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黒坂優月
しおりを挟む「明広ってさ、今気になってる子いるでしょ?」
長い黒髪を揺らして、美少女はそう言った。彼女は黒坂優月、学校の高嶺の花として君臨している。成績優秀で眉目秀麗、性格も良いらしく、校内どころかどこでも人気をかっさらっていく。
ただ、俺は少し彼女が苦手だ。普通にしているように見えて、鈍感なように見えて、その実、その目は鋭く相手の最奥まで見透かしている――気がする。
「……まあ、女の子は皆可愛いし俺も惚れちゃうわけよ。優月ちゃんのことも好きだしね。……! そうだ、今日の放課後よかったら俺とディナーでもどう?」
「相変わらず明広って変わってるよねー」
「え、無視?」
「ずっと誰彼構わずナンパしてるけどさ、一人に熱上げたりしないの? 例えば――水澄ちゃん、とか」
こういうところだ。彼女は異常に鋭い。手中にある信者の情報網を使ったわけでもないのに、誰にも言っていないようなことを言ってのける。
「……さっきも言ったように俺は全女性を愛し」
「そうやって誤魔化してるから、吉岡君に先を越されちゃったんじゃないの。最近ずーっと元気ないの、そのせいでしょ?」
優月ちゃんは俺の言葉を遮って問い詰めてきた。気づいてたのか。吉岡が水澄ちゃんと交際したと聞いて落ち込んでいた。ただ一応周りにバレないように普段通りやっていたつもりなんだが。
「……まあ、な。でもまあ、それは優月ちゃんには関係ないことだし」
「……私が手伝ってあげようか」
「え? いや何言って……」
彼女はいたって普通に、提案してきた。いきなりの変わった申し出に唖然として優月ちゃんに目を向ける。手伝うって、つまりは水澄ちゃんと吉岡の邪魔をするってことだろ……?
「大丈夫だよっ。ちゃんと上手くやるから」
「いや待てって、そういう問題じゃ」
「でも好きなんでしょ? このまま諦めちゃうの? せっかく私が味方するんだから、ちょっとくらいはやってみようよ?」
優月ちゃんはグイッと近づいてきた。押されて机の上に座らせられ、彼女に頬を撫でられる。
優月ちゃんの目が俺の目を捉えた。獣を食らう兎の目。愛らしくも歪んでいて、どこか魅力的なソレに、気づかない内に捕らわれていた。
ヒエラルキーの上層に君臨する彼女なら、使えるものは腐るほどある。もし本当に彼女が俺についてくれるのだとしたら――いけるかもしれない。彼女が言うように、本当に、滅多にない好機だ。
頭の中で思考が渦巻き、優月ちゃんの言葉が甘く轟とどろき脳に溶けて染み渡る。
「…………」
気づけば俺は頷いていた。目の前で妖艶な少女は満面の笑みを浮かべていた。
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