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 私はマリアージュ。

 三ヶ月ほど前から、この人里離れた別荘で生活を送って居る。

 そうなったのも、婚約者のアデル様にそう提案されたからだ。




『……こんな事になってしまってすまない、マリアージュ。』

『いいんです、アデル様。私は元々、自然の中で暮らす事が好きですし……人の多い都会での暮らしに、少し息が詰まる思いをして居ましたから。こんな素敵な別荘を用意して下さったあなたに、むしろ感謝しないと──。』

『そう言って貰えて、心が軽くなったよ。あんなおかしな噂を流した犯人は、俺が必ず摑まえるから……。それで、噂が落ち着いたら必ず君を迎えに来るから……そしたら俺達、ちゃんと結婚式を挙げような?それままで、ここで大人しく待って居てくれよ?』

『分かりました。私、あなたを信じて居ますからね──。』



 私は、そうアデル様に言葉を返したが……その気持ちは、今でも変わらずに居るわ──。



 そして午後になり……前回から少し間が空いたものの、アデル様が私の元を訪ねて来てくれた。

 だが彼の表情は暗く……噂を流した犯人探しが難航して居る事、そして私の悪評が未だ収まって居ない事は、その顔を見れば明らかだった。



「……君は、まだあの地には帰らない方が良い。きっとまた、何かと陰口を叩かれてしまうだろうから──。そしてそうなったら、世間体を気にする俺の親族達が前にも増して五月蠅いだろうし。」

「そうですね……。アデル様、私は大丈夫ですから……まだ暫くは、ここで大人しくして居ます。それより、あなたのお身体の方はどうなのです?治療の方は順調なのですか?」

「あぁ。主治医にしっかりと見て貰って居るよ。今は、新しい薬を試して居るんだ。でも、すぐに改善されるものでもないしな……。」

「焦らず、ゆっくりとやって行きましょう。生憎と医療に詳しく無い私は、あなたをこうして遠くの地から見守る事しか出来ませんが……誰よりもあなたの事を強く、そして深く想って居ますから。」



 そう言って横に置かれた彼の手を握る私を……アデル様はありがとうと言って身体ごと引き寄せ、その逞しい胸にギュッと抱きしめてくれるのだった──。
 


***



 婚約者のアデル様は、実は大きな問題を抱えて居る。



 半年ほど前、私はアデル様からある物を見せられ……そして、相談を受けたのだ。



 そのある物と言うのは、彼の主治医が作成した診断書だった。

 それによると、アデル様の生殖機能に異常が見つかったり……このままでは、生涯子供を望めないだろうと言う事が明記されて居た。



 そしてその事にショックを受け固まる私に……アデル様は、自分達の婚約は無かった事にしようと言って来たのだ──。
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