監視対象なのに、元騎士の監視役からガチ溺愛されています。

中洲める

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1話 魔法大好き!

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「リグル! お前は、なんっっっど言えば理解するんだ!」
 俺の向かいに座っているギルド長の怒鳴り声と一緒に、分厚い机がびくりと震えた。
 耳がキーンとする。
 六年前、俺が冒険者登録した日から、何度この声を聞かされたかもう覚えていない。森を更地にしたり、湖を干上がらせたり。
 そのたびに、この執務室へ呼び出されてきた。

 まだ四十歳だって言ってたのに、後ろで一つに縛った髪はもう全部白髪だ。
 十二歳でここに通い始めた頃は、ちゃんと茶色だったのに。……うん、苦労かけてる自覚はある。

「聞いて、いるのか!」
 さっきより一段高い怒鳴り声が響き、窓ガラスがびりりと震えた。
 俺はそっと防音魔法を張って、音量の軽減をした。
 繊細そうな魔法だが音を遮断しているわけではなく、真正面から魔力を放射して音を打ち消しているだけ。
 そしてその効果は自分を中心に半径五百メートル範囲に及んでいた。
 今ギルド周辺で急に音が聞こえづらくなっているが、許せ。
 本当は遮断したいけど、そうすると聞いているのかと耳を引っ張られて正座させられるから一応最後まで聞くことにしてる。

 だって、減給されたくない。

 そんなわけで絶賛聞いたふりをしているのだが、何かに気付いたギルド長は椅子から立ち上がり、俺の横までのしのしと歩いてきた。

 そしてじっと俺の襟足で揺れる髪を見つめて息を吸った。
「ばっかもん!」
「痛ぁ」
 怒声と同時に頭を叩かれる。
「また防音魔法を使っているな!?」
 く、防音魔法は風属性だから、俺の水色の短い髪が不自然に揺れているのでバレたみたいだ。
 さすがかつてS級に近いと言われた冒険者だ。足の怪我さえなければ今もなお現役だっただろう。

「きいてまーす! でも依頼通り西にある森奥のカリラ湖に住み着いたサーペントは倒したよ!」
 俺は痛む頭をさすりながら言い訳をする。

 巨大な湖は地下で海と繋がっていて、時々そこから凶悪な魔獣が侵入してくる。
 湖には漁をする人や、森の周辺で採取する人も来るから、危険すぎるってことで討伐指令が出た。
 ……でも中々受けてくれる冒険者がいないっていうんで、俺が倒したわけだけど。

「だから、あれほどやりすぎるなって言っただろう!? サーペントを倒すだけに湖を干上がらせる奴がいるか!」

 サーペントは本来、海に住む魚っぽいヘビみたいな魔獣で、足まで生えてて肺呼吸もできる。
 陸にも上がっては人も獣も丸呑みする、シャレにならないやつだ。

「ごめんって、氷魔法効かなくてさぁ。あいつすぐ水の中に潜っちゃうし、ちょっと、ちょーっとだけ脅すつもりで火魔法を……」
 
 ――いや、俺だって最初は穏便に凍らせてから倒すつもりだったんだよ。
 なのにあいつ、氷結無効で魔法を跳ね返してくるわ、水に潜るわで全然じっとしてない。
 じゃあ風でって思ったんだけど、鱗が無駄に硬くて通らないし、水中にいるから土魔法も効きが悪い。
 それで仕方なく火魔法に切り替えたんだけど、ちょっと燃やしても、すぐ湖に潜って消される。
 で、段々腹が立ってきて、風と炎の複合魔法「ファイアトルネード」をぶち込んだわけさー。
 
 サーペントはそれに囚われて、しっかり干物になった。そこまではよかった。
 問題は、ちょっと、ちょーっとだけね。威力が、強すぎたんだよね。俺の魔法が強すぎちゃったんだよねー。テヘ……。
 悪かったよ……。
 
 説明をする俺をギルド長がじっとりとした目で見てくるから、なんだか気まずくなってそっと視線を逸らした。
「すみませんでした」
 ようやく頭を下げると、今度は呆れたように大きなため息を吐きだした。
 そんなにため息をつくと、幸せが逃げちゃうぞ。
 なんて言ったらまたぶっ叩かれるから言わないけど。
「海底からの水路は塞がってないし、もうじき水も魚も帰って来るってぇ」
 ちょっとばかし生態系は変わるかもしれないけど、川から水も流れてくるから汽水湖に戻るはずだから。
 何年かかければ元に戻る、はず、たぶん……。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「大丈夫じゃない……」
 ギルド長は眉間を摘まむ。



「はー……。お前、自分の二つ名を知っているか?」
 聞かれて、俺は覚えている限りを口にする。
「混沌の破壊魔。紅蓮の爆心地、歩く災厄」
 指折り数えてみる。
「中々壮大だな!」
 うむ、歴史に名を遺す大魔法使いに相応しい。……意味はだいたい分かるけど、細かいニュアンスは気にしない方向で。
 やはり魔法使いたるもの、二つ名はあってしかるべき。

 なんて悦に入っていたら再び頭に衝撃が走った。

「痛っっ! また思いっきりぶったな!? 魔法理論が飛んだらどうするんだ」
 魔法ってのは強くて明確なイメージがすべてだ。
 『水を出す』だけでも、大気から水分を集めるのか、汚れた水から清水だけ取り出すのかで、組む式も属性も変わる。
 そういう細かい積み重ねが、俺のぶっ壊れ火力を支えてるんだぞ。

「三度の飯より魔法が好きなお前に限ってそれはないな」
 よく分かっていらっしゃる。というか、飛んできた拳が見えなかったぞ。
 恐ろしい人だな。正面から戦ったら魔法を発動する前に制圧される恐怖を感じる。
 これだから脳筋は嫌なんだ。
 ぶつぶつ文句を言っていると、めっちゃ睨まれた。
「大体、この程度でお前の魔法が弱くなるなら、俺が力の限り殴っている」
「……暴力反対」
 俺はあくまで魔法使いであって物理攻撃には弱いのだ。
 それも戦い方次第で克服は出来るけど、何かと世話になってるギルド長相手に使いたくはないし。

「お前が居てくれるお陰で被害が押さえられている事実はあるからな、これでも感謝はしている」
 やっぱり今日は褒めてくれる流れ……!
 そう思った瞬間、ギルド長の眉間のしわがさらに深くなった。
 うん、褒める顔じゃない。調子乗ってすみませんでした。

「ただ、それ以上に被害がでかすぎる!」
 ドンと執務机を拳で叩いた。

「特にA級に上がってからの被害はそろそろ俺でも庇いきれん」
 何をやったかお前の罪状を数えてみろと言われて、俺は指を折りながら思い出す。
「えーと、新しい入り江を作って、山を一個吹き飛ばして、湖を干上がらせて……。あ、森も半分伐採したっけ?」
 新しい入り江では魚がたくさん採れるようになったって言うし、山が無くなったところには新しい村が出来た。
 伐採した森には人が入れるようになってさらに奥の森へ入れるようになったって喜ばれてるって聞いたぞ?

 あれ、俺実は結構役に立ってる?
 そんなことを言い出した俺の頭に三度目の拳が飛んできた。
「痛いって」
「愛の鞭だと思っておけ。甘んじて受けろ。そもそもたまたまの結果論であって魔獣を倒すたびに地形を書き換えるような被害が出ていることが問題なんだ!」
「えー魔法はぶっぱしてなんぼでしょ。それに、俺、一度だって人は殺してないしぃ」
 それだけは、自分の中で決めている一線だ。
 ……まあ、生態系にはだいぶ、えげつない影響が出ちゃってるけど。ここは王都から飛竜に乗っても三日はかかる辺境のド田舎だし、たぶん誰も困らない……はず。
 また殴られてはたまらないので頭を押さえながら控えめに訴えかけてみる。

 悪びれない俺に、ギルド長のこめかみがぴくりと跳ねた。

「さすがにもう野放しは出来ん。お前を監視して止められる人間が必要だと判断した」
「そんなのいらないって」
「いーや、いる。これを断ったらお前の冒険者資格を剥奪する」
「うっそだろ!?」
 それだけは、それだけはやめてくれ! 冒険者は俺の天職なんだ。それを奪われるなど命を絶たれるに等しい!

 環境破壊は、ちょっと、うん、それは本当にごめんだけど。出来るだけ周辺住民にうまく活用してもらえるようにはしてるんだ。
 正直、壊しすぎてる自覚はある。それでも、この力でしか守れないものがあるって信じてる。

 危険な魔獣を倒すことで平和が生活ができると喜ぶみんなの顔を守りたい。
 自分の手でそれがやれる魔法使いとして、そして冒険者として生きていきたいんだ。


「だったらいうことを聞け。今後依頼はそいつとペアでなければ受けられん」
「えー!? おーぼーじゃん! 俺ソロがいいのに」
「やかましい! ひとつでも被害を出さずに依頼をこなしてから言え!」
「……ぐっ」
 そう言われるとぐうの音もでない。

「レオン、入ってこい」
「はい」
 ギルド長の声に応えるように、隣の部屋から剣士が入って来る。
 ロングブーツに黒いズボン、上から闇色のコートを羽織った長身の剣士だった。
 よく手入れされた長剣と盾が、実戦で場数を踏んできたことを物語っている。背筋は真っ直ぐ伸びていて、隙のない立ち方は剣士というより騎士そのものだ。
 整えられた柔らかそうな黒髪に紫の目。
 整った顔はほとんど表情を動かさないのに、こちらを値踏みする視線だけは冷たく刺さってくる。
 そのくせ睫毛だけやたら長いのが、なんか腹立つ。

 面のいい奴は、俺みたいな量産型モブ顔の敵でしかない。
 絶対気が合わなさそう。

「お前の監視役、レオンだ。うちのギルドでお前に対抗できそうな唯一の人物で、お前と違ってとても真っ当な男だ」
「げぇ」
 俺が思わずそう言うと、初めてそいつは眉を不快そうにあげた。
 

「話は聞いていた。命令違反や過剰な魔法使用を繰り返しているそうだな。規律は守るためにあるのだぞ」
「守るつもりはあるんだって。ちょっとやりすぎちゃうだけで。それに俺、犯罪者じゃないんだけど」
「少なくとも環境破壊の常習犯だ」
「ひどくない!? 実績だけ見たら英雄寄りじゃん!」
 
 ギルド長がこめかみを押さえる。
「お前が英雄ならこんなに苦労はしとらん」
「……ギルド長の言うとおりだ」
 淡々とした声なのに、わずかに口元だけが意地悪く吊り上がっている。勝ち誇っているのが丸分かりで、腹が立った。

 うん、俺絶対こいつと気が合わねー。
 
 俺の魔法への愛を止められるものなら止めてみやがれ。
 お手並み拝見と行こうじゃないか!







――――――

新連載。

ストックが無くなるまで毎日更新。

今日はもう一話夜に投稿します。
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