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24話 奪還
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未遂ですが凌辱シーンがあります。苦手な方ご注意。
ずっと頭が痛い。
どれくらい眠らされていたのか分からない。
頭が痛い。腕も足も、自分のものじゃないみたいだ。
視界は暗く、呼吸のたびに薬の臭いが喉を刺した。
時々、口に流し込まれる液体は食べ物なのか、薬なのかも分からない。
ただ、飲むたびに頭の中のざわめきが濃くなって、自分の存在感があやふやになっていく。
ずっと、同じ声が頭の奥で鳴り続けている。
――薬を作れ。
――伯父に従え。
命令が呪詛のように何度も繰り返される。
それを、僕はひたすら跳ね除け続けていた。
たとえ死んでも。
たとえここで朽ちても。
錬金術師としての矜持だけは、渡さない。
薬は、人を救うためのものだ。
人を傷つけ、金を生み出す道具になんて、絶対にしない。
だから、耐える。
助けは来る。必ず来る。
クインも、スレイも。
仲間の錬金術師たちも、クロイツへ向かっているはずだ。
みんなが来てくれるのに、僕だけが先に諦めるなんてできない。
――だから、それまで。
それまで、絶対に折れない。
「強情だな」
「まだ持つのか?」
頭の中に鳴り響くのとは違う声が聞こえ、無理やり目をこじ開ければ、ぼやけた視界に靴だけが見えた。
どうやら僕は床に転がされているみたいだ。
もう手足は縛られておらず自由だが、あいかわらず自分の意思では動かない。
「ギリギリに調整してはあるがな。旦那が焦れている。そろそろ薬を強くせねば」
「強くしたらどうなるんだ?」
「生きていれば廃人。駄目なら死ぬ」
淡々と告げられる結末に、背筋が冷たくなる。
「惜しいな。この顔と体なら娼館に売れば高くつくだろうに」
「愚かものめ。これだから無教養な人間は嫌いだ。その男が生み出す薬は宝石に匹敵する」
「そりゃすげぇ」
思考は上手く動かないのに、下卑た視線が酷く神経を逆なでしてくる。
「はぁ……はぁ……」
喉が乾く。
悪態のひとつでもついてやりたいのに、口から漏れるのは掠れた息だけだった。
言葉も、今の僕には贅沢すぎる。
「どうせ死ぬなら一回くらい……」
「悪趣味だな」
悪い予感に頭痛が酷くなる。
「なぁ、いいだろ? なんかこう、えれぇ色っぽいし。ハハ、興奮してきた」
「まぁ、少しくらい屈辱を与えた方が折れやすいかもな。壊さん程度にしろ」
「へい! やった!」
会話の内容に体が総毛立った。
足音がこちらへ近づいてくる。
錬金術師の気配は、部屋の外へと遠ざかった。
「アレ、見ていかないんで?」
「本当に趣味が悪いな。私はそういったものに興味はない。もしソレが折れたら呼べ」
「へへへ、りょーかいです」
「落ちたらその男の頭の中にあるレシピは全て私の物だ」
引きつった笑いをしながら足音が遠ざかる。
ドアが閉まる音がやけに大きく響いた。
室内には、僕と声も知らない男が一人。
「悪く思うなよ、別嬪さん。あんたがエロすぎるのがいけねぇんだ」
冗談めかした声が最悪に気持ち悪い。
頭が痛くて、目を開けても視界は滲んで何もはっきり見えない。
少しでも遠ざかりたいのに、体は相変わらず動いてくれない。
男の手が、僕の体を無理やり仰向けにした。
無骨な手が服を破るように剥ぐと肌が冷たい外気に触れた。
野卑な視線が体を這いまわるのに怖気が走る。
「うひょ、きれいな肌してるな」
荒れた手が、遠慮なく全身を撫で回す。
ぞわりと鳥肌が立ち、吐き気がこみあげた。
やめろ。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……!
乾ききっているはずなのに、目頭が熱くなった。
「……っ、や……やめっ、ろっ!」
喉の奥から、どうにか声を絞り出す。
「へぇ、いいな。興奮する」
気力を振り絞り睨み拒んだのに。
逆に男を喜ばせたと悟り背筋が凍る。
男が僕のベルトの金具を外す音がする。
そして衣擦れの音がした。
こんなやつに、僕の体を触らせたくない。
こんなやつに、何ひとつ渡したくない。
心の底から込み上げたのは、恐怖と、激しい嫌悪だった。
「おりば……さま……」
無意識に名前を呼んでいた。
遠くの方で、何かが激しくぶつかるような音がした。
外のざわめきが一瞬だけ耳に届く。
けれど、それよりも男が迫って来る恐怖の方が強くて、すぐに意識の外へ押しやられた。
オリバー様じゃなきゃ嫌だ。
強くそう願った。
その時。
ドアが蹴り破られる音がした。
「アッシュ!!」
裂くような叫び声が、空気を震わせる。
こんな都合のいい幻覚があるものかと思いながらも、縋るようにその声を追った。
風の塊がぶつかるような轟音。
次の瞬間、壁に叩きつけられた男が崩れ落ちた。
「アッシュ!!」
その声が現実を取り戻した。
「よかった……アッシュ! アッシュ……!」
抱き寄せられた。
懐かしい匂いとぬくもり。
掠れた声で会いたいと願っていた人の名前を呼んだ。
「無事、とは言い難いが……とにかく、生きていてくれてよかった」
震えた息と共に降りてくる声。
そっと頬に優しく触れる大きな手。
それほど長く離れていたわけじゃないのに温もりと匂いが懐かしい。
強い腕に抱きしめられると、凍っていた体に血液が流れ出すような感覚がした。
日の光のような温かい金色の髪。
薬草畑を映すような美しい緑の瞳。
何度も会いたいと望んだ人が目の前にいる。
「おりばーさま……?」
「もう大丈夫だ。よく、頑張った」
耳元でそう囁かれ、張りつめていた何かがぷつりと切れた気がした。
全身にマントを巻き付けられる。
その布の温かさに包まれながら、複数の足音が部屋に入ってくる気配を感じた。
クインの切羽詰まった叫び。スレイの心配する低い声。
みんなの顔はよく見えないのに、僕を心配しているのがわかる。
助けに来てくれた。
……もう大丈夫なんだ。
そう思った途端、急激に意識が遠のき始めた。
「アッシュ? アッシュ……!」
オリバー様の声が、遠くなる。
もっと聞いていたいのに。
この声にずっと包まれていたいのに。
伸ばそうとした指先に、もう力は残っていなかった。
黒い海に落ちていくように、意識が遠のき始める。
もう一度だけ、名前を呼びたかった。
ずっと頭が痛い。
どれくらい眠らされていたのか分からない。
頭が痛い。腕も足も、自分のものじゃないみたいだ。
視界は暗く、呼吸のたびに薬の臭いが喉を刺した。
時々、口に流し込まれる液体は食べ物なのか、薬なのかも分からない。
ただ、飲むたびに頭の中のざわめきが濃くなって、自分の存在感があやふやになっていく。
ずっと、同じ声が頭の奥で鳴り続けている。
――薬を作れ。
――伯父に従え。
命令が呪詛のように何度も繰り返される。
それを、僕はひたすら跳ね除け続けていた。
たとえ死んでも。
たとえここで朽ちても。
錬金術師としての矜持だけは、渡さない。
薬は、人を救うためのものだ。
人を傷つけ、金を生み出す道具になんて、絶対にしない。
だから、耐える。
助けは来る。必ず来る。
クインも、スレイも。
仲間の錬金術師たちも、クロイツへ向かっているはずだ。
みんなが来てくれるのに、僕だけが先に諦めるなんてできない。
――だから、それまで。
それまで、絶対に折れない。
「強情だな」
「まだ持つのか?」
頭の中に鳴り響くのとは違う声が聞こえ、無理やり目をこじ開ければ、ぼやけた視界に靴だけが見えた。
どうやら僕は床に転がされているみたいだ。
もう手足は縛られておらず自由だが、あいかわらず自分の意思では動かない。
「ギリギリに調整してはあるがな。旦那が焦れている。そろそろ薬を強くせねば」
「強くしたらどうなるんだ?」
「生きていれば廃人。駄目なら死ぬ」
淡々と告げられる結末に、背筋が冷たくなる。
「惜しいな。この顔と体なら娼館に売れば高くつくだろうに」
「愚かものめ。これだから無教養な人間は嫌いだ。その男が生み出す薬は宝石に匹敵する」
「そりゃすげぇ」
思考は上手く動かないのに、下卑た視線が酷く神経を逆なでしてくる。
「はぁ……はぁ……」
喉が乾く。
悪態のひとつでもついてやりたいのに、口から漏れるのは掠れた息だけだった。
言葉も、今の僕には贅沢すぎる。
「どうせ死ぬなら一回くらい……」
「悪趣味だな」
悪い予感に頭痛が酷くなる。
「なぁ、いいだろ? なんかこう、えれぇ色っぽいし。ハハ、興奮してきた」
「まぁ、少しくらい屈辱を与えた方が折れやすいかもな。壊さん程度にしろ」
「へい! やった!」
会話の内容に体が総毛立った。
足音がこちらへ近づいてくる。
錬金術師の気配は、部屋の外へと遠ざかった。
「アレ、見ていかないんで?」
「本当に趣味が悪いな。私はそういったものに興味はない。もしソレが折れたら呼べ」
「へへへ、りょーかいです」
「落ちたらその男の頭の中にあるレシピは全て私の物だ」
引きつった笑いをしながら足音が遠ざかる。
ドアが閉まる音がやけに大きく響いた。
室内には、僕と声も知らない男が一人。
「悪く思うなよ、別嬪さん。あんたがエロすぎるのがいけねぇんだ」
冗談めかした声が最悪に気持ち悪い。
頭が痛くて、目を開けても視界は滲んで何もはっきり見えない。
少しでも遠ざかりたいのに、体は相変わらず動いてくれない。
男の手が、僕の体を無理やり仰向けにした。
無骨な手が服を破るように剥ぐと肌が冷たい外気に触れた。
野卑な視線が体を這いまわるのに怖気が走る。
「うひょ、きれいな肌してるな」
荒れた手が、遠慮なく全身を撫で回す。
ぞわりと鳥肌が立ち、吐き気がこみあげた。
やめろ。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……!
乾ききっているはずなのに、目頭が熱くなった。
「……っ、や……やめっ、ろっ!」
喉の奥から、どうにか声を絞り出す。
「へぇ、いいな。興奮する」
気力を振り絞り睨み拒んだのに。
逆に男を喜ばせたと悟り背筋が凍る。
男が僕のベルトの金具を外す音がする。
そして衣擦れの音がした。
こんなやつに、僕の体を触らせたくない。
こんなやつに、何ひとつ渡したくない。
心の底から込み上げたのは、恐怖と、激しい嫌悪だった。
「おりば……さま……」
無意識に名前を呼んでいた。
遠くの方で、何かが激しくぶつかるような音がした。
外のざわめきが一瞬だけ耳に届く。
けれど、それよりも男が迫って来る恐怖の方が強くて、すぐに意識の外へ押しやられた。
オリバー様じゃなきゃ嫌だ。
強くそう願った。
その時。
ドアが蹴り破られる音がした。
「アッシュ!!」
裂くような叫び声が、空気を震わせる。
こんな都合のいい幻覚があるものかと思いながらも、縋るようにその声を追った。
風の塊がぶつかるような轟音。
次の瞬間、壁に叩きつけられた男が崩れ落ちた。
「アッシュ!!」
その声が現実を取り戻した。
「よかった……アッシュ! アッシュ……!」
抱き寄せられた。
懐かしい匂いとぬくもり。
掠れた声で会いたいと願っていた人の名前を呼んだ。
「無事、とは言い難いが……とにかく、生きていてくれてよかった」
震えた息と共に降りてくる声。
そっと頬に優しく触れる大きな手。
それほど長く離れていたわけじゃないのに温もりと匂いが懐かしい。
強い腕に抱きしめられると、凍っていた体に血液が流れ出すような感覚がした。
日の光のような温かい金色の髪。
薬草畑を映すような美しい緑の瞳。
何度も会いたいと望んだ人が目の前にいる。
「おりばーさま……?」
「もう大丈夫だ。よく、頑張った」
耳元でそう囁かれ、張りつめていた何かがぷつりと切れた気がした。
全身にマントを巻き付けられる。
その布の温かさに包まれながら、複数の足音が部屋に入ってくる気配を感じた。
クインの切羽詰まった叫び。スレイの心配する低い声。
みんなの顔はよく見えないのに、僕を心配しているのがわかる。
助けに来てくれた。
……もう大丈夫なんだ。
そう思った途端、急激に意識が遠のき始めた。
「アッシュ? アッシュ……!」
オリバー様の声が、遠くなる。
もっと聞いていたいのに。
この声にずっと包まれていたいのに。
伸ばそうとした指先に、もう力は残っていなかった。
黒い海に落ちていくように、意識が遠のき始める。
もう一度だけ、名前を呼びたかった。
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