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常駐ヒーラー編
37話 久しぶり我が家?
巡回任務は大成功。
戦利品もいっぱいで、「今回の収益は期待していいですね」と副団長もリストを作りながら笑みを浮かべていた。
結構置いてきたものもあるから、その場所と内容物は別書類で渡してある。
誰も怪我もなく、日程が延びることもなく戻ってきたのは初めてで、他の団員がどうやったのだとしきりに参加者へ詰め寄っていた。
みんな俺を見ながら秘密だと、ニヤニヤして答えない。
別に秘密じゃないんだけど、なんとなくしゃべってしまうのがもったいないみたいだ。
「そのうちわかる」
最年長者のサイスにそう言われてしまうと、それ以上の追及を諦めた。
ノアなんかは「ひっみつー!」と楽しそうに何処かへ行ってしまった。
君、まだ報告残ってるでしょ。
後で叱られても知らないぞ。
って思ってたらサイスがちゃんと捕まえてくれた。
よく見てるなぁ。
レイナントは副団長と報告があるからと執務室へ行ってしまい、俺は荷ほどきを終えた荷物を抱えて汚れ物なんかの片づけを始めた。
そうしているうちにあっという間に夕方になってしまった。
旅行帰りの片づけってやっぱり大変だ。
この世界って、前世みたいな気軽な旅行は簡単には出来なくて、住んでいる場所から外へ出る時は基本的に命がけなんだ。
魔獣は出るし、盗賊だって襲ってくる。
サッと行ってスッと帰るみたいな、お手軽旅行は余程のお金持ちじゃないと無理なんだよね。
だからこの感じすごく久しぶりだ。
ようやく引き受けたレイナントの分まで片付けが終わり、食堂へ行くと俺を見つけたユリウスとセリーヌが駆け寄ってきた。
「ルイ兄、おかえりー!」
「お帰りなさい、ルイ」
「ただいまー!」
抱き着いてくるユリウスを受け止めて、セリーヌへ笑いかける。
「みんな無事だよ」
「知ってるわ」
「さすがルイ兄!」
二人からの信頼がくすぐったいけど嬉しい。
そしてセリーヌが声を潜めて俺に聞いてくる。
「アレ、どうだった?」
「バッチリ」
俺は親指を上げてサムズアップする。
二人とも支援魔法の練習に付き合ってくれたから、報告しなきゃ。
「練習と検証に付き合ってくれてありがとう」
「いいえ、アタシにももっと魔力があれば手伝えたのに」
「もう少しボクも訓練したら行けるようになるかなぁ」
ユリウスはあと三年くらいしたら一緒に行ってもいいかもな。
「ユリウス君、これからも俺と一緒に訓練して体力つけよう」
「うん!」
頷くユリウスの頭を撫でると、嬉しそうに笑う。
「訓練次第では、一部隊くらい持てそうだよ?」
支援魔法はコツを掴めば、魔力の消費をかなり抑えられることが分かった。
だから魔力量がそこまで多くなくても、一部隊分くらいなら維持できるはずだ。
「え、本当?」
「ボクでも?」
「うん。みんなの怪我も減るし、支援をかけた後は魔力回復に集中してればいけそう。全軍出撃だと、ひとりで全部見るのはギリギリだって実感したからさ」
ユリウスとセリーヌに支援魔法をある程度分担して貰えれば、俺の魔力は治癒に割ける。
「まずは一種類。そうだな、支援は三人で分担して、ユリウス君が魔法強化(マジックブースト)、セリーヌさんが筋力強化(ストレングス)を覚えてくれたら担当分けがしやすそう」
俺は防御強化(プロテクション)と体力持続回復(リジェネ)を担当する。
それぞれ今までやってきた得意分野の延長だから、多分一番覚えやすいはずだ。
セリーヌは身体強化の感覚がわかるだろうから、筋力強化は習得しやすい。
ユリウスは繊細な魔力操作が得意だから魔法強化が扱いやすいと思う。
そう提案したら二人とも目を輝かせて頷いた。
「うん、やってみるわ」
「ボクも!」
サラマンダーの時のような大規模討伐になれば、否応なくついていくことになる。
その時、出来ることはひとつでも多い方がいいもんな。
二人ともやる気に満ちていて、俺はとても頼もしく思った。
夕食を終えると、資料室へ行き、メモ書きを図鑑に書き加える作業をする。
自分の字で新たに足された情報を見ると、改めて第五騎士団に入ったんだと感慨深い気持ちになった。
「……ルイ、ここにいたんですか」
突然開いたドアから顔を出したレイナントが俺を見つけて、安堵の息を漏らした。
「部屋にもいなくて、探しましたよ」
「ごめん、すぐ戻るつもりだったんだけど」
時計を見れば遅い時間だった。
知らない間に没頭してたみたいだ。
「部屋へ戻りましょう」
「うん」
図鑑を本棚にしまって、立ち上がる。
「荷物の片づけを任せてしまってすみません」
「いいよ、だって俺婚約者だし」
「使用人を雇う余裕がなくて申し訳ない」
甲斐性がないですね、とレイナントは落ち込む。
「使用人なんて気を遣うからいらないよ? 俺一般的な家事くらいなら出来るし」
この間まで料理以外は、だったけど、それも割と早めに克服できるんじゃないかなって思う。
「二人でやれるなら、別にそんなのいらないだろ」
呼び捨てでいいと言われてから、何となく敬語も取れてしまっているけれど、レイナントは嬉しそうだ。
「そうですね」
「ところで、レイナントはいつまで俺に敬語なんだ?」
「これはもうしゃべり方の癖なので、見逃してください」
「……グラン副団長には砕けた口調で話すのに?」
自分でも分かるくらい、声が拗ねていて、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
恋愛なんて分からないって思ってたのに、最近は自分でも感情の名前が分かることが増えてきた。
これ、完全にヤキモチじゃん。
顔が熱いっ。
「……い、今のなし」
「妬いてくれたのですか?」
念を押さないで!
「う、そう……たぶん」
「ルイ……っ!」
嬉しそうにレイナントが俺を抱きしめる。
だって、グラン副団長に対してだけ、何だか親しげなんだもん。
悔しいじゃん。
そんなことを思っている俺の心はやっぱり筒抜けみたいだ。
「私の一番はいつだってルイですよ」
欲しい言葉をすぐくれる。
耳元に口づけられて、ぞくりとした快感が背筋を駆けた。
「ひゃっ」
勝手に声が出てびくりと体が震える。
なんだか、この間触られてから、妙に敏感になった気がする。
俺に、レイナントの熱い視線が注がれているのが分かった。
「ルイ」
低く色っぽい声が耳をくすぐる。
「何?」
「今日、しませんか?」
「……はい」
頷いて、俺は今更だが何の知識もないことに気付く。
「あのさ、俺、何したらいいかわからないんだけど……」
前世でされた行為の後は、恐ろしくて一刻も早く忘れたかったから、それ以上、思い出そうとすることすらできなかった。
でも、レイナントとはしたい。
けれど、この世界ではそれらの知識を得る手段がわからない。
だって教本も、ネットも、ない。
行きつけの本屋だよ? 俺の顔、知られてるもん。恥ずかしいじゃん。
結果、何の知識がないまま本番を迎えてしまった。
しどろもどろの俺に、レイナントは嬉しそうに笑ったまま俺を見つめている。
「全部私に任せて頂ければ」
「いいの? それで」
「はい」
幸せそうにレイナントが頷く。
「じゃあ、お任せします」
「了解しました」
腰を抱くレイナントの手に力が籠り、俺は彼の部屋へ足を踏み入れた。
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