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25話 幸せにしたい
段々闇に染まる樹海を背に、明かりが増えていく防壁に守られた街を、無言のまま見つめる。
俺は団長の顔が見られたことが嬉しくて、じっと横顔を見つめ続けてしまう。
やがて完全に日が落ちると、団長が静かに口を開いた。
「……私の出自の話は、誰かに聞きましたか?」
「はい、セリーヌさんたちに。すみません」
俺の視線に気付いている団長は、こちらを向くことなく、そのまま真っ直ぐ街並みを眺めたままだ。
謝った俺に対して大丈夫だというように、小さく横に首を振った。
「第五騎士団は皆知っているので構いません。前団長亡きあとしばらく空席だったところに私が就いたので、その時に必要なことは説明しました」
平民ばかりの第五騎士団に、侯爵家の三男が突然団長としてやって来たら、驚かない方がおかしい。
貴族の中では左遷扱いされている部署ではあるが、内部にいる貴族はかなり伸び伸びやっている。
実のところは、貴族社会に馴染めなかった人の逃げ場みたいになってるんだと思う。
話しておくことで、余計な警戒や勘繰りをさせないための配慮だったんだろう。
「隠すことではないですから」
団長の横顔には苦笑が浮かんでいた。
そして団長の口から直接語られる、彼の人生の一端。
産まれた時から魔力量が異常に多く、すぐに魔力を遮断するための窓もない隔離部屋が用意された。
一日数度、魔力遮断布で作られた服をまとった者にミルクを与えられる。
体温を通さないその服はたとえ抱かれても冷たいまま。抱かれているのに、ひとりきりのようだった。
温もりも知らず、成長と共に必要な教養などを教え込まれた。
「私が両親と二人の兄の顔を知ったのは成人した十五歳の時です」
「……そんな」
「私は貴族で、侯爵家の人間ではありますが、家族に対する情はありません」
少しだけ息を吐いてから、言葉を継いだ。
「特に次兄には、命を狙われていました」
「なんで!?」
「私の方が優秀だったんですよ」
そう言う団長の表情には感情の色が見えなかった。
隔離されていて気付かなかったけれど、団長は誰よりも秀でていた。
長兄はすでに家督を継ぐことが決まっていて、領地を運営任されていたからそれほどでもなかった。
けれど次兄は降って沸いた優秀な弟に居場所を奪われると密かに恐れた。
その恐怖が、やがて歪んだ敵意に変わっていった。
「食べ物に毒が入っていたり、暗殺もあったりで……」
「毒? 暗殺……、嘘だろ」
「貴族の家督争いではよくあることです。私は両親に庇われる立場でもありませんでしたから」
淹れられたお茶を飲んだ瞬間、喉が焼けるように痛くなって、そのまま意識が落ちたことがあった。
訓練用の剣に毒が塗られていたことも。
寝込みを襲われたのも一度や二度ではない。
「まぁ、有り余る魔力のお陰で助かりましたが……」
「魔力過敏症の方は、外からの魔力を拒む性質があるとは聞いていましたが……」
この世界は毒も魔力を含んでいるから、吸収されにくかったんだな。
孤立を強いられた力が、皮肉にも団長を助けてきた。
「解毒作用も麻痺解除もそれなりに出来るみたいです」
さらっと言っているけれど、一体何度命のやり取りをしてきたんだ。
しかも、殺そうとしているのは実の兄だなんて……。
言葉が出ない俺の前で、団長は淡々と話を続けた。
「せっかく繋いだ命をくだらない理由で奪われるくらいなら」
誰かを守るために使いたい。
そう思って自ら第五騎士団へ行くことを希望した。
何気ないことのように話す団長の表情は、酷く無機質だった。
この感情を押し殺した顔を「氷」と呼ばれていたのだとしたら、どれだけ悲しいことだろう。
言葉が喉につかえて出てこない。
「もう、狙われてはいないのですか?」
「第五騎士団に入ったことで、安心したんでしょう。たまに会ったときに嫌味を言われるくらいです」
まるで大したことじゃないみたいに言っているけれど、俺は悔しくて仕方がない。
この人が何をしたというんだ。
ただ魔力が多く生まれてしまっただけなのに。
苦痛に耐え、孤独を味わって生き抜いた人にしていい仕打ちじゃない。
本人の口から直接聞いた過去は、知ったつもりになっていたものよりずっと痛くて、喉の奥が焼けるような悔しさがこみ上げた。
「ルイ殿」
苦笑を浮かべた団長の指がそっと俺の頬を拭う。
濡れた感触がして、自分が泣いていることに気付いた。
「あれ……?」
「泣かないでください」
「ごめん、そんなつもりじゃ」
視界が涙でぼやけて、正面にいる団長の顔はよく見えない。
せっかく視線を上げられたのに……。
「私が誰かの涙を拭える日が来るなんて、夢みたいです。それがあなたのためにできることが、とても幸せです」
優しい指が頬を撫でる。
けれど、誰の温もりも知らず育った団長を思うと、涙が止まらない。
「困りましたね」
何度拭っても止まらない涙に、団長はため息交じりの苦笑を浮かべる。
けれど、それはどこか嬉しそうで、誇らしげだった。
「あなたに、私がどれだけ救われているかわかりますか?」
「俺は、あなたの助けになっていますか?」
「ええ、とても……。あなたに出会えてから私はずっと幸せです」
吐き出す吐息がとても近かった。
「あなたは、強くて、誠実で、真っ直ぐで……」
団長の手が俺の頬を撫でる。
「とても優しい……」
あまりにも甘い声色に、思わず聞き入ってしまう。
「私は、こんなふうに誰かに心を寄せる日が来るなんて考えたこともありませんでした」
「団長」
「名前で呼んでください、ルイ殿」
あなたの声で、呼ばれたい。
耳元で囁かれ、俺は誘われるようにその名前を口にした。
「レイナント様」
名前を呼ぶと幸福に満ちた魔力が、零れ落ちてくる。
「あなたが好きです」
あまりに近い距離だから、団長の顔全体がよく見えない。
真剣な色の目が、彼の心を真っすぐ届けてくれる。
俺を、想ってくれているんだ。
嬉しい。けれど、ずっと疑問に思っていたことがするりと口から零れ落ちた。
「それって、魔力が合うからですか?」
その言葉を聞いて団長は柔らかく微笑んだ。
「それは大前提であり、切っ掛けにすぎません。私はあなたの人となりを知り、ルイ殿自身が好きになったんです」
「好き?」
「ええ。騎士としてでも、団長としてでもなく、そして魔力過剰症の助けとしてではなく」
ブルーグレーの瞳がゆっくり近づいてくる。
「一人の男としてあなたを愛おしく思っている、という意味です」
吐息が唇にかかり、一瞬だけ、昔の記憶が喉元までせり上がった。
けれど、触れているのは強引に俺から何かを奪う乱暴な手ではない。
俺を慈しみ、大切にしようとする優しく、気遣うような温かい掌。
緊張からか、指先が震えていて、それが俺の恐怖心を溶かしていく。
閉じることも忘れ、瞳に見入る俺の唇に柔らかい感触がした。
キスを、されている。
気付いたけれど、嫌悪感はなくて、ただ甘い。
「好きです。どうしようもないくらい、あなたが好きなんです」
優しく重なる唇から伝わる魔力が、団長の気持ちを伝えてくれる。
温かくて、優しくて、甘くて、痛い。
この湧き上がってくる感情の正体が俺にはわからない。
ただどうしようもなく、ドキドキが止まらない。
けれど全然嫌じゃない。
それどころか、団長を、もっと見たいとすら思った。
「レイナント様」
「はい」
「お顔を、見て、いいですか……?」
今は、俺が最初に魔力過敏症の後遺症を確認したのと同じ距離。
涙はすっかり止まって、今ならはっきりと見える。
あの時はキスをしそうな距離だと思ったけれど、今度は実際にした後。
同じ距離なのに、浮かぶ感情はまるで違っていた。
緊張と歓喜を含んだ彼の視線が、一つの感情も見逃すまいと注視しているのが分かる。
きっとレイナント様も、同じように期待と不安を抱えてこの距離に立っているんだ。
「ルイ殿……」
「ちゃんと見られたら。俺もルイって呼んで欲しい」
「はい」
返事をしたレイナントはゆっくりと離れていく。
視界一杯のブルーグレーの瞳が遠くなり、青銀色の前髪が零れ落ちる。
鼻筋、頬、口……。
大丈夫、心臓は激しくなっているけれど、これは嫌悪感ではない。
頬はキスの余韻で熱いまま。
指先はレイナントの服を強く掴む。
震えていた足も、今はちゃんと地面を踏みしめている。
すぐにでも抱きしめ合えるくらいの近さまで離れたけれど、あの荒れ狂うような拒絶は起こらない。
でも、まだ視界の中には、心配そうなレイナントの顔しかない。
その先にあるはずの『笑顔』を、俺はまだ確かめられていない。
「ねぇ、レイナント様。俺の名前、呼んでみて?」
「……ルイ」
「はい」
この人には幸せになって欲しい。
俺がこの人を幸せにすることができるなら、その手伝いをしたいんだ。
「レイナント様、笑ってください」
目が合ったまま頬に手を添えると、レイナントはゆるゆると幸せそうに微笑んだ。
ああ、あいつの笑い方と全然違うじゃないか。
温かくて優しくて、慈しみに溢れた笑顔。
もう怖くない。
ブルーグレーの瞳を真っすぐ見つめて俺は笑う。
「もう、大丈夫です」
「ルイ……っ!」
そのまま強く抱きしめられた。
「俺、恋愛とかよくわからない。でも、あなたを幸せにしたいなって思うんです」
柔らかい青銀色の髪を何度も撫でる。
「これからはあなたの誕生日を、毎年俺に祝わせてください」
「……ルイ、ありがとう」
レイナントから伝わる魔力は、どこまでも温かくて。
一緒に居たらいつか恋もわかるんじゃないかって思えた。
今はまだ体を駆け巡る感情に名前をつけられなくても、この気持ちを大事に育てていけばいい。
彼とならそれができる気がした。
――もう、大切な物を誰にも奪わせたりはしない。
俺はレイナントを強く抱きしめた。
俺は団長の顔が見られたことが嬉しくて、じっと横顔を見つめ続けてしまう。
やがて完全に日が落ちると、団長が静かに口を開いた。
「……私の出自の話は、誰かに聞きましたか?」
「はい、セリーヌさんたちに。すみません」
俺の視線に気付いている団長は、こちらを向くことなく、そのまま真っ直ぐ街並みを眺めたままだ。
謝った俺に対して大丈夫だというように、小さく横に首を振った。
「第五騎士団は皆知っているので構いません。前団長亡きあとしばらく空席だったところに私が就いたので、その時に必要なことは説明しました」
平民ばかりの第五騎士団に、侯爵家の三男が突然団長としてやって来たら、驚かない方がおかしい。
貴族の中では左遷扱いされている部署ではあるが、内部にいる貴族はかなり伸び伸びやっている。
実のところは、貴族社会に馴染めなかった人の逃げ場みたいになってるんだと思う。
話しておくことで、余計な警戒や勘繰りをさせないための配慮だったんだろう。
「隠すことではないですから」
団長の横顔には苦笑が浮かんでいた。
そして団長の口から直接語られる、彼の人生の一端。
産まれた時から魔力量が異常に多く、すぐに魔力を遮断するための窓もない隔離部屋が用意された。
一日数度、魔力遮断布で作られた服をまとった者にミルクを与えられる。
体温を通さないその服はたとえ抱かれても冷たいまま。抱かれているのに、ひとりきりのようだった。
温もりも知らず、成長と共に必要な教養などを教え込まれた。
「私が両親と二人の兄の顔を知ったのは成人した十五歳の時です」
「……そんな」
「私は貴族で、侯爵家の人間ではありますが、家族に対する情はありません」
少しだけ息を吐いてから、言葉を継いだ。
「特に次兄には、命を狙われていました」
「なんで!?」
「私の方が優秀だったんですよ」
そう言う団長の表情には感情の色が見えなかった。
隔離されていて気付かなかったけれど、団長は誰よりも秀でていた。
長兄はすでに家督を継ぐことが決まっていて、領地を運営任されていたからそれほどでもなかった。
けれど次兄は降って沸いた優秀な弟に居場所を奪われると密かに恐れた。
その恐怖が、やがて歪んだ敵意に変わっていった。
「食べ物に毒が入っていたり、暗殺もあったりで……」
「毒? 暗殺……、嘘だろ」
「貴族の家督争いではよくあることです。私は両親に庇われる立場でもありませんでしたから」
淹れられたお茶を飲んだ瞬間、喉が焼けるように痛くなって、そのまま意識が落ちたことがあった。
訓練用の剣に毒が塗られていたことも。
寝込みを襲われたのも一度や二度ではない。
「まぁ、有り余る魔力のお陰で助かりましたが……」
「魔力過敏症の方は、外からの魔力を拒む性質があるとは聞いていましたが……」
この世界は毒も魔力を含んでいるから、吸収されにくかったんだな。
孤立を強いられた力が、皮肉にも団長を助けてきた。
「解毒作用も麻痺解除もそれなりに出来るみたいです」
さらっと言っているけれど、一体何度命のやり取りをしてきたんだ。
しかも、殺そうとしているのは実の兄だなんて……。
言葉が出ない俺の前で、団長は淡々と話を続けた。
「せっかく繋いだ命をくだらない理由で奪われるくらいなら」
誰かを守るために使いたい。
そう思って自ら第五騎士団へ行くことを希望した。
何気ないことのように話す団長の表情は、酷く無機質だった。
この感情を押し殺した顔を「氷」と呼ばれていたのだとしたら、どれだけ悲しいことだろう。
言葉が喉につかえて出てこない。
「もう、狙われてはいないのですか?」
「第五騎士団に入ったことで、安心したんでしょう。たまに会ったときに嫌味を言われるくらいです」
まるで大したことじゃないみたいに言っているけれど、俺は悔しくて仕方がない。
この人が何をしたというんだ。
ただ魔力が多く生まれてしまっただけなのに。
苦痛に耐え、孤独を味わって生き抜いた人にしていい仕打ちじゃない。
本人の口から直接聞いた過去は、知ったつもりになっていたものよりずっと痛くて、喉の奥が焼けるような悔しさがこみ上げた。
「ルイ殿」
苦笑を浮かべた団長の指がそっと俺の頬を拭う。
濡れた感触がして、自分が泣いていることに気付いた。
「あれ……?」
「泣かないでください」
「ごめん、そんなつもりじゃ」
視界が涙でぼやけて、正面にいる団長の顔はよく見えない。
せっかく視線を上げられたのに……。
「私が誰かの涙を拭える日が来るなんて、夢みたいです。それがあなたのためにできることが、とても幸せです」
優しい指が頬を撫でる。
けれど、誰の温もりも知らず育った団長を思うと、涙が止まらない。
「困りましたね」
何度拭っても止まらない涙に、団長はため息交じりの苦笑を浮かべる。
けれど、それはどこか嬉しそうで、誇らしげだった。
「あなたに、私がどれだけ救われているかわかりますか?」
「俺は、あなたの助けになっていますか?」
「ええ、とても……。あなたに出会えてから私はずっと幸せです」
吐き出す吐息がとても近かった。
「あなたは、強くて、誠実で、真っ直ぐで……」
団長の手が俺の頬を撫でる。
「とても優しい……」
あまりにも甘い声色に、思わず聞き入ってしまう。
「私は、こんなふうに誰かに心を寄せる日が来るなんて考えたこともありませんでした」
「団長」
「名前で呼んでください、ルイ殿」
あなたの声で、呼ばれたい。
耳元で囁かれ、俺は誘われるようにその名前を口にした。
「レイナント様」
名前を呼ぶと幸福に満ちた魔力が、零れ落ちてくる。
「あなたが好きです」
あまりに近い距離だから、団長の顔全体がよく見えない。
真剣な色の目が、彼の心を真っすぐ届けてくれる。
俺を、想ってくれているんだ。
嬉しい。けれど、ずっと疑問に思っていたことがするりと口から零れ落ちた。
「それって、魔力が合うからですか?」
その言葉を聞いて団長は柔らかく微笑んだ。
「それは大前提であり、切っ掛けにすぎません。私はあなたの人となりを知り、ルイ殿自身が好きになったんです」
「好き?」
「ええ。騎士としてでも、団長としてでもなく、そして魔力過剰症の助けとしてではなく」
ブルーグレーの瞳がゆっくり近づいてくる。
「一人の男としてあなたを愛おしく思っている、という意味です」
吐息が唇にかかり、一瞬だけ、昔の記憶が喉元までせり上がった。
けれど、触れているのは強引に俺から何かを奪う乱暴な手ではない。
俺を慈しみ、大切にしようとする優しく、気遣うような温かい掌。
緊張からか、指先が震えていて、それが俺の恐怖心を溶かしていく。
閉じることも忘れ、瞳に見入る俺の唇に柔らかい感触がした。
キスを、されている。
気付いたけれど、嫌悪感はなくて、ただ甘い。
「好きです。どうしようもないくらい、あなたが好きなんです」
優しく重なる唇から伝わる魔力が、団長の気持ちを伝えてくれる。
温かくて、優しくて、甘くて、痛い。
この湧き上がってくる感情の正体が俺にはわからない。
ただどうしようもなく、ドキドキが止まらない。
けれど全然嫌じゃない。
それどころか、団長を、もっと見たいとすら思った。
「レイナント様」
「はい」
「お顔を、見て、いいですか……?」
今は、俺が最初に魔力過敏症の後遺症を確認したのと同じ距離。
涙はすっかり止まって、今ならはっきりと見える。
あの時はキスをしそうな距離だと思ったけれど、今度は実際にした後。
同じ距離なのに、浮かぶ感情はまるで違っていた。
緊張と歓喜を含んだ彼の視線が、一つの感情も見逃すまいと注視しているのが分かる。
きっとレイナント様も、同じように期待と不安を抱えてこの距離に立っているんだ。
「ルイ殿……」
「ちゃんと見られたら。俺もルイって呼んで欲しい」
「はい」
返事をしたレイナントはゆっくりと離れていく。
視界一杯のブルーグレーの瞳が遠くなり、青銀色の前髪が零れ落ちる。
鼻筋、頬、口……。
大丈夫、心臓は激しくなっているけれど、これは嫌悪感ではない。
頬はキスの余韻で熱いまま。
指先はレイナントの服を強く掴む。
震えていた足も、今はちゃんと地面を踏みしめている。
すぐにでも抱きしめ合えるくらいの近さまで離れたけれど、あの荒れ狂うような拒絶は起こらない。
でも、まだ視界の中には、心配そうなレイナントの顔しかない。
その先にあるはずの『笑顔』を、俺はまだ確かめられていない。
「ねぇ、レイナント様。俺の名前、呼んでみて?」
「……ルイ」
「はい」
この人には幸せになって欲しい。
俺がこの人を幸せにすることができるなら、その手伝いをしたいんだ。
「レイナント様、笑ってください」
目が合ったまま頬に手を添えると、レイナントはゆるゆると幸せそうに微笑んだ。
ああ、あいつの笑い方と全然違うじゃないか。
温かくて優しくて、慈しみに溢れた笑顔。
もう怖くない。
ブルーグレーの瞳を真っすぐ見つめて俺は笑う。
「もう、大丈夫です」
「ルイ……っ!」
そのまま強く抱きしめられた。
「俺、恋愛とかよくわからない。でも、あなたを幸せにしたいなって思うんです」
柔らかい青銀色の髪を何度も撫でる。
「これからはあなたの誕生日を、毎年俺に祝わせてください」
「……ルイ、ありがとう」
レイナントから伝わる魔力は、どこまでも温かくて。
一緒に居たらいつか恋もわかるんじゃないかって思えた。
今はまだ体を駆け巡る感情に名前をつけられなくても、この気持ちを大事に育てていけばいい。
彼とならそれができる気がした。
――もう、大切な物を誰にも奪わせたりはしない。
俺はレイナントを強く抱きしめた。
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