【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

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常駐ヒーラー編

35話 巡回に行くぞ(5)


 ノアの説教で大幅に時間を取られ、バタバタと支度を整え、次の野営地に向かって馬を進める。

 っていうか、ノア君。俺たちの顔を見て開口一番「昨夜はお楽しみでしたか」ってなんだ! どこでそんなの覚えて来たんだ。

 やましい事しかなかったから取り繕えなくて真っ赤になってしまったじゃないか。
 ニヤニヤする団員の視線がとても痛かった。
 でも実際ちょっと色々してしまったから後ろめたくて文句も言えない。
 ぐぬぬ……。
 昨夜のことを思い出しては顔が火照りそうになるのを、無理やり仕事モードで押し込める。

「ルイ、どうしました?」
 前を向いたまま唸る俺へ、心配したように声をかけてくれる。
「なんでもないです」
 ちょっと色々恥ずかしかっただけで……。

 今日も変わらず支援魔法をかけて、みんなの様子をチェックしていく。
 今進んでいる道は中層との境界線に沿って敷かれたもので、向かって右が中層、左が浅層になっている。
 当然警戒は右へ集中するけれど、基本的に全方向から魔獣は襲ってきた。

 俺たちはテリトリーに入り込んだ侵入者であり、奴らにとってはおいしい獲物なんだ。

「全員の防御強化が切れそう。かけ直し……次に体力持続回復。筋力強化はまだ大丈夫、魔力強化は次の防御強化と同時更新でいいな」
 俺の魔力は銀糸のマーカーを伝って、それぞれの団員へ順番に馴染んでいく。
 何度も使っていると感覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。
 やっぱり頭で考えるより体で覚える方が俺は得意だ。
 支援魔法はかける人数が多くなれば、その分ひとりに回る魔力は薄くなって、バフの時間は減る。
 三十人分は初めてだから感覚が分からなかったけれど、ようやく体感で残り時間がわかるようになってきた。
「っ!? ヒール!」
 魔力の糸のひとつが引っ張られるようにぐっと重くなったのを感じて、反射的にその先へヒールを飛ばす。
 空色の魔力が繋がっている銀糸を通って、先端の団員へ注ぎ込まれた。

 後方から「すげー、治ってる!」とはしゃぐ声が聞こえる。
 重症だったら体に直接手を当てて治療しなければ効果が低くなるけれど、かすり傷程度ならこれで十分だ。

 次に引っかかる手応えは大きめの衝撃。
 今のは少し深い傷だ。
 少し多めに魔力を込めてヒールを飛ばす。
「ルイ先生、ありがとう!」
「お礼とかいいから気を付けて!」
「了解っす」
 やるほどに慣れていくのを感じる。
「うん、わかるな」
 それと同時に小さな振動。
 これはかすり傷。

 相手が誰かを認識する必要はない。怪我をした相手へ回復を飛ばせればそれでいい。
 さらにもう一つ小さな振動があった。
「ヒール!」
 二つの魔力の先へそれぞれの傷に合わせた治癒を飛ばす。
 意識を研ぎ澄ますと見える銀色の魔力の糸に空色が絡み伝って、届いたのを感じる。
「血が止まってる!」
「痛みがねぇ!」
 驚く声に段々楽しくなってくる。
 けれど、やっぱり怪我はして欲しくない。
「治癒はしますが、無茶はしないでくださいね!」
「りょーかい」
「善処します!」
 俺の声に、あちこちから返事が返ってくる。

「あなたのお陰で今回は士気が高くて助かります」
「みんな凄いですね。俺、ついてこられてよかった」
 強いとは聞いていたし、訓練も見ていたけれど、実戦は桁違いだった。
 剣を振る軌道は俺の目には追えないし、魔法の発動も早く、狙いも正確。
 これが戦う第五騎士団の実力なんだって知った。

 戦う現場を直に見られて本当に良かったと思う。

 

 見張りを立てて素材の剥ぎ取りをする間に一息ついた。
「ルイ、水をどうぞ」
「ありがとう」
 レイナントから差し出される水筒に口をつける。
 俺は移動中ケイナから下ろしてもらえないけど、この方が安全だから仕方がない。

 だって、俺には戦う力がないから。
 癒しの魔力は攻撃に向かない。他者へ危害を加えることが出来ないんだ。
 出来てもせいぜい相手を弾く程度だって、教会でも散々言われてきた。
 
 後は物理で殴るという最終手段があるんだけど、剣の才能は、皆無だった。
 うん、一応さ、出来るかなって見て貰ったんだけど。
 何度か素振りを見た騎士のみんなにはそっと視線を逸らされた。
 その反応で全てを察したね。
 泣かないよ……男の子だもん。
 代わりに、出来ることを全力でやるんだ。

 戦えないことに少し落ち込んでいたら、レイナントに後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「あなたを連れてきてよかったです。いつもならここで三割くらいの団員が怪我を負っているところでした」
 この魔獣の数で三割で済んでいるのをすごいというべきか、ヒーラーがいないのに進まなければならない厳しさを憂うべきなのか判断に迷う。
 でも、今回は俺がいるんだから存分に活用して欲しい。
「絶対役に立つって言っただろ、って思ってるけど……実際はこうやって守ってもらってるから、あんまり偉そうなこと言えない」
「何言ってんの、先生が無事で俺らが何度でも治療してもらえるなら、いくらだって守るよ!」

 向かってきた一抱えもあるようなクモを切り落とすノア。

「そもそもルイ先生がいてくれるだけで、快適に狩りが出来るってもんです」
 大弓から放たれた黒い魔力矢が分かれ、枝から飛びかかって来るサルっぽい魔獣の頭を三体同時に貫く。
 弓は基本魔力矢で、それが効かない相手に対して初めて物理矢を使うんだって荷造りの時に教えてもらった。
 知らないことが多いなぁ。

「おー、サイスさんすごい」
「このくらい余裕です」
「ルイ……、私は褒めてくれないんですか?」
 確かに氷の矢のオートタレットで一番倒してるのはレイナントだけど。
 拗ねるように腰に回す腕に力が入ったので、あやすようにその手を軽く叩いて褒める。
「団長が一番強いですね」
「そうでしょう?」
 子供のように喜ばれると悪い気はしない。

「はー、イチャイチャしないでくださーい」
「蜜月なんですからこのくらい大目に見てください」
「団長の口から蜜月とか出たぞ」
「俺もうルイ先生が来る前の団長思い出せねぇ」
「俺も……」
 軽口に、俺は苦笑しながらも前衛の傷をざっと確認し、支援を張り直す。
 レイナントはすでに視線を前方へ向けていて、氷の矢を次々と生み出し放つ。
「口より手を動かしなさい」
「油断してした怪我は治癒しませんよ」
「ヒェ、団長も先生も厳しい」
「気を付けまーす!」
 団長の一声で空気が締まり、一気に討伐が進んだ。

 二か所目も建てられている位置が少し違うだけで建物自体は同じだ。
 剥ぎ取ったり採取した素材を選り分けて、積みかえたりして時間は過ぎていく。
 途中で持っていけなくなったものは選別して置いて行き、別の巡回の時に回収していく。

 前の団長さんの時は整地してテントを持ち運んでいたけれど、レイナントが団長になってから新しくこれらは建てられたんだって。
 以前は強い魔獣の血液から作った薬液を撒いて、一晩だけ魔獣除けにしていた。
 野営地の建設も、その魔獣除けも、レイナントが団長になってからの改革だ。

 今日は移動中に治癒をしたからか、キャンプでの怪我人はなし。
 段々支援魔法と治癒の仕方の要領が分かってきた。
 これからもちょくちょく訓練に付き合ってもらえば、いずれ団員全てのバフを管理できるんじゃないかって希望が出てきた。

 ただ、さすがに一日中バフの管理と回復をしていたら疲れた。
 慣れればもっと楽になるかなぁ。

 夕食を食べて、ベッドへ転がっているうちに俺は眠ってしまった。
 朝起きたら体はきちんと拭かれていたし、下着まで着替えさせてもらっていて、さすがに恥ずかしさと申し訳なさで次から起こして欲しいと頼んだ。

 でも、いい笑顔だけを返されてしまったので、たぶん次もお世話されてしまう気がした。
 嬉しいような、くすぐったいような、ちょっとだけ悔しいような。
 やっぱりもうちょっと体力つけよう。




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