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7話 ついたぞ、グラフィカ
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目の前に広がる緑の畑、鼻に飛び込んでくる爽やかだけど複雑な香りは全て薬草の匂い。
整備された道に出ると徐々に畑や人の住む建物が増えていく。
少し歩くと厩舎があって、騎士さんたちが預けていた馬を受け取った。
「タクマ、馬に乗ったことはありますか?」
「ない……」
実物に会うのも初めてだ。
「なら私と一緒に乗りましょう」
ナイアさんのもとへ連れてこられたのは額に月のような模様がある栗色の馬。
「わぁ、大きくて、きれい」
近づく馬に見惚れているとナイアさんはそんな俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「彼女はミア、牝馬だ」
「雌なんだ」
女性が少ない世界だからこの子も貴重なのかなって思ったら顔に出てたみたい。
「この世界で女性の比率が低いのは人間だけなんです」
って聞いてもいないのに答えてくれた。
「マジか」
「理由は誰にもわからない。学者の中には遥か昔、増えすぎた人間が世界を滅ぼしかけて神に罰せられた結果なんて言ってるのもいますね」
「へぇ」
そんな話をしながら俺を抱えてミアの背中に乗せてくれる。
温かくて毛がつるつるしてる。思ったより高くて風が気持ちいい。
そしてナイアさんも慣れた手つきで颯爽と俺の後ろに乗った。
「ナイアさん、格好いい!」
「……タクマ、君は時々純真すぎて心配になる」
「そう?」
「男をやたら褒めてると、変なやつに惚れられて困ることになりますよ」
「そうなの?」
「気をつけなさい」
渋い顔。嫌な経験でもあるのかな。
「でも、そしたらナイアさんが助けてくれるでしょ?」
「……。はぁ、そういうところです。タクマ」
呆れたように言うくせに、声音は優しい。そういうの、ずるいんだって。
なんか余計に甘えたくなっちゃうじゃん。
でも、黙って従うのも癪だ。
「誰にでも言ってるわけじゃないよ! ナイアさんだから褒めてるの!」
そう言うと、ナイアさんは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑って苦笑交じりに顔をほころばせた。
「……まぁ、そうですね。君の世話をするって決めたのは私だし、それも含めて頑張って面倒を見ますか」
「ちょっと、その言い方!」
なんかダメな子扱いされてる気がしてムッとしたら、ナイアさんが俺の頭をぽんぽんと撫でてきた。
まるで犬でもあやすみたいに。
……ずるいよ、そうやって誤魔化すの。
「ほら、もう少し寄りかかって。落ちますよ」
腹に腕を回され、ナイアさんの体に密着する姿勢になる。
背中越しに伝わる鼓動が、馬の歩みに重なって心地よいリズムを刻んでいた。
鍛えられた体は俺より一回り大きい。
しっかりとした筋肉がついているのが分かる。
「いいな、筋肉。俺も鍛えようかな」
「タクマは魔術師がいいのでは? すごい魔法が使えるじゃないですか」
「ナイアさんだって魔法使えるけど剣も強いじゃん?」
騎士さんたちだって剣士と魔術師に分類されてるけど、基本どっちも使える人ばっかりだ。
より得意な方に分類されているだけなんだ。
「なら、騎士にでもなってみますか?」
「騎士になったら何をするの?」
「領地の巡回が主な仕事ですね。少し前までは魔の森の警戒と魔獣と戦うことが使命でしたが、今は魔獣除けの薬のおかげで平和になりました」
「錬金術師、本当にすごいんだな」
「ええ、おかげでグラフィカは、いやこの国は救われました」
紡ぎ出される声のひとつひとつに、様々な思いが宿っていた。
やがて頑丈な城壁をくぐると、その先には人々が暮らす街が広がっていた。
中は活気に満ちあふれ、通りを行く人々が気さくに声をかけてくる。
蹄の音が石畳を軽く叩く。人々の笑い声が風に混じって、まるで音楽のようだった。
風が頬を切るのに、不思議と冷たくない。
街の中へ入ると、スパイスとも香草ともつかない香りが強くなる。
けれど、それがなんだか心地よい。
「すごくいい雰囲気だね」
「ああ、自慢の領地なんだ。これも全てここを治めている閣下と、伴侶であるアッシュ様あってこそです」
ナイアさんの顔を見ると、深い敬愛が見えた。
この人にここまで言わせるなんてきっと素晴らしい人たちなんだろうな。
「これから会いに行きます」
「え、そんなすごい人に、俺会って大丈夫?」
「問題ない。ただ、色々規格外だから驚くかもしれませんね。特にアッシュ様」
どこか笑いを含んだ言い方。
本当に癖が強いんだろうな。
でも、すごく尊敬しているのが伝わって来る。
「どんな人なの?」
「一言で言うなら破天荒、でしょうかね」
「なるほど……」
「そしてとんでもなく人たらしです」
「わぁ……」
「閣下はそんなあの方に夢中で、今は新婚で特に蜜月なので、不用意に見つめたり、近づいたりしないように」
「……はい」
野生の獣かな?
それにしても新婚さんかぁ。
なんだか世界が遠く感じる。俺はまだ、そんなの全然想像もできないけど。
いつか、誰かをこんなふうに想える日が来るのかな。
整備された道に出ると徐々に畑や人の住む建物が増えていく。
少し歩くと厩舎があって、騎士さんたちが預けていた馬を受け取った。
「タクマ、馬に乗ったことはありますか?」
「ない……」
実物に会うのも初めてだ。
「なら私と一緒に乗りましょう」
ナイアさんのもとへ連れてこられたのは額に月のような模様がある栗色の馬。
「わぁ、大きくて、きれい」
近づく馬に見惚れているとナイアさんはそんな俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「彼女はミア、牝馬だ」
「雌なんだ」
女性が少ない世界だからこの子も貴重なのかなって思ったら顔に出てたみたい。
「この世界で女性の比率が低いのは人間だけなんです」
って聞いてもいないのに答えてくれた。
「マジか」
「理由は誰にもわからない。学者の中には遥か昔、増えすぎた人間が世界を滅ぼしかけて神に罰せられた結果なんて言ってるのもいますね」
「へぇ」
そんな話をしながら俺を抱えてミアの背中に乗せてくれる。
温かくて毛がつるつるしてる。思ったより高くて風が気持ちいい。
そしてナイアさんも慣れた手つきで颯爽と俺の後ろに乗った。
「ナイアさん、格好いい!」
「……タクマ、君は時々純真すぎて心配になる」
「そう?」
「男をやたら褒めてると、変なやつに惚れられて困ることになりますよ」
「そうなの?」
「気をつけなさい」
渋い顔。嫌な経験でもあるのかな。
「でも、そしたらナイアさんが助けてくれるでしょ?」
「……。はぁ、そういうところです。タクマ」
呆れたように言うくせに、声音は優しい。そういうの、ずるいんだって。
なんか余計に甘えたくなっちゃうじゃん。
でも、黙って従うのも癪だ。
「誰にでも言ってるわけじゃないよ! ナイアさんだから褒めてるの!」
そう言うと、ナイアさんは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑って苦笑交じりに顔をほころばせた。
「……まぁ、そうですね。君の世話をするって決めたのは私だし、それも含めて頑張って面倒を見ますか」
「ちょっと、その言い方!」
なんかダメな子扱いされてる気がしてムッとしたら、ナイアさんが俺の頭をぽんぽんと撫でてきた。
まるで犬でもあやすみたいに。
……ずるいよ、そうやって誤魔化すの。
「ほら、もう少し寄りかかって。落ちますよ」
腹に腕を回され、ナイアさんの体に密着する姿勢になる。
背中越しに伝わる鼓動が、馬の歩みに重なって心地よいリズムを刻んでいた。
鍛えられた体は俺より一回り大きい。
しっかりとした筋肉がついているのが分かる。
「いいな、筋肉。俺も鍛えようかな」
「タクマは魔術師がいいのでは? すごい魔法が使えるじゃないですか」
「ナイアさんだって魔法使えるけど剣も強いじゃん?」
騎士さんたちだって剣士と魔術師に分類されてるけど、基本どっちも使える人ばっかりだ。
より得意な方に分類されているだけなんだ。
「なら、騎士にでもなってみますか?」
「騎士になったら何をするの?」
「領地の巡回が主な仕事ですね。少し前までは魔の森の警戒と魔獣と戦うことが使命でしたが、今は魔獣除けの薬のおかげで平和になりました」
「錬金術師、本当にすごいんだな」
「ええ、おかげでグラフィカは、いやこの国は救われました」
紡ぎ出される声のひとつひとつに、様々な思いが宿っていた。
やがて頑丈な城壁をくぐると、その先には人々が暮らす街が広がっていた。
中は活気に満ちあふれ、通りを行く人々が気さくに声をかけてくる。
蹄の音が石畳を軽く叩く。人々の笑い声が風に混じって、まるで音楽のようだった。
風が頬を切るのに、不思議と冷たくない。
街の中へ入ると、スパイスとも香草ともつかない香りが強くなる。
けれど、それがなんだか心地よい。
「すごくいい雰囲気だね」
「ああ、自慢の領地なんだ。これも全てここを治めている閣下と、伴侶であるアッシュ様あってこそです」
ナイアさんの顔を見ると、深い敬愛が見えた。
この人にここまで言わせるなんてきっと素晴らしい人たちなんだろうな。
「これから会いに行きます」
「え、そんなすごい人に、俺会って大丈夫?」
「問題ない。ただ、色々規格外だから驚くかもしれませんね。特にアッシュ様」
どこか笑いを含んだ言い方。
本当に癖が強いんだろうな。
でも、すごく尊敬しているのが伝わって来る。
「どんな人なの?」
「一言で言うなら破天荒、でしょうかね」
「なるほど……」
「そしてとんでもなく人たらしです」
「わぁ……」
「閣下はそんなあの方に夢中で、今は新婚で特に蜜月なので、不用意に見つめたり、近づいたりしないように」
「……はい」
野生の獣かな?
それにしても新婚さんかぁ。
なんだか世界が遠く感じる。俺はまだ、そんなの全然想像もできないけど。
いつか、誰かをこんなふうに想える日が来るのかな。
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