【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

文字の大きさ
24 / 55

24話 これからも……

 パンケーキとフレンチトーストは文句なくおいしかった。
 前世では人目を気にしてあんまり食べられなかったから、余計においしく感じられた。

「はー、おいしかったぁ」
「それはよかったです」
「次はどこですか?」
「パフェなんてどうでしょう?」
「パフェ!」
 その場で食べなくてはならない生菓子は、一瞬で消えてしまうから本当に贅沢品なんだ。
 いつも横目で看板に書かれた絵を眺め、通り過ぎるのを繰り返していた。

 そんなお店に入れるんだ。

「団長、早く行きましょう!」
 手を引っ張って歩調を早める。
「そんなにしなくてもお店は逃げませんよ」
「いーや。逃げるね! 急がなきゃ」
 はしゃぐ俺に付き合って、団長も歩調を早めてくれる。

 これじゃどっちが年上かわからないとは思うけど、おいしいスイーツがあると思うとのんびりなんてしていられない。

 今度のカフェは落ち着いた小さな店だった。
 最初に入った時は上品なマダムたちが優雅にお茶をしていたのだけれど、俺たちが入ると同時に若いお嬢さんたちが続々と入店してきた。
 もちろん、視線は団長に釘付け。
 だけど、俺の視線はメニューから外せない。
 だってパフェが有名というだけあって種類も豊富ですごく迷った。
「うーん、季節限定も捨てがたいけど、定番も食べたい……」
「これ、入れられるものを選べるみたいですよ?」
「え、どれ?」
 一緒にメニューを覗いていた団長が、一番後ろの大きなパフェの絵を指さす。
「おー、全部入り」
「追加で季節の果物も入れられるみたいですね」
「いいな、でもさすがに一人じゃ無理そう」
「では、一緒に食べましょうか」
「いいの?」
「二人なら食べきれるでしょう」
「うん!」
 頷くと、またも団長がスマートに注文を通してくれる。

 今度はブラックコーヒーにした。
 団長は紅茶を選んでいて、上品な仕草があまりに似合っていた。

 ここでも団長は若い女性の視線を集めまくっていたけれど、その視線は俺に注がれていて、他に目が向くことはない。
 それが、なんだかむず痒かった。

 やってきたパフェは想像より大きくて、見ているだけでワクワクした。

 団長が「こちら側もどうぞ」とスプーンを差し出してきて、俺も自分のスプーンでクリームをすくって渡す。
 長いスプーンで二人でパフェを食べ進めるのはなんとも気恥ずかしかったけど、なんだか楽しい。
 けれど、途中で二人してくじけかけた。
 だって、生クリームたっぷりなんだもん。

「果物が入ってなかったら胸やけがしそうですね」
「クリーム、おいしいけど結構キツい」
 それでもゼリーやフルーツソースの助けもあって無事完食できた。

「はー、おいしかった」
「ルイ殿、すごいですね」
 パフェの七割は俺の腹に入った。
 ちまちまと上品に食べる団長はなんだか可愛かったけど、一生終わらなさそうだったし。
「俺ばっかり食べちゃってごめん」
「全然かまいませんよ。少し休みますか?」
「次の食べたい」
「……行けるんですね?」
 なぜ引くんだ。今日はカフェ巡りだと提案したのは団長じゃないか。
 どんどん行くぞ!
「余裕!」
 団長の奢りでスイーツ巡りなんだぞ。それだけでお腹の容量が空けられる!

「では次はケーキなどいかがですか?」
「早く行こう!」
 本当に詳しく調べてくれたみたいで、時々手帳を見ながら案内してくれる。
 見せてって言ったら見せてくれたけど、地図の横にしっかりおススメ品や、食べておくべきメニューなんかも添えられていた。

「これ、後で欲しい」
 今日だけでは行ききれないほどのカフェが書かれていた。
「ダメです」
「えー」
「これは私の『ルイ殿案内メモ』ですからね。あなたと一緒に行くための場所ですから、渡せません」
 真剣な空気は意地悪をしているわけではないようだ。
「行きたかったらまた私が連れて行きます」
「また連れてきてくれるの?」
「たくさんありますから、全部行きましょう」
 なんて、パラパラ中を見せてくれる。
「すっご、南側だけでこんなにあるの?」
「今回はこれしか情報を集められませんでしたが、いずれ王都中のカフェを調べますよ?」
「あははは、二人で都合をつけて行くなら、制覇するのに何年かかるかわかんないじゃん」
「一生、かかってもいいですよ?」
「……っ」
 低く囁く声色には本気の色が宿っていて、俺はその意味を悟って、言葉を失った。
 今の俺にはそれに返せる気持ちと覚悟が足りない。

 黙ってしまった俺に、団長がメモ帳のページを見せてくる。

「さぁ、次はここです。おいしいケーキを食べましょう」
 空気を変えるように、団長が俺の腰を押して通りを歩く。
 途中、気になった雑貨屋や本屋を見ながら次のカフェについた。

 団長は途中から、スイーツは俺のを一口ねだるだけで、あとはずっと楽しそうに見ているだけだった。
「食べさせてください」
 そうやって口を開けられるたびに、ついスプーンを差し出してしまう。
 これって「あーん」ってやつでは、と気づいたのは、最後のケーキをあげたときに後ろのお嬢さんの顔を見た後だった。

 うん、なんか静かだと思ったら、店中のお嬢さんにめっちゃ見られてたよ。
 恥ずかしい……。
 次は自分で食べてもらおう。


 そのカフェを出たら、今度はお昼というにはちょっと遅いけど、ちゃんとした食事をした。
 俺はパスタで、団長がピザで、途中で交換して食べた。
 そういえば、団長。貴族なのに、一口とか、料理交換大丈夫な人なんだなって聞いたら。
「ルイ殿だけです」
 なんてイケメンオーラ全開でキラキラを撒き散らしていた。
 今日は本当にずっと眩しいな。
 でも、楽しそうな魔力がずっと流れてくるから、まぁいいか。
 そこではデザートにプリンを頼んで、ようやく一息ついた。



 

「生菓子をこんなにたくさん食べたの初めてだ」
 さすがにこれだけはしごをしたらお腹もいっぱいだ。
 結構たくさんのお店に寄ったから、日がだいぶ傾いてきた。
 今日はずっと楽しくて、あっという間に過ぎてしまった。

「普段はどんなものを買っていたんですか?」
「日持ちがする焼き菓子がメインかな。時々仲のいい奴らの誕生日に小さいケーキを買って分けて食べたりはしたかな」
「……ルイ殿に誕生日を祝っていただけるなんて、幸せな方ですね」
 その声色は羨ましさと、少しの寂しさを感じさせて、俺はそっと団長に寄り添った。
「じゃあ、団長の誕生日は俺がお祝いしますよ。いつですか?」
「今年はもう過ぎてしまいました。真っ黒になった日ですね」
 おう……。あの日か。
「じゃあ次の誕生日は絶対!」
 笑う俺に団長の顔が不意に歪んだ。何かを堪えるように顔を伏せる。
「……ルイ殿」
「だって、誰かが生まれて来てありがとう、おめでとうって言ってくれたら嬉しいじゃないですか。俺でよければ言わせてください」
 言った瞬間、強く抱きしめられた。

「あなたが祝ってくださるならこれ以上の幸せはありません」
 あまり人通りはないとはいえ、ここは往来。
 誰かに見られているかも、と少し思ったけれど。

 団長の体が小さく震えているのに気づいて、俺はそっと背中に腕を回して抱きしめ返した。

 やがてそっと離されて、照れたように団長が顔を背けた。
 その横顔が耳まで赤くて、あんなにさっきまで大胆だったのにと、可愛く思えてしまった。

 手を伸ばし、淡雪のような青銀色の短い髪をそっと撫でた。
「ルイ殿!?」
「あははは、こうしてるとちゃんと年下っぽいですね」
「……ルイ殿は年上とは思えないくらい無邪気です」
「俺は二周目の人生を楽しんでるから」
「二周目なんですか?」
「比喩、比喩。……でも、それくらい、今の人生を楽しんでるってこと」

 冗談だと思ったのか団長が笑う。

 その声は楽しそうで、俺も一緒に笑った。

「さて、さすがにお腹がいっぱいなんですが」
「俺も、まだ食べられるけどちょっと腹ごなししたい」
「まだ食べられるのですか!?」
「お菓子は別腹じゃん?」
「……ずっとお菓子ばっかりじゃないですか」
 さすがに呆れたように言われてしまった。

「では、腹ごなしに行きましょうか?」
「どこに?」
「とっておきの場所があるんです」
 そう言った団長の横顔は、さっきまでのはしゃいだ色を少しだけ引っ込めていた。
 行きましょうと再び腰に腕を回されて、歩き始める。

「……帰るんです?」
「まさか」
 南門に向かって歩き出したから聞いてみたけれど、食い気味に否定された。

 団長は衛兵に挨拶をして、城壁の脇にある小さな階段へ向かう。
「騎士の特権です。隊長以上の許可がないとこの上には登れないんですよ」
 少しだけ得意げで、ちょっと可愛らしいと思ってしまった。
 狭い通路を団長の後ろについて上がっていく。

 そして外へ出ると。

「わぁ……!」
 そこは王都を守る防壁の上だった。
 少し強い風が髪を靡かせ、それに気付いた団長が体を支えてくれた。
 夕日が空をオレンジ色に染めていく。
 正面には樹海が暗さを増していく一方で、城壁を挟んだ内側では、ぽつぽつと明かりが灯り始めた王都の街並みが見える。
 通りにはまだたくさんの人がいて、活気に溢れていた。
 中央には大きな王宮、そのさらに奥には広大な山脈まで見渡すことができる。



「すごい!」
「中央の時計塔もいいかと思ったんですけれど、ルイ殿を案内するならここがいいと思いました」
 真下には駐屯地もよく見えて第五騎士団が守っているものが何なのかよくわかる。
「我々が背負っているものを忘れないために、時々一人でここへ来るんです」
 誰かを連れて来たのは初めてだと言われ、なぜか鼓動が高鳴った。

 団長の、心の端を見せてもらった。
 それが無性に嬉しかった。

 防壁に吹く風は涼しくて、頬に集まった熱気を冷ましてくれる。

 樹海と城壁の中を交互に見ると、守っているものが明確になった。

「……」
 何か言いたいのに、胸が一杯で言葉にならない。
 そっと隣を見上げてみる。
 口元から頬、そして……。
 あ、横顔なら、見られた。

 街並みを見つめる団長の横顔はとても静かで、誇らしげだった。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。 なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。 ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。 とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。 だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。 なんで!? 初対面なんですけど!?!?

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」 製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。 しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。 ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。 「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」 真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。 師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。 「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」 これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>