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2話 くよくよしたって仕方がない!
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「よし、まずは薬を換金しよう!」
馬車で通ってきた道を引き返し、窓から見えた街を目指して歩く。
日はまだ高く、薬が売れれば今日の宿屋くらいならなんとかなるだろう。
道を歩くと風が薬草の香りを運んできて、気分がアガる。
石畳の上を荷車が行き交い、薬草の匂いが立ちのぼる。この国では、空気そのものが薬みたいだ。
通りに立ちこめる乾燥薬草の匂いは、日差しにさらされてほんのり甘さを増しているように感じられた。
ああ、たまらない。
「わぁ、すごい! こんなに種類あるの初めて見た!」
クロイツ領にも薬草店は多かったけれど、あそこでは薬草はあくまで処方の部品として並んでいた。
けれどこの土地では、薬草そのものが一つの商品として扱われている気がする。
葉一枚に物語があって、香り一つに価値がある。
薬草の魅力を損なわせず、加工によってさらに良さを引き出しているんだ。
思わず露店へ駆け寄って、乾燥薬草に顔を近づける。
ゲームではグラフィックの棚に並んでいただけの材料も、こうして触れられる現実となるとまた興奮が高まる。
「新鮮で、香りも強い……葉の張りも最高!」
「お、お兄ちゃん、それ分かるのかい?」
店の青年が嬉しそうに目を丸くする。
うん、わかる。見たら分かってしまう。
こんな最高の素材を材料に薬を作ったら最高のものができる予感がする!
早く調合がしたい。
「このラカムの葉、乾燥が完璧! しかも肉厚なのに均一ってどういう腕してるの!? これ、解毒剤にしたらヤバいくらい効きそうなんだけど!」
「はは、わかってくれるかい? そこまで言われると作った甲斐があるよ」
たくさんの商品はどれも知らない加工が施されていて、見れば見るほど欲しくなる。
クロイツ領でグラフィカの薬草を買うこともあったけれど、輸送に耐えられるようにか全て粉末にしたものばかりだった。
加工しやすくて便利だって思っていたけれど、こうして現物を見てしまうと味気なく感じる。
これは砕いて薬剤と混ぜて、こっちはオイルに漬けて薬効を染み出させて……、この実はすり潰したら軟膏の……。
レシピが次々と浮かんでくる。
「くぅ、さいっこう……!」
つい本音が漏れて青年に笑われた。
「買ってくかい?」
「買いたい! すっごく買いたいけど……今は持ち合わせが……。お金が出来たら絶対来る!」
「そうか、また来てくれよ」
「うん!」
商品を見るだけでこの領地の人の薬草への情熱が伝わって来る。
薬を愛してる人って、やっぱり好きだ。
はやく現金を作らなきゃ。薬草を前に、指がうずうずして仕方がない。
屋敷を追い出されるようにして馬車に押し込められたから、大事な錬金道具と手元にあった薬をトランクに入れるので精一杯だった。
お金なんてもちろん持たせてもらっていない。
「ねぇねぇ、この辺に薬屋はある? 薬を売りたいんだ」
「薬を売るのか。そうだな、そこの路地を入って右の突き当りにある店がいいと思うぜ? 店主のじいさんは偏屈だが薬にはうるさい。いいものなら高く買ってくれるさ」
「うん、ありがとう!」
手を振って僕は露店から離れていく。
婚約者の屋敷へ向かうときよりも胸が躍る。
「はー、これから毎日忙しくなるぞ。早く住む場所を見つけて腰をおちつけたいなぁ」
これからは貴族、アッシュ・クロイツではなく、錬金術師アッシュとして生きていく。
面倒くさいしがらみとはさようならだ!
腹に力を入れてみるけれど、顔も知らない婚約者の冷たい態度が心に影を落とす。
「僕の悪い噂……広まってたのかなぁ……」
あれは僕じゃない。
僕の代わりに社交界へ出ていた従弟の悪評なのに。
錬金術には興味ゼロ、勉強も礼儀も身につける気もないくせに、クロイツの『看板』だけはちゃっかり背負っていた。
歓迎されるなんて夢を見ていたわけじゃないけれど、せめて普通の人間として対応してくれるかもしれないと期待していた。
本当の僕を知ったら、ほんの少しでも笑ってくれただろうか。
書類から顔すら上げてくれなかった婚約者が脳裏に浮かんで、慌てて振り払うように首を振った。
世の中そんなに甘くない……か。
「……ま、いいか! もう関係ないし!」
過去はもうどうでもいい。
いま必要なのは、薬を売って宿賃を確保して、おいしいご飯を食べることだ!
「よし! やるぞー!」
拳をぐっと握ると、胸の中のワクワクがまた膨らんだ。
温かい風が背中を押してくれる。
薬草の香りが混ざったその風を胸いっぱいに吸い込んで、僕の錬金術師としての人生がようやく本当の意味で始まるんだ、と噛みしめた。
馬車で通ってきた道を引き返し、窓から見えた街を目指して歩く。
日はまだ高く、薬が売れれば今日の宿屋くらいならなんとかなるだろう。
道を歩くと風が薬草の香りを運んできて、気分がアガる。
石畳の上を荷車が行き交い、薬草の匂いが立ちのぼる。この国では、空気そのものが薬みたいだ。
通りに立ちこめる乾燥薬草の匂いは、日差しにさらされてほんのり甘さを増しているように感じられた。
ああ、たまらない。
「わぁ、すごい! こんなに種類あるの初めて見た!」
クロイツ領にも薬草店は多かったけれど、あそこでは薬草はあくまで処方の部品として並んでいた。
けれどこの土地では、薬草そのものが一つの商品として扱われている気がする。
葉一枚に物語があって、香り一つに価値がある。
薬草の魅力を損なわせず、加工によってさらに良さを引き出しているんだ。
思わず露店へ駆け寄って、乾燥薬草に顔を近づける。
ゲームではグラフィックの棚に並んでいただけの材料も、こうして触れられる現実となるとまた興奮が高まる。
「新鮮で、香りも強い……葉の張りも最高!」
「お、お兄ちゃん、それ分かるのかい?」
店の青年が嬉しそうに目を丸くする。
うん、わかる。見たら分かってしまう。
こんな最高の素材を材料に薬を作ったら最高のものができる予感がする!
早く調合がしたい。
「このラカムの葉、乾燥が完璧! しかも肉厚なのに均一ってどういう腕してるの!? これ、解毒剤にしたらヤバいくらい効きそうなんだけど!」
「はは、わかってくれるかい? そこまで言われると作った甲斐があるよ」
たくさんの商品はどれも知らない加工が施されていて、見れば見るほど欲しくなる。
クロイツ領でグラフィカの薬草を買うこともあったけれど、輸送に耐えられるようにか全て粉末にしたものばかりだった。
加工しやすくて便利だって思っていたけれど、こうして現物を見てしまうと味気なく感じる。
これは砕いて薬剤と混ぜて、こっちはオイルに漬けて薬効を染み出させて……、この実はすり潰したら軟膏の……。
レシピが次々と浮かんでくる。
「くぅ、さいっこう……!」
つい本音が漏れて青年に笑われた。
「買ってくかい?」
「買いたい! すっごく買いたいけど……今は持ち合わせが……。お金が出来たら絶対来る!」
「そうか、また来てくれよ」
「うん!」
商品を見るだけでこの領地の人の薬草への情熱が伝わって来る。
薬を愛してる人って、やっぱり好きだ。
はやく現金を作らなきゃ。薬草を前に、指がうずうずして仕方がない。
屋敷を追い出されるようにして馬車に押し込められたから、大事な錬金道具と手元にあった薬をトランクに入れるので精一杯だった。
お金なんてもちろん持たせてもらっていない。
「ねぇねぇ、この辺に薬屋はある? 薬を売りたいんだ」
「薬を売るのか。そうだな、そこの路地を入って右の突き当りにある店がいいと思うぜ? 店主のじいさんは偏屈だが薬にはうるさい。いいものなら高く買ってくれるさ」
「うん、ありがとう!」
手を振って僕は露店から離れていく。
婚約者の屋敷へ向かうときよりも胸が躍る。
「はー、これから毎日忙しくなるぞ。早く住む場所を見つけて腰をおちつけたいなぁ」
これからは貴族、アッシュ・クロイツではなく、錬金術師アッシュとして生きていく。
面倒くさいしがらみとはさようならだ!
腹に力を入れてみるけれど、顔も知らない婚約者の冷たい態度が心に影を落とす。
「僕の悪い噂……広まってたのかなぁ……」
あれは僕じゃない。
僕の代わりに社交界へ出ていた従弟の悪評なのに。
錬金術には興味ゼロ、勉強も礼儀も身につける気もないくせに、クロイツの『看板』だけはちゃっかり背負っていた。
歓迎されるなんて夢を見ていたわけじゃないけれど、せめて普通の人間として対応してくれるかもしれないと期待していた。
本当の僕を知ったら、ほんの少しでも笑ってくれただろうか。
書類から顔すら上げてくれなかった婚約者が脳裏に浮かんで、慌てて振り払うように首を振った。
世の中そんなに甘くない……か。
「……ま、いいか! もう関係ないし!」
過去はもうどうでもいい。
いま必要なのは、薬を売って宿賃を確保して、おいしいご飯を食べることだ!
「よし! やるぞー!」
拳をぐっと握ると、胸の中のワクワクがまた膨らんだ。
温かい風が背中を押してくれる。
薬草の香りが混ざったその風を胸いっぱいに吸い込んで、僕の錬金術師としての人生がようやく本当の意味で始まるんだ、と噛みしめた。
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