神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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84話 備え、万全

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「コイツの威力を発揮させるには、リチャードとサラディン、そんで俺。この三人の連携がキモなんだ」

 五発の弾丸をM24狙撃銃に装填しながら三戸が言う。

「連携じゃと? ただ撃ち込むだけではイカンのか?」

 それにサラディンが不思議そうな顔で尋ねる。
 三戸は空を見ていた。アンジーの空中機動。それを必死にトレースするジャンヌと関羽。三戸の視線の先をサラディンも追った。そこで漸く三戸が口を開く。

「あいつらが黒翼の天使の隙を作る。もしくは防御膜を破壊する。翼を斬り落とせたら満点だ」
「うむ」

 サラディンが頷いたのを見て、三戸がM24狙撃銃を球体の中にいる黒翼の天使に向けて構えて見せた。

「ヤツにとってみれば、こんな銃は豆鉄砲と一緒だろう。油断しているはずだ」
「……」

 今度はリチャードが無言で頷いた。

「だから初弾を当てるのはそれほど難しくないと考えている。で、当てた後のヤツの対応によって変わるんだが……」

 そこまで言うと、三戸は構えていたM24狙撃銃を降ろし、三人に向き直った。

「ヤツがこの銃弾を蚊に刺された程度と無視してくれれば、そのまま全弾撃ち込む。だが、初弾命中でヤツが防御膜を展開するような状況になれば……」
「……なれば?」

 ナイチンゲールがゴクリと生唾を飲み込みながら聞き返した。

「至近距離で撃ち込む。つまり特攻だ。で、ヤツの体内にこの弾丸を撃ち込んだら、サラディン。あんたの重力制御の出番って訳だ」
「なるほど。ヤツの体内で重力を解放させ、あの途轍もない量の硫酸をブチ撒ける訳じゃな?」

 サラディンの答えに三戸は満足気に頷く。そして今度はリチャードに視線を向けた。

「リチャード。あんたには土の弾丸を作り出して、無数に撃ち込んで欲しい」
「ほう? ミト、貴様の弾丸をカモフラージュする為のダミーを撃ち出せ、そういう事か」
「そういう事」

 三戸がリチャードにサムズアップして見せる。そして最後にナイチンゲールに向き直った。

「ナイチンゲール。あなたは俺にアドレナリンを」
「アドレナリン、ですか。ですが……」
「今度の作戦は集中力が必要だ。ドーピングは本意じゃないが、まずは生き残る事が先決だろ?」

 妻子の魂が輪廻から解き放たれた時、彼女達が生きるべき世界。それを守る為にはこんなところで死ぬ訳にはいかない。ナイチンゲールには、三戸の覚悟が見て取れた。
 アドレナリンに限ったことではないが、というものは使い方を間違えば危険なものだ。それを承知の上で三戸は投与しろと言っている。
 
 ――生き残りさえすれば自分が何とかしよう。

 ナイチンゲールもまた覚悟を決めた。

*****

「なるほど。全方向に動く事が出来るが故に、位置取りが複雑になるし駆け引きもより高度になる訳だな」
「奥が深いわね。空中で静止したまま体勢を変えたりとか、ちょっとした動きで頭上を取ったりとか、ホント、目から鱗だわ」

 空中機動に関して一通りのレクチャーを終えたジャンヌと関羽は、空中での模擬戦に突入していた。
 相棒との一体感で勝る関羽は空中機動でジャンヌを上回るが、憑依した状態では接近戦がメインになる。そこを炎弾発射という遠距離攻撃も出来るジャンヌが上手くカバーし、両者の攻防は一進一退。
 関羽が上手く炎弾を避けながら間合いを詰め、青龍偃月刀を振り下ろしたところを、ジャンヌがブリューナクの柄で受け止める。しばらく鍔迫り合いが続いた後、両者は後ろに飛び退き距離を取った。
 丁度そのタイミングを見計らったように、アンジーが二人に声を掛ける。

「お二人共、かなり上達されましたね! では、次は私がお相手します!」
「む? どちらとやるのだ?」
「お二人一緒にどうぞ!」
「あら、空中戦にもだいぶ慣れてきたし、手加減しないけどいいかしら?」
「どうぞ! 全力で来て下さい!」

 アンジーは別に煽ったつもりはないのだが、『二人同時に相手にする』という言葉は、結果的に二人の戦士の闘争心に火を付ける事になった。
 
「さあ、いつでもどうぞ!」

 アンジーの腰のあたりにあるバーニアに火が入り、二人より高度を取る。普段なら翼や腕、腿などに装備しているミサイル類は無い。空中格闘戦時の主兵装である20mm機関砲も持っておらず、両手にコンバットナイフを持っているだけだ。

「では、参る!」
「行くわよ!」

 関羽が急上昇でアンジーに肉薄し、ジャンヌが炎弾を放ちアンジーの頭上を押さえる。中々のコンビネーションだ。

「ぬん!」

 アンジーを間合いに捉えた関羽が青龍偃月刀を振り抜く。

「む!? 消えた!?」
「関羽殿! 下です!」

 関羽が降り抜く瞬間、アンジーはスロットルを閉じ、重力に任せて落下する事で回避した。離れていたジャンヌにはそれが見ていたが、目の前にいた関羽には、アンジーが突然消えたように映っただろう。
 ジャンヌの声で下を探す関羽だが、すでにそこにはアンジーはいなかった。

「終わりです」

 背後からアンジーの声がする。しかし関羽は振り返る事が出来なかった。首筋にコンバットナイフが当てられていたのである。

「ぐわっ!」

 さらにアンジーが関羽の背中に蹴りを放つ。空中に浮いていた関羽はジャンヌがいる方向へと蹴り飛ばされた。それを追うようにアンジーが飛ぶ。下方にいたジャンヌからは、関羽が死角となりアンジーの姿は見えない。 

「くっ!」

 自分に向かって吹き飛んでくる関羽を避けようとジャンヌが上昇する。足下を関羽が通過していくのを確認するが、アンジーの姿が見えない。
 ジャンヌが上昇する一瞬の隙に、アンジーは関羽の真下へ影のように移動しており、そのままジャンヌの背後を取った。

「これで二機撃墜ですね!」

 ジャンヌの真後ろから、両方のこめかみにコンバットナイフのグリップエンドを押し当てて声を掛けるアンジー。

「ふう、完敗ね」

 ジャンヌが両手を上げて降参のポーズを取る。
 そしていいようにあしらわれたジャンヌと関羽は、アンジーの戦闘力に空恐ろしいものを感じた。

 ――もしも彼女が銃火器を持っていたならば。

 戦士のプライドを刺激された二人は、その後数回アンジーに模擬戦を挑み、いずれも一蹴された。

(でも、流石です。私もうかうかしていられませんね!)

 それでもアンジーは二人の目覚ましい上達振りに笑みを零したのだった。
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