神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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9話 張角の野望

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 張角が信奉者と思しき人物に何か告げると、少しして先程の人物と他数人が、簡素な机と椅子を人数分砦の中から運び出してきた。もちろん黄巾を頭に巻いている。

「掛け給え」
「失礼する」

 張角に促され席に着く三戸。
 黄巾からは張角一人。ならば、と三戸も一人で対応する事にした。関羽が居ては公平性に欠けるという判断からだが、正直に言えば、後世に書かれた『三國志演義』という史実を元に脚色して作られた物語・・・・・の影響で、大抵の日本人は劉備、関羽、張飛の義兄弟や諸葛亮といった蜀に属する人物に対して好意的になる傾向が強い。なので、関羽はこの場に混ぜずに張角と一対一で話そうと思ったのである。

「さて。張角殿は何の為に魔物と戦う?」

 張角はどちらかと言えば肉体派ではなく頭脳派という印象を持っていた三戸は、回りくどい表現はやめて直球をぶつけてみた。話術では相手の方が上手だろう。恐らく術中に嵌る。
 また、会話を持ち掛けながらも三戸は探っていた。張角が並行世界こちらがわに来たという事は、『相棒』があるはずなのだ。自分のアンジー然り、ジャンヌのブリューナク然り、関羽の青龍偃月刀然り。

「知れた事。民を魔物から守る為」
「そうか。ならばその民を配下に組み入れ勢力を拡大している理由は?」
「魔物と戦うにも力が必要。個では小さな力でも集まれば強大な力となる故にな」

(あの捻じれた木の杖か?)

 三戸は張角の持つ杖に注意を向けていた。これまでの経験から、『相棒』とは武器であるとの認識を持っている。見たところ、張角は杖以外に武器と呼べるような得物は所持していないように見える。

「この時代の魔物を殲滅した後はどうするつもりだ?」
「この時代の、ここに生きる民を導くつもりだ」
「俺達は様々な時代を巡り魔物を倒している。魔界に繋がる穴を塞ぐ事が仕事だ。あんたは違うのかい? 張角殿。 この時代だけじゃなく、様々な時代で魔物に苦しめられている多くの人がいる。その人達を救うつもりないのか?」
「興味はないな。儂が導くのはこの時代の民だけで良い」

 張角は権力欲に凝り固まっているように三戸には感じられた。関羽の言う通り、やはり張角はこの世界でも黄巾の乱を起こそうとしているのだろうか。

「そうじゃ。一言言っておく。魔物討伐は我ら黄巾党に任せよ。お主らは余計な事をしてくれるな」
「余計な事? 民を助けるのが余計な事か? それともあんたが自分だけでやりたい理由があるのか? そうだな……例えば民の心があんたから離れるのは都合が悪いとか?」

 自分の使命である魔物との戦いを余計な事と断じられ、三戸は張角に対して評価を引き下げる。三戸も好きで始めた事ではないが、人類の未来を守りたいという気持ちは少なからずある。事を成し遂げた後にもらう事になっている神からの褒美というエサは有るにしてもだ。
 そして何より。
 ――――やがて輪廻の輪から解き放たれた妻子の魂が生きるべき世界を守りたい

 だが、張角が考えているのは人類の未来ではなく自分の事だ。
 三戸の発言に眉を顰めた張角は、目に力を込めて三戸を睨んだ。その目から放たれるプレッシャーはまるで物理的な圧力を伴うかのような錯覚に陥らせる。その圧力は三戸の精神を圧迫し、干渉してくるかのようだ。
 その時三戸は、握りしめられた張角の両拳に気付いた。黄色い布が、ボクサーのバンテージのように巻き付けられている。

(なるほど。こうして洗脳してた訳か。まさか『黄巾』が相棒とはな。俺には効かないみたいだけどな)

 三戸は両手を上げお道化て見せる。

「どうやらあんたは仲良くしてくれるつもりは無いようだ。とりあえず・・・・・俺達は傍観させてもらうよ。それじゃ、健闘を祈る。ああ、どうやら相棒の力は同じ救世者メサイアには効かないみたいだな」

 苦々しい表情の張角をその場に残し、三戸は仲間達の元へと戻り、高機動車へと乗り込んだ。

「ミト。どうでしたか?」

 ジャンヌが交渉結果について尋ねてくる。

「決裂だな。ヤツはこの時代の魔物を殲滅した後、他の時代の事は知らんとさ。そして魔物の討伐に関しては首を突っ込むな、だそうだ」
「では、やはり奴はこの時代で権力を握り、黄巾の乱の二番煎じをしようとしておるのか……」
 
 関羽もまた、前世で戦乱の世を巻き起こす原因となった黄巾の乱に対し、嫌悪感を隠そうともしない。

「さあ? そこまでは知らんが、奴は俺に洗脳を掛けてきた。これで関羽さんの言ってた事が証明された訳なんだが……」
「マスターを洗脳しようとするとは……あの愚か者が身の程も弁えずに……」
 
 アンジーの腰のあたりにあるバーニアに火が入り、20mm機関砲をジャキンと構え、今にも飛び立って行こうとするのを三戸とジャンヌが慌てて止める。

「アンジー! 落ち着いて!!」
「どうどう! ほらほら、俺は大丈夫だから! 今は取り敢えず泳がせておくんだ!」
「ちっ……命拾いしましたね、似非道士が……」

 アンジーの思わぬ一面に皆少し引き気味になっている。三戸ですら、この銀色の美少女がこんな直情的だった事に驚きを隠せないでいる。

(キイィィン!)

「ブリューナクさんも言ってます! 『あの爺がジャンヌに仇為すならば、問答無用で焼き尽くす』だそうですよ?」

(ガガガガ!)
 
 関羽の青龍偃月刀もなにやら鳴いている。

「それがしの青龍も怒っておる。人の意思を支配し操るなど外道の所業だとな」

 別にアンジーだけが特別では無かったようだ。それぞれの武器も、相棒であり主でもある持ち主に敵対する者であれば容赦はしないという意思が、言葉の伝わらない三戸にも流れ込んでくる。

「みんなの気持ちは分かった。だが今は張角の様子を見よう。動機はちょっとアレだが、民の為に魔物を倒すっていうならそれ自体は悪い事じゃないからな。ただ、俺を利用しようとした落とし前はきっちりと払ってもらう」
「ふふ。ミト殿はどことなく義兄上あにうえに似ておるな。飄々としていながら正義感は強く、落ち着いていながら奥底には激情が眠っている。そしてその覇気。数多の英傑を束ねる器を持っているとお見受けする」

 ほめ過ぎだ、と三戸は笑う。自衛隊の一仕官に過ぎなかった自分が、三國の英雄と並び称されるなんて身の丈に余る、と。

「まあ、がっかりさせない様努力はするがね」

 そう言って三戸は肩を竦める。とその時、レーダーに反応があった。

「マスター。早速マスターの偉大さを証明する機会が訪れましたね!」

 魔物が接近しているのにそんなに嬉しそうな顔をするんじゃない、とアンジーの額にコツンと軽く拳骨を食らわせ、戦闘準備に取り掛かる三戸だった。
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