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プロローグ
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ある世界には、人間が大の苦手な魔王様がいた。人間の性格などが苦手というわけでも、敵対勢力だからというわけでもない。魔王様は――人間に近づかれると血を吐いてしまう、いわゆる人間アレルギーなのである。
そんな魔王様はもちろん前線で人間と戦うことなどできやしない。しかし彼には優秀な悪魔たちがいた。だから魔王様のもとに勇者が辿り着くことはなかった――今までは。
魔王様がちょうど一五二〇歳を迎える日、とうとう彼のもとへ辿り着いた勇者が現れてしまった。
「魔王、今日はお前の誕生日らしいな。だが、今日をもってお前の命日にもなる」
「ほざけ、お前のようなガキに殺られるほど老いてはいない」
魔王様はとりあえず強がった。まだ勇者とそれほど近い距離ではなかったから、その手に魔剣を握ることはできた。ただ、勇者が一歩一歩近づいてきて、魔王様の冷や汗が頬へ伝う。そうして勇者が剣を構え、あと少しで勇者の剣が射程に入ろうとしていたとき――魔王様は口から大量の血を吐いて地面に倒れてしまった。
* * *
「っ……」
眩しい。吐き気がして血を吐いてから、意識を失った俺は死んだはずだった。死ななくても、勇者が様子をうかがうために近づいて、俺は再び吐血して出血死するだろう。
なのに、何故か意識を取り戻した。上から容赦なく降り注ぐ太陽を鬱陶しく思いながら目の上に手をやる。まだ口の中にかすかに残る苦みに顔をしかめつつ体を起こす。軽く目を擦り、状況を確認するため辺りを見回すと――目の前には異世界が広がっていた。
黒く硬い地面に、その上を音をたてて走っていく鉄の塊、その塊を止める三色の光の飾り、辺りを取り囲むように高く聳え立ついくつもの建物。
「どこだ、ここ……」
どこを見ても人間、人間人間人間人間。悪魔の気配が一切しない。どうやら俺は、人間たちに囲まれる地獄のような所に来てしまったらしい。
何故こうなったのか。俺は死んだんじゃなかったのか。周りの音が消えるくらいに、色々な疑問が頭を支配していく。
「あの……大丈夫ですか?」
俺が頭をフル回転している中、横から女特有の高めの声が発せられた。俺に向けられたものだろうか。声のした方へ目を向けると――
「えっと……怪我とか、ありませんか?」
そこには綺麗な黒髪を腰まで伸ばした十七歳ほどの女がいた。彼女は風に揺れる髪を耳にかけ、髪と同じ黒い目で心配げにこちらを見ている。
そのとき、俺の中で時間が止まった気がした。目の前の女のせいで体が全く動かなくなった。女が人間だから、いつものように吐き気はする。だが、そのせいで固まった訳じゃないのは確かだ。
「あの……?」
「え、あ……大丈夫、です」
彼女は怪訝そうに再び声をかけた。慌てて出した声は、自分が思っている以上に高く若々しかった。違和感を覚えて女から目を離し自分の体を確かめる。
いつもより小さく白い手、男かと疑いたくなるような細い腕、少し弛んだ腹、小さい足。確かめれば確かめるほど、以前の自分の体とは違った情報が入ってくる。
ますます混乱して焦り、自分の体から辺りへ目を移すと、目の前にいる女の奥に鏡らしきものがあるのが見えた。鏡には心配そうに立っている女が写っている。そしてその前には――黒髪の十七歳ほどの人間の男が地面に座っていた。俺が手を上下に動かし拳を握ると、やはり鏡の男も同じように手を上下に動かし拳を握る。
あのアホらしく口を開けている彼はおそらく、俺なのだろう。
どうやら俺は人間になってしまったらしい。
こうして俺は、吐血体質という厄介なものを持ったまま、人間として人間に囲まれる生活を送るはめになってしまった。
そんな魔王様はもちろん前線で人間と戦うことなどできやしない。しかし彼には優秀な悪魔たちがいた。だから魔王様のもとに勇者が辿り着くことはなかった――今までは。
魔王様がちょうど一五二〇歳を迎える日、とうとう彼のもとへ辿り着いた勇者が現れてしまった。
「魔王、今日はお前の誕生日らしいな。だが、今日をもってお前の命日にもなる」
「ほざけ、お前のようなガキに殺られるほど老いてはいない」
魔王様はとりあえず強がった。まだ勇者とそれほど近い距離ではなかったから、その手に魔剣を握ることはできた。ただ、勇者が一歩一歩近づいてきて、魔王様の冷や汗が頬へ伝う。そうして勇者が剣を構え、あと少しで勇者の剣が射程に入ろうとしていたとき――魔王様は口から大量の血を吐いて地面に倒れてしまった。
* * *
「っ……」
眩しい。吐き気がして血を吐いてから、意識を失った俺は死んだはずだった。死ななくても、勇者が様子をうかがうために近づいて、俺は再び吐血して出血死するだろう。
なのに、何故か意識を取り戻した。上から容赦なく降り注ぐ太陽を鬱陶しく思いながら目の上に手をやる。まだ口の中にかすかに残る苦みに顔をしかめつつ体を起こす。軽く目を擦り、状況を確認するため辺りを見回すと――目の前には異世界が広がっていた。
黒く硬い地面に、その上を音をたてて走っていく鉄の塊、その塊を止める三色の光の飾り、辺りを取り囲むように高く聳え立ついくつもの建物。
「どこだ、ここ……」
どこを見ても人間、人間人間人間人間。悪魔の気配が一切しない。どうやら俺は、人間たちに囲まれる地獄のような所に来てしまったらしい。
何故こうなったのか。俺は死んだんじゃなかったのか。周りの音が消えるくらいに、色々な疑問が頭を支配していく。
「あの……大丈夫ですか?」
俺が頭をフル回転している中、横から女特有の高めの声が発せられた。俺に向けられたものだろうか。声のした方へ目を向けると――
「えっと……怪我とか、ありませんか?」
そこには綺麗な黒髪を腰まで伸ばした十七歳ほどの女がいた。彼女は風に揺れる髪を耳にかけ、髪と同じ黒い目で心配げにこちらを見ている。
そのとき、俺の中で時間が止まった気がした。目の前の女のせいで体が全く動かなくなった。女が人間だから、いつものように吐き気はする。だが、そのせいで固まった訳じゃないのは確かだ。
「あの……?」
「え、あ……大丈夫、です」
彼女は怪訝そうに再び声をかけた。慌てて出した声は、自分が思っている以上に高く若々しかった。違和感を覚えて女から目を離し自分の体を確かめる。
いつもより小さく白い手、男かと疑いたくなるような細い腕、少し弛んだ腹、小さい足。確かめれば確かめるほど、以前の自分の体とは違った情報が入ってくる。
ますます混乱して焦り、自分の体から辺りへ目を移すと、目の前にいる女の奥に鏡らしきものがあるのが見えた。鏡には心配そうに立っている女が写っている。そしてその前には――黒髪の十七歳ほどの人間の男が地面に座っていた。俺が手を上下に動かし拳を握ると、やはり鏡の男も同じように手を上下に動かし拳を握る。
あのアホらしく口を開けている彼はおそらく、俺なのだろう。
どうやら俺は人間になってしまったらしい。
こうして俺は、吐血体質という厄介なものを持ったまま、人間として人間に囲まれる生活を送るはめになってしまった。
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