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一章
怒らせちゃダメ。絶対。
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『ガルルルルルゥ……』
地下十一階層では魔物に出会う事なく、僕達はアーテルと出会った地下十二階層のあの部屋に到達した。
「おうおう、思い切り警戒しているな」
「ふん……言葉も解さぬ下等生物が生意気なのです」
マンティコアを目の前に、アーテルは如何にも楽しそうに不敵な笑みを浮かべ、ノワールはこちらを威圧してこようとするマンティコアを不機嫌そうに見ていた。
「お、お前ら、随分余裕あんな?」
僕達ダークネスの三人と同様に前線に立つイヴァン副ギルド長は、汗を滴らせながらヤツから目を離す事が出来ずにいる。
さらに後方にいるサマンサギルド長とデライラも同じような感じだね。
僕? そうだなぁ……初めてアーテルに出会った時と比べれば、大した圧は感じない。
目の前のマンティコアは、四つ足の状態でも僕の目線より高いところに顔がある。アーテルが狼の姿になった時よりも大きい。
顔は醜悪な老人のようで、鬣を靡かせている。身体はやはり獅子のようで、尾はサソリのものだ。世間で言われている姿と大体同じだけど、蝙蝠のような翼はない。まあ、こんな廃坑の奥底でこの巨体が飛び回るのもなんだかね。
僕は背中の短双戟を両手に持ち、エンチャントの魔法陣に魔力を流した。
「さあ、始めようか」
「倒してしまっても良いのだろう?」
「ああ。古の神狼の力を見せてくれ」
アーテルが鉤爪を稼働させた。ジャキンという金属音が響き渡る。
「ご主人様、私も」
(ノワールは一応人間という事にしてるから、控えめにね?)
ノワールもやる気を漲らせて双剣を手にするけど、彼女の正体までバレてしまっては色々とまずい気がする。まだまだ可愛い女の子でいてもらおう。
「むう……」
少し不満げに口を尖らせるけど、あはは、可愛いな。
さて、厄介な事になる前に先手を打たせてもらおうか。
僕はヤツの注意を引くためにワザと双戟を挑発的に構えた。マンティコアの視線が僕に向く。僕の視線はと言えば、ヤツの尾の先端だ。何しろ毒をまき散らすというのだから危険極まりない。
僕はマンティコアの足下に広がる影から、人間の頭程の大きさの水球を三つ出現させた。地面より浮き上がったそれは、ふよふよと宙を彷徨いマンティコアの直上で停止する。ヤツは全く気付いていない。
僕は左手に持った短戟を軽く振り下ろした。マンティコアはそれにビクリと反応する。その直後、浮遊していた水球がヤツの顔面と背中に直撃した。そしてもう一つの水球は尾の先端をそっと包み込んだ。
『グギャアアアアアア!』
水球をまともに浴びたマンティコアが突如絶叫を上げながら悶絶した。
「ほう、あの水の玉はなんだ? 主人よ」
アーテルが興味深そうに訊ねてきた。それには僕じゃなくてノワールが答えた。それはもう得意そうな表情で。
「アレの中身はスライムなのですよ。前回来た時に、ご主人様がスライムの体液……と言っていいのか分かりませんが、強力な水魔法で包み込んでおいたのです」
そう。ノワールが素早くスライムのコアを破壊し、溶けて消える前にスライムの身体を水魔法で保管したものだ。いざとなったら爆弾代わりに使えるんじゃないかと思ってね。
ただ、保管のためにずっと水魔法を保持するのは魔力消費という意味で結構辛い。そこで影収納の中にぶち込んでみたんだけど……なんと状態はそのまま保存されていた。多分食糧なんかも腐らずに保存できるんじゃないかな?
「スライムってマジかよお前……何でもアリだな」
あはは……副ギルド長に言われなくても、自分でもちょっとおかしいヤツだなって思い始めてるよ。
色々と突っ込むところはあったと思うんだ。でもイヴァン副ギルド長はその色々を諦めたみたいだ、サマンサギルド長は不審そうな目で見てるけれど。
顔面と背中に強烈な酸をぶちまけられたマンティコアは怒り心頭だ。醜い顔はさらに醜く爛れているけど、流石はダンジョンボス、これくらいでは倒せないか。
尾の先がこちらを向く。まるでバリスタの矢がこちらに狙いを定めるように。しかしヤツはまだ気付いていない。毒の発射口は僕の水魔法で塞がれている。
出口が塞がれた状態で発射しようとするとどうなるか。
『ガアアアア!?』
答えは『破裂する』だよね。
超密度の水球によって出口を塞がれたサソリの尾は、毒液の発射の圧に耐え切れず破裂してしまった。それにしても、内部から破裂するくらいの圧力で発射するって、怖いよね。直撃したら毒にやられて死ぬ前に身体に穴が開くんじゃないかな?
まあ、その圧力を完封する僕の水球の密度も大概なんだけど。
とにかく、一番厄介な毒による攻撃はこれで心配する必要はなくなった。あとは正攻法でも大丈夫だろう。
毒攻撃を封じられたマンティコアに残されたのは肉弾戦しかない。スライムの強酸と尾の破壊で、ヤツのヘイトは全て僕に向いている。
猛スピードで僕に向かって駆けて来たヤツは、僕の目の前で立ちあがり右の前脚を叩きつけて来た。間近で見るとその手は巨大で、しかも爪は鋭い。僕はその攻撃を短戟で受けようとするが……
「主人に手を上げるとは、許せんな」
目にもとまらぬ速さで僕の前に躍り出たアーテルが、マンティコアの強烈な一撃をあっさりと掴んで止めて見せた。そして腰を沈めながら、右の拳を腰だめに構える。
「これはオシオキだ」
そのまま伸び上がるようにマンティコアの腹にアッパーを食らわせた。
マンティコアの身体はくの字に折れ曲がり、そのまま天井に激突してから地面に落ち、二、三度バウンドした。全く、なんてパワーだよ。
さらに、よろよろと立ち上がるマンティコアの目前に、空中から踵を落としてくるノワールが降ってきた。
ズズンと地響きを立てながら、マンティコアの頭が地面にめり込むと、その頭をグリグリと踏みつけながらノワールが言う。
「ご主人様に手を上げるとは、万死に値します。死になさい! 死ぬのです!」
あのグリグリがどれほどの威力か分からないけど、あの巨体のマンティコアが抵抗らしい抵抗を出来ないところみると、相当な力を込めているらしい。
……彼女達を怒らせたらダメ。絶対。
地下十一階層では魔物に出会う事なく、僕達はアーテルと出会った地下十二階層のあの部屋に到達した。
「おうおう、思い切り警戒しているな」
「ふん……言葉も解さぬ下等生物が生意気なのです」
マンティコアを目の前に、アーテルは如何にも楽しそうに不敵な笑みを浮かべ、ノワールはこちらを威圧してこようとするマンティコアを不機嫌そうに見ていた。
「お、お前ら、随分余裕あんな?」
僕達ダークネスの三人と同様に前線に立つイヴァン副ギルド長は、汗を滴らせながらヤツから目を離す事が出来ずにいる。
さらに後方にいるサマンサギルド長とデライラも同じような感じだね。
僕? そうだなぁ……初めてアーテルに出会った時と比べれば、大した圧は感じない。
目の前のマンティコアは、四つ足の状態でも僕の目線より高いところに顔がある。アーテルが狼の姿になった時よりも大きい。
顔は醜悪な老人のようで、鬣を靡かせている。身体はやはり獅子のようで、尾はサソリのものだ。世間で言われている姿と大体同じだけど、蝙蝠のような翼はない。まあ、こんな廃坑の奥底でこの巨体が飛び回るのもなんだかね。
僕は背中の短双戟を両手に持ち、エンチャントの魔法陣に魔力を流した。
「さあ、始めようか」
「倒してしまっても良いのだろう?」
「ああ。古の神狼の力を見せてくれ」
アーテルが鉤爪を稼働させた。ジャキンという金属音が響き渡る。
「ご主人様、私も」
(ノワールは一応人間という事にしてるから、控えめにね?)
ノワールもやる気を漲らせて双剣を手にするけど、彼女の正体までバレてしまっては色々とまずい気がする。まだまだ可愛い女の子でいてもらおう。
「むう……」
少し不満げに口を尖らせるけど、あはは、可愛いな。
さて、厄介な事になる前に先手を打たせてもらおうか。
僕はヤツの注意を引くためにワザと双戟を挑発的に構えた。マンティコアの視線が僕に向く。僕の視線はと言えば、ヤツの尾の先端だ。何しろ毒をまき散らすというのだから危険極まりない。
僕はマンティコアの足下に広がる影から、人間の頭程の大きさの水球を三つ出現させた。地面より浮き上がったそれは、ふよふよと宙を彷徨いマンティコアの直上で停止する。ヤツは全く気付いていない。
僕は左手に持った短戟を軽く振り下ろした。マンティコアはそれにビクリと反応する。その直後、浮遊していた水球がヤツの顔面と背中に直撃した。そしてもう一つの水球は尾の先端をそっと包み込んだ。
『グギャアアアアアア!』
水球をまともに浴びたマンティコアが突如絶叫を上げながら悶絶した。
「ほう、あの水の玉はなんだ? 主人よ」
アーテルが興味深そうに訊ねてきた。それには僕じゃなくてノワールが答えた。それはもう得意そうな表情で。
「アレの中身はスライムなのですよ。前回来た時に、ご主人様がスライムの体液……と言っていいのか分かりませんが、強力な水魔法で包み込んでおいたのです」
そう。ノワールが素早くスライムのコアを破壊し、溶けて消える前にスライムの身体を水魔法で保管したものだ。いざとなったら爆弾代わりに使えるんじゃないかと思ってね。
ただ、保管のためにずっと水魔法を保持するのは魔力消費という意味で結構辛い。そこで影収納の中にぶち込んでみたんだけど……なんと状態はそのまま保存されていた。多分食糧なんかも腐らずに保存できるんじゃないかな?
「スライムってマジかよお前……何でもアリだな」
あはは……副ギルド長に言われなくても、自分でもちょっとおかしいヤツだなって思い始めてるよ。
色々と突っ込むところはあったと思うんだ。でもイヴァン副ギルド長はその色々を諦めたみたいだ、サマンサギルド長は不審そうな目で見てるけれど。
顔面と背中に強烈な酸をぶちまけられたマンティコアは怒り心頭だ。醜い顔はさらに醜く爛れているけど、流石はダンジョンボス、これくらいでは倒せないか。
尾の先がこちらを向く。まるでバリスタの矢がこちらに狙いを定めるように。しかしヤツはまだ気付いていない。毒の発射口は僕の水魔法で塞がれている。
出口が塞がれた状態で発射しようとするとどうなるか。
『ガアアアア!?』
答えは『破裂する』だよね。
超密度の水球によって出口を塞がれたサソリの尾は、毒液の発射の圧に耐え切れず破裂してしまった。それにしても、内部から破裂するくらいの圧力で発射するって、怖いよね。直撃したら毒にやられて死ぬ前に身体に穴が開くんじゃないかな?
まあ、その圧力を完封する僕の水球の密度も大概なんだけど。
とにかく、一番厄介な毒による攻撃はこれで心配する必要はなくなった。あとは正攻法でも大丈夫だろう。
毒攻撃を封じられたマンティコアに残されたのは肉弾戦しかない。スライムの強酸と尾の破壊で、ヤツのヘイトは全て僕に向いている。
猛スピードで僕に向かって駆けて来たヤツは、僕の目の前で立ちあがり右の前脚を叩きつけて来た。間近で見るとその手は巨大で、しかも爪は鋭い。僕はその攻撃を短戟で受けようとするが……
「主人に手を上げるとは、許せんな」
目にもとまらぬ速さで僕の前に躍り出たアーテルが、マンティコアの強烈な一撃をあっさりと掴んで止めて見せた。そして腰を沈めながら、右の拳を腰だめに構える。
「これはオシオキだ」
そのまま伸び上がるようにマンティコアの腹にアッパーを食らわせた。
マンティコアの身体はくの字に折れ曲がり、そのまま天井に激突してから地面に落ち、二、三度バウンドした。全く、なんてパワーだよ。
さらに、よろよろと立ち上がるマンティコアの目前に、空中から踵を落としてくるノワールが降ってきた。
ズズンと地響きを立てながら、マンティコアの頭が地面にめり込むと、その頭をグリグリと踏みつけながらノワールが言う。
「ご主人様に手を上げるとは、万死に値します。死になさい! 死ぬのです!」
あのグリグリがどれほどの威力か分からないけど、あの巨体のマンティコアが抵抗らしい抵抗を出来ないところみると、相当な力を込めているらしい。
……彼女達を怒らせたらダメ。絶対。
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