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16話 いや、だって、なんで?
エンビキノコの消滅を確認した僕らは、足早に深部を離れた。
いつもの、緑が明るい平和な領域へ戻ると一気に空気が変わった。
行きとは違い、調査の必要がない分、行軍はサクサク進む。
奥へ進むときにピクニックと称したゾーンはもう緊張する必要もない。
「やっと家のベッドだ!」
「肉! 肉を食うぞ」
気を緩めることはないが、騎士たちも帰宅を前に口々に喜びを叫んでいる。
そんな中、僕だけが緊張を強いられていた。
「あの……」
僕の腰にはオリバー様の手が添えられていて、強制的に寄り添わされている。
「危ないぞ、アッシュ足元に石がある。ああ倒木は俺が抱えるから、腕を回して」
「あの、辺境伯様」
「オリバー」
「僕、大丈夫なので……」
「ほら、もっとこっちに寄って?」
「辺境伯様」
「抱えるからね?」
柔らかい声色の圧が怖い!
これ、もう職権乱用の域じゃない!?
この距離感、どう見てもおかしい。
周りからの視線が痛い。絶対、誤解されてる。
誤解というよりもう察されてる。確実に何かあったって思われてる。
あれは治療ってオリバー様言ったじゃないですか。
「あの、辺境伯様!」
「オリバー」
それ以外には応えないという確固たる意志を感じる。
「……オリバー様」
「なんだい、アッシュ」
嬉しそうに微笑み、僕の腰を抱き寄せた。
「この距離感なんなんですか!」
返事がない代わりに、穏やかな笑み。
……余裕のある笑顔が、こんなにも恐ろしいとは。
オリバー様のテントで休ませてもらったあの日。
夜にまた熱がぶり返してまた、二回目を……やっちゃったんだよね。
今回はすぐおさまって出発できる程度で終われたんだけど。
意識がはっきりした状態で最後まで抱き合ったせいで、オリバー様の何かが振り切れてしまったらしい。
周辺に助けを求めても、騎士たちは視線を逸らすし、ナイア様は頭痛を堪えるように額を押さえるばかり。
クインとスレイは平民なのでオリバー様に何か言えるわけでもなく、こそこそと彼氏となった騎士の背中に隠れた。
お前ら、本当にリア充になってたのか……!
地面を転がりたい衝動を飲み込みつつ、歯ぎしりする。
そんな極限状態の僕の耳に、呑気な声が届いた。
「なんかあれだな。既視感あると思ったら初めての妊娠で奥さん守ってる旦那っぽい」
「確かに」
クイン、お前、口を開いたと思ったら碌なことを言わないな!
スレイ、納得するな。
周囲の騎士たちも、苦笑い交じりに「あ~なるほど」みたいな納得顔をしている。
うん、ほんとやめて。穴があったら入りたい。
「アッシュは……俺にとって、とても大切な人だからな」
甘い声が、耳の声で囁いてくる。
そんなことを公衆の面前で……!
背筋がぞわりと粟立ち、心臓が変なリズムを刻む。
本当に、どうしちゃったの、この人!?
仕事に私情を持ち込まないしっかりした人だったじゃないか……!
動揺しまくる僕に同情したのか、ナイア様がそっと近づいてきて耳打ちをした。
「想い人と抱き合えて舞い上がっておられるのです……」
その顔は「やれやれ」と言いたげだ。
ナイア様の生温い視線に、背筋がひやりと冷える。
……この方はつまり『全部』を把握済み!?
アレを、知っておられる!?
うわぁぁぁぁぁ。
そっとオリバー様を見ると、とろけるような微笑みが返ってきた。
「……ひぇ」
背中がぞわぞわする。
嫌じゃないけど、怖い。
いや、怖いけど嫌でもない?
どっちだ僕。
とにかく全く落ち着かない。
「アッシュ、今日も可愛いな」
破壊力抜群の低くて甘い声。
耳まで真っ赤になって羞恥が限界を迎え反射的に叫ぶ。
「クイン、スレイ! 幻惑解消剤出せ! 混乱解除薬でもいい! なんかもう状態異常を解除するもの全部持ってきて!」
「あははは、アッシュに必要そう」
「鎮静剤ならあるぞー?」
のんきに笑って圧縮バッグに手も入れないクインとスレイ。
「アッシュ、薬がいるのか? 具合が悪いなら俺が抱えて行こう」
心配そうにさらに体を寄せるオリバー様から必死に離れて叫ぶ。
「けっこうです!」
本当に、どうしてこうなった!?
皆は笑うばかりで穏やかな空気なのがまた解せない。
「僕、言いましたよね。婚約者にはなれないって!」
限界突破した僕はつい声を上げてしまった。
オリバー様はなんでもない顔で微笑む。
「よく考えたんだ。俺は君を妻に出来ればいいんだから形式にこだわる必要はないんだって」
そしてオリバー様は僕に向かって力説する。
全くもって君と婚約を解消するのは物凄く不本意で、嫌でしかないが、クロイツ男爵子息としてした婚約が嫌だと君が言うのなら。
実際にやるかどうかは置いておいて、解消に応じる気持ちだけはある。
本気で嫌だ。
抵抗できるなら最後まで抗う。
俺は解消なんて絶対したくない。
でもそれを君が望むなら頑張ってもいい。
そして仮に解消しても君を妻にすることは諦めないと妙にギラついた瞳で僕を見つめる。
理解が追いつかない。
そしてどれだけ婚約解消嫌なんですか。
「……は?」
「俺はどうしても君がいい。アッシュ、俺の妻になってくれ」
耳元で低く囁く甘い声に、僕の顔は火がついたように真っ赤になってしまった。
「婚約解消すっ飛ばしてきましたね!?」
解消してもいいって言葉はどこに行ったんですか。
会話の中のどこにそんな直通ルート存在しました?
羞恥と驚きで声が裏返る。
周囲の空気が妙に温かい。
クインとスレイが「やっぱりね」みたいな顔で見てる。
本当に、やめて。
落ち着け僕、冷静になれ。
あれは事故、ヤっちゃったけど治療のため!
相思相愛で結ばれたわけじゃない。
事故とはいえ、体を繋げたのがそこまで嬉しかったのか……。
結構可愛いところある……。って違う、そうじゃない!
僕まで染まってどうする。
深呼吸しろ、冷静になれ。
この惨事を止められるのは僕しかいない。
「辺境伯様」
「オリバー」
「……オリバー様、職務中です。風紀が乱れますので、お戯れはこの辺でおやめください」
腰に添えられていた手をそっと払い、距離を取る。
「そうか。確かにそうだな」
正気に戻ったか!?
「アッシュはいつも仕事に一生懸命で素敵だ」
戻ってない!
そして笑顔があまーい!
勘弁してくれ。
そんなつもりはないんだ。
「だが、ここではアッシュはその気になってくれなさそうだからな。戻って仕事を終えてからまた口説くことにしよう」
「どうして!?」
僕の心の叫びは、青い空に虚しく吸い込まれていく。
オリバー様の甘い笑みだけが全然消えてくれない。
本当に、どうしてこうなってるんだ……。
いつもの、緑が明るい平和な領域へ戻ると一気に空気が変わった。
行きとは違い、調査の必要がない分、行軍はサクサク進む。
奥へ進むときにピクニックと称したゾーンはもう緊張する必要もない。
「やっと家のベッドだ!」
「肉! 肉を食うぞ」
気を緩めることはないが、騎士たちも帰宅を前に口々に喜びを叫んでいる。
そんな中、僕だけが緊張を強いられていた。
「あの……」
僕の腰にはオリバー様の手が添えられていて、強制的に寄り添わされている。
「危ないぞ、アッシュ足元に石がある。ああ倒木は俺が抱えるから、腕を回して」
「あの、辺境伯様」
「オリバー」
「僕、大丈夫なので……」
「ほら、もっとこっちに寄って?」
「辺境伯様」
「抱えるからね?」
柔らかい声色の圧が怖い!
これ、もう職権乱用の域じゃない!?
この距離感、どう見てもおかしい。
周りからの視線が痛い。絶対、誤解されてる。
誤解というよりもう察されてる。確実に何かあったって思われてる。
あれは治療ってオリバー様言ったじゃないですか。
「あの、辺境伯様!」
「オリバー」
それ以外には応えないという確固たる意志を感じる。
「……オリバー様」
「なんだい、アッシュ」
嬉しそうに微笑み、僕の腰を抱き寄せた。
「この距離感なんなんですか!」
返事がない代わりに、穏やかな笑み。
……余裕のある笑顔が、こんなにも恐ろしいとは。
オリバー様のテントで休ませてもらったあの日。
夜にまた熱がぶり返してまた、二回目を……やっちゃったんだよね。
今回はすぐおさまって出発できる程度で終われたんだけど。
意識がはっきりした状態で最後まで抱き合ったせいで、オリバー様の何かが振り切れてしまったらしい。
周辺に助けを求めても、騎士たちは視線を逸らすし、ナイア様は頭痛を堪えるように額を押さえるばかり。
クインとスレイは平民なのでオリバー様に何か言えるわけでもなく、こそこそと彼氏となった騎士の背中に隠れた。
お前ら、本当にリア充になってたのか……!
地面を転がりたい衝動を飲み込みつつ、歯ぎしりする。
そんな極限状態の僕の耳に、呑気な声が届いた。
「なんかあれだな。既視感あると思ったら初めての妊娠で奥さん守ってる旦那っぽい」
「確かに」
クイン、お前、口を開いたと思ったら碌なことを言わないな!
スレイ、納得するな。
周囲の騎士たちも、苦笑い交じりに「あ~なるほど」みたいな納得顔をしている。
うん、ほんとやめて。穴があったら入りたい。
「アッシュは……俺にとって、とても大切な人だからな」
甘い声が、耳の声で囁いてくる。
そんなことを公衆の面前で……!
背筋がぞわりと粟立ち、心臓が変なリズムを刻む。
本当に、どうしちゃったの、この人!?
仕事に私情を持ち込まないしっかりした人だったじゃないか……!
動揺しまくる僕に同情したのか、ナイア様がそっと近づいてきて耳打ちをした。
「想い人と抱き合えて舞い上がっておられるのです……」
その顔は「やれやれ」と言いたげだ。
ナイア様の生温い視線に、背筋がひやりと冷える。
……この方はつまり『全部』を把握済み!?
アレを、知っておられる!?
うわぁぁぁぁぁ。
そっとオリバー様を見ると、とろけるような微笑みが返ってきた。
「……ひぇ」
背中がぞわぞわする。
嫌じゃないけど、怖い。
いや、怖いけど嫌でもない?
どっちだ僕。
とにかく全く落ち着かない。
「アッシュ、今日も可愛いな」
破壊力抜群の低くて甘い声。
耳まで真っ赤になって羞恥が限界を迎え反射的に叫ぶ。
「クイン、スレイ! 幻惑解消剤出せ! 混乱解除薬でもいい! なんかもう状態異常を解除するもの全部持ってきて!」
「あははは、アッシュに必要そう」
「鎮静剤ならあるぞー?」
のんきに笑って圧縮バッグに手も入れないクインとスレイ。
「アッシュ、薬がいるのか? 具合が悪いなら俺が抱えて行こう」
心配そうにさらに体を寄せるオリバー様から必死に離れて叫ぶ。
「けっこうです!」
本当に、どうしてこうなった!?
皆は笑うばかりで穏やかな空気なのがまた解せない。
「僕、言いましたよね。婚約者にはなれないって!」
限界突破した僕はつい声を上げてしまった。
オリバー様はなんでもない顔で微笑む。
「よく考えたんだ。俺は君を妻に出来ればいいんだから形式にこだわる必要はないんだって」
そしてオリバー様は僕に向かって力説する。
全くもって君と婚約を解消するのは物凄く不本意で、嫌でしかないが、クロイツ男爵子息としてした婚約が嫌だと君が言うのなら。
実際にやるかどうかは置いておいて、解消に応じる気持ちだけはある。
本気で嫌だ。
抵抗できるなら最後まで抗う。
俺は解消なんて絶対したくない。
でもそれを君が望むなら頑張ってもいい。
そして仮に解消しても君を妻にすることは諦めないと妙にギラついた瞳で僕を見つめる。
理解が追いつかない。
そしてどれだけ婚約解消嫌なんですか。
「……は?」
「俺はどうしても君がいい。アッシュ、俺の妻になってくれ」
耳元で低く囁く甘い声に、僕の顔は火がついたように真っ赤になってしまった。
「婚約解消すっ飛ばしてきましたね!?」
解消してもいいって言葉はどこに行ったんですか。
会話の中のどこにそんな直通ルート存在しました?
羞恥と驚きで声が裏返る。
周囲の空気が妙に温かい。
クインとスレイが「やっぱりね」みたいな顔で見てる。
本当に、やめて。
落ち着け僕、冷静になれ。
あれは事故、ヤっちゃったけど治療のため!
相思相愛で結ばれたわけじゃない。
事故とはいえ、体を繋げたのがそこまで嬉しかったのか……。
結構可愛いところある……。って違う、そうじゃない!
僕まで染まってどうする。
深呼吸しろ、冷静になれ。
この惨事を止められるのは僕しかいない。
「辺境伯様」
「オリバー」
「……オリバー様、職務中です。風紀が乱れますので、お戯れはこの辺でおやめください」
腰に添えられていた手をそっと払い、距離を取る。
「そうか。確かにそうだな」
正気に戻ったか!?
「アッシュはいつも仕事に一生懸命で素敵だ」
戻ってない!
そして笑顔があまーい!
勘弁してくれ。
そんなつもりはないんだ。
「だが、ここではアッシュはその気になってくれなさそうだからな。戻って仕事を終えてからまた口説くことにしよう」
「どうして!?」
僕の心の叫びは、青い空に虚しく吸い込まれていく。
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本当に、どうしてこうなってるんだ……。
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