

 アーテルはさして心配する様子もなくそう分析し、僕もそれに同意する。さて、この状況でサマンサギルド長はどう判断するかな?
 現状デライラの身体はガタガタ。イヴァン副ギルド長は得物の大剣を失って、この先の戦闘では戦力として期待できない。まあ、今デライラが倒したオーガ隊長が使っていた剣は普通の人間にとっては大剣サイズだから、イヴァン副ギルド長がそれを使う手もあるけど。

「ショーン」

 少しすると、デライラを問診していたサマンサギルド長がこちらに向き直った。

「なんでしょう?」
「ここまでのあなたやノワールの働き、そしてマップの正確さから判断すると、前回の合同クエストの際に最下層に到達した事は疑いようがないわ」
「はい」
「教えて」

 あまりふざける事のないサマンサギルド長だけど、今の表情はかつて見た事が無いほど真剣で、鬼気迫っているように見える。モノクルの奥の瞳が鋭い。

「何をでしょうか?」
「この先の事よ」

 さて、いよいよって感じだね。正直な話、最下層までの案内は出来るけど、アーテルの後釜は何者が収まっているのかは分からない。勝てるかどうかで言ったら、ドラゴンでもいない限り勝てると思う。
 でも、サマンサギルド長が聞きたいのが『この迷宮を完全に攻略できるのか』って事になると、世間に広がっている通説というヤツが覆る真実を晒さなきゃならない。
 ……当然、なぜ僕がそんな事を知っているのか探られるだろうし、そうなるとアーテルの正体にも触れなきゃならない。
 ここが人生の分岐点……かもしれないね。
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