神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO

文字の大きさ
37 / 151
AD1855

36話 メサイアとて生身の人間

しおりを挟む
 キャンプ地に着いた三戸達は、静かにLAV軽装甲機動車を停車させた。そこへ難民達や海沿いの街から避難してきた者達が集まってくる。

「魔物はどうなったんだ!?」
「あの人達はどうなった!」
「俺達の家や街は!?」
「父ちゃんが! 父ちゃんがいないんだ!」

 口々に不安や心配事をがなり立ててくる中で、関羽やジャンヌの心配をする人達もいる事に三戸は少しだけ温かい気持ちになった。しかし、今は詳細を説明している時間はない。

「済まないみんな! 魔物は取り敢えず追い返した。詳細は後で説明する。今は時間が惜しい」

 そう言って三戸はジャンヌを後部座席から抱きかかえてきた。俗に言うお姫様抱っこ状態であるが、甲冑を着こんだジャンヌを軽々と抱きかかえている三戸を見て、集まってきた難民達が息を飲む。

「なあ、その人、生きてるのか?」

 その中の一人が心配そうに聞いてきた。

「ああ、眠ってるだけだ。多分な」
「そ、そうか……」

 生きている事には変わりはないが、怪我がどの程度なのか三戸には知る由もない。出来る事は一刻も早くナイチンゲールに診てもらう事。手近なテントの中に入りジャンヌをベッドに横たえる。それにアンジーがブリューナクを持って付いてきていた。

「……心配、です。ブリューナクさんが、こんなに傷だらけに……」
「……あとはナイチンゲールに任せよう。呼んできてくれるか?」
「はいっ!」

 ナイチンゲールを探すためにテントを飛び出したアンジーを見送りながら、ジャンヌの傍らに置かれたブリューナクにちらりと目をやる三戸。なるほど、穂先は数か所刃こぼれしており、柄もあちこちにひび割れが見える。想像以上の激戦だったに違いない。

「この調子じゃ関さんの方も……」
 
 三戸はLAVの中で眠る関羽の元へと急いだ。

*****

 アンジーは7tトラックでピストン輸送を再開したため、この場には不在だ。撤退した魔物がまた襲って来ないとも限らない。リチャード一世、サラディンの両名と早々に合流する必要もある。
 三戸は大型の医療用テントの中にいた。
 二つ並べたベッドに寝かされているジャンヌと関羽。そしてその側にはナイチンゲールが立ち、教会の大聖堂での治療の時と同じように、目を瞑り聴診器を翳している。

「……これでよく生きているものです。すぐに治療しましょう」

 静かに目を開いたナイチンゲールは、半分呆れた表情になったが、すぐに真剣な表情になる。そしてやはり大聖堂の時と同じように、合掌のポーズをとった。そして手を広げていく。その手の間には、やはり十本の注射器が浮かんでいた。

(一人に一本って訳じゃないのか? それとも十本がデフォルト?)

 先入観として、一人につき一本の注射器から癒しの光を撃ち込む。それで完治するものだと思っていた三戸は首を傾げた。

「全身に打撲、裂傷。骨折多数。内臓損傷。筋線維断裂。身体の内外に、おおよそ考えられる怪我という怪我をしています。しかも瘴気にも冒されている。とても一本では足りないのです。それに……」

 ナイチンゲールはジャンヌと関羽の二人から目を逸らし、立てかけられていたブリューナクと青龍偃月刀の方に目をやった。

「あちらも大怪我ですので」

 それぞれの相棒を『大怪我』と表現する。言い得て妙だとは三戸も思うが、まさかナイチンゲールは彼らの相棒も治療しようとしているだろうか。そんな疑問が三戸の頭をよぎる。

「私の『ドクター』が可哀そうだと言っているのです。まあ、やるだけやってみましょう」

 三戸の疑問を汲んでの答えという訳ではないのだろうが、ナイチンゲールがそんな事を呟いた。そしてやはり、大聖堂の時と同じように天に両手を掲げて振り下ろす。すると十本の注射器は自ら意志を持ったかのように宙を舞って移動した。ジャンヌに三本、関羽にも三本。そしてブリューナクと青龍偃月刀に二本ずつ。

「……治ってくれよ」

 注射器から放射される柔らかな光が、ジャンヌと関羽、ブリューナクと青龍偃月刀が包みこむ。それを見ていた三戸が、祈るように呟いた。そしてそれにナイチンゲールが答える。

「常人なら生きているのが奇跡と呼べるほどの大怪我でした。しばらくこのまま休ませましょう。さすがに瞬時に完治とはいきませんよ」

 そう言いながらナイチンゲールが二人にシーツをかけた。三戸が彼女に詳しく聞くと、怪我の方はほぼ治っているらしいが、瘴気を浄化する方に時間がかかるという事だった。

「そういう事なので、ゆっくり眠れるよう睡眠導入成分も打ち込んであります」
「……初めは、魔物共はただ本能に従って人間を襲っているように思えた。戦況などお構いなしに、人間を喰らい尽くすのが目的だとばかりに」

 三戸が静かに話し始めた。眠るジャンヌと関羽の邪魔をしないように。それをナイチンゲールも黙って聞く。テントの外では難民達もまだ落ち着いておらず、それなりにざわついてはいた。しかし重傷患者がいるとの事で、このテントからは離れているため、然程大きな騒音という訳ではない。

「俺達が時空を超え、新たな瘴気の穴を潰すたびに、奴らは手強くなっていく。ここであなたと出会ったのは、やはり神の意志なんだろうと思う。この先、きっと俺達だけじゃ勝てないんだ」

 そう言って三戸はゆっくりと椅子に腰かけた。救世者メサイアと言えども無敵ではない。そんな分かりきっていた事でも、半死半生の二人を見て、改めて実感してしまう。
 そして二人の姿を、救うことが出来なかった妻子の姿に重ねてしまった。もし自分が間に合わなければ、ジャンヌと関羽はどうなっていたのだろうかと。そして間に合ったとして、ナイチンゲールがいなければ二人を助ける事ができただろうかと。

「戦えない私でも、お役に立てる事もあるのですよ? まあ、戦闘においても、一つ二つ使える手がないでもないのですがね」

 ナイチンゲールが困ったように笑いながら言う。三戸にはその顔が、もっと自分を頼れと言っているように見えた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...