46 / 206
一章
岐路
しおりを挟む
――スパッ!
デライラが逆袈裟に長剣を一閃。彼女を迎撃しようと剣を振り下ろしていたオーガの右手が宙に舞う。
「なっ!?」
イヴァン副ギルド長が目を剥く。自分があれほど手こずっていた相手の右腕を、僅か一振りで切り飛ばしてしまったのだから無理もないか。
しかも見た目はイヴァン副ギルド長の大剣よりずっと細くて華奢な剣だ。それが紙でも切り裂くようにあっさりとだもんね。
だけどそれで戦闘は終わりじゃない。右腕を失ったくらいでオーガの戦闘力は下がらない。左腕で猛烈なパンチを繰り出し、リーチの長い脚で蹴りを見舞ってくる。本能で相手を殺しにくる戦闘種族がオーガだ。
「なんでしょう? 更に動きが良くなっているような気がします」
「そうだな。もしやあの剣のせいか?」
うん。言われてみれば。イヴァン副ギルド長の上を行く動きをしているように見える。あれは僕のバフの影響だけじゃなさそうだね。
「ちょっとあの子、どうしちゃったの? あれじゃイヴァン以上じゃない」
「いや、それよりあの剣だ。何だよありゃ」
支援するのも忘れてデライラの戦いに見入っているギルドのトップ二人。
イヴァン副ギルド長のようなパワーでゴリ押しする戦い方ではなく、スピードを活かしたヒット&アウェイ。この戦い方は一撃必殺とはいかない。でも、彼女の戦闘スタイルはずっとこうだ。こうなんだけど……
ほんの数回斬り付けただけでオーガ隊長は深手を負い、既に虫の息だ。普通の剣ならかすり傷すら付ける事が難しいオーガ相手に。
「いやあああああああっ!!」
咆哮を上げながらデライラが跳躍する。
今からオーガ隊長の首を刈るぞ。その意図が見える高さ。
もはや立っているのがやっとのオーガ隊長は抗う事も出来ずに棒立ちだ。
一筋の煌めきが尾を引き、オーガ隊長の後方にデライラが着地する。それと同時にオーガ隊長の首がずり落ちた。
うん、明らかにあの剣を持つまでの動きとはまったく別人のように見えるね。剣の切れ味の比較の話じゃなくて、なんて言うんだろう?
人間としての性能が上がっている――?
「あの剣の影響なのは間違いなさそうですが、いきなりアレでは……」
ノワールが心配そうな顔をする。うん、そうなんだ。僕達は自分の魔力で身体強化してるから、人間離れした動きをしても骨や筋肉が耐える事が出来る。だけどデライラは自力での身体強化は出来ないはず。それを僕のバフで運動能力やパワーを底上げしているに過ぎない。
つまり、外部の力で強制的に、言い換えれば無理矢理身体能力をあげられている状態だ。多分物凄い負担が掛かっているんじゃないかな?
「くっ……」
やっぱりか。どうやら僕の予想は間違っちゃいないみたいだね。デライラは苦しそうな表情で膝を付いてしまった。
「大丈夫かデライラ!」
「デライラ!?」
ギルド長と副ギルド長が彼女へ駆け寄り様子を見ている。
「急激な負担で身体が悲鳴を上げたのだろう? 少しばかり休めば問題なかろうが、この先の戦闘では使い物になるまい」
「そうだね」
アーテルはさして心配する様子もなくそう分析し、僕もそれに同意する。さて、この状況でサマンサギルド長はどう判断するかな?
現状デライラの身体はガタガタ。イヴァン副ギルド長は得物の大剣を失って、この先の戦闘では戦力として期待できない。まあ、今デライラが倒したオーガ隊長が使っていた剣は普通の人間にとっては大剣サイズだから、イヴァン副ギルド長がそれを使う手もあるけど。
「ショーン」
少しすると、デライラを問診していたサマンサギルド長がこちらに向き直った。
「なんでしょう?」
「ここまでのあなたやノワールの働き、そしてマップの正確さから判断すると、前回の合同クエストの際に最下層に到達した事は疑いようがないわ」
「はい」
「教えて」
あまりふざける事のないサマンサギルド長だけど、今の表情はかつて見た事が無いほど真剣で、鬼気迫っているように見える。モノクルの奥の瞳が鋭い。
「何をでしょうか?」
「この先の事よ」
さて、いよいよって感じだね。正直な話、最下層までの案内は出来るけど、アーテルの後釜は何者が収まっているのかは分からない。勝てるかどうかで言ったら、ドラゴンでもいない限り勝てると思う。
でも、サマンサギルド長が聞きたいのが『この迷宮を完全に攻略できるのか』って事になると、世間に広がっている通説というヤツが覆る真実を晒さなきゃならない。
……当然、なぜ僕がそんな事を知っているのか探られるだろうし、そうなるとアーテルの正体にも触れなきゃならない。
ここが人生の分岐点……かもしれないね。
デライラが逆袈裟に長剣を一閃。彼女を迎撃しようと剣を振り下ろしていたオーガの右手が宙に舞う。
「なっ!?」
イヴァン副ギルド長が目を剥く。自分があれほど手こずっていた相手の右腕を、僅か一振りで切り飛ばしてしまったのだから無理もないか。
しかも見た目はイヴァン副ギルド長の大剣よりずっと細くて華奢な剣だ。それが紙でも切り裂くようにあっさりとだもんね。
だけどそれで戦闘は終わりじゃない。右腕を失ったくらいでオーガの戦闘力は下がらない。左腕で猛烈なパンチを繰り出し、リーチの長い脚で蹴りを見舞ってくる。本能で相手を殺しにくる戦闘種族がオーガだ。
「なんでしょう? 更に動きが良くなっているような気がします」
「そうだな。もしやあの剣のせいか?」
うん。言われてみれば。イヴァン副ギルド長の上を行く動きをしているように見える。あれは僕のバフの影響だけじゃなさそうだね。
「ちょっとあの子、どうしちゃったの? あれじゃイヴァン以上じゃない」
「いや、それよりあの剣だ。何だよありゃ」
支援するのも忘れてデライラの戦いに見入っているギルドのトップ二人。
イヴァン副ギルド長のようなパワーでゴリ押しする戦い方ではなく、スピードを活かしたヒット&アウェイ。この戦い方は一撃必殺とはいかない。でも、彼女の戦闘スタイルはずっとこうだ。こうなんだけど……
ほんの数回斬り付けただけでオーガ隊長は深手を負い、既に虫の息だ。普通の剣ならかすり傷すら付ける事が難しいオーガ相手に。
「いやあああああああっ!!」
咆哮を上げながらデライラが跳躍する。
今からオーガ隊長の首を刈るぞ。その意図が見える高さ。
もはや立っているのがやっとのオーガ隊長は抗う事も出来ずに棒立ちだ。
一筋の煌めきが尾を引き、オーガ隊長の後方にデライラが着地する。それと同時にオーガ隊長の首がずり落ちた。
うん、明らかにあの剣を持つまでの動きとはまったく別人のように見えるね。剣の切れ味の比較の話じゃなくて、なんて言うんだろう?
人間としての性能が上がっている――?
「あの剣の影響なのは間違いなさそうですが、いきなりアレでは……」
ノワールが心配そうな顔をする。うん、そうなんだ。僕達は自分の魔力で身体強化してるから、人間離れした動きをしても骨や筋肉が耐える事が出来る。だけどデライラは自力での身体強化は出来ないはず。それを僕のバフで運動能力やパワーを底上げしているに過ぎない。
つまり、外部の力で強制的に、言い換えれば無理矢理身体能力をあげられている状態だ。多分物凄い負担が掛かっているんじゃないかな?
「くっ……」
やっぱりか。どうやら僕の予想は間違っちゃいないみたいだね。デライラは苦しそうな表情で膝を付いてしまった。
「大丈夫かデライラ!」
「デライラ!?」
ギルド長と副ギルド長が彼女へ駆け寄り様子を見ている。
「急激な負担で身体が悲鳴を上げたのだろう? 少しばかり休めば問題なかろうが、この先の戦闘では使い物になるまい」
「そうだね」
アーテルはさして心配する様子もなくそう分析し、僕もそれに同意する。さて、この状況でサマンサギルド長はどう判断するかな?
現状デライラの身体はガタガタ。イヴァン副ギルド長は得物の大剣を失って、この先の戦闘では戦力として期待できない。まあ、今デライラが倒したオーガ隊長が使っていた剣は普通の人間にとっては大剣サイズだから、イヴァン副ギルド長がそれを使う手もあるけど。
「ショーン」
少しすると、デライラを問診していたサマンサギルド長がこちらに向き直った。
「なんでしょう?」
「ここまでのあなたやノワールの働き、そしてマップの正確さから判断すると、前回の合同クエストの際に最下層に到達した事は疑いようがないわ」
「はい」
「教えて」
あまりふざける事のないサマンサギルド長だけど、今の表情はかつて見た事が無いほど真剣で、鬼気迫っているように見える。モノクルの奥の瞳が鋭い。
「何をでしょうか?」
「この先の事よ」
さて、いよいよって感じだね。正直な話、最下層までの案内は出来るけど、アーテルの後釜は何者が収まっているのかは分からない。勝てるかどうかで言ったら、ドラゴンでもいない限り勝てると思う。
でも、サマンサギルド長が聞きたいのが『この迷宮を完全に攻略できるのか』って事になると、世間に広がっている通説というヤツが覆る真実を晒さなきゃならない。
……当然、なぜ僕がそんな事を知っているのか探られるだろうし、そうなるとアーテルの正体にも触れなきゃならない。
ここが人生の分岐点……かもしれないね。
10
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる