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97話 失楽園
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オドオドしながら木の陰からこちらの様子を窺っている二つの人影に向かい、三戸とアンジーが近付いていく。
手にしているのはハンドガンのみ。しかし藤井、中谷、岡本の三人は、物陰から狙撃する態勢は整っていた。
「こんにちは! 言葉は通じますか?」
先ずはアンジーが天使の微笑みを湛えながらコンタクトを試みた。アンジーの笑顔は本当に邪気がない。一目見て、心を許してしまう破壊力がある。ただ、リチャードとサラディンに向ける氷の微笑は別だが。
少しの間、アンジーは微笑んだままただ立っていた。すると、ゆっくりと姿を現したのは一人の男。次いで、男の陰に隠れるようにして女が一人。
二人とも衣服と呼べるものは身に着けておらず、僅かに布を腰に巻いているのみ。上半身に至っては裸だった。しかし、男女とも顔や体型はまるで彫刻で掘られた理想像のように完璧であり、生きた人間というよりはまるで作り物のようですらある。人種的には西欧系と中東系が融合したような、不可思議な印象だ。
その美しい男女に少しの間目を奪われていた三戸とアンジーだが、アンジーが先に我に返った。
「マスター! ちょっと後ろを向いていて下さいっ!」
「お、おう!?」
そう叫ぶと、アンジーは女に向かってダッシュし、木陰へと彼女を連れ込んだ。次いで、男の方にも何かを手渡す。
「ふう、これで大丈夫です! マスター、もういいですよ!」
アンジーに連れられて木陰から出てきた男女は、陸自で使用している迷彩服に身を包んでいた。
アンジーが用意した迷彩服を着ている事から、特に危険はないと判断した三戸は、ハンドガンをホルスターにしまい込む。
「俺は三戸。こっちはアンジーだ。特に危害を加えるつもりはない。少しばかり聞きたい事があるんだが、いいかな?」
二人に向かい、三戸は出来るだけ愛想よく問いかけた。隣ではアンジーが相変わらずの天使の微笑を浮かべている。
「私はアダム。そしてこちらは妻のエヴァ。この森で暮らしている者だ」
「――!!」
二人が名乗ったの人類最初の男女。聖書の話を信じるならば、全ての人類はこの二人の子孫という訳だ。さすがにこれには三戸も驚きを隠しきれずにいる。
「では、この森が『エデン』なのか?」
当然の疑問だった。二人が暮らしていたと言えば、思い起こすのはエデンの園。
「いいや、ここはエデンの園ではない。私達は罪を犯し、エデンを追放された」
アダムの答えはやや意外だったが、想定内でもあった。アダムの話は続いた。そしてその内容は旧約聖書に記述されている内容とほぼ合致する。
エデンで暮らしていたアダムとエヴァ。そのエデンの中には決して食べてはならないという木の実があった。
――善悪の知識の木になる実
ある時狡猾な悪魔はエヴァを唆す。その木の実を食べると全ての善悪に関する知識を得る事ができると。
そしてエヴァは悪魔の甘言に乗りその実を食べた。さらには夫アダムにもそれを勧め、アダムもそれを食した。
その結果、アダムとエヴァは神によりエデンを追放される。さらに人類最初の罪を犯したエヴァには産みの苦しみが与えられ、アダムとエヴァ、そしてその子孫達には老いと死が。
「失楽園の伝承か……」
三戸の呟きには反応せず、アダムは続ける。
「エデンには命の木の実というのもある。それを食べれば不老不死を得るという木の実だ。それを食べる事が出来ないよう、私達はもうエデンがどこにあるのかもわからない。さらに、突如として魔物が現れるようになり、私達は怯えながら身を潜めて暮らしている」
(一足遅ええっ! クソッ! 神のヤツ!)
三戸は心の中で毒づく。
ここに自分達を送り込んだ意図は読めた。原初の人類、アダムとエヴァを守る事だろう。考えてみれば当然の事だ。この二人がいなかった事になれば、未来の人類は消失する。
「魔界の連中、作戦変更って感じか?」
誰にともなく呟く三戸にアンジーが答えた。
「今まではこちらの人類を減らし、向こうの世界を滅ぼそうという意図が感じられましたが……ついに元から断つ戦法に切り替えたという事ですか」
恐らくアンジーの推測通りだと三戸も考えた。一応、皆の所にこの問題は持ち帰るが、魔界の方でも追い詰められている感じはする。
考えが纏まった三戸は、アダムとエヴァに向かい、基地に来ないかと促した。
「魔物から逃げ回っているよりは、少しは安心して眠れると思うぞ?」
睡眠を必要としない『相棒』達が二十四時間態勢で警戒できる。三戸がサムズアップでそう誘うと、二人は彼に従い基地へとついていくのだった。
手にしているのはハンドガンのみ。しかし藤井、中谷、岡本の三人は、物陰から狙撃する態勢は整っていた。
「こんにちは! 言葉は通じますか?」
先ずはアンジーが天使の微笑みを湛えながらコンタクトを試みた。アンジーの笑顔は本当に邪気がない。一目見て、心を許してしまう破壊力がある。ただ、リチャードとサラディンに向ける氷の微笑は別だが。
少しの間、アンジーは微笑んだままただ立っていた。すると、ゆっくりと姿を現したのは一人の男。次いで、男の陰に隠れるようにして女が一人。
二人とも衣服と呼べるものは身に着けておらず、僅かに布を腰に巻いているのみ。上半身に至っては裸だった。しかし、男女とも顔や体型はまるで彫刻で掘られた理想像のように完璧であり、生きた人間というよりはまるで作り物のようですらある。人種的には西欧系と中東系が融合したような、不可思議な印象だ。
その美しい男女に少しの間目を奪われていた三戸とアンジーだが、アンジーが先に我に返った。
「マスター! ちょっと後ろを向いていて下さいっ!」
「お、おう!?」
そう叫ぶと、アンジーは女に向かってダッシュし、木陰へと彼女を連れ込んだ。次いで、男の方にも何かを手渡す。
「ふう、これで大丈夫です! マスター、もういいですよ!」
アンジーに連れられて木陰から出てきた男女は、陸自で使用している迷彩服に身を包んでいた。
アンジーが用意した迷彩服を着ている事から、特に危険はないと判断した三戸は、ハンドガンをホルスターにしまい込む。
「俺は三戸。こっちはアンジーだ。特に危害を加えるつもりはない。少しばかり聞きたい事があるんだが、いいかな?」
二人に向かい、三戸は出来るだけ愛想よく問いかけた。隣ではアンジーが相変わらずの天使の微笑を浮かべている。
「私はアダム。そしてこちらは妻のエヴァ。この森で暮らしている者だ」
「――!!」
二人が名乗ったの人類最初の男女。聖書の話を信じるならば、全ての人類はこの二人の子孫という訳だ。さすがにこれには三戸も驚きを隠しきれずにいる。
「では、この森が『エデン』なのか?」
当然の疑問だった。二人が暮らしていたと言えば、思い起こすのはエデンの園。
「いいや、ここはエデンの園ではない。私達は罪を犯し、エデンを追放された」
アダムの答えはやや意外だったが、想定内でもあった。アダムの話は続いた。そしてその内容は旧約聖書に記述されている内容とほぼ合致する。
エデンで暮らしていたアダムとエヴァ。そのエデンの中には決して食べてはならないという木の実があった。
――善悪の知識の木になる実
ある時狡猾な悪魔はエヴァを唆す。その木の実を食べると全ての善悪に関する知識を得る事ができると。
そしてエヴァは悪魔の甘言に乗りその実を食べた。さらには夫アダムにもそれを勧め、アダムもそれを食した。
その結果、アダムとエヴァは神によりエデンを追放される。さらに人類最初の罪を犯したエヴァには産みの苦しみが与えられ、アダムとエヴァ、そしてその子孫達には老いと死が。
「失楽園の伝承か……」
三戸の呟きには反応せず、アダムは続ける。
「エデンには命の木の実というのもある。それを食べれば不老不死を得るという木の実だ。それを食べる事が出来ないよう、私達はもうエデンがどこにあるのかもわからない。さらに、突如として魔物が現れるようになり、私達は怯えながら身を潜めて暮らしている」
(一足遅ええっ! クソッ! 神のヤツ!)
三戸は心の中で毒づく。
ここに自分達を送り込んだ意図は読めた。原初の人類、アダムとエヴァを守る事だろう。考えてみれば当然の事だ。この二人がいなかった事になれば、未来の人類は消失する。
「魔界の連中、作戦変更って感じか?」
誰にともなく呟く三戸にアンジーが答えた。
「今まではこちらの人類を減らし、向こうの世界を滅ぼそうという意図が感じられましたが……ついに元から断つ戦法に切り替えたという事ですか」
恐らくアンジーの推測通りだと三戸も考えた。一応、皆の所にこの問題は持ち帰るが、魔界の方でも追い詰められている感じはする。
考えが纏まった三戸は、アダムとエヴァに向かい、基地に来ないかと促した。
「魔物から逃げ回っているよりは、少しは安心して眠れると思うぞ?」
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