残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO

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二章

誰も彼もが自分勝手

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 事ここに至っては勝ち目無しと腹を括ったのか、ヴィルベルヴィントが話し始めた。
 彼によれば、高齢で足腰も弱くなったオスト公に代わり、実務はヴィルベルヴィントが取り仕切っているらしい。
 ウィザードとしての腕も優れていたが、それ以上に彼の政治手腕は優れており、次期領主として着実に経験を積んで行った。

「そんな中、僕は気付いてしまった。確かにここの領民は笑顔に溢れ、活気に満ちている。しかし、僕自身が笑顔になる事はなかった」

 幼少期より厳しい祖父に躾けられ、私心無くして領民の為に働いてこそ真の貴族。それが当たり前だと思っていたのに、いざ施政に携わってみると、自分はまったく幸福を感じる事はなかった。
 そして、他の貴族との交流の時も、贅を尽くした身なりや装飾品、料理に酒。そうしたものに触れる度に自分が見すぼらしく思えてしまう。国内でも最上位に位置する爵位を持ちながら、何故にこんなにも肩身の狭い思いをしなくてはならないのか。
 ヴィルベルヴィントは悔し気にそう言う。

「愚か者が……」

 ヴィルベルヴィントの供述を聞いていたオスト公が苦々しく言葉を吐いた。

「貴族は汗水流して畑を耕しているのか? 貴様が窯の前に立ちパンを焼いているのか?」
「いえ、それは……」
「我々貴族が不自由なく食事を摂れるのは、領民が働いているからこそだ! その領民を守らねば一欠片のパンすら口にする事は出来んのだぞ! そして、人の上に立つ者、すなわち我々貴族は、領民の模範とならねばならん! それを贅沢三昧出来ぬからと……」

 烈火の如く怒るオスト公に、ヴィルベルヴィントは悔しそうに顔を歪めた。何か言い返したいのに言い返せずにいる。そんな表情だ。

「つまり、取るに足りないたかが冒険者の僕達を消すだけで、ブンドルから多額の賄賂おこづかいを貰えるという話に飛びついた訳ですか」

 僕に図星を言い当てられて、ヴィルベルヴィントは俯いた。同時に大きな魔力の高まりを感じる。ただしそれはヴィルベルヴィントじゃない。

「この痴れ者がぁっ!!」

 それはオスト公だった。目視は出来ないけど彼は風魔法で刃を作り出している。ギルドマスターのサマンサさんが得意だった魔法だ。もっとも、彼女がダンジョンで使った時よりはかなり威力をセーブしているみたいだけど。

「ノワール」
「はい」

 僕がノワールに目配せすると、オスト公が発動させた魔法は途中で霧散してしまい、風の精霊達はその活動を停止してしまった。流石は大精霊。ノワール、グッジョブだ。

「何故止めるか!」

 オスト公が目を剥いてくる。

「こんな夜更けに騒がれては、僕の仲間が起きてしまいます。それに、彼は僕の敵ですから、始末をつけるのは僕の役目ではないですか?」
「しかしこれは身内で解決しなくては!」
「殺されかけたのは僕です。こんな時に『身内』という言葉を都合よく使わないで下さい。むしろ関係ないのは公爵閣下の方でしょう?」
「ぐ……」

 まあ、少々強引かなとは思ってるよ。ヴィルベルヴィントが賄賂を受け取ったのは、オスト公の倹約に嫌気が差したからとも言える訳で、全く無関係かと言われればそんな事はない。
 でも、このままオスト公がヴィルベルヴィントを処罰して終わりじゃあ、僕の気持ちが済まないじゃないか。
 僕は短双戟を影収納にしまい込み、ゲンコツでヴィルベルヴィントの横っ面をぶん殴った。もちろん手加減はしている。顎を砕いてしまったら話を聞けないからね。

「ぐふっ」

 手加減しているとは言え、身体強化している僕のパンチを受けたヴィルベルヴィントは、壁まで吹っ飛ばされ、背中を強かに打ち付けて苦悶の表情を浮かべる。
 だけどそんな事はお構いなしに、尋問を始めた。

「依頼主はブンドルで間違いないですね?」

 ヴィルベルヴィントはコクリと頷いた。

「では、僕が殺されなければならない理由は?」
「それは……王家御用達の商会主に逆らった冒険者がいると。王家から信任を得ている商会主に逆らうのは、王家に逆らうも同じだと」

 呆れた話だ。一商人が個人的な理由で貴族を動かせるだなんてね。

「公爵閣下。ブンドルはそんなに偉いんですか。無実の冒険者を殺す為に貴族を動かせるほど」
「それだけ金の力は侮れんという事だろう。しかし、少しでも骨がある者ならばそんな甘言には乗らん」

 オスト公は情けないと嘆きながら、ヴィルベルヴィントを見た。

「さて、実の所、ブンドルに蹴飛ばされて怪我をした少女を助け、慰謝料、治療費、薬代を請求しただけなので全くの無実を主張します。この主張は通ると思いますか?」

 僕は初めにヴィルベルヴィントを、続いてオスト公を見た。
 ヴィルベルヴィントは目を逸らし、オスト公は首を横に振りながら口を開く。

「無理であろうな。すでにブンドルめが手を回しておるだろう」

 だろうね。正規のやり方じゃ勝ち目がないんだろう。オスト公の表情にも諦めが表れている。何しろ自分の孫が実際にこの体たらくなんだから。

「それならブンドルも、それに手を貸す貴族も全部消さないとダメですね」
「いかに貴公が強くても、そんな事が出来る訳が――」

 首を振りながらそういうオスト公の言葉を遮って、僕は言い切った。

「出来ますよ。マルセル・ポーを殺したの、僕ですから。必要ならば、四公家だろうが何だろうが、全て闇から闇に葬って差し上げます」

 自分でも気付かないうちに、かなり怒りのボルテージが上がっていたのかも知れない。あまりに身勝手なブンドルとそれに手を貸す権力者に対して。
 僕を見るオスト公の表情は青褪めていた。
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