神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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37話 夢の中での邂逅

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 身体中が柔らかな光に包まれ、瞼を閉じていてもその明るさを感じ取る事ができる。
 静かに瞼を開いて辺りを見渡す。まだ視界がぼやけているのか、真っ白に靄がかかっているように見える。
 依然として身体は柔らかな光に包まれたままだ。痛みも苦しみも疲れも、全てが洗い流されていくような心地よさに、思わず身を任せてしまいそうになる。

「ここは……どこだ? それがしはまたしても、大望を果たせずして倒れてしまったのか? それとも、夢か?」

 いい加減、視界が晴れてもよさそうなものだが、依然として周囲は白い世界。地に足が付いている感覚はなく、浮遊しているようだ。

「関羽……殿?」

 その時背後から鈴が鳴るような声を掛けられた。

「ジャンヌ殿か」

 関羽が振り向くと、そこにはまだ少女のあどけなさを残しながらも凛とした魅力を醸し出す、美しい甲冑姿の女騎士が立っていた。

「ここは……どこなのでしょうか?」
「さて。それがしにも分からぬが……我らは死んでしまったのかも知れぬな。フッ」

 ジャンヌの問いに、自らを嘲るような笑いを貼り付けながら答える関羽。

「そう、なのでしょうか……無念ですね……」

 一方のジャンヌは悔し気に唇を噛みしめる。

「おいおい、何寝ぼけてやがる?」
「そうだぞ。お主ら、そろそろ目を覚まさんか」

 そこへ、二人の頭上から声がかけられた。頭上と言っても、上下左右も分からぬ浮遊した状態だ。あくまでも関羽とジャンヌの主観でだ。
 初めて聞く声。しかし、ジャンヌと関羽は、それぞれ片方の声にだけ、不思議な親しみを覚える。初めてだが、いつも語り合っていたような声。

「まあ、お前らが酷使・・したおかげで、俺達も少し眠ってたんだがよぉ」
「フ。そうだな。まさか魔物相手にあそこまで苦戦するとは思わなかったよ」

 最初の声は、血気盛んな若い男の声。長年連れ添った友に話しかけるような、そんな親しみを込めて話しかけてくる。
 もう一つの声は、落ち着いたやや低音の女性の声だ。話し方は男性的であるが、声からは包み込むような優しさが滲み出ている、母性に溢れる声とでもいうか。
 関羽とジャンヌは頭上を見上げる。いや、概念的に見上げると表現したが、声の主を視界に入れようとした時、二人はそれ・・に正しく相対していた。

「あなたは……!」

 ジャンヌは快活な話し方をする男の声の主に。

「お主は……まさか!?」

 関羽は母性溢れる女性の声の主に。

「おいおい、まさか本当に忘れちまったんじゃねえだろうなぁ?」

 それは全身が炎に包まれていた。
 赤い身体に逆立った赤い髪。二足で直立してはいるがどう見ても人間ではない。好戦的な笑みを浮かべているその口は鳥類の嘴のようであり、背中には二枚の翼がある。身体は全身が赤く燃え盛る体毛に覆われ、十数本の孔雀のような尾が垂れている。手足の指には鋭く長い爪。嘴と翼のせいか、総じて鳥のようなイメージが強い。

「まさか……ブリューナクなのですか!?」
「ああ、そうだぜ? お前が名前を付けてくれたんじゃねえか。まったく、覚醒するまで待ち遠しかったぜ。あのアンジーってヤツが羨ましくてよぉ」

 驚きのあまり目が零れ落ちそうなほど見開いたジャンヌに、何を今更と言いたげなブリューナク。

「ああ……ようやく、ようやくです。あなたとこうして触れ合い、語り合う事ができます……」

 ジャンヌはそう言いながらブリューナクに近付き、抱きしめた。

「お、おい! 俺が言うのもなんだが、燃えてるんだぜ? お前、熱いとか焼けるとか考えねえのかよ!」
「フフフ。貴方が私を焼き尽くすなどありえません。そうでしょう? ブリューナク」
「ちぇ。まあ、その通りだがよ。でもなあ、普通は少しくらい躊躇するだろ!」
「照れているのですか? 元々顔が赤いので分かりにくいですね」

 扱いに関しては一枚上手のジャンヌに、ブリューナクはむず痒い顔をしながらなされるがままにしていた。

 一方の関羽は、全身が青い竜鱗に覆われた美しい女と相対していた。
 青い長い髪。頭には二本の角。青い肌に青い瞳。ブリューナクと同じように、長く太い尾がある。こちらはブリューナクよりも人間に近い姿だ。左手には、金色に輝く玉を持っている。

「……青龍か」
「そうだ。この姿では初めましてだな、雲長」

 龍人。そう呼ぶのが一番しっくりくるだろうか。龍と人間、双方の遺伝子を受け継いだ者がいたならば、きっとこのような姿になるであろう。その青龍が、ブリューナクとジャンヌの抱擁を見て苦笑しながら話し始める。

「私もお前も、そしてあの娘もブリューナクも、殆ど死にかけていたのだ。そこをドクターが助けてくれてな」
「……ナイチンゲール殿の……?」
「ああ。私もあのブリューナクも、なぜこの姿でお前達と話が出来るようになったのかは分からん。しかし、この世界の外側で、仲間達が待っているぞ? お前達が目覚めるのをな」

 関羽は気を失う直前までの事を思い出した。満身創痍という言葉すら生温い程の重傷を負った自分とジャンヌを、間一髪救ってくれたミトとアンジー。確か自分達はアンジーの運転する車で撤退したはずだ。しかしそこで記憶が途絶えている。

「ミトがお前達を運び、ナイチンゲールが我々を治療した。その間に難民の移動を終え、ミトとアンジーはリチャードとサラディンと共に、天幕の設営に当たっているよ。難民が増えてしまったのでな」

 青龍が苦笑しながら言う。海沿いの街の難民が想定外だったため、キャンプ地に設営したテントやその他の設備が不足しているらしい。

「そろそろ起きたらどうだ? 身体の方は全快しているはずだ。早く目を覚まして安心させてやるがいい」
 
 青龍のその言葉に、関羽は気にかかっていた事を口にした。

「それがしが目を覚ましたら、お主はどうなる?」

 青龍はそれに笑いながら答えた。

「はははは! 心配はいらぬよ。私はお前の相棒だ。お前の望むがままに存在する。そして新たな力にも目覚めているはずだ。楽しみにして起きるといい」
「ふん、そうであるか。ではまた、向こうで会おう」

 関羽はそう言って、静かに目を閉じた。
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