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2話 監視つきだって……。
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ギルドを追い出されるように出てきた俺の横に、ぴたりとレオンがついてくる。
さっきから言葉を全く交わさない。どこまで一緒に行くかわからんが俺が住んでいる安アパートはこの通りを右に曲がった先だ。
特に挨拶するような関係でもないと、無言で右へ曲がろうとしたんだが。
「おい、どこへ行く?」
左腕を引っ張られて、倒れかけた。
「っと、この程度でふらつくのか?」
「俺はか弱い魔法使い。脳筋のお前と一緒にしないで欲しい」
背中と後頭部にあたるのはがっしりとした筋肉。
見上げると頭一つ分高い位置にある整った顔が呆れたように俺を見下ろしている。
「力で対抗されたらどうするんだ?」
「そん時はやりようがあんだよ」
「今こうして掴まっているのにか?」
そう言いながら腹に腕を回してくるな。後ろから抱きしめられてるみてーじゃねぇか!
「暴れるな。倒れられると危ない」
「変なことをするからだ」
「俺が暴漢ならお前は簡単に掴まってるってことだぞ」
「お前は暴漢なのか? じゃあそれなりの対応すんぞ?」
「やってみせろ」
挑発するように笑うからカチンときた。
「はぁ? 本当にやっていいんだな、後で文句言うなよ?」
「できるものならな」
自信満々な言い草に腹が立った。
俺は全身に魔力を巡らせ、魔法発動のトリガーである言葉を発した。
「加速(アクセラレート)」
周辺五メートル四方に爆風が吹き荒れ、至近距離にいたレオンが吹き飛ばされる。
それでも、空中で体勢を立て直しているあたりはさすがだ。
本来この魔法は自分周辺だけに作用する風魔法なんだけどな。
俺が使うと軽い範囲攻撃になってしまうんだ。
「なっ……!」
「じゃあな」
だがこの隙に俺は逃げる! 驚いた顔をしているレオンに舌を出し、そのまま走り出した。
家に帰ってしまおう。さすがに部屋の中までは追ってこれまい。
魔法の加速を得て走る俺は、一応後ろを振り返る。
追ってきている気配はない。
「なんでぇ、ちょろいでやんの」
視線を前に戻し笑ったその時。
「まさか詠唱無しで魔法を発動すると思わなくて油断したぞ」
「……!? ひぇ」
真横から声がして、路地の壁に押し付けられた。
あ、壁ドンはやめてください。
せめてされるんじゃなくて、する方で頼む。
相手いないけど。
「俺の加速魔法に追いついてきたのか? どうやって」
「普通に走ったが?」
「化け物か!」
うっそだろ。一応人の目に追えない速度が出てるはずだぞ!?
「ギルド長が油断するなと言っていたが、なるほどな」
「手を繋ごうとするな。おい、引きずるな。どこに行く!?」
「今日から一緒に暮らすんだよ。お前は監視対象だからな」
「はぁ!? 聞いてねぇ」
「今言った」
俺の手を握ってずるずる引きずっていく。
このバカ力! ぜんっっぜん振りほどけねぇ。
その癖に痛いわけじゃない。
これは人体を把握したうえで逃げられないポイントを掴んでいるという筋力と技巧の合わせ技ってことか?
恐ろしい男だな。
「俺、部屋に荷物置きっぱなし! 大事なモンとかいっぱいあんだよ」
「もうギルド総出で俺の家に運び込んだぞ」
「いつ!?」
「お前がギルドにいる間に」
「くっそ、全員グルかぁぁぁ!」
「お前のアパートの大家は床が抜けるかと思ったと、感謝された」
「それは確かにすまんかった!」
買い漁った魔導書の量が多すぎて床が軋んでいたのは知っていた。
本を別の場所へ移すか、引っ越すかを迫られていたのは確かだ。
小さな路地を引きずられながら進み、やがて一軒家にたどり着く。
こじんまりとはしているが、それなりに新しい平屋。
広さもそこそこで、しっかりと広い庭もある。
鍛錬にでも使っているのか、庭の隅には木製のかかしがあるのが見えた。
「ここが今日からお前の家だ」
「お前、家持ちなの?」
「そうだ」
冒険者で家持ちはかなり高ランクな証。
なにせいつ死んでもおかしくない職業だ。家を売るにしても貸すにしてもリスクが大きい。
それにランクが低いと当然稼ぐ金額も安い。
家を買うほどの金は稼げないんだ。
俺? もちろん高給取りだ! ……うん、破壊した補填の金を払わなければ。
お陰で狭い賃貸暮らしだったわけだけど。
あのアパートは一階が食堂になっていて、飯には困らなかったからよかったんだ。
「なぁ、ここって俺とお前だけで暮らすの?」
「そうだが?」
「料理とかできねぇよ?」
掃除や洗濯は雑でも生きられるが、料理だけはどうにもならない。
大体、一人前の料理など作るより買う方が合理的だ。
というか一人なら干し肉齧れば十分だしな。
「俺が出来るから問題ない」
「へぇ……」
「さぁ。入れ」
やっと手を離してくれたと思ったら背中を思い切り押されて、家の中へ押し込まれた。
「そっちが俺の部屋、お前は向かい」
「荷物は本当にあるんだろうな?」
「見て来たらいい」
言われて俺はダッシュで示された部屋へ走る。
だって大事な魔法書がどうなったか知りたいだろ。
ドアを開ければ、俺のアパートの二倍はある広さの部屋にベッドや机。それから書棚が並べられていた。
前の部屋にあった家具の配置をなぞりつつ、ひとつひとつが少しだけ良いものになっている。
そして、生活に便利そうな家具までもが追加で設置されていた。
棚にはずらりと本棚が並び、本棚の前にはふかふかの絨毯が敷かれていて、俺がここで本を読むことが想定されているようにも見えた。
高給そうな机と、長時間座っても疲れなさそうな椅子。
机の上には筆記用具やノートまで。
それから今までの俺には必要なかったクローゼットまで。
でも、まずは何より本。
床に積むばかりだった本がしっかりと整頓されて本棚に並んでいた。
「おお、本が整理されている」
「本当に多いんだな」
「これでも吟味してるんだ。うわ、でもまだ空の本棚あるじゃん。これだけ空いてるなら我慢してたやつ買っても入れられる!」
久しぶりに見る下に埋もれていた魔法書を手に取って開いたら、懐かしくて閉じられなくなった。
絨毯に座り込んで本格的にページを追っていると、レオンが動く気配がする。
でも、それよりもう一回この本を読みたくて仕方がない。
この本は独特な魔法構築のイメージが書かれていて面白いんだ。
時々レオンに体ごと持ち上げられたり、足元にクッションを差し込まれたりしたけど、気にせず読み進める。
ページを捲っては、前に戻って読み返したり、じっくりと読み込んでいく。
そうやって三分の二ほど進んだところで、唐突に本が取り上げられた。
「あっ!」
「夕飯だ。来い」
「まだいいよ、それ読みたい」
手を伸ばしたけど本を遠ざけられた。
体を動かすと毛布が落ちてくる。
「なにこれ?」
足元には絨毯の上に、さらにふかふかのクッションが敷かれてた。
うっすら持ち上げられた記憶はあるけど、いつの間にこんなことになっていたんだ。
監視というよりこれじゃ過保護だ。
「床は冷えるからな」
「お、おう」
レオンがかけてくれたと?
実はいいやつなのか?
いいやつなら本を返してくれ。
もう一度本奪取チャレンジをしたが、あっさりと失敗して手を取られて立たされた。
外はいつの間にか暗くなっていて、部屋の明かりがつけられていたことに今気づく。
礼を言うべきか口ごもらせていると、握った俺の手首を確認するようにレオンがまじまじと見つめた。
「お前、まともな飯を食ったのいつだ?」
「……?」
はて、いつだったかな。
たまに腹が減って硬いパンとか干し肉とかかじった記憶はあるな。
あれはいつの記憶だ?
「考えるくらい前ってことか」
呆れたようにため息をつかれた。
「いや、だってサーペントの討伐行ってたし、その前は新しい魔法書買ったから読んでメモするのに忙しかったし」
あ、思い出した。
「一週間前の昼飯は露店で串焼き食った、痛っっ」
顔面に手刀が落ちてきた。
「これからは三食食わすぞ」
「えー」
「これもギルド長からの任務に含まれてるんだからな」
「まじかぁ」
「ったく、A級冒険者がなんでこんなにガリガリなんだよ。軽すぎだろ」
ひょいと猫の子を持ち上げるように抱えあげられた。
「やめろ、ばか!」
「暴れると落ちるぞ」
「ぐっ……」
「数少ない上級ランクの冒険者が健康不良で任務失敗とか洒落にならんぞ」
「……」
正論で殴るな。何も言い返せねぇ。
食卓の椅子に下ろされると、目の前にあるシチューの香りに食欲が沸く。
ぐぅ。
腹が鳴るのは久しぶりかもしれない。
「コカシチューだ。鳥肉と根菜のミルク煮だな。たくさんあるから好きなだけ食え」
コカは鳥の魔獣で鶏肉と似た味がする。野生なだけあって弾力はあるが、味が濃くておいしいんだ。
実は俺の好物でもある。
湯気からはおいしそうな匂いが立ち込めていて、我慢が出来なくなってスプーンを手に取って頷く。
「うん」
具のたっぷり入ったシチューなんていつぶりだ?
孤児院ではいつも豆の塩スープだったし。
スプーンで白いとろりとしたスープをすくって口に入れる。
「うっま……」
野菜と肉のうまみが溶け込んだミルクベースのシチューは、程よい塩味で腹にしみていく。
「そりゃよかった」
顔を上げればレオンが肘をついてじっと見つめていたことに気付く。
「見てんな。お前も食え」
「言われなくても食うよ」
そういえば、誰かと飯を食うの久しぶりだな。
温かいもので腹が満たされ、ソファで食後のお茶とお菓子を貰ってぼんやりしていた俺はその日、この世界に来て初めて本を読んでいる時以外で寝落ちをした。
誰かの腕の中でゆらゆらと揺られる感覚が気持ちよくて、触れる温かさが心地よくて、無意識にすり寄った。
ギルドを追い出されるように出てきた俺の横に、ぴたりとレオンがついてくる。
さっきから言葉を全く交わさない。どこまで一緒に行くかわからんが俺が住んでいる安アパートはこの通りを右に曲がった先だ。
特に挨拶するような関係でもないと、無言で右へ曲がろうとしたんだが。
「おい、どこへ行く?」
左腕を引っ張られて、倒れかけた。
「っと、この程度でふらつくのか?」
「俺はか弱い魔法使い。脳筋のお前と一緒にしないで欲しい」
背中と後頭部にあたるのはがっしりとした筋肉。
見上げると頭一つ分高い位置にある整った顔が呆れたように俺を見下ろしている。
「力で対抗されたらどうするんだ?」
「そん時はやりようがあんだよ」
「今こうして掴まっているのにか?」
そう言いながら腹に腕を回してくるな。後ろから抱きしめられてるみてーじゃねぇか!
「暴れるな。倒れられると危ない」
「変なことをするからだ」
「俺が暴漢ならお前は簡単に掴まってるってことだぞ」
「お前は暴漢なのか? じゃあそれなりの対応すんぞ?」
「やってみせろ」
挑発するように笑うからカチンときた。
「はぁ? 本当にやっていいんだな、後で文句言うなよ?」
「できるものならな」
自信満々な言い草に腹が立った。
俺は全身に魔力を巡らせ、魔法発動のトリガーである言葉を発した。
「加速(アクセラレート)」
周辺五メートル四方に爆風が吹き荒れ、至近距離にいたレオンが吹き飛ばされる。
それでも、空中で体勢を立て直しているあたりはさすがだ。
本来この魔法は自分周辺だけに作用する風魔法なんだけどな。
俺が使うと軽い範囲攻撃になってしまうんだ。
「なっ……!」
「じゃあな」
だがこの隙に俺は逃げる! 驚いた顔をしているレオンに舌を出し、そのまま走り出した。
家に帰ってしまおう。さすがに部屋の中までは追ってこれまい。
魔法の加速を得て走る俺は、一応後ろを振り返る。
追ってきている気配はない。
「なんでぇ、ちょろいでやんの」
視線を前に戻し笑ったその時。
「まさか詠唱無しで魔法を発動すると思わなくて油断したぞ」
「……!? ひぇ」
真横から声がして、路地の壁に押し付けられた。
あ、壁ドンはやめてください。
せめてされるんじゃなくて、する方で頼む。
相手いないけど。
「俺の加速魔法に追いついてきたのか? どうやって」
「普通に走ったが?」
「化け物か!」
うっそだろ。一応人の目に追えない速度が出てるはずだぞ!?
「ギルド長が油断するなと言っていたが、なるほどな」
「手を繋ごうとするな。おい、引きずるな。どこに行く!?」
「今日から一緒に暮らすんだよ。お前は監視対象だからな」
「はぁ!? 聞いてねぇ」
「今言った」
俺の手を握ってずるずる引きずっていく。
このバカ力! ぜんっっぜん振りほどけねぇ。
その癖に痛いわけじゃない。
これは人体を把握したうえで逃げられないポイントを掴んでいるという筋力と技巧の合わせ技ってことか?
恐ろしい男だな。
「俺、部屋に荷物置きっぱなし! 大事なモンとかいっぱいあんだよ」
「もうギルド総出で俺の家に運び込んだぞ」
「いつ!?」
「お前がギルドにいる間に」
「くっそ、全員グルかぁぁぁ!」
「お前のアパートの大家は床が抜けるかと思ったと、感謝された」
「それは確かにすまんかった!」
買い漁った魔導書の量が多すぎて床が軋んでいたのは知っていた。
本を別の場所へ移すか、引っ越すかを迫られていたのは確かだ。
小さな路地を引きずられながら進み、やがて一軒家にたどり着く。
こじんまりとはしているが、それなりに新しい平屋。
広さもそこそこで、しっかりと広い庭もある。
鍛錬にでも使っているのか、庭の隅には木製のかかしがあるのが見えた。
「ここが今日からお前の家だ」
「お前、家持ちなの?」
「そうだ」
冒険者で家持ちはかなり高ランクな証。
なにせいつ死んでもおかしくない職業だ。家を売るにしても貸すにしてもリスクが大きい。
それにランクが低いと当然稼ぐ金額も安い。
家を買うほどの金は稼げないんだ。
俺? もちろん高給取りだ! ……うん、破壊した補填の金を払わなければ。
お陰で狭い賃貸暮らしだったわけだけど。
あのアパートは一階が食堂になっていて、飯には困らなかったからよかったんだ。
「なぁ、ここって俺とお前だけで暮らすの?」
「そうだが?」
「料理とかできねぇよ?」
掃除や洗濯は雑でも生きられるが、料理だけはどうにもならない。
大体、一人前の料理など作るより買う方が合理的だ。
というか一人なら干し肉齧れば十分だしな。
「俺が出来るから問題ない」
「へぇ……」
「さぁ。入れ」
やっと手を離してくれたと思ったら背中を思い切り押されて、家の中へ押し込まれた。
「そっちが俺の部屋、お前は向かい」
「荷物は本当にあるんだろうな?」
「見て来たらいい」
言われて俺はダッシュで示された部屋へ走る。
だって大事な魔法書がどうなったか知りたいだろ。
ドアを開ければ、俺のアパートの二倍はある広さの部屋にベッドや机。それから書棚が並べられていた。
前の部屋にあった家具の配置をなぞりつつ、ひとつひとつが少しだけ良いものになっている。
そして、生活に便利そうな家具までもが追加で設置されていた。
棚にはずらりと本棚が並び、本棚の前にはふかふかの絨毯が敷かれていて、俺がここで本を読むことが想定されているようにも見えた。
高給そうな机と、長時間座っても疲れなさそうな椅子。
机の上には筆記用具やノートまで。
それから今までの俺には必要なかったクローゼットまで。
でも、まずは何より本。
床に積むばかりだった本がしっかりと整頓されて本棚に並んでいた。
「おお、本が整理されている」
「本当に多いんだな」
「これでも吟味してるんだ。うわ、でもまだ空の本棚あるじゃん。これだけ空いてるなら我慢してたやつ買っても入れられる!」
久しぶりに見る下に埋もれていた魔法書を手に取って開いたら、懐かしくて閉じられなくなった。
絨毯に座り込んで本格的にページを追っていると、レオンが動く気配がする。
でも、それよりもう一回この本を読みたくて仕方がない。
この本は独特な魔法構築のイメージが書かれていて面白いんだ。
時々レオンに体ごと持ち上げられたり、足元にクッションを差し込まれたりしたけど、気にせず読み進める。
ページを捲っては、前に戻って読み返したり、じっくりと読み込んでいく。
そうやって三分の二ほど進んだところで、唐突に本が取り上げられた。
「あっ!」
「夕飯だ。来い」
「まだいいよ、それ読みたい」
手を伸ばしたけど本を遠ざけられた。
体を動かすと毛布が落ちてくる。
「なにこれ?」
足元には絨毯の上に、さらにふかふかのクッションが敷かれてた。
うっすら持ち上げられた記憶はあるけど、いつの間にこんなことになっていたんだ。
監視というよりこれじゃ過保護だ。
「床は冷えるからな」
「お、おう」
レオンがかけてくれたと?
実はいいやつなのか?
いいやつなら本を返してくれ。
もう一度本奪取チャレンジをしたが、あっさりと失敗して手を取られて立たされた。
外はいつの間にか暗くなっていて、部屋の明かりがつけられていたことに今気づく。
礼を言うべきか口ごもらせていると、握った俺の手首を確認するようにレオンがまじまじと見つめた。
「お前、まともな飯を食ったのいつだ?」
「……?」
はて、いつだったかな。
たまに腹が減って硬いパンとか干し肉とかかじった記憶はあるな。
あれはいつの記憶だ?
「考えるくらい前ってことか」
呆れたようにため息をつかれた。
「いや、だってサーペントの討伐行ってたし、その前は新しい魔法書買ったから読んでメモするのに忙しかったし」
あ、思い出した。
「一週間前の昼飯は露店で串焼き食った、痛っっ」
顔面に手刀が落ちてきた。
「これからは三食食わすぞ」
「えー」
「これもギルド長からの任務に含まれてるんだからな」
「まじかぁ」
「ったく、A級冒険者がなんでこんなにガリガリなんだよ。軽すぎだろ」
ひょいと猫の子を持ち上げるように抱えあげられた。
「やめろ、ばか!」
「暴れると落ちるぞ」
「ぐっ……」
「数少ない上級ランクの冒険者が健康不良で任務失敗とか洒落にならんぞ」
「……」
正論で殴るな。何も言い返せねぇ。
食卓の椅子に下ろされると、目の前にあるシチューの香りに食欲が沸く。
ぐぅ。
腹が鳴るのは久しぶりかもしれない。
「コカシチューだ。鳥肉と根菜のミルク煮だな。たくさんあるから好きなだけ食え」
コカは鳥の魔獣で鶏肉と似た味がする。野生なだけあって弾力はあるが、味が濃くておいしいんだ。
実は俺の好物でもある。
湯気からはおいしそうな匂いが立ち込めていて、我慢が出来なくなってスプーンを手に取って頷く。
「うん」
具のたっぷり入ったシチューなんていつぶりだ?
孤児院ではいつも豆の塩スープだったし。
スプーンで白いとろりとしたスープをすくって口に入れる。
「うっま……」
野菜と肉のうまみが溶け込んだミルクベースのシチューは、程よい塩味で腹にしみていく。
「そりゃよかった」
顔を上げればレオンが肘をついてじっと見つめていたことに気付く。
「見てんな。お前も食え」
「言われなくても食うよ」
そういえば、誰かと飯を食うの久しぶりだな。
温かいもので腹が満たされ、ソファで食後のお茶とお菓子を貰ってぼんやりしていた俺はその日、この世界に来て初めて本を読んでいる時以外で寝落ちをした。
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