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三章
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あれから五日後、そして王都に来てからちょうどひと月。僕は王城の謁見の間で跪いている。
首を垂れている相手はレベッカ・フォン・ルーブリム女王陛下。そして僕の両サイドにはこの国の重鎮や要職に就いている者達が並んでいた。
敵意や蔑みの視線が多いけど、中には興味深く観察しているような目も感じるし、これから何をやらかしてくれるのか期待している眼差しを投げつけて来る人もいる。珍しく正装に身を包んだユーイングさんなんだけどね。
尚、この謁見の間に入るのを許されたのは僕一人だけ。ノワール、アーテルは元より、デライラ達も王城の一室で待機するよう命じられていた。実質は軟禁に近い感じだけどね。
だけど僕の眷属二人はすでに影の中にいる。そして風の精霊王シルフも。
「面を上げなさい。直答を許します。あなたの名前は?」
綺麗なよく通る女性の声が謁見の間に響く。レベッカ女王陛下の声だ。
「は、冒険者ショーンと申します」
顔を上げてそう言うと、レベッカ陛下の姿が目に入った。アップに纏めた髪、そして金色に輝くティアラ。細い眉ときりりとした目元。中々の美人さんだね。しかしなぜか、身に纏っているのは所々に急所を守る防具が施されたドレスアーマーというヤツだ。
腰には一振りの剣を佩いている。
僕を手打ちにするつもりかな? なんて考えていたら、影の中からノワールが頭の中に話しかけてきた。
(ご主人様に指一本触れる事は許しません。ところでご主人様)
うん? 何だい?
(人間の女王とやらは、なかなか見目麗しいようですね)
うん、そうだね。
(私とどちらが可愛いでしょうか?)
そりゃあもちろんノワールさ。
(うふふ……私、やる気が出てきました!)
ああ、うん。お手柔らかにね。
「さて、ショーンよ。あなたはこの王都で随分と暴れているらしいですね」
女王陛下がそう言って話しかけてきた。それは責めるでも糾弾するでもなく、どこか悪戯心が入り混じったような、そんな声色と表情だった。
「申し訳ありませんが、何の事か分かりませんし、罪もない人々に迷惑をかけた事もございません」
僕は『罪もない人々に』のところを殊更に強調して答えた。すると、両サイドに居並ぶ重鎮、要職の皆様方からの罵詈雑言が僕に向かって飛んでくる。中には唾液も一緒に飛ばしてくる勢いでいきり立っている人もいた。
オニール大臣。爵位は侯爵。王都を治安を守る『王都取締大臣』なんて役職に就きながら、ブンドルと結託して僕達に敵対するヤツだ。
この間のギルド本部での面会で、それははっきりしたからね。さて、何やら女王陛下に向かってまくし立てているけど、何をするつもりなのやら。
「そうですか、ではそちらの話も聞きましょう」
女王陛下がそう言うと、オニールは勝ち誇ったようにこちらを見てニヤリと笑った。やがて、兵に付き添われて一人の男が謁見の間に入って来た。その男は僕から少し離れた隣に片膝を付き、女王陛下の前に畏まる。その際、横目でちらりと僕を見るが、嫌らしく勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「御用商人のブンドルですね。あなたは王国発展のため、多大なる功績を上げ続けていると聞いています。遠慮はいりません。申し分を聞きましょう」
「は! 有難き幸せ! 実は――」
気のせいか、ブンドルにそう言った女王陛下の表情が消えてしまった気がする。しかしブンドルは嬉々として話し始めた。それこそある事ない事手当たり次第だ。
あまりにも真実なんかどうでもいいようなその供述に、呆れて思わず笑いが零れてしまうね。
それに気付かずに一気に語り終えたブンドルは、今度こそ勝ち誇った表情で僕を見た。そして居並ぶ重鎮、要職の人達の中でもそれにもっともらしく頷いている者もいる。なるほど、あいつらが敵か。
「陛下! 今の話を総合するに、このショーンと言う冒険者は、国家の安定を著しく乱した極悪人! このまま生かしておいては為になりませぬ!」
声を大にしてそう言ったのはオニール。
「ショーン。あなたからは何か申し開きする事は?」
女王陛下の言葉には答えず、僕は隣で畏まっているブンドルに話しかけた。
「やあ、少し痩せたんじゃないか? 何か心配ごとでもあったのかな? 例えば寝ている間に死体の山に囲まれてたりしないとか」
「なっ!」
僕の言葉にブンドルはガクガクと震え、脂汗を滴らせる。
「ここで嘘八百並べ立て、勝ったと思っているのかも知れないけど、生憎僕はそんなに甘くない。仕掛けられた戦争は、とことんやり抜く主義なんだ」
「は、あうぅ……」
殺気むき出しの僕に、ブンドルは言葉を発する事すら出来ない。女王陛下や、他のお偉方も青い顔をしている。
「さて、女王陛下」
「は、はい」
「申し開きでしたら一言だけ。この男の言った事に真実はありません。それだけです」
女王陛下は少しばかり考えを纏める時間を要した。そして僕に静かに話しかける。
「そう言えば、あなたの昇格試験の期日も今日でしたね。どうですか? 後悔する事なく過ごして来ましたか?」
おっと、ここで予想外の話題が切り出された。まさかプラチナランクへの昇格試験の話をされるとは。
でも、その問いかけに関しては『はい』とは答えられないなぁ。
「陛下。たった一つだけ、後悔している事があります。僕があの日、グリフォバーグでこの男を殺していれば、罪もない人々が傷付く事はなかった」
ケインさん達だけじゃない。ブンドルに雇われて僕達に殺された連中だって、ある意味ブンドルの被害者かも知れない。向かってきたからには容赦はしないけど、あの時ブンドルを始末しておけば、死なずに済んだ命かもしれないよね。
「だから僕は……」
(シルフよ。コイツの身体から一滴の血も流す事なく始末するのを手伝ってくれるかい?)
(造作もない。我が加護を与えたオスト家を汚した輩だが、王城をこんな愚物の血で汚すのも無粋よな)
影の中にいるシルフに話しかけると、僕の中に風の魔力が滾って来た。
「その後悔の元を絶ちます」
貴様との因縁もここまでだ、ブンドル。
滾った風の魔力をブンドルに向ける。すると、ヤツは胸を掻きむしって苦しみ出した。何かを叫んでいるようだが、周囲には何も聞こえない。
「これは!」
女王陛下が息の飲む。やがてブンドルは白目を剥いて息絶えた。
首を垂れている相手はレベッカ・フォン・ルーブリム女王陛下。そして僕の両サイドにはこの国の重鎮や要職に就いている者達が並んでいた。
敵意や蔑みの視線が多いけど、中には興味深く観察しているような目も感じるし、これから何をやらかしてくれるのか期待している眼差しを投げつけて来る人もいる。珍しく正装に身を包んだユーイングさんなんだけどね。
尚、この謁見の間に入るのを許されたのは僕一人だけ。ノワール、アーテルは元より、デライラ達も王城の一室で待機するよう命じられていた。実質は軟禁に近い感じだけどね。
だけど僕の眷属二人はすでに影の中にいる。そして風の精霊王シルフも。
「面を上げなさい。直答を許します。あなたの名前は?」
綺麗なよく通る女性の声が謁見の間に響く。レベッカ女王陛下の声だ。
「は、冒険者ショーンと申します」
顔を上げてそう言うと、レベッカ陛下の姿が目に入った。アップに纏めた髪、そして金色に輝くティアラ。細い眉ときりりとした目元。中々の美人さんだね。しかしなぜか、身に纏っているのは所々に急所を守る防具が施されたドレスアーマーというヤツだ。
腰には一振りの剣を佩いている。
僕を手打ちにするつもりかな? なんて考えていたら、影の中からノワールが頭の中に話しかけてきた。
(ご主人様に指一本触れる事は許しません。ところでご主人様)
うん? 何だい?
(人間の女王とやらは、なかなか見目麗しいようですね)
うん、そうだね。
(私とどちらが可愛いでしょうか?)
そりゃあもちろんノワールさ。
(うふふ……私、やる気が出てきました!)
ああ、うん。お手柔らかにね。
「さて、ショーンよ。あなたはこの王都で随分と暴れているらしいですね」
女王陛下がそう言って話しかけてきた。それは責めるでも糾弾するでもなく、どこか悪戯心が入り混じったような、そんな声色と表情だった。
「申し訳ありませんが、何の事か分かりませんし、罪もない人々に迷惑をかけた事もございません」
僕は『罪もない人々に』のところを殊更に強調して答えた。すると、両サイドに居並ぶ重鎮、要職の皆様方からの罵詈雑言が僕に向かって飛んでくる。中には唾液も一緒に飛ばしてくる勢いでいきり立っている人もいた。
オニール大臣。爵位は侯爵。王都を治安を守る『王都取締大臣』なんて役職に就きながら、ブンドルと結託して僕達に敵対するヤツだ。
この間のギルド本部での面会で、それははっきりしたからね。さて、何やら女王陛下に向かってまくし立てているけど、何をするつもりなのやら。
「そうですか、ではそちらの話も聞きましょう」
女王陛下がそう言うと、オニールは勝ち誇ったようにこちらを見てニヤリと笑った。やがて、兵に付き添われて一人の男が謁見の間に入って来た。その男は僕から少し離れた隣に片膝を付き、女王陛下の前に畏まる。その際、横目でちらりと僕を見るが、嫌らしく勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「御用商人のブンドルですね。あなたは王国発展のため、多大なる功績を上げ続けていると聞いています。遠慮はいりません。申し分を聞きましょう」
「は! 有難き幸せ! 実は――」
気のせいか、ブンドルにそう言った女王陛下の表情が消えてしまった気がする。しかしブンドルは嬉々として話し始めた。それこそある事ない事手当たり次第だ。
あまりにも真実なんかどうでもいいようなその供述に、呆れて思わず笑いが零れてしまうね。
それに気付かずに一気に語り終えたブンドルは、今度こそ勝ち誇った表情で僕を見た。そして居並ぶ重鎮、要職の人達の中でもそれにもっともらしく頷いている者もいる。なるほど、あいつらが敵か。
「陛下! 今の話を総合するに、このショーンと言う冒険者は、国家の安定を著しく乱した極悪人! このまま生かしておいては為になりませぬ!」
声を大にしてそう言ったのはオニール。
「ショーン。あなたからは何か申し開きする事は?」
女王陛下の言葉には答えず、僕は隣で畏まっているブンドルに話しかけた。
「やあ、少し痩せたんじゃないか? 何か心配ごとでもあったのかな? 例えば寝ている間に死体の山に囲まれてたりしないとか」
「なっ!」
僕の言葉にブンドルはガクガクと震え、脂汗を滴らせる。
「ここで嘘八百並べ立て、勝ったと思っているのかも知れないけど、生憎僕はそんなに甘くない。仕掛けられた戦争は、とことんやり抜く主義なんだ」
「は、あうぅ……」
殺気むき出しの僕に、ブンドルは言葉を発する事すら出来ない。女王陛下や、他のお偉方も青い顔をしている。
「さて、女王陛下」
「は、はい」
「申し開きでしたら一言だけ。この男の言った事に真実はありません。それだけです」
女王陛下は少しばかり考えを纏める時間を要した。そして僕に静かに話しかける。
「そう言えば、あなたの昇格試験の期日も今日でしたね。どうですか? 後悔する事なく過ごして来ましたか?」
おっと、ここで予想外の話題が切り出された。まさかプラチナランクへの昇格試験の話をされるとは。
でも、その問いかけに関しては『はい』とは答えられないなぁ。
「陛下。たった一つだけ、後悔している事があります。僕があの日、グリフォバーグでこの男を殺していれば、罪もない人々が傷付く事はなかった」
ケインさん達だけじゃない。ブンドルに雇われて僕達に殺された連中だって、ある意味ブンドルの被害者かも知れない。向かってきたからには容赦はしないけど、あの時ブンドルを始末しておけば、死なずに済んだ命かもしれないよね。
「だから僕は……」
(シルフよ。コイツの身体から一滴の血も流す事なく始末するのを手伝ってくれるかい?)
(造作もない。我が加護を与えたオスト家を汚した輩だが、王城をこんな愚物の血で汚すのも無粋よな)
影の中にいるシルフに話しかけると、僕の中に風の魔力が滾って来た。
「その後悔の元を絶ちます」
貴様との因縁もここまでだ、ブンドル。
滾った風の魔力をブンドルに向ける。すると、ヤツは胸を掻きむしって苦しみ出した。何かを叫んでいるようだが、周囲には何も聞こえない。
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