残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO

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一章

ミスティウルフ再び

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 僕が思い悩んでいると、脳内にアーテルが話しかけてきた。

(我の正体を明かしてありのままを語ればよかろう? それでもし主人に害を成すような事になれば、我とノワールがこの国ごと滅ぼしてくれよう)

 随分と物騒な事を言うなぁ。ノワールも隣でコクコクと頷かないの!

(なに、闇属性の事は伏せておき、我が個人的に主人を気に入った事にすればよい)
(コクコク)

 確かに古の神狼と闇の大精霊。人間が抗えるような存在じゃないもんね。貴族が出てこようが王族が出てこようが怯む必要はないかもしれない。
 でも、全ての人間を敵に回すのは怖くて悲しくて寂しいよ……

(問題ないかと。ここにいるギルドの幹部と侯爵のところでとどめておくようにすればよいのです)

 、か。物凄い威圧感だったよ、ノワール?
 でも、この二人なら何があっても一緒にいてくれる。そんな気がする。
 やっぱり覚悟を決めるべきかなぁ。正直侯爵の依頼の結果が失敗だとしても、僕自身はあまり気にしない。元々ゴールドランクだなんて、僕には過ぎた立場だし。
 それよりも問題はこのダンジョンから溢れ出る魔物のスタンピードだ。アーテルの話では、ダンジョン内の魔物の密度が濃くなりすぎて自然発生するタイプと、ダンジョンボスが人間に悪意を持って仕掛けてくるタイプがあるらしい。
 前回の合同クエストで間引きして間もないこのタイミングで起きるスタンピードとなると、アーテルの代わりに居座ったダンジョンボスは、ほぼ間違いなく人間に害意を抱いている。

 ――やっぱり潰しておくべきだよね、侯爵の思惑は関係なしに。今のダンジョンは危険だ。

「サマンサギルド長」

 僕は覚悟を決め、デライラを介抱しているサマンサギルド長とイヴァン副ギルド長の下へ向かった。それにノワールもアーテルも付いて来る。

「今から僕が話す事を信じるか信じないかはお任せします。というか、多分信じられないでしょうけど」
「……話しなさい。判断はそれからね」

 モノクルの位置をツイと上げ、インテリジェンスな雰囲気を醸し出すサマンサギルド長と、好奇心で目を輝かせているイヴァン副ギルド長。そして不安げなデライラの視線が僕に集中する。

「まず、ダンジョン最下層にいるボス的な魔物を倒せばダンジョンとしての機能が無くなる。その通説は間違いです」
「なんですって!?」
「なんでそう言い切れる?」

 サマンサギルド長は驚き、イヴァン副ギルド長は単純に疑問に思った。そんな感じだね。

「それは――」
「それは我がこのダンジョンの主だったからだ」

 僕の言葉を遮り、アーテルが一歩前に出てそう言い放った。

「……いや、いきなりそう言われてもな……」

 ははは。確かにね。イヴァン副ギルド長が困惑している。サマンサギルド長は一言で言えば疑惑を持ったって感じだね。だけどデライラだけは真剣な表情だ。
 ノワールがウサギの姿に変化したりするのを目の当たりにしてるからね。彼女だけはアーテルの話を信じているみたいだ。

「ふむ、これならばどうだ?」

 アーテルの姿が揺らぐ。そして現れたのは巨大な黒狼。
 漆黒の体毛は艶があり、その中で赤く光る鋭い目。見た目は滑らかだが鋼すら弾く体毛は人間の攻撃を受け付けず、素早い動きは視認する事さえ困難で、魔法を当てるのも至難の業。

「ミスティウルフ……だと?」
「そんな……」
「どうだ? これでも信用できぬならば一戦交えてみるか?」

 そう言った瞬間アーテルの姿がブレた。するとそこにはすでに彼女の姿はなく、音も立てずにサマンサギルド長とイヴァン副ギルド長の背後に立ち、その首筋に鋭い爪を当てていた。
 冷や汗をダラダラと垂らして動けなくなっている二人を見て、僕はアーテルを窘める。

「アーテル」
「おっと、主人にオシオキされてしまうのでこれくらいにしておこう」

 フッと口角を上げたミスティウルフの姿のアーテルが人型に戻り、僕の下へ戻ってきた。さて、二人の反応はどうだろうか。
 いや、それよりもミスティウルフの姿になったり人型になったりしてるのに、服や装備はどうなってんだろ? 壊れもしないでちゃんと着てるんだよなぁ。

「ふふ、気になるか? 見せても構わんぞ?」
「やめてね?」

 そんな気の抜けた雰囲気になって、サマンサギルド長とイヴァン副ギルド長が漸く大きく息を吐き出した。

「ふうっ……分かった。だがなぜだ?」
「なぜ、とは?」
「ミスティウルフ程の存在がなぜ人間に付き従っている?」

 イヴァン副ギルド長の質問に、アーテルがきょとんとしている。

「決まっている。我では主人とノワールには勝てないからだ」
「えっ?」
「「「えっ?」」」
(コクコク)

 予想外のアーテルの発言に、僕も、僕以外の三人も、思わず呆気に取られてしまう。ノワールだけはさも当然の事のように頷いていたけど。

「まあ、それ以上に、我が主人を気に入ったのだ。主人の人としての生が尽きるまで、眷属となり共に過ごしたいと思う」

(我が主人に歯向かったとして、ノワールは我に力を貸す事はなかろう? そうなれば我は闇の力を封じられたまま戦わねばならん。勝ち筋がまるで見えないのでな)

 アーテルは楽しそうに、僕の頭の中にそう話しかけてきた。
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