異世界召喚されたらハズレだと舌打ちされて捨てられました。死にたくないから全力で生きる!

中洲める

文字の大きさ
7 / 56

7話 ついたぞ、グラフィカ

しおりを挟む
 目の前に広がる緑の畑、鼻に飛び込んでくる爽やかだけど複雑な香りは全て薬草の匂い。
 整備された道に出ると徐々に畑や人の住む建物が増えていく。

 少し歩くと厩舎があって、騎士さんたちが預けていた馬を受け取った。

「タクマ、馬に乗ったことはありますか?」
「ない……」
 実物に会うのも初めてだ。
「なら私と一緒に乗りましょう」
 ナイアさんのもとへ連れてこられたのは額に月のような模様がある栗色の馬。

「わぁ、大きくて、きれい」
 近づく馬に見惚れているとナイアさんはそんな俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「彼女はミア、牝馬だ」
「雌なんだ」
 女性が少ない世界だからこの子も貴重なのかなって思ったら顔に出てたみたい。
「この世界で女性の比率が低いのは人間だけなんです」
 って聞いてもいないのに答えてくれた。
「マジか」
「理由は誰にもわからない。学者の中には遥か昔、増えすぎた人間が世界を滅ぼしかけて神に罰せられた結果なんて言ってるのもいますね」
「へぇ」
 そんな話をしながら俺を抱えてミアの背中に乗せてくれる。
 温かくて毛がつるつるしてる。思ったより高くて風が気持ちいい。
 そしてナイアさんも慣れた手つきで颯爽と俺の後ろに乗った。
「ナイアさん、格好いい!」
「……タクマ、君は時々純真すぎて心配になる」
「そう?」
「男をやたら褒めてると、変なやつに惚れられて困ることになりますよ」
「そうなの?」
「気をつけなさい」
 渋い顔。嫌な経験でもあるのかな。
「でも、そしたらナイアさんが助けてくれるでしょ?」
「……。はぁ、そういうところです。タクマ」
 呆れたように言うくせに、声音は優しい。そういうの、ずるいんだって。
 なんか余計に甘えたくなっちゃうじゃん。
 でも、黙って従うのも癪だ。
「誰にでも言ってるわけじゃないよ! ナイアさんだから褒めてるの!」
 そう言うと、ナイアさんは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑って苦笑交じりに顔をほころばせた。
「……まぁ、そうですね。君の世話をするって決めたのは私だし、それも含めて頑張って面倒を見ますか」
「ちょっと、その言い方!」
 なんかダメな子扱いされてる気がしてムッとしたら、ナイアさんが俺の頭をぽんぽんと撫でてきた。
 まるで犬でもあやすみたいに。
 ……ずるいよ、そうやって誤魔化すの。

「ほら、もう少し寄りかかって。落ちますよ」
 腹に腕を回され、ナイアさんの体に密着する姿勢になる。
 背中越しに伝わる鼓動が、馬の歩みに重なって心地よいリズムを刻んでいた。
 鍛えられた体は俺より一回り大きい。
 しっかりとした筋肉がついているのが分かる。
「いいな、筋肉。俺も鍛えようかな」
「タクマは魔術師がいいのでは? すごい魔法が使えるじゃないですか」
「ナイアさんだって魔法使えるけど剣も強いじゃん?」
 騎士さんたちだって剣士と魔術師に分類されてるけど、基本どっちも使える人ばっかりだ。
 より得意な方に分類されているだけなんだ。

「なら、騎士にでもなってみますか?」
「騎士になったら何をするの?」
「領地の巡回が主な仕事ですね。少し前までは魔の森の警戒と魔獣と戦うことが使命でしたが、今は魔獣除けの薬のおかげで平和になりました」
「錬金術師、本当にすごいんだな」
「ええ、おかげでグラフィカは、いやこの国は救われました」
 紡ぎ出される声のひとつひとつに、様々な思いが宿っていた。


 やがて頑丈な城壁をくぐると、その先には人々が暮らす街が広がっていた。

 中は活気に満ちあふれ、通りを行く人々が気さくに声をかけてくる。
 蹄の音が石畳を軽く叩く。人々の笑い声が風に混じって、まるで音楽のようだった。
 風が頬を切るのに、不思議と冷たくない。
 街の中へ入ると、スパイスとも香草ともつかない香りが強くなる。
 けれど、それがなんだか心地よい。

「すごくいい雰囲気だね」
「ああ、自慢の領地なんだ。これも全てここを治めている閣下と、伴侶であるアッシュ様あってこそです」
 ナイアさんの顔を見ると、深い敬愛が見えた。
 この人にここまで言わせるなんてきっと素晴らしい人たちなんだろうな。

「これから会いに行きます」
「え、そんなすごい人に、俺会って大丈夫?」
「問題ない。ただ、色々規格外だから驚くかもしれませんね。特にアッシュ様」
 どこか笑いを含んだ言い方。

 本当に癖が強いんだろうな。
 でも、すごく尊敬しているのが伝わって来る。

「どんな人なの?」
「一言で言うなら破天荒、でしょうかね」
「なるほど……」
「そしてとんでもなく人たらしです」
「わぁ……」
「閣下はそんなあの方に夢中で、今は新婚で特に蜜月なので、不用意に見つめたり、近づいたりしないように」
「……はい」
 野生の獣かな?
 それにしても新婚さんかぁ。

 なんだか世界が遠く感じる。俺はまだ、そんなの全然想像もできないけど。
 いつか、誰かをこんなふうに想える日が来るのかな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...