【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

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常駐ヒーラー編

34話 巡回に行くぞ(サイス視点) 閑話。団員たちの悲喜交々



「ねぇ……」
 暗闇の中にノアの声が響く。
 今日はいつもより早く寝袋に入れた。
 ほとんど疲れておらず、なんならまだ全然動ける。
 いつもならもっと遅くに疲れた体を横たえて、全員明日に備えて早々眠りにつくのだが、今日はまだ起きている者も多い。

「……なんだ?」
 誰も返事をしないから、隣に寝ていた俺が渋々相手をした──のだが、次のノアの言葉を聞いて、全力で寝たふりをしておけばよかったと心底後悔した。

「団長たち、今頃ヤってるかな」
「ぶはっ」
「おまえ!」
「それは俺も思ったけど」
「口に出すなよな!」

 あちこちから声が返ってくる。

 まぁ、俺も少しそんな考えもよぎったが、口にすることじゃないだろう!

「だってさー、団長のルイ先生への溺愛ぶり見たでしょう!?」
 言われて思い出すのは初めての表情や態度ばかり見せる団長の姿。


 魔力過剰症で、誰にも触れられなかった団長が、愛おしげに婚約者だと紹介した新しい専属ヒーラーのルイ。
 気さくで明るくて、真面目で、いい奴。
 試用期間中にルイと交流があった団員たちの総評はそんな感じだった。

 俺も同じ印象で異論はない。

 あのサラマンダー騒ぎで治療を受けたやつらは、すごくいいヒーラーだったとべた褒めだったしな。

 思えば最初からあの人は団長の特別だった。
 なにせ団長の愛馬、ケイナに乗せて二人乗りで駐屯地までやって来た。
 その後は腰を抱き、近づく者を牽制して、自分の物だと威嚇しまくっていた。

 そうして団員に、ルイは団長の特別な人だとしっかり根付かせてからの紹介。

 もうその時には誰もルイをそんな風に見ようとする奴はいなくなった。
 いや、だってそんなことをしたら氷漬けにされるのが目に見えるだろ。

 それ以上に、まるで「喜びなんてひとつも知りません」とでも言うような無表情だった団長が、彼の前では幸せそうに微笑むようになった。
 その姿を一度でも見てしまえば、ちょっかいをかけようなどと思う者は、この第五騎士団にはいない。

 私財も自分の身も投げ打って俺たちを支えてくれているあの人を、尊敬していない奴なんていないんだ。

「そりゃ自分の婚約者なんだから溺愛くらいするだろ」
「えー、でもサイスってば恋人のセリーヌといてもあんなじゃないじゃん」
 ノアが不満そうに俺を見る。
「俺たちは付き合って長いからな」
「結婚はしないのー?」
 おい、こっちに話を飛び火させるな。
 お前ら寝ろ、興味津々でこっち見るな!

「……結婚は、しねぇ」
「なんで?」
 無邪気にノアが聞いてくる。
 この素直さが若さってやつなんだろうな。
 こいつは確か今年十七歳。十五歳の時に孤児院を出なければならず、行く当てがなく第五に来た。
 団員の中でもかなり若い方だ。
 腕は立つが、空気が読めず遠慮がない。
 裏表がないせいでそれが嫌味にならないが、それでなんでもかんでも首を突っ込んでいいものじゃない。
「はぁ……」
 俺は大きなため息をついた。
 相手に踏み込みすぎたら気まずい思いもするのだと、教えてやるのが大人の役目ってもんだろ。

 だからどうして俺たちが『結婚しない』選択をしているのかを話してやることにした。

 少し昔話になるが──。
 俺はそう前置きをして俺たちの話をし始めた。
 恋仲になったのは入団して二年目くらいか。その年に前団長が魔獣にやられて団長が不在となった。

 一応貴族が団長に立つ決まりとはなっているが、元々下位にいるような貴族籍だけ持っている者では駄目だ。
 それなりの爵位を持ち、王の承認により認められた人間でなければならない。
 腕が立っても平民ではその地位につくことができない。

 ただでさえ、ここは左遷場所なんて揶揄されているのに、空いているからとそのポストに座りたい貴族なんていないんだ。

 残った俺たちにしてみたって、適当なやつに座られても困る。
 平民が多いこの騎士団に団員たちがしがみつくのは、家族や、自分の居場所を守るためだ。
 戦うことしか能がない人間。
 俺みたいなのにとって、決まったそれなりの給金が出るここは、唯一の安定した生き方だからな。

 おっと、話が逸れた。
 ともかく、そんな事情もあって、団長不在のまま戦ってきた。
 当時の第五は、副団長すら団長より前からずっと空位で、残った団員たちで何とか魔獣と戦ってはいたが、疲弊しきっていた。
 そこへ今の団長が来るって辞令が出た時は、騎士団内部が騒然としたな。

「前の団長ってどんな人ー?」
「熊みてーな人。伯爵家の方でな、貴族社会が肌に合わなかったんだと」
 豪快な人だった。山賊といっても信じられてしまうような風貌で、それはお上品な貴族社会には馴染めなかっただろうと納得できた。
 伯爵家とはいえ、本家筋じゃなかったし。
 実家から金を引っ張って来るようなタイプでもねぇ、自分の給料で飲み代と装備代を賄うので手一杯だった。
 騎士を天職だなんて言い、豪快に笑ういい人だった。

 あの人を知っている団員はもう少ない。

 次の団長は変なやつではないように。
 せめて団員を大切に扱ってくれる人がいい。
 そればかりを願っていた。

 実際に来た貴族はあり得ないほどの美貌と、とんでもない魔力を持った逸材だった。
 なぜこんな男がこんなところに。
 何をやらかしたんだと、疑心暗鬼の俺たちに、その男は事情を包み隠さず話してくれた。
 家族に命を狙われ、無駄に死ぬよりも。誰かを守って生きたい。
 信用するかしないかは俺たちに任す。自分の行動を見て決めてくれと。
 その切実な目に俺たちは新しい団長を受け入れた。

 それからの団長の行動は俺たちを驚かせてばかりだった。

 同時にやって来た副団長がまたやり手で、粗末だった訓練場や、ぼろかった寄宿舎を改装し、備品の手配をしてくれた。
 予算もないのにどうやってと思っていたら、団長が実家から「個人の生活費として」与えられる金を、ほとんど全額第五騎士団へ注いでくれていた。
 これが精いっぱいだと悔しそうに言っていたけれど、その金額はかなりのもので、侯爵家の財力と、団長の懐の広さを思い知らされたよ。

 見る間に整っていく駐屯地に、団員たちは感謝と尊敬の念を新たにする。
 そして樹海に行き戦えば、その高い戦闘力に圧倒された。

 一年も過ぎれば、俺たちの団長はあの人しかいないと誰もが認めた。
 これからこの騎士団は良くなっていく。
 そんな第五を離れる選択肢なんざ、俺とセリーヌの中には最初からなかった。

「俺とセリーヌが結婚したら、二人も抜けることになるだろ」
 家族ができたら、俺ももっと安全で安定した仕事を探さなきゃならなくなるかもしれない。
 子どもができたらセリーヌは今のようには働けない。
 当時は一人しかいなかったヒーラーを、俺たちの都合で奪うわけにはいかなかった。

 俺たちの意思は最初から同じで、この考え方が合うところも惚れた理由の一つだ。

「……」
 そう言えば、からかい半分だったノアが申し訳なさそうに顔を俯かせた。
 俺はふわふわのヒヨコみたいな金髪頭を力いっぱい撫でまわす。

「痛っ、痛いよバカ力!」
「ガキなんざおめーみたいな若い奴を育ててりゃ十分なんだよ」
 俺もセリーヌもそれで納得している。
 第五騎士団はもう俺たちにとって家族で、その家族のために身を尽くせるのは幸せなんだ。

 俺たち二人の幸せは、もっと年を取ってからでいい。

「えーじゃあ、サイスをお父さんって呼ぶべき?」
 しんみりした空気をノアがまぜっかえし、他の団員が笑い出す。
「やめろ。父親役は団長だろ」
「やーだよ。婚約者連れてさっさと部屋に引っ込む親なんて、絶対やだー」
 ノアの叫びに団員たちがノっていく。
「でもなー。あの団長だぞ? 手ぇだすかぁ?」
「団長も男だ、ヤるときゃヤるだろ」
「想像できねー」
「そもそもルイ先生が鈍そう」
「わかる!」
 またワイワイと騒ぎ出す。ノアはこういう空気を作り出すのが上手いんだ。
 それを褒めたら調子に乗るから言わないが。

 っていうか、全員起きてんのかよ。

「おら、お前らもう寝ろ! 明日の朝寝坊なんてしたら蹴飛ばすぞ」
「ひぇ」
「おやすみなさーい!」
「明日の朝になればわかるかー」
「ちょっと楽しみだな」
「ルイ先生の顔は見るなよ、たぶん凍らされるぞ」
「りょーかい」

 もぞもぞと寝袋に潜り込む音がして、やがて寝息が聞こえて来た。

「はー、手が焼けるガキの世話で忙しいな」
 わざとらしく独り言を呟いて、俺も寝袋に潜り込んだ。



 翌朝、ご機嫌な団長と、いつもとあまり変わらないルイの様子に、どちらが正解か揉めて焦れたノアが、ワクワクしながら突撃していく。
 そして。
「昨夜はお楽しみでしたか?」
 なんて直球で聞きやがった。
 顔を真っ赤にしたルイと、初めて見る圧のある笑顔でノアを説教する団長の姿は、中々見ものだった。
「上官とその婚約者に向かって言っていい冗談と悪い冗談があります。あなたはそもそも日常的に……!」
 副団長そっくりの叱り方で、そこに座りなさいから入った説教は続いていく。

 な? 踏み込みすぎると痛い目に遭うって知れただろ?

 だが、叱られても悪びれないノアを見ていると、またやるんだろうなと思う。
 反省の態度が見えないノアに、団長の説教が止まらない。
 このままじゃいつまで経っても朝飯にありつけないじゃないか。

「……はぁ」

 しょうがないからフォローでもしてやるか。

 俺はルイに団長を朝食に誘ってやってくれと耳打ちして、助け船を出してやった。

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