視線を勘違いする男の謝罪は人助け!?――お前今、〇〇されたそうな目でこっち見てたろ?――

SHO

文字の大きさ
16 / 25
2章 鈴音(リンネ)

2-8 鈴音(リンネ)⑦

しおりを挟む
 村長の邸宅を後にしたテンは、先程泣き崩れていたリンネの元へ向かった。スイカが付いているので滅多な事にはなっていないとは思うが、村長の言葉を伝えにいくのは流石のテンも気が滅入る思いだった。父親の死を現実のものとして突き付けられた直後に、実質村から見捨てられた事を伝えなければならないのだ。それも、僅か十四の娘に。
 
「あら~、村長と話はついたのかしらぁ~?」

 膝を抱えてふさぎ込んでいるリンネに寄り添うように、慰めるでもなく、励ますでもなく、ただ並んで座っていたスイカがテンの姿に気付いて声を掛けてきた。

「どうだ? 落ち着いたのか?」
「そうねぇ~。こんな時は泣き疲れるまで泣かせてあげたらいいのよぉ~」
「……つまりお前は、何もしてねえって事だな?」
「あらぁ、イヤねぇ~。ちゃんとこうして寄り添ってたじゃなぁい?」

 要するに、ただ座ってただけじゃねえか。テンはそんな言葉を飲み込み、リンネの正面にしゃがみこんだ。

「……さっきは、ごめん」

 すると、リンネが俯いたまま謝罪の言葉を口にした。テンはそんな彼女の頭を優しく撫でる。

「理不尽な目に遭えば、誰だって八つ当たりの一つもしたくなるってモンだ。俺も、ガキん時、村が賊に襲われてよ。俺以外全員殺された。俺も危機一髪のトコだったんだが、偶然通りかかったおっさんに助けられてよ」

 テンが自分の身の上話をするのは珍しい。スイカも初めて聞く話なのだろう。驚きに目を見開いている。そしてリンネも、目の前の男の凄惨な過去を聞かされ顔をあげてテンを見つめた。

「そのおっさん、メチャクチャ強くてな。何十人もいた賊をたった一人でぶっ殺したんだよ。で、俺は思ったね。そんなに強えんなら、なんでもっと早く来てくれなかったんだってよ。だがな、それをおっさんに言っても、おっさんにとっては理不尽な話だ」

 その言葉を聞いたリンネは、再び膝に顔を埋めた。取り乱したとは言え、なんて酷い事を言ってしまったのか。
 テンはリンネの頭から手を離し、自分の頭をボリボリと掻いた。この男の癖なのだろう。言い辛い事がある時、都合の悪い時、ボサボサの赤髪を更に乱す。

「あー、それでだ。お前の身柄は俺が預かる事になった」

 それを聞いたリンネが再び顔を上げる。

「……ボク、報酬のカタに買われるの?」

 テンはぐりんと首を回してスイカを見た。

「てめえ……つまんねえ事吹き込んだんじゃねえだろうな?」
「ちっ、ちちち違うわよぉ~、ただ、アンタの報酬は一生働いても返せない額だって言っただけでぇ~」

 テンに睨まれたスイカは、脂汗を流して弁解している。テンははぁ、とため息をひとつついてリンネに向き直って言った。

「報酬ならもう貰っている……と言うか、今回の事は、俺の勘違いでお前にしちまった事の謝罪代わりだよ、ボクッ娘」
「勘違い?」
「そうだ。だから報酬は必要ない。だが、お前をこのままこの村には置いていけない。ここの大人達はお前を守ろうとはしなかった」
「?」

 リンネとしても、村長が自分を守る気がないのはスイカと村長のやり取りを見て感じていた。分からないのはテンの言う『勘違い』の事だ。その意味が今一つ分かっていないリンネは、コテンと首を傾げる。そしてスイカの方へ視線を移すも、スイカは気まずそうに目を逸らすのみ。

(素直に手助けしたくなったって言えばいいのぃ~)

 内心そう思うスイカだったが、ここで余計な事をいう訳にいかない。この女、とある事情からテンに逆らえないからだ。

「まあ、そういう訳だ。ボクッ娘はさっさと旅支度をしろ。明朝出立できるようにな。俺はその辺で昼寝してっからよ」

 そう言ってテンは近くの日陰にごろりと横になった。時刻はもう夕方と言っていい時間帯なのに、昼寝もないだろうとリンネは思ったが、スイカに促されて支度の為に家に戻った。
 そしてリンネを送り出したスイカが、テンの傍らに横座りになる。

「珍しいわね。アンタが自分の身の上話をするなんて」

 いつもの間延びした口調ではない、真剣だが、ほんの少しの嫉妬が織り交ぜられた言葉。

「……人間ってのは、自分より不幸なヤツがいると幸せな気分になるんだろ?」

 自分の腕を枕にしながら、スイカに背を向けたままテンが返す。その横着な態度に苦笑しながらスイカが言った。

「それは極端すぎる意見だと思うけど……確かに自分以下の存在があると、いい気分になれるのは否定できないわね」
「まあ、いいじゃねえか。俺の過去を聞いて、少しでもあいつが救われるんならよ」
「ふぅん? それなら、リンネちゃんに私の身の上話を聞かせてもいいかしら? 特に私を救ってくれた赤髪の勇者のお話とか」
「ぐー、ぐー……!? ぐー……」
「ふふっ」

 狸寝入りを決め込んだテンの赤髪をそっと撫でるスイカ。不意の感触にビクッと反応してしまうテンの様子に、密かに『ご馳走様』と思うスイカだった。

「……アイツを『ノン』の店まで連れて行ってやってくれ。ノンなら事情を察してくれるだろ。今はナナシって娘もいる。ボクッ娘とは歳も近い」

 しばらく髪を撫でていたスイカに、テンが不意に言葉をかけた。

「まぁ、アンタの頼みなら何でもするわよ?」
「今回で、お前への貸しはチャラでいい」
「……そう。私としては、もっとアンタに縛られたままでもいいのだけれど」
「ぐー、ぐー」

 分かってはいた。この男を縛る事など出来ない事を。それでも、込み上げる寂しさという感情を打ち消す事など出来ないスイカだった。

*****

 やがて、支度の終わったリンネが二人を呼びに来た。

「なあ、なんにもないけど今夜はウチに泊まってってくれよ! さっき、父ちゃんの墓も作ってきたんだ。だからさ、その……一人で過ごすのはイヤだって言うか……」

 やや頬を染めながら、もじもじと言い淀むリンネに、スイカが助け舟を出す。

「……だそうよぉ~? アンタもお世話になりましょうよぉ~? 一緒の寝床でもいいわよぉ~?」
「分かった。一晩世話になる。寝床は別にしてくれ」
「ちっ……」

 スイカとテンのやりとりに顔を真っ赤にしながらも、リンネの顔には久しぶりの笑顔が戻った。

 翌朝、三人は連れ立って村長の屋敷を訪れていた。

「それじゃあ、村長。元気でね」
「う、うむ。お前もな」

 そんなリンネの挨拶にも、後ろめたさから視線を合わせる事すら出来ない村長。

 それだけ言うと、もはやここには用はないとばかりに踵を返すリンネと、合わせて退出しようとするテンとスイカだったが、テンは思い出したとばかりに村長に向かって振り返った。

「そう言えば言い忘れてたが、魔獣はアレ一匹じゃなかったから」

 その一言に、村長は血相を変えて怒鳴った。

「なんじゃと! 契約は――」
「俺はあんたらとは契約してないんだよな? ま、精々生き延びてくれ」

 村長に最後まで言わせず、必殺の捨て台詞を残してテン達は村を出た。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...