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二度ないチャンス
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放課後、先生から頼まれて資料室に荷物を運びに行くことになった。水澄ちゃんは先に追萩と一緒に帰っていった。荷物が多いということで、先生がもう一人にも頼んだらしいんだが……。
「吉岡君とこうやって改めて話すのは初めて、かな?」
「そう、だね……」
そのもう一人、というのは黒坂さんだった。幸い放課後で人も少ないから誰かに睨まれるなんてことは避けられている。これが、普通に生徒が行き交う時間なら俺は黒坂さんのファンから膨大な恨みを買っていたかもしれない。
「クラス隣だけど、吉岡君とはあまり仲良くなれてないよね……これを機に仲良くなっちゃおうかっ」
「えっ……ま、まあ……黒坂さんが、良いなら」
彼女はにこにこと笑った。子供のような明るい笑顔に胸の奥が暖かくなり癒される。学校の高嶺の花からそんなことを言われれば、誰でも舞い上がってしまうだろう。少し照れくさくなって顔をそらしつつ資料室に向かう。
「んー……あっついねー」
「っ……そう、だね」
資料室に着き荷物を下ろし、黒坂さんは制服のシャツのボタンをいくつも外した。ボタンが外されて着崩れた制服から黒坂さんの肌が見え、慌てて目をそらす。
人が出入りしない限りは密閉状態なため、部屋には熱がこもっていた。早くここから出たいが、先生から頼まれて探さないといけないものがある。黒坂さんは帰して俺だけでやるべきかもしれないな。
「黒坂さん、後は俺がやっとくから」
「あ! 先生が言ってた内の一つこれじゃない?」
「って、聞いてないし……」
「あはは、ごめんね。でも暑いのは吉岡君も一緒でしょ? なら私だけ楽するわけにはいかないよ」
一応は聞いていてくれたのか、黒坂さんは微笑んで言った。こういう優しいところ、水澄ちゃんと同じだな……。
「これで最後だね。じゃあ戻ろっか?」
「うん……」
「……? どうしたの?」
持ってきた荷物を片付け、頼まれていた資料を全て見つけ終えた。帰ろうとすると後ろから服を掴まれて振り返る。後ろにいた黒坂さんはどこか寂しげにしていて、口を開閉しながら何か言おうとしていた。
「ね……ねえ、キス、していい?」
「えっ……」
ほんのり頬を赤らめて下から見つめられ心が揺さぶられる。言われたことを理解するのにしばし時間が必要だったが、理解した途端、体に熱が巡る。
皆の言う通り、やっぱり彼女は一番可愛い。そんな美少女から、キスを誘われてしまった。彼女は、俺と水澄ちゃんが付き合っていることを知らないのか。
身長差で見下ろすしかないのだが、そうすると俺の目は目下にある彼女の鎖骨に向いてしまう。ボタンがいくつも外された制服は彼女の動きに合わせて、その下の肌を晒す。綺麗な鎖骨。その最下に伸びる膨らみ以前に、そこへ導く谷に目を奪われる。
彼女は少し近づき、不安そうな顔をして時おり体を少し動かす。それに膨らみも連動していた。わざとにしか見えないのに、どうしても感情を乱され、思考はソレに絡めとられる。
「やっぱり……ダメ?」
小首をかしげる。細かく綺麗な黒の横髪が揺れて俺の目を奪っていった。
彼女は恐らく、知っているんだろう。末尾に発した言葉が、選択を半ば導くようなものだということを。知らずにここまでやるほど、彼女は警戒心がない天然じゃない。きっと、知っててやっている。黒坂さんって、根はそういうキャラだったのか。
長滝水澄という、簡単には手の届かなかった女の子は、もう既に手に入れることができている。もしキスしたのがばれて彼女との間に亀裂が入っても、幼いころから元々築き上げていた仲で彼女を保持することはできるかもしれない。
でも目の前のこの美少女は、一度逃したらもう二度とチャンスは巡ってこないんだろう。だとしたら――
「っ……一回、だけなら」
返答するまでに、そんなに時間は掛からなかった。
「ほんとにっ? じゃあ、目、瞑って……」
黒坂さんは背伸びをし、俺の頬を撫でた。俺が目を瞑ると、口に黒坂さんの柔らかい唇が触れた。初めて触れたものに優越感が溢れ出す。それがあの黒坂優月のものだから、余計なのかもしれない。
「吉岡君が私を選んでくれたら、何度でも、してあげるよ」
「っ……」
「ふふ、じゃあまたねっ」
彼女のが触れたばかりの唇を指で撫でる。最後に黒坂さんが残した言葉が頭の中で何度も響く。優越感と幸福感に満たされしばらく余韻に浸っていた。
二人のキスを物陰で見ていた者が一人いた。壁に凭れ掛かっていたその少女は、背をコンクリートから離した。少女――追萩香は無表情なまま足を動かし、そこから離れた。普段通りの無の顔に張り付いた目には、確かな怒りが宿っていた。
* * *
「あ、香ちゃんおはよー」
「…………」
「香ちゃん?」
翌朝、教室に来た香を水澄が笑顔で迎える。その笑顔に普段は癒されているところだが、香は無言で彼女を見つめて水澄の席の前に座った。普段と様子が違う香を水澄が怪訝そうに見つめる。
「……なあ水澄、吉岡のこと好きか」
「へっ!? っ……ま、まあ……」
香は後ろを向き、水澄に問いかける。彼女の突然の問いに水澄は顔を赤くさせた。恥ずかしそうにしながら、その答えを小さく述べる。
「……こんなこと言うのもあれだが……あいつは止めておいた方がいいぞ」
「……? 香ちゃん、正真君と喧嘩でもしたの? 前までは全然反対した様子なかったのに……」
「別に……」
普段と様子の違う香を、水澄は不思議そうに見つめる。しかし、本当のことを言っても水澄が傷つくだけかもしれない、と香は曖昧に返した。
* * *
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