【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

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13話 第五騎士団(1)

 俺たちは雑談をしながら馬に乗って二十分。
 教会からは距離にして六キロといったところか。
 第五騎士団がある南の城門を出た。

「わぁ……! 城壁の外に出るの、初めてだ」
 風が違う。澄んだ空気が体の隅々まで広がっていく気がした。
 周囲に人がいないせいか少しだけ温度が低く、草木の匂いが強い。
 遠くに見えるのは大きな森。いや、樹海と呼ぶ方が正しいかも。
 さらに奥には、雲で頂上が見えない山。
 南門からの街道がないのは、森へ向かう者は討伐に向かう第五騎士団しかいないからだ。

「あの遠くに見える柵の辺りって何があるんですか?」
「ああ、あれは対魔獣用のバリケードで、あそこが私たちの最終防衛ラインになるんです」
「なるほど、あれを超えられないようにするんですね」
「そうです。まあ、あそこまで攻め込まれた時点で勝ち目は薄いですが」
 あそこまで攻め込まれたことは一度もないですと、団長は誇らしげに語る。
 そうやって聞くとすごく生々しいな。
 風が木々の間を抜け、青緑の森が遠くでざわめいた。その奥にある気配は、静かでいてどこか不穏だった。

 俺の視線を追った団長が、森についての説明をしてくれる。
「この森は深く、まだ正確な生態が把握できていない。なにせたくさんの魔獣が棲んでいるからな」
「そうなんですか。じゃあ奥の方に何があるか誰も知らないんですね」
「一説によれば巨大な湖があるとか、あの山には神と崇められるドラゴンがいるとか言われている」
「へぇ」
 ドラゴンかぁ、きっと格好いいんだろうな。
 霧の向こうに、静かに眠る巨大な影を想像する。あんな力を間近で感じられたら──少し、見てみたいかも。
 ……なんて無邪気に思った瞬間、団長の声が現実へ引き戻した。

「ただ、その真実を確かめるには、命がいくつあっても足りない」

 団長の言葉に俺はこの間のサラマンダーが引き起こした惨事を思い出し、頷く。
 そういえば、俺魔獣のことほとんど知らない。
 今はお試し期間だけど関わることだってあるかもしれない。
 知っておいて損はないよね。

「よく出る魔獣ってどんなのがいますか?」
「後で資料室へ案内しよう。そこに記録がある。絵がある方がいいだろう?」

 団長がさらに解説を続けながら、門のそばに建つ第五騎士団本部の詰め所へと馬を進めた。

「はい、ありがとうございます」
 お礼を言いながら今度は新しく視界に広がった詰め所へ目を向けた。
 進む先には囲いの中で寛いだり走ったりしている軍馬がたくさん見えてくる。

「ここが厩舎だ。馬を置いて後は徒歩で案内しよう」
 先に降りた団長は、俺の体を支えて馬から下ろしてくれた。
「……っと」
 足元がふらついた俺を、黒馬が鼻でぐいっと支えてくれる。

 なんだこのイケ馬。穏やかで聡くて、性格まで団長に似てる。
 馬ってこんなことしてくれるんだ!?
 この子が特別賢いのかな?

 じゃれるように頭を差し出して来る馬の首を撫でる。
「ありがと。楽しかったぞ」
 褒めると、黒馬は嬉しそうに鼻を鳴らし、勢いよく顔を俺の腹に押し付けてきた。
「わっ、ちょっ、くすぐったい!」
 離れようとした瞬間、足がもつれた。次の刹那、団長の手が腰を支えていた。
 ――また、助けられた。

「ケイナに気に入られたようだな」
「この子、ケイナっていうんですね」
「私が唯一乗れた馬だ」
 この世界の生き物には全て魔力がある。
 魔力過敏症だと色んな事に制限がかかるんだ。

 生きづらそうな団長。
 きっと、これまでたくさんの苦労を抱えてきたはずだ。
 ご自身のことだって大変なのに、そのうえ第五騎士団のことまで背負っている。
 ……俺にも、少しはその力になれるだろうか。

 ケイナを撫でる団長の横顔をそっと盗み見た。

 その団長へ近づいてきたのは制服の肩と胸のラインが少ないから見習いの騎士さんかな?
 
 にこやかに話しかける彼には、団長への信頼が見えた。
「団長、お帰りなさい」
「ああ、戻った。ケイナを頼む」
「はい!」
 中から出て来た世話係っぽい騎士が手綱を受け取り中へ馬を連れて行く。

 それを見送っていると、同じように馬を預けた副団長が俺たちの方へきてにんまりと笑う。
「ずいぶん仲良くなられたようで、よかったです」
 副団長の声音に茶化すような色があった。
 その言葉と視線で、俺は団長と腕が当たるような距離にいたことに気付く。

 思わず頬が熱くなって、慌てて離れようとしたら足元がふらついた。
 けれど転ぶ前に腰を抱き留められた。

 ……さっきより距離が近い。
 副団長が変なことを言うから妙に意識しちゃうじゃないか。

 離れようと思ったら腰に置かれた手に力が入って引き留められる。

「嫌でなければこのままで……」
「嫌……では、ないです」
「そうか」
 ふわりと魔力が温かく散ったのが分かった。


 馬ではぴたりとくっついていたせいか、違和感が全然なかった。
 いや、だって。団長の魔力知っちゃったら、なんか居心地よくて……。
 これで、顔さえイケメンじゃなかったら好きになっちゃってたかもな。
 ……いや、ないか。

 団長からも満更ではない空気が伝わってくるけど、本当のところどう思ってるんだろう?

 気になって顔を確認しようとしても、どうしても変な動悸がせり上がってきて、視線は顎から上にいかない。
 ……どんだけイケメン苦手なんだ俺。

 そんな俺の様子に気付いたのか、団長は背を向かせるように肩を掴み、俺の腰をそっと押した。
 その手から、「無理をしなくていい」と伝わってくる気がして、胸の奥がじんわり温かくなる。

「早速案内しようと思うが、疲れてはいないか?」
「はい、問題ありません」
 副団長は「では私はこれで失礼します」と言い、含みのある「ごゆっくり」を残して去っていった。
 
 団長はその背を特に気にすることもなく、すぐに俺を振り返る。
「さぁ、行こうか」
 まるでエスコートするように腰へそっと手を添えたまま歩き出す。
 その掌の温かさが、一歩ごとに背中から胸の奥へ染みていく。
 
 それが恥ずかしいのか、嬉しいのか、自分でもわからなかった。
 団長の魔力は穏やかで、触れるだけで空気が揺れる。
 けれど不思議と、嫌な刺激は一つもない。
 これが馴染むという感覚なんだろうか?


 俺はそのまま団長に促されるまま歩きだした。

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