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*14話 こんな……ことが
しおりを挟む熱い。
熱くて、そして、気持ちがいい。
「あ、あんっ、は、もっと……ああ、きもち、ぃぃ……っ」
自分の物とは思えない甘い声が吐息の隙間に零れているのが聞こえる。
体の中を熱い塊が行き来するたび、胎の奥が喜ぶように締まり、とてつもない快感が電流のように全身を駆け巡った。
「あっ、もっと、ねぇ……ああっ」
「アッシュ。ああ、いいぞ。いくらでもやろう」
オリバー様の、聞いたことのない艶っぽい声が耳元で震え、そこでようやく意識がはっきりしてきた。
「え、な……ああんっ!」
「アッシュ、正気に戻ったか?」
瞳に正気の色を見出したオリバー様が、小さく安堵の息を吐きだした。
その刺激にすら体が震える。
「はっ、あ、……ぅあっ、な、なに……ああ!」
僕の素足を抱えたオリバー様が、僕の上で腰を振っている……。
オリバー様も、僕も、全裸……。
これはつまり……?
「あ、あんっ!」
考えている最中に腰を深く突き入れられて、信じられないような甘い声が零れ落ちた。
「とまらな、もっと、もっとくださっ……あんっ」
催淫ガスのせいだ。体が疼いて止まらない。
快感が治まるまで満足させるしか解除方法がないのが、エンビキノコの恐ろしいところ。
本来なら一度か二度の自慰で済む。
だが、僕が浴びたのは魔獣すら狂わす高濃度なもので、いつ効果が終わるか分からない。
身を持って知った恐ろしいほどの快楽への飢えは、一人きりではとても昇華しきれなかった。
申し訳ないと思うと同時に、相手がオリバー様でよかった、と心のどこかで思ってしまった。
「も、こんなっ、奥まで……ひんっ」
「これは治療。医療行為だから大丈夫だ。アッシュ」
その声は、どこまでも自分に言い聞かせているみたいで、切実だった。
「うん……、うんっ……」
誠実な声色に、少しだけ肩の力が抜ける。
それでも、これはただの医療行為じゃないと、どこかでちゃんと分かっていた。
けれど、治療だと言ってくれるオリバー様の言葉に安堵を覚える。
「大丈夫だ。アッシュ」
「……うんっ」
深く抱きしめられて、ざわついた心が少しだけ落ち着く。
けれど、体の熱は引いて行かない。
「きもち、ああ……あっ、たりな、もっと……」
快感が欲しくてどうにもならない。
これが催淫ガスの効果なのだとしたらとんでもない。
交わりたくてたまらない。
一度なんかじゃ全然足りない。
胎が精で満たされるまで。空っぽになるまで止まれない。
「……苦しくないか? つらかったらすぐやめる」
「や、やめないで……。もっと、してください……」
「ああ、君が落ち着くまでするから。安心して身を委ねろ」
「……はい」
オリバー様が触れる場所全てが気持ちいい。
首筋にキスをされ、胸を揉まれながら腰を打ち込まれると、触れられてもいないのに精液が吐き出される。
「あ、ああっ……!」
「く……イクっ……っ」
最奥まで打ち込まれ、あまりの気持ちよさに身を捩ると、胎の奥で熱が広がった。
びくびくと震え、絞り出すようにゆっくり擦られ、また欲しくなる。
萎えていく熱が寂しくて一生懸命締め付けていたら、また力を取り戻し内部を埋めてくれた。
「……もっと、ください」
「うっ、案外おてんばだな、アッシュ……」
嬉しくて微笑むと、オリバー様が髪をかきあげながら苦笑をしていて、その顔が壮絶に色っぽかった。
心臓が跳ねて、無意識にまた中に入っている熱を締め付ける。
「そんなに欲しいのか?」
「すごく、ほしいです……。もっと……」
ねだるように背中に腕を回すと、オリバー様は幸せそうに微笑んだ。
また心臓が跳ねる。
「へんきょうはくさま……」
「オリバーだ、アッシュ」
「……」
「呼んでくれ、アッシュ。オリバーと」
「……おりばー、さま」
「ん、アッシュ。愛している」
「……っ!」
唇が重なり、激しく腰を振り出した。
「あっ、あっ、きもち、いい! いい、です、おりばーさまぁ」
「アッシュ、アッシュ……」
手を重ね、指を絡め合い。
僕たちは体の熱が消えるまで体を重ねた。
夜明けの光が白く冷たい。
現実の温度が、やけに遠く感じた。
薄い布越しに朝日が差し込み、あの長い夜が本当に現実だったのそれとも夢なのか分からなくなった。
ぼんやりと起き上がると毛布が落ちて現れた肌に驚く。
「……うわぁ、すごい跡」
体中に赤い跡と歯形。
指でなぞると、昨夜の激しいキスと噛み跡の熱が蘇り、頰が火照った。
「キスマークって、こんなに残るんだ」
まるで病気みたいな斑点が、なんだか気恥ずかしい。
こんなものがあるなら、あれは夢でも幻でもなかった。
「……やってしまったぁ」
両手で顔を覆って顔を伏せると、解けてしまった銀髪が零れて来る。
深くため息を吐くと、体の奥からじんわり続く熱が、昨夜の出来事を嫌でも思い出させた。
催淫ガスのせいとはいえ。
理性が吹き飛んでいたとはいえ。
それでも、オリバー様を欲しがったのは、紛れもなく僕自身だった。
あんなオリバー様を知らなければよかった。
思い出すほど、心臓が痛くて、どうにもならない。
それでも、現実は容赦なく押し寄せてくる。
「仕事の準備……しないと」
仕事だ。僕は錬金術師で、今は任務の途中なんだ。
僕にはやるべきことがある。
そう頭では分かっているのに、体はベッドの上で鉛のように重い。
残された熱が、まるで鎖みたいに僕を縛って離さない。
後悔の波に押し流されそうになりながら、妊娠条件を指折り確認していく。
男同士でも子供を作れるけれど、子種を入れる前に子宮を作らなくてはならない。
また作ったばかりでそれはすぐには機能しない。
だから今回は、妊娠の心配はない。
「はぁ~~~~、よかった。いや、全然よくないけど……よかった」
婚約を解消してほしいと願っている相手の子を身籠っていたら、本当にどうしようもなくなっていただろう。
僕は自分のお腹を押さえ、安堵の深い息を吐きだす。
「ベッドをいつまでも占領しているわけにはいかない……」
のに、全然体が言うことをきいてくれない。
ここは他のテントより一回り大きいオリバー様専用テントだ。
寝袋で寝ている僕らとは違い、きちんとした簡易ベッドが備え付けられている。
乱れたベッドには僕一人だけで、着替えも見当たらない。
出て行くならこの毛布を巻き付けて行かなきゃいけないんだけど、さすがにそれは恥ずかしい。
着替えは欲しいが誰かを呼んでこの体を見られるのも嫌だ。
「……詰んだ」
はぁ、とまた深いため息を吐いた。
催淫ガスの影響は一度で抜けるはず。
なのに、昨夜はいくら抱き合っても熱が消えなかった。
ガスの残滓なのか、まだ胎の奥が疼いている。
今もなお快楽が欲しいとくすぶる熱が怖くて、そっと自分の体を抱きしめる。
「勘弁してくれ」
もし、次の波がきたら一人で乗り切りたい。
誰の手も借りたくない。
だって……。
またあんな、乱れて、……抱かれるなんて。
「恥ずかしいだろ!?」
毛布を被って叫ぶと、「何が恥ずかしいんだ?」と低い声が返ってくる。
「っ!?」
慌てて振り返ると、テントの入口でオリバー様がトレーを持って立っていた。
外の冷たい空気とともにおいしそうな香りが流れ込んだ。
温かいスープの匂いが、テント内に満ちる。
「起きたか?」
低く穏やかな声が、体の奥にくすぶる熱を逆撫でした。
「はいっ! ご、ごめんなさい!」
飛び上がるように返事をしてベッドから降りようとしたが、足がもつれてその場に崩れ落ちた。
ベッドから降りることもできないなんて、情けない。
オリバー様はため息をつき、トレーを傍の机に置くと、そっと毛布を直して肩を包んでくれた。
「体を冷やすな。まだ休んでいろ」
「いえ、もう平気です。あの、調査の続きを……!」
「ダメだ。君は今日は休め」
「でも……」
意を決してベッドから降りようと床に足をつくと、力が入らずふらりと身体が傾く。
強い腕が支えてくれて、気づけば再び寝台に戻されていた。
「すみません……」
「そう謝るな。君が庇ってくれたから俺は無事でいられた。ありがとう」
礼を言ってくれるオリバー様をそっと見つめる。
もし、あの時僕じゃなくてオリバー様があのガスを浴びたら。
相手は誰だったんだろう?
ふとそんなことを思い、酷く胸が騒めいて慌てて意識を戻した。
「でも、迂闊過ぎました。もっと距離を取っていれば……」
「この森では全てが想定外なんだ。仕方がない。だから、謝るな。いいな」
「わかりました」
落ち込む僕の頭をオリバー様は慰めるように撫でてくれた。
優しい手付きに胸が疼く。
このぞわぞわと座りの悪い感情はなんなのか分からない。
「……はい」
子供をあやすような優しい手つき。それがなんだか痛い。
考え込むように黙った僕に、オリバー様は軽くため息をついた。
「キノコや周囲の調査は、既に進めている。君は安心して休んでいい」
「どんな状況なんですか?」
僕が問うと、オリバー様は苦笑を浮かべた。
「君は、本当に仕事のことしか頭にないんだな」
……今、それ以外を考えると、自分が壊れそうだからだ。
言葉にできず、曖昧に笑った。
「根の部分がまだ枯れていない。新たに薬剤を散布してもう一日ここで待つことになる」
「……そうですか」
胸を撫で下ろす。任務が順調ならそれでいい。
それだけでいい、はずなのに。
「アッシュ」
名を呼ぶ声に顔を上げる。
優しい緑色の瞳がまっすぐ僕を映している。
その瞳の奥に昨夜と同じ熱が見えた気がして、息を呑んだ。
「な、なんですか……?」
思わず身構えると、オリバー様は伸ばした手を戻した。
「……いや、何でもない。もう少し休んでいろ」
オリバー様は視線を逸らしたが、耳まで赤い。
その仕草につられて、僕の胸も不規則な鼓動を刻み始め、慌てて目を伏せた。
心がざわつく。
なぜか体の奥がまた疼きだした。
それが催淫ガスの残りか、それとも別の熱か、僕には区別がつかなかった。
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