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13話 原因は……これ?
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森に入って三週間。
空気は重く、光は濁り、深部特有の濃い魔素の気配が肌にまとわりつく。
土を踏む音が重くなり、呼吸ひとつで喉がひりつく。
森がこれ以上の侵入を拒んでいるようにも思える。
出てくる魔獣は、目に見えて大きくなり、狂暴性が増していた。
魔獣除けに反応はするが逃げてはいかず、境界線ぎりぎりで牙を剥いて唸ってくるものすらいる。
それを、騎士たちが鮮やかに仕留めていく。
刃がうなり、魔獣が速やかに倒され、すぐに静寂が戻る。
「……もう、ピクニック気分じゃなくなったな」
「ほんとにな」
軽口を叩きながらも警戒は怠らない。
僕たち錬金術師は、魔物除けの中心で安全圏を保ちつつ素材を採取していた。
圧縮バッグに花や苔を詰めながら、視界の端では騎士たちが次々と魔獣を薙ぐ。
「折角作った氷結弾も火炎弾も、出番なしだねぇ」
「火炎弾は燃えすぎる。森丸ごと焼けるって」
スレイに突っ込まれ、クインは圧縮バッグから出した赤い手榴弾のようなものをしまった。
「氷結弾は……凍らせすぎたな」
「辺境伯様に止められたしな」
スレイも手に持っていた青い手榴弾をそっとバッグへ戻す。
騎士の手伝いができるかといろんなものを開発してみたが、よく考えたらテンションに任せて作り上げたからバカみたいな威力のものばかりで実用性がなかった。
これなら大丈夫かと氷結弾を使ってみたけれど、辺り一帯を氷漬けにしてオリバー様の権限により使用禁止となった。
うん、すみません。
深夜テンションみたいな感じでみんな作ってたもんな……。
煽る人間しかいないから、誰も止めないしいつも暴走しちゃうんだよな。
「次にいかそう……」
「うん」
「そうだな」
本当に気を付けよう。
密かに三人で反省会をしていたら背後から声をかけられた。
「すまない、魔獣をしまってもらえるか」
「はい、討伐お疲れさまです」
顔を上げると、目の前には三つの頭を持つ黒獅子の魔獣が転がっていた。
舌をだらりとたらし、目に光はない。
既に仕留められ、沈黙している。
僕は予備の圧縮バッグを広げてそれを収納した。
何体目だろう。素材としては上等。内臓や爪や牙、血液からはどんな薬が作れるだろうか。
胸が高鳴る。
「今日はもう少し進んで、キャンプを張る。全員、気を引き締めて進め!」
オリバー様の号令に、騎士たちの声が一糸乱れず響く。
「……格好いい」
「うん、まじで憧れる」
僕も心の中で同意する。男の子なんて単純なもので、強くて頼れる背中には抗えないのだ。
さらに進むと、薄いピンク色の霧が漂うひらけた場所に出た。
黒々とした土には黒に近い緑の苔が生え、真ん中にベニテングダケに似たのお化けキノコが一本生えていた。
「でかっ……!」
太い軸は三メートルほど、傘は五メートルを超している。
斑点の浮いた傘が、毒々しくも不思議と目を引いた。
「あれ……エンビキノコだ」
あまりに大きいけれど、記憶の中の素材と重なる。
「知ってるのか?」
オリバー様が声をかけてくる。
「ええ。本来は拳ほどの小型種です。軸の中に催淫効果のあるガスがあって、惚れ薬なんかに使われます」
「惚れ……?」
「まぁ、ジョークグッズ程度のものですね」
軽く冗談めかして返す。
本当に人の精神を捻じ曲げるようなものだったら、劇物指定となって取り扱いを禁止される。
取り扱い禁止物を使用した者は、特別な許可を得ていない限り問答無用で逮捕されてしまう。
エンビキノコで作った惚れ薬なんて半分はプラシーボ効果なんだ。
「催淫ガス自体は強力なので、資格者しか触れません」
もちろん、僕は資格を持ってるけどね。
オリバー様へそんな説明をしていると、じっとキノコを見ていたクインが顎に手を当てる。
「あのキノコ、熱帯じゃないと育たないはずなのに、なんでここであんなに大きくなってるんだ?」
「魔素? いや、それだけじゃ弱い。ここの気候では育つ前に枯れるはずだ」
クインの言葉を受けて僕も予想を立ててみる。
「アッシュ、地面触ってみろ」
スレイの声に従って苔に覆われた地面手を当てる。
あたたかい。
この森の地面はずっと凍るような冷たさだった。
なのにここだけ熱を帯びている。
「地熱だ!」
「苔の下だけ温度が高い。つまり、この地層が特別ってことだ」
見渡すうち、思考が冴えていく。
「辺境伯様。もしかすると、魔獣の大量発生はこれが原因かもしれません」
「どういうことだ?」
僕はキノコの傘を指差す。
「見てください。あそこに裂け目があります」
「ああ」
「おそらく、外的な刺激で傘が割れてガスが噴出したんです」
「その影響で魔獣たちが発情し、繁殖が爆発的に進んだ……ということか?」
「ええ」
あの大きさならガスは相当な量が入っていただろう。
一体どのくらいの範囲に広がったか分からないが、深部にあるこの場所から広がったのならかなりの魔獣がそのガスを浴びてしまっただろう。
話を聞いていた騎士たちが警戒したようにキノコから距離を取る。
「濃厚な甘い匂いがしないので、今はガスも抜けています。安心してください」
説明を終えると、オリバー様が短く息をついて、騎士たちも肩の力を抜いた。
「どうにかできるか?」
「菌糸を枯らす薬があります。辺り一帯に散布すれば根も残らないでしょう」
「頼む」
「はい。クイン、スレイ、準備!」
「了解!」
「騎士団は少し下がってください。念のため、鼻と口を覆っておいてくださいね」
僕らはゴーグルと三角巾を装着し、散布機に薬剤を注ぎ始めた。
ここにあるキノコはこれひとつだけれど、どこかに菌根が残っている可能性だってある。
エンビキノコ、群生するタイプじゃなくてよかった。
しっかり薬を撒いて二度と生えてこないよう徹底的に除去しなければ、また惨事が起きてしまうかもしれない。
周辺から丁寧に薬剤を撒き、最後はエンビキノコ本体へ薬剤を直接振りかけた。
巨大なキノコの根元まで液剤が染みるのを確認してから、僕は息を吐いた。
黒く染まったキノコから、かすかに甘い匂いが立ちのぼる。
鼻腔を刺すほどの匂いなのに、不思議と嫌悪できなかった。
そして、もっと嗅いでいたいと思わされる。
余韻程度でこんなに強いなら、直接浴びたら抗えないだろう。
「これで一晩置けば、完全に枯れると思います」
「よくやった。よし、今日はここで休む。各自テントを張り野営の準備をしろ」
「はっ!」
騎士たちの歯切れのいい返事を聞き、僕らも準備を手伝った。
夜。
食事を終え、エンビキノコの観察を続ける僕の背後から、静かな声が届いた。
「どうだ?」
「順調です。朝には根まで枯れると思います」
キノコはもう半分以上黒く染まっている。
根本へじわじわと浸食が広がっているのが見えた。
「そうか……よかった」
その声には、深い安堵があった。
この人がどれほどの重責の中にいたのか伝わってくるようで、少しだけ胸が痛くなる。
「本当に、君がいてくれてよかった。アッシュ」
「僕の方こそ。国と領地を守ってくださって、ありがとうございます」
言いながら、無意識に視線が重なった。
グラフィカ領の美しい薬草畑のような緑の瞳に映る灯の揺らめき。
なぜこんな時に、胸の鼓動が速くなるのか分からなかった。
……きっと素晴らしい領主さまが、錬金術師としての自分を認めてくれているのが嬉しいからだろう。
誰かの幸せのため、役に立つため、僕が作ったものが使われる。
これ以上ない錬金術師の誉れだ。
「これで、安心できるな」
「ええ」
二人で並んでキノコを見上げていたその時。
どさりと音がした。
上部の傘がゆっくり崩れ落ち、軸がぐらりと揺れた。
錬金術師の僕だから理解できた軸から零れ出たピンクの霧。
時間が止まったように、それがふわりとオリバー様に向かって舞い上がるのが見えた。
「っ、催淫ガス……!」
考えるより先に体が動いた。
僕はとっさにオリバー様を突き飛ばし、その代わりに霧をまともに吸い込んでしまった。
「アッシュ!!」
膝が、崩れる。
肺が焼けるように熱い。
頭がくらくらして、視界が狭まって行く。
「アッシュ! 大丈夫か!」
「……あ、あつ……っ」
自分の声が、自分のものとは思えなかった。
体の奥からどうしようもない快感がこみ上げてくる。
胸が締めつけられるように苦しく、下腹部がじんじんと疼く。
「……っ、も……しわけ、ございま、せ……っ」
手が震える。息もまともに吸えない。
じわり、下着が濡れる感触に頰が赤く染まる。
オリバー様の熱い視線が、震える体を這うように感じた。
欲しい。
そう言いそうになって、慌てて口を閉じる。
「アッシュ!」
震えた声で名を呼ぶオリバー様の僕を支える手が、驚くほど優しかった。
焦りと温かさが同じ温度で伝わって来る。
けれど、そんな優しい手にすら快感を覚えてしまう。
視界が揺れ、意識が遠ざかる。
傾いた体が温かい腕に抱き留められた。鎧越しの硬い胸板と、首筋にかかる荒い息が甘く溶け合う。
「とにかく、テントへいくぞ!」
オリバー様の抱え上げられたまま、その腕に縋り付く。
せりあがって来る快感と甘い香りと心臓の音が、ぐちゃぐちゃに混じり合って……。
空気が、音を失う。
ピンクに満たされた視界で、オリバー様の緑瞳が揺らめく。
守らせて欲しいと言った手が、僕を強く抱きしめる。
そして、意識が霞んでいった。
空気は重く、光は濁り、深部特有の濃い魔素の気配が肌にまとわりつく。
土を踏む音が重くなり、呼吸ひとつで喉がひりつく。
森がこれ以上の侵入を拒んでいるようにも思える。
出てくる魔獣は、目に見えて大きくなり、狂暴性が増していた。
魔獣除けに反応はするが逃げてはいかず、境界線ぎりぎりで牙を剥いて唸ってくるものすらいる。
それを、騎士たちが鮮やかに仕留めていく。
刃がうなり、魔獣が速やかに倒され、すぐに静寂が戻る。
「……もう、ピクニック気分じゃなくなったな」
「ほんとにな」
軽口を叩きながらも警戒は怠らない。
僕たち錬金術師は、魔物除けの中心で安全圏を保ちつつ素材を採取していた。
圧縮バッグに花や苔を詰めながら、視界の端では騎士たちが次々と魔獣を薙ぐ。
「折角作った氷結弾も火炎弾も、出番なしだねぇ」
「火炎弾は燃えすぎる。森丸ごと焼けるって」
スレイに突っ込まれ、クインは圧縮バッグから出した赤い手榴弾のようなものをしまった。
「氷結弾は……凍らせすぎたな」
「辺境伯様に止められたしな」
スレイも手に持っていた青い手榴弾をそっとバッグへ戻す。
騎士の手伝いができるかといろんなものを開発してみたが、よく考えたらテンションに任せて作り上げたからバカみたいな威力のものばかりで実用性がなかった。
これなら大丈夫かと氷結弾を使ってみたけれど、辺り一帯を氷漬けにしてオリバー様の権限により使用禁止となった。
うん、すみません。
深夜テンションみたいな感じでみんな作ってたもんな……。
煽る人間しかいないから、誰も止めないしいつも暴走しちゃうんだよな。
「次にいかそう……」
「うん」
「そうだな」
本当に気を付けよう。
密かに三人で反省会をしていたら背後から声をかけられた。
「すまない、魔獣をしまってもらえるか」
「はい、討伐お疲れさまです」
顔を上げると、目の前には三つの頭を持つ黒獅子の魔獣が転がっていた。
舌をだらりとたらし、目に光はない。
既に仕留められ、沈黙している。
僕は予備の圧縮バッグを広げてそれを収納した。
何体目だろう。素材としては上等。内臓や爪や牙、血液からはどんな薬が作れるだろうか。
胸が高鳴る。
「今日はもう少し進んで、キャンプを張る。全員、気を引き締めて進め!」
オリバー様の号令に、騎士たちの声が一糸乱れず響く。
「……格好いい」
「うん、まじで憧れる」
僕も心の中で同意する。男の子なんて単純なもので、強くて頼れる背中には抗えないのだ。
さらに進むと、薄いピンク色の霧が漂うひらけた場所に出た。
黒々とした土には黒に近い緑の苔が生え、真ん中にベニテングダケに似たのお化けキノコが一本生えていた。
「でかっ……!」
太い軸は三メートルほど、傘は五メートルを超している。
斑点の浮いた傘が、毒々しくも不思議と目を引いた。
「あれ……エンビキノコだ」
あまりに大きいけれど、記憶の中の素材と重なる。
「知ってるのか?」
オリバー様が声をかけてくる。
「ええ。本来は拳ほどの小型種です。軸の中に催淫効果のあるガスがあって、惚れ薬なんかに使われます」
「惚れ……?」
「まぁ、ジョークグッズ程度のものですね」
軽く冗談めかして返す。
本当に人の精神を捻じ曲げるようなものだったら、劇物指定となって取り扱いを禁止される。
取り扱い禁止物を使用した者は、特別な許可を得ていない限り問答無用で逮捕されてしまう。
エンビキノコで作った惚れ薬なんて半分はプラシーボ効果なんだ。
「催淫ガス自体は強力なので、資格者しか触れません」
もちろん、僕は資格を持ってるけどね。
オリバー様へそんな説明をしていると、じっとキノコを見ていたクインが顎に手を当てる。
「あのキノコ、熱帯じゃないと育たないはずなのに、なんでここであんなに大きくなってるんだ?」
「魔素? いや、それだけじゃ弱い。ここの気候では育つ前に枯れるはずだ」
クインの言葉を受けて僕も予想を立ててみる。
「アッシュ、地面触ってみろ」
スレイの声に従って苔に覆われた地面手を当てる。
あたたかい。
この森の地面はずっと凍るような冷たさだった。
なのにここだけ熱を帯びている。
「地熱だ!」
「苔の下だけ温度が高い。つまり、この地層が特別ってことだ」
見渡すうち、思考が冴えていく。
「辺境伯様。もしかすると、魔獣の大量発生はこれが原因かもしれません」
「どういうことだ?」
僕はキノコの傘を指差す。
「見てください。あそこに裂け目があります」
「ああ」
「おそらく、外的な刺激で傘が割れてガスが噴出したんです」
「その影響で魔獣たちが発情し、繁殖が爆発的に進んだ……ということか?」
「ええ」
あの大きさならガスは相当な量が入っていただろう。
一体どのくらいの範囲に広がったか分からないが、深部にあるこの場所から広がったのならかなりの魔獣がそのガスを浴びてしまっただろう。
話を聞いていた騎士たちが警戒したようにキノコから距離を取る。
「濃厚な甘い匂いがしないので、今はガスも抜けています。安心してください」
説明を終えると、オリバー様が短く息をついて、騎士たちも肩の力を抜いた。
「どうにかできるか?」
「菌糸を枯らす薬があります。辺り一帯に散布すれば根も残らないでしょう」
「頼む」
「はい。クイン、スレイ、準備!」
「了解!」
「騎士団は少し下がってください。念のため、鼻と口を覆っておいてくださいね」
僕らはゴーグルと三角巾を装着し、散布機に薬剤を注ぎ始めた。
ここにあるキノコはこれひとつだけれど、どこかに菌根が残っている可能性だってある。
エンビキノコ、群生するタイプじゃなくてよかった。
しっかり薬を撒いて二度と生えてこないよう徹底的に除去しなければ、また惨事が起きてしまうかもしれない。
周辺から丁寧に薬剤を撒き、最後はエンビキノコ本体へ薬剤を直接振りかけた。
巨大なキノコの根元まで液剤が染みるのを確認してから、僕は息を吐いた。
黒く染まったキノコから、かすかに甘い匂いが立ちのぼる。
鼻腔を刺すほどの匂いなのに、不思議と嫌悪できなかった。
そして、もっと嗅いでいたいと思わされる。
余韻程度でこんなに強いなら、直接浴びたら抗えないだろう。
「これで一晩置けば、完全に枯れると思います」
「よくやった。よし、今日はここで休む。各自テントを張り野営の準備をしろ」
「はっ!」
騎士たちの歯切れのいい返事を聞き、僕らも準備を手伝った。
夜。
食事を終え、エンビキノコの観察を続ける僕の背後から、静かな声が届いた。
「どうだ?」
「順調です。朝には根まで枯れると思います」
キノコはもう半分以上黒く染まっている。
根本へじわじわと浸食が広がっているのが見えた。
「そうか……よかった」
その声には、深い安堵があった。
この人がどれほどの重責の中にいたのか伝わってくるようで、少しだけ胸が痛くなる。
「本当に、君がいてくれてよかった。アッシュ」
「僕の方こそ。国と領地を守ってくださって、ありがとうございます」
言いながら、無意識に視線が重なった。
グラフィカ領の美しい薬草畑のような緑の瞳に映る灯の揺らめき。
なぜこんな時に、胸の鼓動が速くなるのか分からなかった。
……きっと素晴らしい領主さまが、錬金術師としての自分を認めてくれているのが嬉しいからだろう。
誰かの幸せのため、役に立つため、僕が作ったものが使われる。
これ以上ない錬金術師の誉れだ。
「これで、安心できるな」
「ええ」
二人で並んでキノコを見上げていたその時。
どさりと音がした。
上部の傘がゆっくり崩れ落ち、軸がぐらりと揺れた。
錬金術師の僕だから理解できた軸から零れ出たピンクの霧。
時間が止まったように、それがふわりとオリバー様に向かって舞い上がるのが見えた。
「っ、催淫ガス……!」
考えるより先に体が動いた。
僕はとっさにオリバー様を突き飛ばし、その代わりに霧をまともに吸い込んでしまった。
「アッシュ!!」
膝が、崩れる。
肺が焼けるように熱い。
頭がくらくらして、視界が狭まって行く。
「アッシュ! 大丈夫か!」
「……あ、あつ……っ」
自分の声が、自分のものとは思えなかった。
体の奥からどうしようもない快感がこみ上げてくる。
胸が締めつけられるように苦しく、下腹部がじんじんと疼く。
「……っ、も……しわけ、ございま、せ……っ」
手が震える。息もまともに吸えない。
じわり、下着が濡れる感触に頰が赤く染まる。
オリバー様の熱い視線が、震える体を這うように感じた。
欲しい。
そう言いそうになって、慌てて口を閉じる。
「アッシュ!」
震えた声で名を呼ぶオリバー様の僕を支える手が、驚くほど優しかった。
焦りと温かさが同じ温度で伝わって来る。
けれど、そんな優しい手にすら快感を覚えてしまう。
視界が揺れ、意識が遠ざかる。
傾いた体が温かい腕に抱き留められた。鎧越しの硬い胸板と、首筋にかかる荒い息が甘く溶け合う。
「とにかく、テントへいくぞ!」
オリバー様の抱え上げられたまま、その腕に縋り付く。
せりあがって来る快感と甘い香りと心臓の音が、ぐちゃぐちゃに混じり合って……。
空気が、音を失う。
ピンクに満たされた視界で、オリバー様の緑瞳が揺らめく。
守らせて欲しいと言った手が、僕を強く抱きしめる。
そして、意識が霞んでいった。
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