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6話 いざ入学。
しおりを挟むついにこの日がやってきた。
もしこれがゲームなら、主人公はこれからの二年間で己のパラメータをあげ、様々なイベントをこなしながら攻略対象を選び、恋愛を進めていくことになるだろう。
しかし、この世界が現実の俺にとって、モブや攻略キャラなどとラベリングされるのはどうにも嫌な気がしてならない。
それぞれが自分たちの人生を生きている血の通った人間だ。
ここは俺たちが生きる現実。
ゲームじゃないんだ。
けれど、ゲームの流れに準じようと目に見えない力が働いているのもまた事実。
俺はノワールとしっかり友人関係を築いてきたのに、気付けばゲームの運命に導かれるように、婚約者としてこの場に立っている。
けれど傍若無人な悪役令息ではなく、誰もが認める優秀な公爵家の次男としての立場をしっかり築いていた。
ゲームの設定と全く変わった展開。
二つの構造が同時に重なって存在している。
それがこの先、どんな影響をもたらすのか俺には分からない。
けれど、どんなに過酷な試練が待ち受けていようとも、絶対に負けない。
もしノワールと関わらなかったなら、この世界の出来事をただの他人事として流せただろう。
しかし、俺はノワールと出会い、深く関わってしまった。
彼は今や、かけがえのない大切な友人。
彼が心から幸せを感じながら生きていく姿を、最後まで見届けたいと願っている。
目標はノワールにかけられた呪いを解くこと。
たとえそれがどんな困難をも伴うとしても、できる限りのことをしていきたい。
彼の苦しみを取り除ける手助けができるなら、どんな代償も惜しくないと、今の俺は本気でそう思っている。
そんなことを思っていたら不意に抱き寄せられた。
「さっきから何を考えている? 表情がコロコロ変わって飽きないぞ」
「俺だって色々考えることがあるんだよ」
「アル、かわいい」
ノワールが急に声を低くして、耳元で囁いてきて思わず耳を押さえ、強く押しのけてしまった。
「エロい声出すな、バカ!」
「別にエロくない。あと、アルはかわいい」
「かわいいって言うな! 俺に失礼だぞ」
「かわいいものに、かわいいって言って何が悪い」
悪びれずに笑うノワール。
口を塞いでやると手を伸ばしたけれど、軽く抑え込まれて抵抗も虚しく腕の中に抱きしめられた。
「体格差が恨めしい!」
「うん、この腕にぴったり収まる感じがたまらないね」
「キィ!」
がっちり抱きしめられると俺の力では抜け出せない。
そんなのはもうわかってる。
諦めて力を抜くと、嬉しそうに頬を摺り寄せてきた。
それを受け入れ外を見ていると、馬車は静かに停まった。
「……おお!」
目に飛び込んできた景色に思わず声を上げる。
だって、そこにはパッケージに描かれていた校門があった。
これを背景に攻略対象の顔が描いてあったんだよなぁ。
ある意味聖地巡礼か。
……別に聖地じゃないな。
むしろ決戦の場だ。
ぐっと胸の前で握りこぶしを作っていたら、馬車のドアが開いた。
「アル、降りるぞ」
「ああ、うん」
ノワールが先に降りて、エスコートするように手を差し出してくれる。
女子ではないんだけどと言うと、婚約者をエスコートさせてくれと嬉しそうに微笑まれてしまい断れなくなった。
その手を取って馬車を降りた。
校門の前に立つと、馬車に注目していた生徒たちが息を飲み、一斉に道を開けた。
ノワールは黒髪の美丈夫。
この国では黒髪が女神の寵愛の証であり、ノワールだけが持つ特別な色だった。
噂でしか聞いたことがないこの国を守る敬愛すべき「愛し子」。
ノワールと一緒に歩くとよくある光景なので気にならなくなってしまった俺は、堂々と歩くその隣をぴったりついて行く。
視線の集中や周囲の反応も、もはや日常の一部となってしまったことにどこか複雑な気持ちを抱きつつ、それでもその場にしっくり馴染んでいる自分を感じている。
なにせ俺は可憐で可愛らしい。
人に言われるとなんか腹も立つけど、アルベルトの容姿は本当に可愛いのだ。
まさにゲームのビジュアル補正だろうな。
今でも毎朝鏡を見て、「これが……俺?」と見惚れてしまう。
それをノワールに見られて何度笑われたかわからない。
極悪非道なゲームのアルベルトがなぜ多くの取り巻きを持てたのか、その理由がなんとなく理解できる。
たくさんの生徒がこちらを見ている。
学年ごとにタイの色が変わる。
一年は赤。二年になると青色になる。
タイの色が赤いからほとんどが新入生だ。
この中に主人公がいるかもしれないと、鮮やかなピンク色の髪の人物を探してみるが見あたらない。
相当目立つ髪色なのにわからないってことは、いないのか。
それともゲームに忠実に主人公がパラメーターを上げないと視界に入らない仕様なのか?
そういえば、ノワールとの出会いイベントって何だろう?
もし主人公がノワールに会うのに必要なパラメーターを上げないと出会えない仕様なら、入学式ではまだ出会わない可能性もある。
「アル、何をきょろきょろしているんだ。行くぞ」
「うん」
これから講堂で入学式がある。
ノワールはそこで挨拶をすることになっていて、なぜか俺も隣に立つことになっている。
なんでだ。
入試の成績がノワールが1位で俺が2位で、さらに婚約者同士だからか……?
なんだかノワールが仕組んだように思える。
俺の手を引き、生徒たちが空けた空間を堂々と歩くノワール。
生徒たちはまるでおとぎ話の主人公に出会ったかのように、夢見心地でノワールを見つめる。
ノワールを初めて見る人はたいていこんな反応だ。いつものこと、わかってる。
けれど……。
誰かがひそひそと「愛し子様」と口にしたのを聞き、なぜか俺の胸には抑えきれない怒りが込み上げた。
「ノワール、早く行こう」
「どうしたんだ?」
繋いだ手を引いて歩調を速める。
「視線がうるさい」
「別に、いつものことだろう?」
「俺は、ノワールを『愛し子』って呼ぶ奴が大っ嫌いだ」
ノワールは単なる『愛し子』ではなく、一人の人間なのに。
ムッとして歩く俺に、ノワールは嬉しそうな笑顔でついてくる。
「ははは」
「笑い事じゃない」
「アルが怒ってくれるならそれでいい」
「お前が怒らないから……!」
語気を強めると、ノワールは握る手の力をきつくした。
「アルがそう思ってくれるなら、他のことはどうでもいいんだ」
「俺は嫌だ。ノワールという人間を、もっとみんなに知ってほしい」
『愛し子』なんて、拝むだけのアイテムじゃない。
平穏をもたらす神聖な存在と一括りにされるなんて違う。
ノワールは一人の、ただの人間なんだ。
都合のいいアイテムじゃない!
そんな思いを抱えながら曲がり角を曲がると、人影が無くなった。
ノワールは俺の手を引き、強く抱きしめた。
「アル、好きだ」
「なんだよ、突然」
「言いたくなったんだ」
「……唐突だな」
「俺は、アルに出会えて本当に良かった。幸せだ」
「幸せなんて、これからだろう?」
ノワールの幸せは、今まさにこれから始まるのだ。
「こんな程度で幸せなんて思ってちゃ、身が持たないぞ」
「なんだそれ」
「これからノワールはもっと幸せになれるって話だ」
「それは最高だな」
未来に怯えることなく、ここを卒業できるように。
俺が全力で頑張るから、だから……。
どうか、諦めたように笑わないでくれ。
講堂の扉が、大きく音を立てて開く。
さあ、幕開けだ。
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