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*15話 ありのままで
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オアシスで暮らし始めて、2年が経った。
狩りをして、畑を耕し、育てた作物で食卓を囲む。
そんな繰り返しの中で、僕たちの日々は少しずつ生活の基盤を整えていった。
さまざまなことが『日常』となっていく。
そんな出来事の中の1つ。
乾いた音が、砂の上に跳ねた。
木剣が弾かれ、僕の剣は砂に突き刺さる。
悔しさよりも先に、ラステアの笑みが目に入る。
その余裕の笑みを崩したくて、もう一度木剣を握った。
「はぁ、はぁ、もう1回やる!」
息を切らせながら、僕はその木剣をもう一度手に取って構えると、ラステアがそんな姿を見て嬉しそうに笑う。
「何度でも付き合うぞ」
「いくよ!」
僕は再び砂を蹴った。
ラステアが削って作ってくれた木剣は、手に吸い付くように馴染む。
僕の手に沿うように作られたその剣には、彼の優しさがそのまま刻まれている気さえする。
何度剣を振り下ろしても、利き手を封じた状態のラステアは片手で軽やかに受けて、体をひらりとかわした。
砂の上とは思えない身の軽さだ。
僕はまだラステアから1本も取れたことがない。
「……っはぁ」
僕の息が上がるのに、ラステアはほとんど乱れていない。
余裕すら感じられて、その姿が悔しいくらいに格好いい。
いつか並びたいと、本気で思う。
たぶん僕には剣の才なんてない。
それでもラステアはいつも付き合ってくれる。
それが僕には何より嬉しいから。
だから絶対僕はあきらめない。
またしても飛ばされてしまった剣を、もう1度構え、こめられる限りの力で振り下ろした。
「やあっ!」
「甘いよ」
ひと呼吸。
僕の剣は軽く受け流されて滑り落ちていく。
「……あ」
力を籠めすぎていた僕は、体勢を立て直せず崩れていく。
「危ないっ」
それをラステアが咄嗟に抱きとめてくれる。
息が近くて、ドキリとした。
もう体を合わせるようになってずいぶん経つのに、未だにふとした時に心臓が跳ねてしまう。
それを誤魔化すように笑った。
「へへ、ありがとう」
「今日はこのくらいにしようか」
「えー、まだやりたい。早くラステアみたいになりたい!」
「あなたはもう十分強い。それ以上強くなられたら、俺の立場がないよ」
そう言って、僕の手から木剣を取ると、そのままそっと抱き寄せてきた。
優しいラステアの腕。
そのぬくもりに包まれると、疲れも痛みもどこかに消えてしまう。
「んー……、また明日付き合ってくれる?」
「もちろん」
抱きしめてくれる腕に身を委ねると汗で冷えた体に、ラステアの体温が馴染んで汗の混じった匂いが、胸の奥に染みていく。
「じゃあ、また明日」
「わかった。いくらでも付き合うよ」
「僕、強くなりたいんだ」
ラステアを守れるくらいに。
この穏やかな時間を、永遠に守れるくらいに。
「僕だって、ラステアを守るんだから」
「クリスがいてくれるだけで、俺は無限に強くなれる。だから、俺より強くなるのは難しいかもな」
「なにそれ、ズルい」
「あははは」
互いの笑いが風に溶けていく。
そのまま頬と頬が近づき、唇がふれそうな距離。
「……」
お互いに何かを言いかけて、視線が絡んだまま、そっと逸らした。
それだけで胸の奥がくすぐったく、息が詰まりそうになる。
ラステアが微笑む。
「クリス、汗かいたね」
「水浴びしようよ、ラステア!」
「そうだな」
汗で濡れたシャツと動きやすいズボンを下着と一緒に脱ぎ去って、全裸のままオアシスに飛び込んだ。
昼間でも薄着でいられるのは、僕が張った結界のおかげだ。
強い日差しも、夜の冷えた空気も、このオアシスには届かない。
結界を張るようになったのは、1年前。
オアシスに向かってくる気配をラステアが感知した。
最果てのこの場所に人が来るなんて、考えたこともなかった。
たまたま家の中で一緒にいた彼の表情が、わずかに強張ったのを見て、胸がざわついたのを今も覚えている。
僕が慌てて建物だけを結界で隠した後、2人で息を潜めて見守った。
やってきたのは、ただの旅人。どうやら方角を見失って彷徨ってオアシスへ辿り着いてしまったようだった。
その人は水を飲み、果実を食べ、少し休んだ後何もせず去っていった。
静けさが戻ったとき、ラステアは僕の手を取って、「もう大丈夫」と微笑んだ。
けれど、僕の胸の奥の怖さは消えなかった。
いつか、本当に僕を追いかけて来た誰かにこの平穏な生活を壊されてしまうかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だ。
僕たちの世界に誰も踏み入れさせたりしたくない。
そのために、ラステアと話し合って、オアシスは外から見えないように結界で覆うことにした。
誰も来ないと思ったのもそうだけれど、砂漠に住むのならその環境を甘受しなくてはならないと思って何もしなかった。
けれど、思った以上に快適で、最初からこうしておけばよかったと笑いあった。
水の中を歩きながら、少し前を歩くラステアを見る。
鍛えられた体には無駄な肉がない。
剣士なのに体に残った傷が1つもないのは彼の腕の良さを示している。
とてもきれいで、色っぽい……。
毎日見ているはずなのに、何度見ても見惚れてしまう。
こっそり見つめていたら、ラステアが僕の視線に気づいて笑った。
「穴が開きそうだよ、クリス」
「!?」
否定する前に、ラステアは水中に飛び込んだ。
慌てて追いかけるように深いところまで行った僕を、ラステアが抱きあげる。
「ラステア!?」
水の中では陸の上よりも簡単に持ち上げられてしまう。
「砂漠で水浴びなんて、贅沢の極みだ。クリスはすごいな」
「ラステアにもこのくらいなら簡単にできるよ?」
「このくらいって。砂漠にオアシスを作るなんて、とんでもないことだけどな」
呆れるように言うラステア。
でも本当に今のラステアなら同じことが出来るんだ。
ラステアは魔力を得てから扱い方を練習したけれど、剣だけじゃなくて魔法の才能もあった。
僕が出来ることはもうほとんどラステアも出来るようになっている。
いつも僕が使うのを見ていたからなんて言っていたけれど、それだけですぐできるようになるものじゃない。
なんでもさらりとやってしまって、格好良くてズルい。
そんな気持ちでラステアを見つめていると、どうやら考えていることはすっかりお見通しだったらしく、彼は小さく苦笑を浮かべた。
「俺のはクリスから借りてる力だと思ってる。魔法だってクリスがやるのを真似てるだけだから」
「それでもすごいんだよ?」
「俺じゃなくて、クリスがすごいんだ」
いつだって、ラステアはそう言ってくれる。
ラステアは変わらない。
力を手にしても、立場が変わっても、環境が移り変わっても、ラステアはずっと僕だけを見てくれる。
そのことが、どれほど幸せで、どれほど救いになっているか。
それを「当たり前」だと笑うラステアは、本当にその意味をわかっているのだろうか。
「クリス」
名を呼ばれて、顔を上げると、唇が触れた。
軽く、柔らかく何度も重ねられるうちに、息が合わさり、深くなる。
ラステアの掌が背中を撫で、肌が触れ全ての思考が溶けていく。
「ラステア、ここで……?」
外気の風が頬を撫で、わずかに我に返り、ほんの少し羞恥を覚えた。
「戻るまで、我慢はできない」
けれど、ラステアが情欲を帯びた瞳を見たら、そんな気持ちは消えていく。
「……うん」
気付いたら頷いて、自分からラステアの唇へキスをする。
舌を絡め、体を触り合う。
「……っ」
お互いのペニスへ同時に手を伸ばし、触れた。
そこはもう硬く反りあがって興奮を示している。
薄く目を開けると、ラステアも僕を見つめていて、視線を合わせながら手を動かした。
「ん、ふ……んんっ」
「……ん、ぁ」
キスの合間に互いの声が零れ落ちる。
手を動かすたびに聞こえる水の揺れる音が興奮を煽っていく。
やがて、そっと僕の尻に回された手が、確かめるように穴の縁をなぞって中へ入ってきた。
「……っっ!」
水とは違うぬめりを帯びたそこは、ラステアの指を容易く迎え入れる。
「クリス、もう少し足を、開いて……」
囁く低い声が体を疼かせる。
足を開くと、指が2本中へ入ってきた。
「ぁ……は、んっ」
「すごく、濡れてる……」
「んぁ、いわな、……いで」
いつもは優しいラステアだけど、体を重ねる時だけ時々こうして僕に意地悪をするんだ。
それが、とても興奮する。
「どうして? こんなに俺を欲しがってくれてる。かわいい」
水が入らないよう慎重に中をほぐしてくれているのが分かる。
口では意地悪をしても、やっぱりラステアは優しい。
そんな彼に僕の胸はときめきっぱなしだ。
「ねぇ、もう入れて?」
昨日もしていたから入れるにはもう十分なはず。
「がまん、できないよ……」
「そんな顔をするな」
怒ったみたいに眉間にしわを寄せているのは、ラステアが僕に集中してくれている証。
背伸びをして眉間にキスをすると、それまで優しかったラステアが乱暴に指を抜き、僕を抱えあげた。
両足を抱えられて完全に体が浮き、支えを失って慌ててラステアの首に腕を回す。
「そのままつかまっていて」
耳に囁いたラステアは耳たぶを食みながら、中に、入ってきた。
「あああっ、んっ」
熱い塊が奥まで容赦なく入ってくる。
「ふか、ぃ……ああんっ、ラステア……ぁぁ」
水の中とはいえ、全体重を預けているこの体位はいつもより深いところまでラステアを受け入れてしまう。
「ああ、こんなに締め付けて、かわいい。気持ちいい?」
「いい、あっ、いいよ……んっ、はぁ」
腰を奥まで押し付けられて背中が勝手に反る。
支えられる場所がなくて、つま先まで力が入ってしまい、快感を逃がすことが出来ない。
腕の力を入れて快感を散らそうとすると、腰を掴まえたラステアが追いかけ突き上げて来る。
「ぁ、だめ、そこ……ああっ」
僕の中の奥の、さらに奥。
まだ入ったことのない最奥に、ラステアの熱を感じた。
ごりごりと当たるたびに頭の芯が痺れるような快感が駆け上がる。
これ以上入られたらどうなってしまうのか、怖い。
けれど、少しだけ期待もしてしまう。
「ここ、入れていい?」
最奥を先端で突くラステアの声が、情欲で濡れている。
欲しいと熱い瞳で訴えてくるラステアを拒む事なんてできない。
「……」
小さく頷くと、ラステアは愛しげに何度もキスをして、ありがとうと囁いた。
「……いくよ」
小さく宣言してから僕の体を動けないようにしっかり抱きしめた後、中へ、入ってきた。
「ん、ぁ……あぁ……あ゛……っ」
入ってはダメだと本能がいっているのに、心はラステアを受け入れたい。
そうして、僕は心に従いラステアが入りやすいように、体を動かす。
「ん、ぁあ~~~~~~っっ!」
「くぅ、はぁ、すご、ぃ……ああっ」
引っかかりを超えた瞬間、凄まじい快感が体を支配する。
感じたことのない体の最奥を、ラステアの熱が犯す。
「ん゛……ぁ、あああああ!」
あまりに気持ちがよくて、制御できない。
狂ったように体を震わせ、声を上げるけれど、何を言っているのか自分でもわからない。
「あん……っ! い、ぁ……あああああ」
「気持ちいい、クリス、クリス……っ」
上ずったラステアの声が僕の脳を焼く。
水の中にいるのに体が熱くて仕方がない。
ペニスの先端から何か出ている気がするけれど、それも分からない。
逃げたくないのに体が勝手にラステアを遠ざけ、肩や背中に爪を立てる。
だって、こんなに気持ちがいいなんて、おかしくなってしまう……!
「らすて、あぁ……っ!」
「クリス……っ!」
最奥を突き上げていた動きが止まり、お腹の奥が熱くなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふ、ぁ……ああ……」
体が敏感になりすぎて怖い。ラステアの肌も、水ですら気持ちがいい。
「ラステア、抜いて。怖い……。ずっと、気持ちがいい、怖い……」
甘えるように抱き着けば、あやすように背中を撫でてくれた。
けれど、それすら気持ちがいい。
「ん、だめ、らすてあ……さわっちゃ……」
「ちょ、クリス。締めたら……っ! ん、くぅ……っ」
「大きく、しないでぇ」
「このままじゃ抜けない。クリス、力を……」
「ああんっ、だめぇ!」
お腹の中で大きくなってしまったラステアと、感じすぎて締め付けてしまう僕。
どうにもならなくなってもう一度快感の中へ身を投げるしかない。
「あああ、きもち、い……、こわれ……るぅ」
「くっ、ああっ、くそ、こんなの、無理だ……っ」
泣き声にも似た自分の声。
ラステアはなだめるように背中を撫でて、優しく唇を落とした。
その優しさが、余計に熱を煽る。
体が勝手に反応してしまうのを止められなかった。
このまま全部、彼の中に溺れてしまえたら。
そう思う自分が、少しだけ怖かった。
どこまでが僕で、どこからがラステアなのか。
境界が曖昧になって、ただ幸福だけが残った。
次に目を覚ましたのは、夕方。
柔らかい寝具の感触、窓から差し込む橙の光。
ラステアがベッドの脇に座り心底申し訳なさそうな顔で、僕を見つめていた。
「クリス、よかった」
掠れた声が震える。
「こんな風になるなんて……。もうしない……」
謝罪するように握りしめた僕の手を自分の額に擦りつける。
「またしていいよ、だって気持ちよかったもん」
笑って答えると、彼は眉を寄せて俯いた。
布団を捲って入るように促すと、ラステアは隣に入って僕を抱きしめた。
「あのね、ラステア。いつだって僕を大事にしてくれてるよ。わかってるから」
「……それでも、酷いことはしたくない」
壊されてもいいよ。ラステアになら……。
そう言いかけて、唇を噛んで呑み込む。
言葉にしたら彼を泣かせてしまいそうだったから。
代わりに手を伸ばしラステアを抱きしめる。
指先で頬をなぞると、ラステアの表情が少しだけ和らいだ。
ラステアは安堵したように目を閉じ、僕の手に静かに口づける。
抱きしめて頭を撫でてあげていると、やがてラステアは体の力を抜いた。
「次にするときはベッドでしよ」
「わかった」
神妙な顔で頷くラステア。
格好いいけど、こういうところが可愛くて、本当にズルいと思う。
どんなときも落ち着いていて、どんな不安も笑って受け止めてくれる。
それなのに、時々見せる素の仕草が、胸の奥をくすぐって離れない。
知れば知るほど、好きになってしまう。
この気持ちはどれだけ時間がたっても、きっと変わらない。
むしろ一緒にいただけ増えていくに違いない。
それも嬉しい。
目が合ってじっと体温を分け合うみたいに抱き合っていると、窓の向こうで、風が音を変えた。
砂の粒がかすかに跳ね、光の色もいつもより深い橙に染まり始めている。
「……ラステア、今夜の風、少し変だね」
「そうだな。明日から食料を多めに備蓄した方がいい。砂嵐が来そうだ」
彼の言葉は穏やかだったけれど、胸の奥がざわめく。
砂の音の向こうに、得体の知れない物が潜んでいる。
……そんな気がした。
狩りをして、畑を耕し、育てた作物で食卓を囲む。
そんな繰り返しの中で、僕たちの日々は少しずつ生活の基盤を整えていった。
さまざまなことが『日常』となっていく。
そんな出来事の中の1つ。
乾いた音が、砂の上に跳ねた。
木剣が弾かれ、僕の剣は砂に突き刺さる。
悔しさよりも先に、ラステアの笑みが目に入る。
その余裕の笑みを崩したくて、もう一度木剣を握った。
「はぁ、はぁ、もう1回やる!」
息を切らせながら、僕はその木剣をもう一度手に取って構えると、ラステアがそんな姿を見て嬉しそうに笑う。
「何度でも付き合うぞ」
「いくよ!」
僕は再び砂を蹴った。
ラステアが削って作ってくれた木剣は、手に吸い付くように馴染む。
僕の手に沿うように作られたその剣には、彼の優しさがそのまま刻まれている気さえする。
何度剣を振り下ろしても、利き手を封じた状態のラステアは片手で軽やかに受けて、体をひらりとかわした。
砂の上とは思えない身の軽さだ。
僕はまだラステアから1本も取れたことがない。
「……っはぁ」
僕の息が上がるのに、ラステアはほとんど乱れていない。
余裕すら感じられて、その姿が悔しいくらいに格好いい。
いつか並びたいと、本気で思う。
たぶん僕には剣の才なんてない。
それでもラステアはいつも付き合ってくれる。
それが僕には何より嬉しいから。
だから絶対僕はあきらめない。
またしても飛ばされてしまった剣を、もう1度構え、こめられる限りの力で振り下ろした。
「やあっ!」
「甘いよ」
ひと呼吸。
僕の剣は軽く受け流されて滑り落ちていく。
「……あ」
力を籠めすぎていた僕は、体勢を立て直せず崩れていく。
「危ないっ」
それをラステアが咄嗟に抱きとめてくれる。
息が近くて、ドキリとした。
もう体を合わせるようになってずいぶん経つのに、未だにふとした時に心臓が跳ねてしまう。
それを誤魔化すように笑った。
「へへ、ありがとう」
「今日はこのくらいにしようか」
「えー、まだやりたい。早くラステアみたいになりたい!」
「あなたはもう十分強い。それ以上強くなられたら、俺の立場がないよ」
そう言って、僕の手から木剣を取ると、そのままそっと抱き寄せてきた。
優しいラステアの腕。
そのぬくもりに包まれると、疲れも痛みもどこかに消えてしまう。
「んー……、また明日付き合ってくれる?」
「もちろん」
抱きしめてくれる腕に身を委ねると汗で冷えた体に、ラステアの体温が馴染んで汗の混じった匂いが、胸の奥に染みていく。
「じゃあ、また明日」
「わかった。いくらでも付き合うよ」
「僕、強くなりたいんだ」
ラステアを守れるくらいに。
この穏やかな時間を、永遠に守れるくらいに。
「僕だって、ラステアを守るんだから」
「クリスがいてくれるだけで、俺は無限に強くなれる。だから、俺より強くなるのは難しいかもな」
「なにそれ、ズルい」
「あははは」
互いの笑いが風に溶けていく。
そのまま頬と頬が近づき、唇がふれそうな距離。
「……」
お互いに何かを言いかけて、視線が絡んだまま、そっと逸らした。
それだけで胸の奥がくすぐったく、息が詰まりそうになる。
ラステアが微笑む。
「クリス、汗かいたね」
「水浴びしようよ、ラステア!」
「そうだな」
汗で濡れたシャツと動きやすいズボンを下着と一緒に脱ぎ去って、全裸のままオアシスに飛び込んだ。
昼間でも薄着でいられるのは、僕が張った結界のおかげだ。
強い日差しも、夜の冷えた空気も、このオアシスには届かない。
結界を張るようになったのは、1年前。
オアシスに向かってくる気配をラステアが感知した。
最果てのこの場所に人が来るなんて、考えたこともなかった。
たまたま家の中で一緒にいた彼の表情が、わずかに強張ったのを見て、胸がざわついたのを今も覚えている。
僕が慌てて建物だけを結界で隠した後、2人で息を潜めて見守った。
やってきたのは、ただの旅人。どうやら方角を見失って彷徨ってオアシスへ辿り着いてしまったようだった。
その人は水を飲み、果実を食べ、少し休んだ後何もせず去っていった。
静けさが戻ったとき、ラステアは僕の手を取って、「もう大丈夫」と微笑んだ。
けれど、僕の胸の奥の怖さは消えなかった。
いつか、本当に僕を追いかけて来た誰かにこの平穏な生活を壊されてしまうかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だ。
僕たちの世界に誰も踏み入れさせたりしたくない。
そのために、ラステアと話し合って、オアシスは外から見えないように結界で覆うことにした。
誰も来ないと思ったのもそうだけれど、砂漠に住むのならその環境を甘受しなくてはならないと思って何もしなかった。
けれど、思った以上に快適で、最初からこうしておけばよかったと笑いあった。
水の中を歩きながら、少し前を歩くラステアを見る。
鍛えられた体には無駄な肉がない。
剣士なのに体に残った傷が1つもないのは彼の腕の良さを示している。
とてもきれいで、色っぽい……。
毎日見ているはずなのに、何度見ても見惚れてしまう。
こっそり見つめていたら、ラステアが僕の視線に気づいて笑った。
「穴が開きそうだよ、クリス」
「!?」
否定する前に、ラステアは水中に飛び込んだ。
慌てて追いかけるように深いところまで行った僕を、ラステアが抱きあげる。
「ラステア!?」
水の中では陸の上よりも簡単に持ち上げられてしまう。
「砂漠で水浴びなんて、贅沢の極みだ。クリスはすごいな」
「ラステアにもこのくらいなら簡単にできるよ?」
「このくらいって。砂漠にオアシスを作るなんて、とんでもないことだけどな」
呆れるように言うラステア。
でも本当に今のラステアなら同じことが出来るんだ。
ラステアは魔力を得てから扱い方を練習したけれど、剣だけじゃなくて魔法の才能もあった。
僕が出来ることはもうほとんどラステアも出来るようになっている。
いつも僕が使うのを見ていたからなんて言っていたけれど、それだけですぐできるようになるものじゃない。
なんでもさらりとやってしまって、格好良くてズルい。
そんな気持ちでラステアを見つめていると、どうやら考えていることはすっかりお見通しだったらしく、彼は小さく苦笑を浮かべた。
「俺のはクリスから借りてる力だと思ってる。魔法だってクリスがやるのを真似てるだけだから」
「それでもすごいんだよ?」
「俺じゃなくて、クリスがすごいんだ」
いつだって、ラステアはそう言ってくれる。
ラステアは変わらない。
力を手にしても、立場が変わっても、環境が移り変わっても、ラステアはずっと僕だけを見てくれる。
そのことが、どれほど幸せで、どれほど救いになっているか。
それを「当たり前」だと笑うラステアは、本当にその意味をわかっているのだろうか。
「クリス」
名を呼ばれて、顔を上げると、唇が触れた。
軽く、柔らかく何度も重ねられるうちに、息が合わさり、深くなる。
ラステアの掌が背中を撫で、肌が触れ全ての思考が溶けていく。
「ラステア、ここで……?」
外気の風が頬を撫で、わずかに我に返り、ほんの少し羞恥を覚えた。
「戻るまで、我慢はできない」
けれど、ラステアが情欲を帯びた瞳を見たら、そんな気持ちは消えていく。
「……うん」
気付いたら頷いて、自分からラステアの唇へキスをする。
舌を絡め、体を触り合う。
「……っ」
お互いのペニスへ同時に手を伸ばし、触れた。
そこはもう硬く反りあがって興奮を示している。
薄く目を開けると、ラステアも僕を見つめていて、視線を合わせながら手を動かした。
「ん、ふ……んんっ」
「……ん、ぁ」
キスの合間に互いの声が零れ落ちる。
手を動かすたびに聞こえる水の揺れる音が興奮を煽っていく。
やがて、そっと僕の尻に回された手が、確かめるように穴の縁をなぞって中へ入ってきた。
「……っっ!」
水とは違うぬめりを帯びたそこは、ラステアの指を容易く迎え入れる。
「クリス、もう少し足を、開いて……」
囁く低い声が体を疼かせる。
足を開くと、指が2本中へ入ってきた。
「ぁ……は、んっ」
「すごく、濡れてる……」
「んぁ、いわな、……いで」
いつもは優しいラステアだけど、体を重ねる時だけ時々こうして僕に意地悪をするんだ。
それが、とても興奮する。
「どうして? こんなに俺を欲しがってくれてる。かわいい」
水が入らないよう慎重に中をほぐしてくれているのが分かる。
口では意地悪をしても、やっぱりラステアは優しい。
そんな彼に僕の胸はときめきっぱなしだ。
「ねぇ、もう入れて?」
昨日もしていたから入れるにはもう十分なはず。
「がまん、できないよ……」
「そんな顔をするな」
怒ったみたいに眉間にしわを寄せているのは、ラステアが僕に集中してくれている証。
背伸びをして眉間にキスをすると、それまで優しかったラステアが乱暴に指を抜き、僕を抱えあげた。
両足を抱えられて完全に体が浮き、支えを失って慌ててラステアの首に腕を回す。
「そのままつかまっていて」
耳に囁いたラステアは耳たぶを食みながら、中に、入ってきた。
「あああっ、んっ」
熱い塊が奥まで容赦なく入ってくる。
「ふか、ぃ……ああんっ、ラステア……ぁぁ」
水の中とはいえ、全体重を預けているこの体位はいつもより深いところまでラステアを受け入れてしまう。
「ああ、こんなに締め付けて、かわいい。気持ちいい?」
「いい、あっ、いいよ……んっ、はぁ」
腰を奥まで押し付けられて背中が勝手に反る。
支えられる場所がなくて、つま先まで力が入ってしまい、快感を逃がすことが出来ない。
腕の力を入れて快感を散らそうとすると、腰を掴まえたラステアが追いかけ突き上げて来る。
「ぁ、だめ、そこ……ああっ」
僕の中の奥の、さらに奥。
まだ入ったことのない最奥に、ラステアの熱を感じた。
ごりごりと当たるたびに頭の芯が痺れるような快感が駆け上がる。
これ以上入られたらどうなってしまうのか、怖い。
けれど、少しだけ期待もしてしまう。
「ここ、入れていい?」
最奥を先端で突くラステアの声が、情欲で濡れている。
欲しいと熱い瞳で訴えてくるラステアを拒む事なんてできない。
「……」
小さく頷くと、ラステアは愛しげに何度もキスをして、ありがとうと囁いた。
「……いくよ」
小さく宣言してから僕の体を動けないようにしっかり抱きしめた後、中へ、入ってきた。
「ん、ぁ……あぁ……あ゛……っ」
入ってはダメだと本能がいっているのに、心はラステアを受け入れたい。
そうして、僕は心に従いラステアが入りやすいように、体を動かす。
「ん、ぁあ~~~~~~っっ!」
「くぅ、はぁ、すご、ぃ……ああっ」
引っかかりを超えた瞬間、凄まじい快感が体を支配する。
感じたことのない体の最奥を、ラステアの熱が犯す。
「ん゛……ぁ、あああああ!」
あまりに気持ちがよくて、制御できない。
狂ったように体を震わせ、声を上げるけれど、何を言っているのか自分でもわからない。
「あん……っ! い、ぁ……あああああ」
「気持ちいい、クリス、クリス……っ」
上ずったラステアの声が僕の脳を焼く。
水の中にいるのに体が熱くて仕方がない。
ペニスの先端から何か出ている気がするけれど、それも分からない。
逃げたくないのに体が勝手にラステアを遠ざけ、肩や背中に爪を立てる。
だって、こんなに気持ちがいいなんて、おかしくなってしまう……!
「らすて、あぁ……っ!」
「クリス……っ!」
最奥を突き上げていた動きが止まり、お腹の奥が熱くなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふ、ぁ……ああ……」
体が敏感になりすぎて怖い。ラステアの肌も、水ですら気持ちがいい。
「ラステア、抜いて。怖い……。ずっと、気持ちがいい、怖い……」
甘えるように抱き着けば、あやすように背中を撫でてくれた。
けれど、それすら気持ちがいい。
「ん、だめ、らすてあ……さわっちゃ……」
「ちょ、クリス。締めたら……っ! ん、くぅ……っ」
「大きく、しないでぇ」
「このままじゃ抜けない。クリス、力を……」
「ああんっ、だめぇ!」
お腹の中で大きくなってしまったラステアと、感じすぎて締め付けてしまう僕。
どうにもならなくなってもう一度快感の中へ身を投げるしかない。
「あああ、きもち、い……、こわれ……るぅ」
「くっ、ああっ、くそ、こんなの、無理だ……っ」
泣き声にも似た自分の声。
ラステアはなだめるように背中を撫でて、優しく唇を落とした。
その優しさが、余計に熱を煽る。
体が勝手に反応してしまうのを止められなかった。
このまま全部、彼の中に溺れてしまえたら。
そう思う自分が、少しだけ怖かった。
どこまでが僕で、どこからがラステアなのか。
境界が曖昧になって、ただ幸福だけが残った。
次に目を覚ましたのは、夕方。
柔らかい寝具の感触、窓から差し込む橙の光。
ラステアがベッドの脇に座り心底申し訳なさそうな顔で、僕を見つめていた。
「クリス、よかった」
掠れた声が震える。
「こんな風になるなんて……。もうしない……」
謝罪するように握りしめた僕の手を自分の額に擦りつける。
「またしていいよ、だって気持ちよかったもん」
笑って答えると、彼は眉を寄せて俯いた。
布団を捲って入るように促すと、ラステアは隣に入って僕を抱きしめた。
「あのね、ラステア。いつだって僕を大事にしてくれてるよ。わかってるから」
「……それでも、酷いことはしたくない」
壊されてもいいよ。ラステアになら……。
そう言いかけて、唇を噛んで呑み込む。
言葉にしたら彼を泣かせてしまいそうだったから。
代わりに手を伸ばしラステアを抱きしめる。
指先で頬をなぞると、ラステアの表情が少しだけ和らいだ。
ラステアは安堵したように目を閉じ、僕の手に静かに口づける。
抱きしめて頭を撫でてあげていると、やがてラステアは体の力を抜いた。
「次にするときはベッドでしよ」
「わかった」
神妙な顔で頷くラステア。
格好いいけど、こういうところが可愛くて、本当にズルいと思う。
どんなときも落ち着いていて、どんな不安も笑って受け止めてくれる。
それなのに、時々見せる素の仕草が、胸の奥をくすぐって離れない。
知れば知るほど、好きになってしまう。
この気持ちはどれだけ時間がたっても、きっと変わらない。
むしろ一緒にいただけ増えていくに違いない。
それも嬉しい。
目が合ってじっと体温を分け合うみたいに抱き合っていると、窓の向こうで、風が音を変えた。
砂の粒がかすかに跳ね、光の色もいつもより深い橙に染まり始めている。
「……ラステア、今夜の風、少し変だね」
「そうだな。明日から食料を多めに備蓄した方がいい。砂嵐が来そうだ」
彼の言葉は穏やかだったけれど、胸の奥がざわめく。
砂の音の向こうに、得体の知れない物が潜んでいる。
……そんな気がした。
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