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24話 これからも……
パンケーキとフレンチトーストは文句なくおいしかった。
前世では人目を気にしてあんまり食べられなかったから、余計においしく感じられた。
「はー、おいしかったぁ」
「それはよかったです」
「次はどこですか?」
「パフェなんてどうでしょう?」
「パフェ!」
その場で食べなくてはならない生菓子は、一瞬で消えてしまうから本当に贅沢品なんだ。
いつも横目で看板に書かれた絵を眺め、通り過ぎるのを繰り返していた。
そんなお店に入れるんだ。
「団長、早く行きましょう!」
手を引っ張って歩調を早める。
「そんなにしなくてもお店は逃げませんよ」
「いーや。逃げるね! 急がなきゃ」
はしゃぐ俺に付き合って、団長も歩調を早めてくれる。
これじゃどっちが年上かわからないとは思うけど、おいしいスイーツがあると思うとのんびりなんてしていられない。
今度のカフェは落ち着いた小さな店だった。
最初に入った時は上品なマダムたちが優雅にお茶をしていたのだけれど、俺たちが入ると同時に若いお嬢さんたちが続々と入店してきた。
もちろん、視線は団長に釘付け。
だけど、俺の視線はメニューから外せない。
だってパフェが有名というだけあって種類も豊富ですごく迷った。
「うーん、季節限定も捨てがたいけど、定番も食べたい……」
「これ、入れられるものを選べるみたいですよ?」
「え、どれ?」
一緒にメニューを覗いていた団長が、一番後ろの大きなパフェの絵を指さす。
「おー、全部入り」
「追加で季節の果物も入れられるみたいですね」
「いいな、でもさすがに一人じゃ無理そう」
「では、一緒に食べましょうか」
「いいの?」
「二人なら食べきれるでしょう」
「うん!」
頷くと、またも団長がスマートに注文を通してくれる。
今度はブラックコーヒーにした。
団長は紅茶を選んでいて、上品な仕草があまりに似合っていた。
ここでも団長は若い女性の視線を集めまくっていたけれど、その視線は俺に注がれていて、他に目が向くことはない。
それが、なんだかむず痒かった。
やってきたパフェは想像より大きくて、見ているだけでワクワクした。
団長が「こちら側もどうぞ」とスプーンを差し出してきて、俺も自分のスプーンでクリームをすくって渡す。
長いスプーンで二人でパフェを食べ進めるのはなんとも気恥ずかしかったけど、なんだか楽しい。
けれど、途中で二人してくじけかけた。
だって、生クリームたっぷりなんだもん。
「果物が入ってなかったら胸やけがしそうですね」
「クリーム、おいしいけど結構キツい」
それでもゼリーやフルーツソースの助けもあって無事完食できた。
「はー、おいしかった」
「ルイ殿、すごいですね」
パフェの七割は俺の腹に入った。
ちまちまと上品に食べる団長はなんだか可愛かったけど、一生終わらなさそうだったし。
「俺ばっかり食べちゃってごめん」
「全然かまいませんよ。少し休みますか?」
「次の食べたい」
「……行けるんですね?」
なぜ引くんだ。今日はカフェ巡りだと提案したのは団長じゃないか。
どんどん行くぞ!
「余裕!」
団長の奢りでスイーツ巡りなんだぞ。それだけでお腹の容量が空けられる!
「では次はケーキなどいかがですか?」
「早く行こう!」
本当に詳しく調べてくれたみたいで、時々手帳を見ながら案内してくれる。
見せてって言ったら見せてくれたけど、地図の横にしっかりおススメ品や、食べておくべきメニューなんかも添えられていた。
「これ、後で欲しい」
今日だけでは行ききれないほどのカフェが書かれていた。
「ダメです」
「えー」
「これは私の『ルイ殿案内メモ』ですからね。あなたと一緒に行くための場所ですから、渡せません」
真剣な空気は意地悪をしているわけではないようだ。
「行きたかったらまた私が連れて行きます」
「また連れてきてくれるの?」
「たくさんありますから、全部行きましょう」
なんて、パラパラ中を見せてくれる。
「すっご、南側だけでこんなにあるの?」
「今回はこれしか情報を集められませんでしたが、いずれ王都中のカフェを調べますよ?」
「あははは、二人で都合をつけて行くなら、制覇するのに何年かかるかわかんないじゃん」
「一生、かかってもいいですよ?」
「……っ」
低く囁く声色には本気の色が宿っていて、俺はその意味を悟って、言葉を失った。
今の俺にはそれに返せる気持ちと覚悟が足りない。
黙ってしまった俺に、団長がメモ帳のページを見せてくる。
「さぁ、次はここです。おいしいケーキを食べましょう」
空気を変えるように、団長が俺の腰を押して通りを歩く。
途中、気になった雑貨屋や本屋を見ながら次のカフェについた。
団長は途中から、スイーツは俺のを一口ねだるだけで、あとはずっと楽しそうに見ているだけだった。
「食べさせてください」
そうやって口を開けられるたびに、ついスプーンを差し出してしまう。
これって「あーん」ってやつでは、と気づいたのは、最後のケーキをあげたときに後ろのお嬢さんの顔を見た後だった。
うん、なんか静かだと思ったら、店中のお嬢さんにめっちゃ見られてたよ。
恥ずかしい……。
次は自分で食べてもらおう。
そのカフェを出たら、今度はお昼というにはちょっと遅いけど、ちゃんとした食事をした。
俺はパスタで、団長がピザで、途中で交換して食べた。
そういえば、団長。貴族なのに、一口とか、料理交換大丈夫な人なんだなって聞いたら。
「ルイ殿だけです」
なんてイケメンオーラ全開でキラキラを撒き散らしていた。
今日は本当にずっと眩しいな。
でも、楽しそうな魔力がずっと流れてくるから、まぁいいか。
そこではデザートにプリンを頼んで、ようやく一息ついた。
「生菓子をこんなにたくさん食べたの初めてだ」
さすがにこれだけはしごをしたらお腹もいっぱいだ。
結構たくさんのお店に寄ったから、日がだいぶ傾いてきた。
今日はずっと楽しくて、あっという間に過ぎてしまった。
「普段はどんなものを買っていたんですか?」
「日持ちがする焼き菓子がメインかな。時々仲のいい奴らの誕生日に小さいケーキを買って分けて食べたりはしたかな」
「……ルイ殿に誕生日を祝っていただけるなんて、幸せな方ですね」
その声色は羨ましさと、少しの寂しさを感じさせて、俺はそっと団長に寄り添った。
「じゃあ、団長の誕生日は俺がお祝いしますよ。いつですか?」
「今年はもう過ぎてしまいました。真っ黒になった日ですね」
おう……。あの日か。
「じゃあ次の誕生日は絶対!」
笑う俺に団長の顔が不意に歪んだ。何かを堪えるように顔を伏せる。
「……ルイ殿」
「だって、誰かが生まれて来てありがとう、おめでとうって言ってくれたら嬉しいじゃないですか。俺でよければ言わせてください」
言った瞬間、強く抱きしめられた。
「あなたが祝ってくださるならこれ以上の幸せはありません」
あまり人通りはないとはいえ、ここは往来。
誰かに見られているかも、と少し思ったけれど。
団長の体が小さく震えているのに気づいて、俺はそっと背中に腕を回して抱きしめ返した。
やがてそっと離されて、照れたように団長が顔を背けた。
その横顔が耳まで赤くて、あんなにさっきまで大胆だったのにと、可愛く思えてしまった。
手を伸ばし、淡雪のような青銀色の短い髪をそっと撫でた。
「ルイ殿!?」
「あははは、こうしてるとちゃんと年下っぽいですね」
「……ルイ殿は年上とは思えないくらい無邪気です」
「俺は二周目の人生を楽しんでるから」
「二周目なんですか?」
「比喩、比喩。……でも、それくらい、今の人生を楽しんでるってこと」
冗談だと思ったのか団長が笑う。
その声は楽しそうで、俺も一緒に笑った。
「さて、さすがにお腹がいっぱいなんですが」
「俺も、まだ食べられるけどちょっと腹ごなししたい」
「まだ食べられるのですか!?」
「お菓子は別腹じゃん?」
「……ずっとお菓子ばっかりじゃないですか」
さすがに呆れたように言われてしまった。
「では、腹ごなしに行きましょうか?」
「どこに?」
「とっておきの場所があるんです」
そう言った団長の横顔は、さっきまでのはしゃいだ色を少しだけ引っ込めていた。
行きましょうと再び腰に腕を回されて、歩き始める。
「……帰るんです?」
「まさか」
南門に向かって歩き出したから聞いてみたけれど、食い気味に否定された。
団長は衛兵に挨拶をして、城壁の脇にある小さな階段へ向かう。
「騎士の特権です。隊長以上の許可がないとこの上には登れないんですよ」
少しだけ得意げで、ちょっと可愛らしいと思ってしまった。
狭い通路を団長の後ろについて上がっていく。
そして外へ出ると。
「わぁ……!」
そこは王都を守る防壁の上だった。
少し強い風が髪を靡かせ、それに気付いた団長が体を支えてくれた。
夕日が空をオレンジ色に染めていく。
正面には樹海が暗さを増していく一方で、城壁を挟んだ内側では、ぽつぽつと明かりが灯り始めた王都の街並みが見える。
通りにはまだたくさんの人がいて、活気に溢れていた。
中央には大きな王宮、そのさらに奥には広大な山脈まで見渡すことができる。
「すごい!」
「中央の時計塔もいいかと思ったんですけれど、ルイ殿を案内するならここがいいと思いました」
真下には駐屯地もよく見えて第五騎士団が守っているものが何なのかよくわかる。
「我々が背負っているものを忘れないために、時々一人でここへ来るんです」
誰かを連れて来たのは初めてだと言われ、なぜか鼓動が高鳴った。
団長の、心の端を見せてもらった。
それが無性に嬉しかった。
防壁に吹く風は涼しくて、頬に集まった熱気を冷ましてくれる。
樹海と城壁の中を交互に見ると、守っているものが明確になった。
「……」
何か言いたいのに、胸が一杯で言葉にならない。
そっと隣を見上げてみる。
口元から頬、そして……。
あ、横顔なら、見られた。
街並みを見つめる団長の横顔はとても静かで、誇らしげだった。
前世では人目を気にしてあんまり食べられなかったから、余計においしく感じられた。
「はー、おいしかったぁ」
「それはよかったです」
「次はどこですか?」
「パフェなんてどうでしょう?」
「パフェ!」
その場で食べなくてはならない生菓子は、一瞬で消えてしまうから本当に贅沢品なんだ。
いつも横目で看板に書かれた絵を眺め、通り過ぎるのを繰り返していた。
そんなお店に入れるんだ。
「団長、早く行きましょう!」
手を引っ張って歩調を早める。
「そんなにしなくてもお店は逃げませんよ」
「いーや。逃げるね! 急がなきゃ」
はしゃぐ俺に付き合って、団長も歩調を早めてくれる。
これじゃどっちが年上かわからないとは思うけど、おいしいスイーツがあると思うとのんびりなんてしていられない。
今度のカフェは落ち着いた小さな店だった。
最初に入った時は上品なマダムたちが優雅にお茶をしていたのだけれど、俺たちが入ると同時に若いお嬢さんたちが続々と入店してきた。
もちろん、視線は団長に釘付け。
だけど、俺の視線はメニューから外せない。
だってパフェが有名というだけあって種類も豊富ですごく迷った。
「うーん、季節限定も捨てがたいけど、定番も食べたい……」
「これ、入れられるものを選べるみたいですよ?」
「え、どれ?」
一緒にメニューを覗いていた団長が、一番後ろの大きなパフェの絵を指さす。
「おー、全部入り」
「追加で季節の果物も入れられるみたいですね」
「いいな、でもさすがに一人じゃ無理そう」
「では、一緒に食べましょうか」
「いいの?」
「二人なら食べきれるでしょう」
「うん!」
頷くと、またも団長がスマートに注文を通してくれる。
今度はブラックコーヒーにした。
団長は紅茶を選んでいて、上品な仕草があまりに似合っていた。
ここでも団長は若い女性の視線を集めまくっていたけれど、その視線は俺に注がれていて、他に目が向くことはない。
それが、なんだかむず痒かった。
やってきたパフェは想像より大きくて、見ているだけでワクワクした。
団長が「こちら側もどうぞ」とスプーンを差し出してきて、俺も自分のスプーンでクリームをすくって渡す。
長いスプーンで二人でパフェを食べ進めるのはなんとも気恥ずかしかったけど、なんだか楽しい。
けれど、途中で二人してくじけかけた。
だって、生クリームたっぷりなんだもん。
「果物が入ってなかったら胸やけがしそうですね」
「クリーム、おいしいけど結構キツい」
それでもゼリーやフルーツソースの助けもあって無事完食できた。
「はー、おいしかった」
「ルイ殿、すごいですね」
パフェの七割は俺の腹に入った。
ちまちまと上品に食べる団長はなんだか可愛かったけど、一生終わらなさそうだったし。
「俺ばっかり食べちゃってごめん」
「全然かまいませんよ。少し休みますか?」
「次の食べたい」
「……行けるんですね?」
なぜ引くんだ。今日はカフェ巡りだと提案したのは団長じゃないか。
どんどん行くぞ!
「余裕!」
団長の奢りでスイーツ巡りなんだぞ。それだけでお腹の容量が空けられる!
「では次はケーキなどいかがですか?」
「早く行こう!」
本当に詳しく調べてくれたみたいで、時々手帳を見ながら案内してくれる。
見せてって言ったら見せてくれたけど、地図の横にしっかりおススメ品や、食べておくべきメニューなんかも添えられていた。
「これ、後で欲しい」
今日だけでは行ききれないほどのカフェが書かれていた。
「ダメです」
「えー」
「これは私の『ルイ殿案内メモ』ですからね。あなたと一緒に行くための場所ですから、渡せません」
真剣な空気は意地悪をしているわけではないようだ。
「行きたかったらまた私が連れて行きます」
「また連れてきてくれるの?」
「たくさんありますから、全部行きましょう」
なんて、パラパラ中を見せてくれる。
「すっご、南側だけでこんなにあるの?」
「今回はこれしか情報を集められませんでしたが、いずれ王都中のカフェを調べますよ?」
「あははは、二人で都合をつけて行くなら、制覇するのに何年かかるかわかんないじゃん」
「一生、かかってもいいですよ?」
「……っ」
低く囁く声色には本気の色が宿っていて、俺はその意味を悟って、言葉を失った。
今の俺にはそれに返せる気持ちと覚悟が足りない。
黙ってしまった俺に、団長がメモ帳のページを見せてくる。
「さぁ、次はここです。おいしいケーキを食べましょう」
空気を変えるように、団長が俺の腰を押して通りを歩く。
途中、気になった雑貨屋や本屋を見ながら次のカフェについた。
団長は途中から、スイーツは俺のを一口ねだるだけで、あとはずっと楽しそうに見ているだけだった。
「食べさせてください」
そうやって口を開けられるたびに、ついスプーンを差し出してしまう。
これって「あーん」ってやつでは、と気づいたのは、最後のケーキをあげたときに後ろのお嬢さんの顔を見た後だった。
うん、なんか静かだと思ったら、店中のお嬢さんにめっちゃ見られてたよ。
恥ずかしい……。
次は自分で食べてもらおう。
そのカフェを出たら、今度はお昼というにはちょっと遅いけど、ちゃんとした食事をした。
俺はパスタで、団長がピザで、途中で交換して食べた。
そういえば、団長。貴族なのに、一口とか、料理交換大丈夫な人なんだなって聞いたら。
「ルイ殿だけです」
なんてイケメンオーラ全開でキラキラを撒き散らしていた。
今日は本当にずっと眩しいな。
でも、楽しそうな魔力がずっと流れてくるから、まぁいいか。
そこではデザートにプリンを頼んで、ようやく一息ついた。
「生菓子をこんなにたくさん食べたの初めてだ」
さすがにこれだけはしごをしたらお腹もいっぱいだ。
結構たくさんのお店に寄ったから、日がだいぶ傾いてきた。
今日はずっと楽しくて、あっという間に過ぎてしまった。
「普段はどんなものを買っていたんですか?」
「日持ちがする焼き菓子がメインかな。時々仲のいい奴らの誕生日に小さいケーキを買って分けて食べたりはしたかな」
「……ルイ殿に誕生日を祝っていただけるなんて、幸せな方ですね」
その声色は羨ましさと、少しの寂しさを感じさせて、俺はそっと団長に寄り添った。
「じゃあ、団長の誕生日は俺がお祝いしますよ。いつですか?」
「今年はもう過ぎてしまいました。真っ黒になった日ですね」
おう……。あの日か。
「じゃあ次の誕生日は絶対!」
笑う俺に団長の顔が不意に歪んだ。何かを堪えるように顔を伏せる。
「……ルイ殿」
「だって、誰かが生まれて来てありがとう、おめでとうって言ってくれたら嬉しいじゃないですか。俺でよければ言わせてください」
言った瞬間、強く抱きしめられた。
「あなたが祝ってくださるならこれ以上の幸せはありません」
あまり人通りはないとはいえ、ここは往来。
誰かに見られているかも、と少し思ったけれど。
団長の体が小さく震えているのに気づいて、俺はそっと背中に腕を回して抱きしめ返した。
やがてそっと離されて、照れたように団長が顔を背けた。
その横顔が耳まで赤くて、あんなにさっきまで大胆だったのにと、可愛く思えてしまった。
手を伸ばし、淡雪のような青銀色の短い髪をそっと撫でた。
「ルイ殿!?」
「あははは、こうしてるとちゃんと年下っぽいですね」
「……ルイ殿は年上とは思えないくらい無邪気です」
「俺は二周目の人生を楽しんでるから」
「二周目なんですか?」
「比喩、比喩。……でも、それくらい、今の人生を楽しんでるってこと」
冗談だと思ったのか団長が笑う。
その声は楽しそうで、俺も一緒に笑った。
「さて、さすがにお腹がいっぱいなんですが」
「俺も、まだ食べられるけどちょっと腹ごなししたい」
「まだ食べられるのですか!?」
「お菓子は別腹じゃん?」
「……ずっとお菓子ばっかりじゃないですか」
さすがに呆れたように言われてしまった。
「では、腹ごなしに行きましょうか?」
「どこに?」
「とっておきの場所があるんです」
そう言った団長の横顔は、さっきまでのはしゃいだ色を少しだけ引っ込めていた。
行きましょうと再び腰に腕を回されて、歩き始める。
「……帰るんです?」
「まさか」
南門に向かって歩き出したから聞いてみたけれど、食い気味に否定された。
団長は衛兵に挨拶をして、城壁の脇にある小さな階段へ向かう。
「騎士の特権です。隊長以上の許可がないとこの上には登れないんですよ」
少しだけ得意げで、ちょっと可愛らしいと思ってしまった。
狭い通路を団長の後ろについて上がっていく。
そして外へ出ると。
「わぁ……!」
そこは王都を守る防壁の上だった。
少し強い風が髪を靡かせ、それに気付いた団長が体を支えてくれた。
夕日が空をオレンジ色に染めていく。
正面には樹海が暗さを増していく一方で、城壁を挟んだ内側では、ぽつぽつと明かりが灯り始めた王都の街並みが見える。
通りにはまだたくさんの人がいて、活気に溢れていた。
中央には大きな王宮、そのさらに奥には広大な山脈まで見渡すことができる。
「すごい!」
「中央の時計塔もいいかと思ったんですけれど、ルイ殿を案内するならここがいいと思いました」
真下には駐屯地もよく見えて第五騎士団が守っているものが何なのかよくわかる。
「我々が背負っているものを忘れないために、時々一人でここへ来るんです」
誰かを連れて来たのは初めてだと言われ、なぜか鼓動が高鳴った。
団長の、心の端を見せてもらった。
それが無性に嬉しかった。
防壁に吹く風は涼しくて、頬に集まった熱気を冷ましてくれる。
樹海と城壁の中を交互に見ると、守っているものが明確になった。
「……」
何か言いたいのに、胸が一杯で言葉にならない。
そっと隣を見上げてみる。
口元から頬、そして……。
あ、横顔なら、見られた。
街並みを見つめる団長の横顔はとても静かで、誇らしげだった。
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