【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

文字の大きさ
46 / 55
第二騎士団ヒーラー編

46話 嵐来る3



 目を覚ましたらもう夜中だった。
 俺の掌が温かい。伝わる温かい魔力はレイナントのものだ。
 視界を巡らせると淡雪のような青銀色の髪が見えた。
「……レイナント」
「ルイ!」
 ここは俺たちのテントの中にある簡易ベッド。
 低い位置にあるそれのすぐ傍にはレイナントが地面に敷かれたマットへ直に座り、俺の右手を祈るように両手で包んでいた。
「具合は? 体調はどうですか」
「ん、大丈夫。ずっと魔力を流してくれてたんだな。ありがとう」
「いいえ、申し訳ありません。私の身内が……」
「レイナントの身内だけど、あの人とレイナントは全然関係ないよ」
 起き上がった俺はレイナントを抱きしめる。
「ルイ……」
 背中に回った腕が俺を包み込む。

「あなたの魔力が乱れた時は、本当に焦りました」
 サイスに現場を任せ、我を忘れて駆けていました。
「間に合って、よかった……」
 レイナントの声は震えていた。
 あの男を思い出すだけで、まだ嫌悪感に身が竦む。
 でも、ここにレイナントがいる。
 だから、もう大丈夫だって思える。
 
「明日から、私のそばから離れないでください」
 第五で、身分的にあの男に対抗できる人はいない。
 護衛の騎士さんたちだって必死に庇ってくれたけど、侯爵家の人間へ先に手出しは出来ない。
 そんなことをすれば、たとえ向こうが悪くても、処罰の対象となってしまう。
 俺のせいで誰かがいわれのない処罰を受けるなんて絶対に嫌だから、素直に頷いた。
 それと同時に思い出される、あの粘着質な視線が頭から離れず、体の震えが止まらない。
 あの男は、自分の思い通りにするためには手段を選ばない、春樹と同じ種類の人間だ。
 それはもう十分に理解していた。

「ねぇ、レイナント」
「なんですか?」
「少しだけ、触ってくれない?」
 あの男の視線が絡みついた感覚を、上書きして欲しい。
「はい」
 そんな俺の意図を察して、レイナントは唇を重ねながら俺をベッドへ寝かせた。

 甘やかすように丁寧な愛撫が俺を高める。

 何度か絶頂させられて、そこでやめようとしたレイナントにせがんで、体を重ねた。
 ゆっくりと、丁寧に。
 癒すように行われる行為に、ようやく固まってしまった心が解れていく。

 そうして一度だけ交わって、体を離すことなく重ねるだけのキスを繰り返す。

「ルイ、私は何があってもあなただけは手放せません」
「うん、俺も。レイナントは誰にも渡さない」
 互いの体温を確かめ合いながらキスをしていると、ゆっくりと気持ちと呼吸が落ち着いていく。
 やがて、少しだけ唇を離したレイナントが俺を真っすぐ見つめる。
「もう私は、アレを兄と思うのはやめます」
 レイナントは今この瞬間、あいつを見限った。
 鋭いブルーグレーの瞳は敵に対峙した時のように鋭く、こんな時なのにときめいてしまった。
「あなたを失うくらいなら、この手を汚す覚悟です」
 今までも情はなかったが、それでも家族の体裁として自分から手を出すことはしなかった。
 けれどこれ以上大切な物を奪うなら容赦しないと、その瞳がまっすぐ俺を射抜く。
「レイナント一人じゃない。俺も同じ気持ちだ。何があってもレイナントと一緒に居たい」
 手を取って握ると体を強く抱きしめられた。

 俺たちはもう互いを無くして生きていけない。
 それが交わる魔力の強さで感じられた。




 目が覚めて、レイナントの腕の中にいることに幸せを感じる。
「おはようございます」
「おはよ」
 触れるだけのキスをして体を起こす。

 まだ完全に日は出ていないけれど、俺たちは支度を始めた。

 だって、こんなところにいつまでもいられない。

「鼻っ柱どころか、全てをへし折って帰りましょう」
「ああ、やられっぱなしじゃ気が済まないからな」
 とりあえず、二度と第五に関わりたくないって気持ちを味わわせてやる。

 あの粘着質な濃いグレーの瞳を思い出すだけで身が竦む。
 けれど負けたくない。
 もう何も諦めたくない。
 手に入れた全てをひとつも手放したくないんだ。

 高い位置で髪を縛ると気合が入る。
 長い髪はめんどうくさいけれど、これが俺にとってのスイッチの代わり。
 だからずっと切らないんだ。
 貰った白とブルーグレーの組み紐で飾ると、レイナントに守られている気持ちになる。

「よし!」
 最後に両手で頬を叩くと、すぐそばで笑う音がした。

「ルイ、気合を入れるのはいいですが。赤くなってしまいます」
 優しく手を掴まれて頬を撫でられた。
「今日、決めてしまいましょう」
「うん!」
 並んでテントを出た。

 外にはもう団員たちが支度を終えて、思い思いに体を温めていた。
 俺たちが近づくと、指示も出さないのにサイスを先頭に整列する。


「今日でこの煩わしい任務を終わらせる。私たちのヒーラーに手を出した第三を許す気はない」
 レイナントの言葉に、団員たちは武器を握る手に力をこめる。
 俺が倒れたことはユリウスとレイナントを通じて団員全員に伝わっていた。

「ルイ先生に手を出したなんて許せない」
「俺たちを怒らせたらどうなるか、教えてやりましょう」
「二度とこんな応援要請なんて出来ないようにしてやる!」

 物騒な笑みを浮かべて殺意マシマシの団員たち。
 そのせいか、今まで以上の結束力が生まれているのが分かる。
 俺のためにこんなにも怒ってくれる人がいる。
 それがすごく嬉しくて、腹の底に張り付いていた恐怖心が少しずつ薄れていく。

「情けないところ見せちゃってごめん。でも、もう大丈夫。早くこんな任務終わらせて、家に帰ろう?」
 俺の言葉に雄たけびのような歓声が上がった。
 レイナントが俺を見て嬉しそうに目を細め、俺も微笑み返す。

 団員たちは配置につくため散っていき、冷めない熱気だけがそこに残る。

 朝日が少しずつ差し込んで来て、熱気を煽っているようにも見える。

「ルイ兄、もう大丈夫?」
 呼ばれて視線を向ければユリウスがすぐそばに来ていて、目が合うと泣きそうに顔を歪めて抱き着いてきた。
「うん、心配かけてごめんね」
「ボク、何もできなくて」
「大丈夫だよ、ヒールかけてくれてありがとう」
 ユリウスがかけてくれたヒールの温かさを覚えている。
 俺を思う優しい気持ちが伝わってきて、真っ暗なところまで沈まずに済んだ。
 褒めるように赤茶色の柔らかい髪を撫でると、ふにゃりと嬉しそうに笑う。

 そんな俺たちの様子を見ていたレイナントは、配置についた団員へ魔力を使って声を届ける。

「ヒーラーは今日、俺たちと一緒に戦う。絶対第三の奴らを近づけさせるな」
「ハッ!」
 切れのいい声と敬礼の音が響く。
「行くぞ」
 レイナントの声に団員たちが武器を構えた。

 すぐに朝日が昇り、辺りを照らし始める。

「狩るぞ!」
 レイナントの声と同時に団員が一斉に走り出した。

「おお、すごいな」
「みんなつよーい」
 支援魔法は昨日と同じようにかけてはいるんだけど、全員の士気が高いせいか効果が倍増しているように見える。
 戦線は昼を過ぎる頃には第五の担当区画の水際まで迫り、上流側を進んでいる第三はまだ半分も進んでおらず、完全に追い抜かれた形になっていた。
 本来は三日ほどで大河から上陸するダートフロッグは尽きて、残党処理に二日を費やすのが恒例だ。
 でも、今回は俺たちの支援魔法がある。

 魔導士と弓兵はレイナントのそばにいる俺たちを守るように周辺を離れない。
 射程を維持しながら誰も近づけさせないという気迫を感じる守られ具合。
 気恥ずかしくも感じるけれど、嬉しくて。
 胸の奥が温かくなる。

 俺は独りじゃない。
 確かに、ここに居場所がある。

 もう何も奪わせない。

 



 

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。 なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。 ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。 とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。 だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。 なんで!? 初対面なんですけど!?!?

過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」 製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。 しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。 ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。 「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」 真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。 師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。 「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」 これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!