【完結】イケメンが怖い俺を、氷の騎士団長が優しく溶かしてくる話

中洲める

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第二騎士団ヒーラー編

47話 嵐来る4




 昼を過ぎるころ、第五が担当していた下流にはもうダートフロッグはおらず、川の中や上流側へ弓兵と魔導士が無差別に矢や魔法をぶち込んでいる。
「オラオラァァ!」
「これで終わりだぁぁ!」
 川の中にいるだろうダートフロッグへ憂さ晴らしのように、どっかんどっかん気前よく大技が撃ち込まれていく。
「終わった後、地形変わってそう」
「不都合なら第三が金を出して整えればいいんです。知ったことではありません」
 いいながら一番大技を撃ちこんでいるのはレイナントだ。
 さっきからでっかい氷の刃が次々と大河の中へ打ち込まれていっている。
 騎士と一部の魔導士は上流から零れ来るダートフロッグを狩りながら、第三の団員へ嫌がらせのような誤射や攻撃をしてどんどん戦線を押し上げて行く。


 ノアが切ったダートフロッグの断片を、第三騎士の顔に当たるように調整して勢いよく飛ばす。
「おっとぉ、手が滑ったぁぁ(棒読み)」
 見事、顔に直撃して泥だらけにする。
「すみませぇぇん、ヘタクソなものでぇぇ」
 そして煽るような笑みを浮かべて心の籠ってない謝罪をした。
「このっ!」
 怒りの表情で剣を振り上げ向かって来ようとするその足元に、魔法矢が連続で五本突き刺さる。
 それは足元を横切ろうとしていたダートフロッグを貫いていた。
 驚いたその貴族はバランスを崩し、泥の溜まった地面に尻もちをつく。

「ああ、申し訳ない。ソレがせっかくきれいにしたこっち側に流れてこようとしたので」
 涼しい顔でサイスがまた大弓を構えて矢をつがえたのが見えて、襲い掛かってこようとしていた周りの騎士が剣を降ろしたのが見えた。
「ああ、第三の方々はずいぶんのんびりしていらっしゃいますねぇ。お手伝いがいりますか?」
 お手伝いに強めの発音をしたキールがダートフロッグの集団に稲妻を走らせる。
 その際少しだけ騎士たちを掠めていくのを忘れない。
 悲鳴を上げて逃げ惑う第三の団員を見る第五の団員はみんないい笑顔なのに、こめかみに青筋が浮いている。

 今まで好き放題使われてきた鬱憤をここで晴らしていけばいいよ。

 俺は後方腕組みをしてみんなの活躍を見守る。
 俺の仲間、頼もしいなぁ。

 戦線はどんどん北上していき、第三は隅へ追いやられていく。
 その間にも第三はちびちび嫌がらせをしようとして、返り討ちにあうを繰り返している。
 実力はない癖にプライドだけは高いせいか、自分たちの負けが認められないんだ。
 本当に懲りないなぁ。

 呆れたように見ていたら、遠くに見たくもないピンクブロンドが見えた。
 俺は咄嗟にレイナントの陰に隠れる。

 かなり遠いのに、真っ直ぐ俺へ視線を向けて来ているのがわかるのが、なんとも気持ち悪い。

「調子に乗るな、この雑魚どもがぁぁ!」
 耳に届くあの男の声は魔力を込めた波動。

 それと同時に巨大な火柱がこちらへ向かって突き進んで来る。

 明らかな、殺意。

 騎士たちが素早く下がる。

「炎ならサラマンダーに散々浴びせられたからなぁ」
「あれより温いんじゃねぇの?」
 怯まず、安全圏までからかうように逃げて行く。

「死ねぇ!」
 ピンクブロンドの声に合わせ、さらに重ねるように地面から炎が吹きあがった。

「いい加減にしろ!!」
 レイナントの声と同時に炎が凍り付いた。
 そしてそれはダートフロッグが残っているエリアに広がり全てを凍り付かせる。

「これ以上のお付き合いは致しかねます」
 冷たい声と右手を横へ振れば凍ったダートフロッグが全て砕け散る。
 川辺に溢れていた魔獣はそれで全て一掃されてしまった。
「第三騎士団の皆様はずいぶんのんびりと討伐されていたので、川辺の残党は少々お手伝いをさせていただきました」

「この、平民ども……っ」
「その平民にも劣る働きをしているあなた方は何者だというのです」
 怒りで真っ赤を通り越して黒くなったピンクブロンドの叫びを、レイナントのよく通る低い声が遮る。
 レイナントは右腕を真横に伸ばし、指を握り込むと、近くに立っていた氷の柱が一斉に砕け散った。
「……ひっ」
 飛び散った破片が頬をかすめ、指で拭った先についた赤色を見て、男は悲鳴をあげた。

「第五騎士団、第三騎士団からの応援要請を完遂。帰還します」
 有無を言わせぬ宣言をして、俺の肩を抱いて踵を返した。

 第五騎士団はそれに追従して後ろを振り返ることもなく歩き去っていく。
 ちらりと振り返ると、貫禄のある老騎士と一部の第三騎士だけが俺たちへ敬礼をしているのが見えた。


「撤収するぞ」
「了解」
 サイスが指揮を執り、サクサクと撤収作業が進んでいく。
 俺もレイナントのそばで荷物を片付けていると、第三騎士団の騎士がやって来るのが見えた。
 まだ年若いが、昨日あいつの近くにいた取り巻きとは違う、真面目そうな人だった。

 身分の低い第五騎士たちへ敬意を払う様子はそれだけで信頼が出来ると思えるものだった。
 それでも紫色の騎士服を見るだけで警戒心が跳ね上がる。

 俺たちの周りに団員の意識が集中しているのが感じられる。
 何かあろうものなら武器を取ることをためらわない。
 そんな気迫が伝わる。

 中でも魔力が零れだし、周囲の気温を下げているレイナントが俺を庇うように前に立った。

「何か御用か?」
 話すことなどないと言い切れば、その騎士は再び頭を下げた。

「この度は、第三騎士団魔導士団長がそちらにご迷惑をおかけしたこと、団員一同に代わり深くお詫びいたします」
 その人は第三騎士副団長だと名乗った。伯爵家の次男だそうだ。
 若輩ゆえ統率がままならず申し訳ないともう一度謝った。


「魔導士団長が謝罪をしたいと申し出ております。団長からも今回のことについて、直接お詫びがしたいと申されております」
 ご同行頂ければ幸いですと、申し訳なさそうに頭を下げた。

「あの魔導士団長が、謝罪をしたいと言ったのですか?」
 レイナントは不審を隠さず問いかける。あの男がそんな殊勝なことを言い出すはずがない。
 言外に訴えかけたそれを副団長は正確に読み取って、申し訳なさそうに視線を落とした。
「あの後、団長直々に激しくお叱りを受けまして……。先ほどから、謝罪の機会を頂きたいと繰り返しておられます」
 真摯な態度で頭を下げてくれる副団長さんには申し訳ないけど、全然信じられない。うっそだぁ。
 とは思ったものの、それを口に出すわけにはいかない。

 しばらく無言でいたレイナントだが、やがて大きなため息を吐いた。

「十分、いや、五分で構いませんか?」
「! はい」
「ルイ、サイスの傍を離れないでください」
「わかりました」
「あの男の謝罪などどうでもいいですが。第三の騎士団長には筋を通しておきたいので」
「うん」
「すぐ戻ります」
 顔を近づけ、掠めるようなキスをした。
 名残惜し気に体を離し、レイナントは副団長と共に、第三騎士団の野営地へケイナに乗って向かっていった。

 それを見送っていると、そばにノアがいた。

「今のうちに全部片づけて、団長が戻ってきたらすぐ帰りましょうよ」
「うん、そうだね」
 テントを畳んで荷物を荷台に乗せて。護衛の人たちも一緒になって動き回っていて、ばたばたと慌ただしく片付けに勤しむ。

 俺のそばにはずっと周囲を警戒するサイスがいて、なんだか申し訳なくもなる。
「サイスさん、そんなに傍に居なくても大丈夫じゃない?」
 周囲には団員もたくさんいるし、一人きりになることはなさそうだと思いそう言ってみた。
「いや、離れることはできない」
「そう?」
 でもサイスは俺の提案に首を横に振った。
 まぁ、傍に居てくれるなら安心だよね。

 俺はサイスと荷物を持って一緒に歩く。

「サイス!」
 反対側の班長が手を振って呼んでいる声だった。
「すまん、確認したいことがあってな。すぐ済む」
「手短に話せ」
 一言二言会話を交わす二人。
 荷車はすぐそこ。
「サイスさん、俺これおいてきちゃうね」
 ほんの数歩。距離にして二メートルもない。すぐ先には荷馬車と、片づけをしている団員たちの背中。
 手を伸ばせば届く距離だし、周辺には第五の団員も護衛も大勢いる。

 俺は荷馬車に向かってほんの三歩、足を進める。


 ……でも、春樹と同じ性質の男なら。
 執着したものを、簡単に諦めるはずがなかった。

 畳んだテントの布を持って荷台へ向かって走った。
 次の瞬間、横合いからひやりとした魔力の気配が近づいたと思った時には、冷たい手がいきなり口元を塞いでいた。
 息を吸う暇もなく、体を後ろへ引きずられる。足元で布がばさりと音を立てて崩れ落ちた。
 その音に気付いて誰かが振り返る前に、俺の体は雑木林の影へと飲み込まれていた。

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