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第一章 木五倍子の蕾
二.香具山
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香具山。
この世界の管理者をこのように呼んでいる。
香具山と呼ぶ山にいる者の名だ。
しかし、香具山と勝手に我々が呼んでいるに過ぎないのだが、本人も「呼び名がないと不便ですよね?」とのことで承諾されている。
ちせちゃんと手を繋いで、午時葵が咲いている場所まで登ってきた。比較的香具山は低く、整備された登山道ができていることもあって、ちせちゃんも苦なく登ることができた。疲れてはいるが。
「ちせちゃん、大丈夫?」
心配して顔を覗き込むと、目の前に広がる光景を見たちせちゃんは、目をキラキラと輝かせていた。
「すごーい!なんで木が水に浮かんでるの?変なのー!!」
傍に駆け寄って、水に植えられた午時葵を見つめている。
大きくて、丸い石板を囲むように水が張られており、その水に午時葵が植えられている。
何故水の中に沈まないのか。何故水だけで育つことができるのか。この世界で最も摩訶不思議な場所である。
ちせちゃんは登山の疲れが吹っ飛んだかのように、濁りがない水をチャプチャプと触って遊んでいた。
「花には触っちゃダメだよ」
俺はちせちゃんの後ろに立ち、注意を促す。
「どうして?」
「咲いている花は生きている人、水の上に浮かんでいる花はこの世界にいる人を指しているらしいんだ」
そう説明していると、背後から人の気配がした。
「水にも容易く触らないで欲しいと、追加してください」
「あ、小秋ちゃん」
小秋ちゃんは静かな目で俺たちを見ていた。人形のように、あまり感情が出ない子。
濡れた手を軽く左右に振り、ちせちゃんは服で拭こうとしたので、俺は慌ててポケットからハンカチを渡した。
「綺麗な夕日色の目だね」
ちせちゃんは小秋ちゃんの瞳を見ながら言った。
「え?夕日色?空色じゃない?」
俺の目には、小秋ちゃんの目は澄んだ空色に見えている。
手を拭き終わり、きちんと畳んだハンカチを受け取る。
二人で言い合っていると、小秋ちゃんは口を開いた。
「この目を見た者の魂の色を映し出します。本来、私の目は色がありません」
「てことは、俺の魂が空色で、ちせちゃんが夕日色ってことでいいかい?」
「そうです」
淡々と答える。
ちせちゃんは首を傾げながら「魂とか、そんなファンタジーみたいなことがあるの?」と呟いていた。今まで沢山非現実的なことがあっただろうに。と思ったが、言わないことにした。
「小秋ちゃん」
ちせちゃんは自分から呼んだ。
「なんですか」
抑揚のない声。
「わたし、木佐ちせ。よろしくね」
小秋ちゃんより背が低いちせちゃんは、右手を差し出した。握手をしようとしている。
しかし、あまり人間の行動が分からない小秋ちゃんは、差し出された手を見つめるだけだった。
「握手!」
手をツンツンと前に出す。
「握手をすることは、どんな意味を持つのでしょう」
「んー、挨拶?」
「挨拶は言葉で交わせばいいのでは」
「んー……」
考えるちせちゃん。
俺は黙って二人の様子を見守ることにした。俺が変に挟まるより、二人に変化が起こるんじゃないかと思った。二人ともどこか欠けた部分があるような気がして、お互いに良い刺激になるかもしれない。
「じゃあ、お互いの体温を感じて、お!こんな感じの人か!みたいな、感じ?」
「…………よく理解できません」
間が空く。
小秋ちゃんの表情が少しだけ困ったように見えた。俺の勘違いかもしれないが。
「手を繋いだ方が仲良くなれる気がする」
ちせちゃんは自ら小秋ちゃんの手を取り、ぎゅっと両手で握る。
「わたし、小秋ちゃんと友達になりたいから!」
「私は別に」
「へっ!?」
まさかの返答に、ちせちゃんは衝撃を受け、岩のように固まる。そして、チラッと小秋ちゃんの目を見ながら、俯き加減で口を開いた。
「…………迷惑?」
「ち」
激しい落ち込み具合に、俺は声をかけようとした。が、誰かの手が肩に触れ、振り返ってみると、巫子姿の香具山様が立てた人差し指を口元に当てていた。
「迷惑ではありませんが。どうしてそこまで落胆するのですか」
「いつもクラスでね、自分の思ったことを口に出したり、やりたいことをやろうとするとね、みんなが嫌な顔をするの。わたしは我儘なんだって」
ハハッと空笑う。
「お母さんにも言われたことがあって……言いたいことも言えない、やりたいこともやれない。我慢したご褒美がこの世界なんだと思ったんだけど、やっぱり違ったんだね」
「私には理解できません。言いたいことは言えばいいし、やりたいことはやればいいではありませんか。人間は何故見えないルールを作るのですか。生物らしく、本能のまま生きればいいのですよ」
「人だから、ルールを作るんだよ」
ヘラっと笑う。
「じゃないと、友達と仲良く遊べないもん。お母さんと一緒にいられないもん」
「そうしなければ共にいられない人間は、本当に人間なのですか」
「どういうこと?」
小秋ちゃんの言葉に首をかしげる。
「ルールを守らなければ一緒にいられない友と母は、本当に友と母だと言えるのですか」
噛み砕いて、改めて問う。
すると、ちせちゃんは目をパチクリと開閉する。
「それが、仲良くしてくれるって言う約束でしょ?」
「仲良くしなければならないのですか」
この問いに、ちせちゃんは大きく視線を落とした。
「集団生活だもん。独りで過ごすのは寂しいよ」
(やっぱり)
ちせちゃんの本音は、独りなのは寂しい。
あの時、母がいない家で過ごす一人の生活は、寂しくないと言った。そう言わなければ、我儘だと母に叱られることもあるのだろう。そして、そう言っていないと、独りだという実感が湧いてしまうからだ。
(孤独がちせちゃんの心を蝕んでいなければいいが……)
「小秋ちゃんは寂しくないの?」
「まだ感情が未発達なのでよく分かりません」
「言葉がよく分かんないけど、わたしと友達だから、たくさん遊ぼう!別に寂しい気持ちなんて分からなくていいよ!」
ちせちゃんは無邪気に笑う。
「だって、そんな感情があるだけ、邪魔だから!」
小秋ちゃんの両手をとって、ぶんぶんと振り回す。
「ちせちゃん……」
ほんの一瞬だった。
なんて冷たい目をしたんだろう。
子供がそんな目をしてはいけない。
「ちーせーちゃん!」
その時、香具山様が名前を呼んだ。
「……香具山」
小秋ちゃんはさも面倒臭そうに呼び、香具山の元へ歩く。
「あなたが香具山さま?」
「そうだよ」
「わたしね、お兄ちゃんと一緒にいたいの!駄目?」
「それを決めるのが私の仕事なんですよ~」
「そうなんだー」
急にちせちゃんは俺の背後に回り、顔だけを出した。
「お兄ちゃんが大好きなの!いいでしょ?駄目なの?我儘言わないからいいでしょ?」
「その発言こそが我儘なのではないでしょうか」
香具山様の表情はニコニコしたまま変わらない。しかし、その言葉はちせちゃんにとって凶器そのものだ。
一方のちせちゃんは、言われて初めて気づいた様子で静かに口を閉じた。
その様子を見て、香具山様はわざとらしく悩むそぶりを見せる。
「どうしましょうか~。うーん。そうですね~」
ちせちゃんは香具山様の顔を見ることができず、ただ俯く。
「ならば、条件付きで、高島さんと暮らすことを許しましょう」
「条件?」
「一つ、小秋と遊んでやってください」
「え」
小秋ちゃんは声を漏らした。
「二つ、全ての世話は高島さんが行うこと」
「あ、はい、もちろんです」
まさか、その条件に俺が入っているとは思わなかったから、驚いて咳き込みそうになったが、我慢できた。
「三つ」
「多いよ~」
香具山様が三つ目を言おうとする前に、ちせちゃんがつい口を挟む。
「最後です」
香具山様は特に咎めることはしなかった。
「三つ、幸せを感じること。以上です」
三つ目を言い渡された瞬間、ちせちゃんの目はこれ以上にない輝きだった。
「守ることができますか?」
「はい!守ります!!」
思わず、香具山様に抱きつくちせちゃん。
しかし、すぐに離れる。
とても恐ろしそうな顔をして。
「木佐さん。誰にも抱きつく癖は直した方がいいですよ」
普段と変わらぬ笑顔に、寒気を感じた。
「は、はい。ごめんなさい」
ちせちゃんの顔色は悪い。
嫌な予感がする。
「香具山様、ちせちゃんの具合が悪いようなので、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?」
「いいですよ~」
ちせちゃんの手を引いて歩き出そうとするが、彼女は動かない。
俺は彼女の前で腰を低くする。
「おんぶ、するよ」
「ん」
ゆっくりとした動きで俺の背中に体を預ける。
立ち上がると同時に、ひょいっと勢いをつけて、ちせちゃんの体をしっかりと支える。
香具山様と小秋ちゃんに会釈をしてから、山を下りた。
二人と離れてから、俺は口を開いた。
「急にどうしたの?」
そう尋ねると、ちせちゃんは俺に捕まる手に力を込めた。まるで怖がっているかのように。
「あ、あの香具山さまって……」
「うん」
「……人なの?」
「え、それはどういう……」
「抱きついた時、体が変だったの」
得体の知れないモノへの恐怖を思い出したかのように声が震えていた。
「なんかね、変に柔らかかったの。ゼリーみたいに……」
体も震えている。
「体に当たっている時だけ、頭の中にわたしが知らない記憶?みたいなものが流れてきて……わたしの体なのにわたしじゃなくなる感じ……凄く怖かった」
俺は香具山様に直接触れたことはない。恐らく触れた者自体、ちせちゃんが初めてかも知れない。
管理者とはいえ、神出鬼没で、神のような存在だと考える人もいる。あまり香具山様と触れようとは思わない。この混沌の国に住む人が、全員人間だという保証も確証もない。
もしかしたら、管理者という立場である香具山様は、本当に我々と違う何かかもしれない。触らぬ神に祟りなしではないが、決して知ろうとしてはならない禁忌の存在なのかもしれない。
「香具山さまはお兄ちゃんと同じ感じじゃない。絶対に怒らせちゃ駄目なひとだ」
「そっか……」
俺はそう答えることしかできなかった。
第二基地に着いた頃は夕日が綺麗に見える時間だった。
「小秋ちゃんの目の色だ」
「夕焼け、綺麗だね」
基地内に入ってから、ちせちゃんを背中から下ろす。少し元気になった様子だった。
視界の隅に小さな白いものが映る。
それに俺よりも早く反応したのは、ちせちゃんだった。
「あ、猫」
指を指した矛先には、箱に入った子猫三匹と母親らしき大きな猫がいた。
母猫は子猫の体を舐めている。一匹、一匹丁寧に。子猫はそんな母猫に甘えるように体を擦り寄せたり、小さな声で鳴いていた。
ちせちゃんは静かに見つめていた。
「野良猫が子猫を産んじゃってね」
「ふーん。子猫、可愛いね」
「可愛いけど、基地としては飼ったら駄目なんだけどね。誰かは分からないけど、あの親子が気になって世話をしている人がいるみたいなんだ。時々魚とか置いてたりするんだよね」
きゅるるるる
「お腹空いちゃった」
えへへと彼女は恥ずかしそうに笑う。
ちせちゃんの腹の虫は、更に元気で、思わず彼女は両手で腹を抑えた。恥ずかしそうにしながら。
「じゃあ、まずは腹拵えだね。食堂に行こう」
俺はちせちゃんの手を繋いで歩き出した。
食堂に着き、ちせちゃんはカレーライスを選んで食べた。戦時中とは違って、今は物資も、食料もそれなりにある。今日は特に、東部から仕入れたというカレー粉を使用した特別製のカレーだった。
「カレー美味しい~!」
どうやら味覚が合うらしい。
ちせちゃんはすっかり笑顔になって、カレーを口いっぱいに入れていた。
「やっぱりポークだよね~」
「美味しいようでよかったよ」
俺は焼いた鯖を箸でほぐし、ポン酢と大根おろしを一緒にして食す。最近、この食べ方がツボにはまっている。
(ポン酢って、本当に美味しいなぁ)
ワカメたっぷりの味噌汁もたまらない。
(みんなには一歩引かれたけど、汁からはみ出るくらいのワカメがいいんだよなぁ)
ワカメが主役のような味噌汁をモグモグと食べる。
(うーん、たまんない)
このワカメの歯ごたえ。食べた実感がする。
と、噛み締めていると、隣でガシャガシャと聞こえる。
「おかわりー!」
「え?」
気づけば、ちせちゃんはアルミのお皿に盛られていたカレーは全て食べ終え、スプーンで叩いていた。
「こらこら。お行儀が悪いからやめなさい」
「はーい」
スプーンでお皿を叩かないように注意すると、ちせちゃんは素直に聞いてくれた。
「ちゃんと噛んだ?」
あまりにも早過ぎる。
そう聞くと、自信満々に答えた。
「カレーは飲み物だよ!」
て、聞いたことがある!
そう続けて言い、ちせちゃんは堂々とした顔で答える。
俺は思わず頭を抱えた。
「ちせちゃん、カレーは食べ物であって、飲み物じゃないよ」
「噛まなくても飲み込めちゃうカレーが罪深い」
「カレーライスの罪……」
そんなことを考えたことがない。
「そいや、お風呂はあるの?」
突拍子も無く、風呂の有無を尋ねる。
「あるよ。この棟の一階の奥に大浴場があるんだ」
「へー」
ふと気付いた。
香具山様にちせちゃんのお世話を仕ったわけだが、九歳と言う年齢の少女と共に風呂に入ることは嫌ではないか。妹がいなかったから、そのような事情が分からない。
「ち、ちせちゃん」
思わず声を沈めた。
「なぁに?」
「みんなが風呂に入る時間はずらしてもらうけど、風呂はやっぱり一人で入りたい、かな?」
声が妙に上ずって不自然であるが、気にしないでもらおう。
「お兄ちゃんと入るー」
「へっ!?」
「え?」
目をパチクリと開閉して、俺を見つめていた。なにかおかしいことを言った?と言うかのように。
まさか一緒に入りたいとは思っていなかったから、大人の事情として悪くないか困惑する。
不意に殺気を感じる。
頭上から言葉が落ちてきた。それも非常に苛々した声で。
「たーかーしーまー隊長~~?」
お盆を持ち、作り笑顔をする伍賀さんが俺の背後に立っていた。
わざわざ笑顔を作るということは、ちせちゃんを思ってのことなんだろうが、当の本人はあからさまに眉を寄せ、嫌な顔をしていた。
「伍賀さん……」
「ちせと風呂に入るの?入りたいの?あぁん?」
完全に激怒している。
さあ、どうしたものか。
「い、いや、その」
返答に困っていると、ちせちゃんが代わりに口を開いた。
「わたしがお兄ちゃんと入りたいんだけど」
「それなら爺ちゃんと入ろうよぅ!」
ちせちゃんは俺の袖をクイクイと引っ張る。
その様子を見て、伍賀さんは大人気なく泣きそうな面になっていた。孫が大好きなんだろうな。異常なほどに。
伍賀さんは俺の隣にお盆を置いた。
「お爺ちゃんはもう死んだもん。それにお兄さんみたいに若くないし」
「若くなったお爺ちゃんだよ!」
口から舌をペロッと出して愛嬌を振りまく。
が、ちせちゃんにとっては疑惑が深まるだけのようだ。
「若いお爺ちゃんとか意味分からないし」
「高島ぁぁぁぁ!!」
「俺に当たらないでくださいよ!」
どうしても孫に認めてもらえないことに、半狂乱になった伍賀さんは俺の首を絞める仕草をする。もちろん本当に首を絞めているわけではないのだから苦しくはない。俺は笑っていた。
だが、ちせちゃんにとっては一大事だったようで、椅子から降りると、伍賀さんの足を踏みつけた。
「お兄ちゃんをいじめないで!!」
「ちせぇぇん」
「本当にわたしのお爺ちゃんだったら、そんな悪いことしないもん!」
首から手が離れたことを確認すると、ちせちゃんは座っていた椅子に戻る。プンプンと腹を立てた様子で、ほっぺたを丸くしていた。
「ちせぇん、お爺ちゃんは本当はこんな人なんだよぅ……」
「伍賀さん、落ち着いて」
そう言うと、伍賀さんはキッと睨みつけてくる。
認めてくれない孫が俺に懐いていることに対して、気に食わないのだろう。羨ましいを通り越して、妬みだ。
しかし、その割にはちせちゃんの隣ではなく、俺の隣の席を選ぶところが、伍賀さんらしいというか。
「高島はいいよなー」
うどんをすすりながら、伍賀さんは落ち着いた声で言う。
俺も食べながら返事をした。
「どうしたんですか、急に」
「ちせにモテていいよなー」
「もててるって言うんですかね」
「泣かすなよ」
「え、はい。……え?どんな意味ですか?」
違和感。
「そのまんま」
生気が感じられない、虚ろな目をしていた。
伍賀さんが考えていそうな内容が頭に浮かぶ。
「なにを考えてます?」
(まさか結婚とか言い出さないよな)
「ちせと結婚……結婚かぁ~」
伍賀さんはそう言って、頭を抱えた。
(やっぱりッ……)
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いくらなんでも結婚は……」
(年齢的に、うん)
すると、伍賀さんは殺意が篭った視線を送ってきた。致し方ないので、素直に受け止める。
「俺の可愛いちせと結婚できないって!?」
(うわー、面倒くせー)
「年齢が離れすぎてません?」
「年の差など関係なーい!」
ツルツルツル。
うどんが伍賀さんの口に入っていく。
散ってくる汁に、俺はそっと伍賀さんから離れた。
「と、なると」
落ち着きを取り戻す伍賀さんほど、嫌な予感はしない。
「風呂は避けて通れぬ事柄」
「いや、意味が分からないんですけど。ねえ、聞いてます?」
あの目を見ていると、完全に妄想の世界に浸っているのが分かる。
「夫婦が愛を深める場所……風呂!」
ツルツルツルツル。
「あのお兄さん、なにを言ってるの」
「分からない。ちせちゃん、見て見ぬ振りをしよう」
「ん、分かった」
ちせちゃんはゴミでも見るような眼差しで伍賀さんを見ていた。
俺たちがコソコソと話していると、伍賀さんは急に俺の肩を掴んだ。
突然の衝撃に、俺は思わず伍賀さんを振り返った。もう怖い、この人。
「高島」
「……はい」
「まだ手を出すなよ?」
無駄に真剣な眼差し。
「お前はまず落ち着け」
しまった。
思わず伍賀さんをお前と呼んでしまった。
「手を出すって、なに?」
ちせちゃんがピョコッと俺の顔を覗き込んでくる。
「ちせちゃん、このお兄さんの頭がおかしいから気にしなくていいよ」
「ん、分かった」
背後から怒涛の反論が聞こえるが無視をしよう。もう付き合ってられない。何言ってんだ、この糞爺い。
この世界の管理者をこのように呼んでいる。
香具山と呼ぶ山にいる者の名だ。
しかし、香具山と勝手に我々が呼んでいるに過ぎないのだが、本人も「呼び名がないと不便ですよね?」とのことで承諾されている。
ちせちゃんと手を繋いで、午時葵が咲いている場所まで登ってきた。比較的香具山は低く、整備された登山道ができていることもあって、ちせちゃんも苦なく登ることができた。疲れてはいるが。
「ちせちゃん、大丈夫?」
心配して顔を覗き込むと、目の前に広がる光景を見たちせちゃんは、目をキラキラと輝かせていた。
「すごーい!なんで木が水に浮かんでるの?変なのー!!」
傍に駆け寄って、水に植えられた午時葵を見つめている。
大きくて、丸い石板を囲むように水が張られており、その水に午時葵が植えられている。
何故水の中に沈まないのか。何故水だけで育つことができるのか。この世界で最も摩訶不思議な場所である。
ちせちゃんは登山の疲れが吹っ飛んだかのように、濁りがない水をチャプチャプと触って遊んでいた。
「花には触っちゃダメだよ」
俺はちせちゃんの後ろに立ち、注意を促す。
「どうして?」
「咲いている花は生きている人、水の上に浮かんでいる花はこの世界にいる人を指しているらしいんだ」
そう説明していると、背後から人の気配がした。
「水にも容易く触らないで欲しいと、追加してください」
「あ、小秋ちゃん」
小秋ちゃんは静かな目で俺たちを見ていた。人形のように、あまり感情が出ない子。
濡れた手を軽く左右に振り、ちせちゃんは服で拭こうとしたので、俺は慌ててポケットからハンカチを渡した。
「綺麗な夕日色の目だね」
ちせちゃんは小秋ちゃんの瞳を見ながら言った。
「え?夕日色?空色じゃない?」
俺の目には、小秋ちゃんの目は澄んだ空色に見えている。
手を拭き終わり、きちんと畳んだハンカチを受け取る。
二人で言い合っていると、小秋ちゃんは口を開いた。
「この目を見た者の魂の色を映し出します。本来、私の目は色がありません」
「てことは、俺の魂が空色で、ちせちゃんが夕日色ってことでいいかい?」
「そうです」
淡々と答える。
ちせちゃんは首を傾げながら「魂とか、そんなファンタジーみたいなことがあるの?」と呟いていた。今まで沢山非現実的なことがあっただろうに。と思ったが、言わないことにした。
「小秋ちゃん」
ちせちゃんは自分から呼んだ。
「なんですか」
抑揚のない声。
「わたし、木佐ちせ。よろしくね」
小秋ちゃんより背が低いちせちゃんは、右手を差し出した。握手をしようとしている。
しかし、あまり人間の行動が分からない小秋ちゃんは、差し出された手を見つめるだけだった。
「握手!」
手をツンツンと前に出す。
「握手をすることは、どんな意味を持つのでしょう」
「んー、挨拶?」
「挨拶は言葉で交わせばいいのでは」
「んー……」
考えるちせちゃん。
俺は黙って二人の様子を見守ることにした。俺が変に挟まるより、二人に変化が起こるんじゃないかと思った。二人ともどこか欠けた部分があるような気がして、お互いに良い刺激になるかもしれない。
「じゃあ、お互いの体温を感じて、お!こんな感じの人か!みたいな、感じ?」
「…………よく理解できません」
間が空く。
小秋ちゃんの表情が少しだけ困ったように見えた。俺の勘違いかもしれないが。
「手を繋いだ方が仲良くなれる気がする」
ちせちゃんは自ら小秋ちゃんの手を取り、ぎゅっと両手で握る。
「わたし、小秋ちゃんと友達になりたいから!」
「私は別に」
「へっ!?」
まさかの返答に、ちせちゃんは衝撃を受け、岩のように固まる。そして、チラッと小秋ちゃんの目を見ながら、俯き加減で口を開いた。
「…………迷惑?」
「ち」
激しい落ち込み具合に、俺は声をかけようとした。が、誰かの手が肩に触れ、振り返ってみると、巫子姿の香具山様が立てた人差し指を口元に当てていた。
「迷惑ではありませんが。どうしてそこまで落胆するのですか」
「いつもクラスでね、自分の思ったことを口に出したり、やりたいことをやろうとするとね、みんなが嫌な顔をするの。わたしは我儘なんだって」
ハハッと空笑う。
「お母さんにも言われたことがあって……言いたいことも言えない、やりたいこともやれない。我慢したご褒美がこの世界なんだと思ったんだけど、やっぱり違ったんだね」
「私には理解できません。言いたいことは言えばいいし、やりたいことはやればいいではありませんか。人間は何故見えないルールを作るのですか。生物らしく、本能のまま生きればいいのですよ」
「人だから、ルールを作るんだよ」
ヘラっと笑う。
「じゃないと、友達と仲良く遊べないもん。お母さんと一緒にいられないもん」
「そうしなければ共にいられない人間は、本当に人間なのですか」
「どういうこと?」
小秋ちゃんの言葉に首をかしげる。
「ルールを守らなければ一緒にいられない友と母は、本当に友と母だと言えるのですか」
噛み砕いて、改めて問う。
すると、ちせちゃんは目をパチクリと開閉する。
「それが、仲良くしてくれるって言う約束でしょ?」
「仲良くしなければならないのですか」
この問いに、ちせちゃんは大きく視線を落とした。
「集団生活だもん。独りで過ごすのは寂しいよ」
(やっぱり)
ちせちゃんの本音は、独りなのは寂しい。
あの時、母がいない家で過ごす一人の生活は、寂しくないと言った。そう言わなければ、我儘だと母に叱られることもあるのだろう。そして、そう言っていないと、独りだという実感が湧いてしまうからだ。
(孤独がちせちゃんの心を蝕んでいなければいいが……)
「小秋ちゃんは寂しくないの?」
「まだ感情が未発達なのでよく分かりません」
「言葉がよく分かんないけど、わたしと友達だから、たくさん遊ぼう!別に寂しい気持ちなんて分からなくていいよ!」
ちせちゃんは無邪気に笑う。
「だって、そんな感情があるだけ、邪魔だから!」
小秋ちゃんの両手をとって、ぶんぶんと振り回す。
「ちせちゃん……」
ほんの一瞬だった。
なんて冷たい目をしたんだろう。
子供がそんな目をしてはいけない。
「ちーせーちゃん!」
その時、香具山様が名前を呼んだ。
「……香具山」
小秋ちゃんはさも面倒臭そうに呼び、香具山の元へ歩く。
「あなたが香具山さま?」
「そうだよ」
「わたしね、お兄ちゃんと一緒にいたいの!駄目?」
「それを決めるのが私の仕事なんですよ~」
「そうなんだー」
急にちせちゃんは俺の背後に回り、顔だけを出した。
「お兄ちゃんが大好きなの!いいでしょ?駄目なの?我儘言わないからいいでしょ?」
「その発言こそが我儘なのではないでしょうか」
香具山様の表情はニコニコしたまま変わらない。しかし、その言葉はちせちゃんにとって凶器そのものだ。
一方のちせちゃんは、言われて初めて気づいた様子で静かに口を閉じた。
その様子を見て、香具山様はわざとらしく悩むそぶりを見せる。
「どうしましょうか~。うーん。そうですね~」
ちせちゃんは香具山様の顔を見ることができず、ただ俯く。
「ならば、条件付きで、高島さんと暮らすことを許しましょう」
「条件?」
「一つ、小秋と遊んでやってください」
「え」
小秋ちゃんは声を漏らした。
「二つ、全ての世話は高島さんが行うこと」
「あ、はい、もちろんです」
まさか、その条件に俺が入っているとは思わなかったから、驚いて咳き込みそうになったが、我慢できた。
「三つ」
「多いよ~」
香具山様が三つ目を言おうとする前に、ちせちゃんがつい口を挟む。
「最後です」
香具山様は特に咎めることはしなかった。
「三つ、幸せを感じること。以上です」
三つ目を言い渡された瞬間、ちせちゃんの目はこれ以上にない輝きだった。
「守ることができますか?」
「はい!守ります!!」
思わず、香具山様に抱きつくちせちゃん。
しかし、すぐに離れる。
とても恐ろしそうな顔をして。
「木佐さん。誰にも抱きつく癖は直した方がいいですよ」
普段と変わらぬ笑顔に、寒気を感じた。
「は、はい。ごめんなさい」
ちせちゃんの顔色は悪い。
嫌な予感がする。
「香具山様、ちせちゃんの具合が悪いようなので、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?」
「いいですよ~」
ちせちゃんの手を引いて歩き出そうとするが、彼女は動かない。
俺は彼女の前で腰を低くする。
「おんぶ、するよ」
「ん」
ゆっくりとした動きで俺の背中に体を預ける。
立ち上がると同時に、ひょいっと勢いをつけて、ちせちゃんの体をしっかりと支える。
香具山様と小秋ちゃんに会釈をしてから、山を下りた。
二人と離れてから、俺は口を開いた。
「急にどうしたの?」
そう尋ねると、ちせちゃんは俺に捕まる手に力を込めた。まるで怖がっているかのように。
「あ、あの香具山さまって……」
「うん」
「……人なの?」
「え、それはどういう……」
「抱きついた時、体が変だったの」
得体の知れないモノへの恐怖を思い出したかのように声が震えていた。
「なんかね、変に柔らかかったの。ゼリーみたいに……」
体も震えている。
「体に当たっている時だけ、頭の中にわたしが知らない記憶?みたいなものが流れてきて……わたしの体なのにわたしじゃなくなる感じ……凄く怖かった」
俺は香具山様に直接触れたことはない。恐らく触れた者自体、ちせちゃんが初めてかも知れない。
管理者とはいえ、神出鬼没で、神のような存在だと考える人もいる。あまり香具山様と触れようとは思わない。この混沌の国に住む人が、全員人間だという保証も確証もない。
もしかしたら、管理者という立場である香具山様は、本当に我々と違う何かかもしれない。触らぬ神に祟りなしではないが、決して知ろうとしてはならない禁忌の存在なのかもしれない。
「香具山さまはお兄ちゃんと同じ感じじゃない。絶対に怒らせちゃ駄目なひとだ」
「そっか……」
俺はそう答えることしかできなかった。
第二基地に着いた頃は夕日が綺麗に見える時間だった。
「小秋ちゃんの目の色だ」
「夕焼け、綺麗だね」
基地内に入ってから、ちせちゃんを背中から下ろす。少し元気になった様子だった。
視界の隅に小さな白いものが映る。
それに俺よりも早く反応したのは、ちせちゃんだった。
「あ、猫」
指を指した矛先には、箱に入った子猫三匹と母親らしき大きな猫がいた。
母猫は子猫の体を舐めている。一匹、一匹丁寧に。子猫はそんな母猫に甘えるように体を擦り寄せたり、小さな声で鳴いていた。
ちせちゃんは静かに見つめていた。
「野良猫が子猫を産んじゃってね」
「ふーん。子猫、可愛いね」
「可愛いけど、基地としては飼ったら駄目なんだけどね。誰かは分からないけど、あの親子が気になって世話をしている人がいるみたいなんだ。時々魚とか置いてたりするんだよね」
きゅるるるる
「お腹空いちゃった」
えへへと彼女は恥ずかしそうに笑う。
ちせちゃんの腹の虫は、更に元気で、思わず彼女は両手で腹を抑えた。恥ずかしそうにしながら。
「じゃあ、まずは腹拵えだね。食堂に行こう」
俺はちせちゃんの手を繋いで歩き出した。
食堂に着き、ちせちゃんはカレーライスを選んで食べた。戦時中とは違って、今は物資も、食料もそれなりにある。今日は特に、東部から仕入れたというカレー粉を使用した特別製のカレーだった。
「カレー美味しい~!」
どうやら味覚が合うらしい。
ちせちゃんはすっかり笑顔になって、カレーを口いっぱいに入れていた。
「やっぱりポークだよね~」
「美味しいようでよかったよ」
俺は焼いた鯖を箸でほぐし、ポン酢と大根おろしを一緒にして食す。最近、この食べ方がツボにはまっている。
(ポン酢って、本当に美味しいなぁ)
ワカメたっぷりの味噌汁もたまらない。
(みんなには一歩引かれたけど、汁からはみ出るくらいのワカメがいいんだよなぁ)
ワカメが主役のような味噌汁をモグモグと食べる。
(うーん、たまんない)
このワカメの歯ごたえ。食べた実感がする。
と、噛み締めていると、隣でガシャガシャと聞こえる。
「おかわりー!」
「え?」
気づけば、ちせちゃんはアルミのお皿に盛られていたカレーは全て食べ終え、スプーンで叩いていた。
「こらこら。お行儀が悪いからやめなさい」
「はーい」
スプーンでお皿を叩かないように注意すると、ちせちゃんは素直に聞いてくれた。
「ちゃんと噛んだ?」
あまりにも早過ぎる。
そう聞くと、自信満々に答えた。
「カレーは飲み物だよ!」
て、聞いたことがある!
そう続けて言い、ちせちゃんは堂々とした顔で答える。
俺は思わず頭を抱えた。
「ちせちゃん、カレーは食べ物であって、飲み物じゃないよ」
「噛まなくても飲み込めちゃうカレーが罪深い」
「カレーライスの罪……」
そんなことを考えたことがない。
「そいや、お風呂はあるの?」
突拍子も無く、風呂の有無を尋ねる。
「あるよ。この棟の一階の奥に大浴場があるんだ」
「へー」
ふと気付いた。
香具山様にちせちゃんのお世話を仕ったわけだが、九歳と言う年齢の少女と共に風呂に入ることは嫌ではないか。妹がいなかったから、そのような事情が分からない。
「ち、ちせちゃん」
思わず声を沈めた。
「なぁに?」
「みんなが風呂に入る時間はずらしてもらうけど、風呂はやっぱり一人で入りたい、かな?」
声が妙に上ずって不自然であるが、気にしないでもらおう。
「お兄ちゃんと入るー」
「へっ!?」
「え?」
目をパチクリと開閉して、俺を見つめていた。なにかおかしいことを言った?と言うかのように。
まさか一緒に入りたいとは思っていなかったから、大人の事情として悪くないか困惑する。
不意に殺気を感じる。
頭上から言葉が落ちてきた。それも非常に苛々した声で。
「たーかーしーまー隊長~~?」
お盆を持ち、作り笑顔をする伍賀さんが俺の背後に立っていた。
わざわざ笑顔を作るということは、ちせちゃんを思ってのことなんだろうが、当の本人はあからさまに眉を寄せ、嫌な顔をしていた。
「伍賀さん……」
「ちせと風呂に入るの?入りたいの?あぁん?」
完全に激怒している。
さあ、どうしたものか。
「い、いや、その」
返答に困っていると、ちせちゃんが代わりに口を開いた。
「わたしがお兄ちゃんと入りたいんだけど」
「それなら爺ちゃんと入ろうよぅ!」
ちせちゃんは俺の袖をクイクイと引っ張る。
その様子を見て、伍賀さんは大人気なく泣きそうな面になっていた。孫が大好きなんだろうな。異常なほどに。
伍賀さんは俺の隣にお盆を置いた。
「お爺ちゃんはもう死んだもん。それにお兄さんみたいに若くないし」
「若くなったお爺ちゃんだよ!」
口から舌をペロッと出して愛嬌を振りまく。
が、ちせちゃんにとっては疑惑が深まるだけのようだ。
「若いお爺ちゃんとか意味分からないし」
「高島ぁぁぁぁ!!」
「俺に当たらないでくださいよ!」
どうしても孫に認めてもらえないことに、半狂乱になった伍賀さんは俺の首を絞める仕草をする。もちろん本当に首を絞めているわけではないのだから苦しくはない。俺は笑っていた。
だが、ちせちゃんにとっては一大事だったようで、椅子から降りると、伍賀さんの足を踏みつけた。
「お兄ちゃんをいじめないで!!」
「ちせぇぇん」
「本当にわたしのお爺ちゃんだったら、そんな悪いことしないもん!」
首から手が離れたことを確認すると、ちせちゃんは座っていた椅子に戻る。プンプンと腹を立てた様子で、ほっぺたを丸くしていた。
「ちせぇん、お爺ちゃんは本当はこんな人なんだよぅ……」
「伍賀さん、落ち着いて」
そう言うと、伍賀さんはキッと睨みつけてくる。
認めてくれない孫が俺に懐いていることに対して、気に食わないのだろう。羨ましいを通り越して、妬みだ。
しかし、その割にはちせちゃんの隣ではなく、俺の隣の席を選ぶところが、伍賀さんらしいというか。
「高島はいいよなー」
うどんをすすりながら、伍賀さんは落ち着いた声で言う。
俺も食べながら返事をした。
「どうしたんですか、急に」
「ちせにモテていいよなー」
「もててるって言うんですかね」
「泣かすなよ」
「え、はい。……え?どんな意味ですか?」
違和感。
「そのまんま」
生気が感じられない、虚ろな目をしていた。
伍賀さんが考えていそうな内容が頭に浮かぶ。
「なにを考えてます?」
(まさか結婚とか言い出さないよな)
「ちせと結婚……結婚かぁ~」
伍賀さんはそう言って、頭を抱えた。
(やっぱりッ……)
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いくらなんでも結婚は……」
(年齢的に、うん)
すると、伍賀さんは殺意が篭った視線を送ってきた。致し方ないので、素直に受け止める。
「俺の可愛いちせと結婚できないって!?」
(うわー、面倒くせー)
「年齢が離れすぎてません?」
「年の差など関係なーい!」
ツルツルツル。
うどんが伍賀さんの口に入っていく。
散ってくる汁に、俺はそっと伍賀さんから離れた。
「と、なると」
落ち着きを取り戻す伍賀さんほど、嫌な予感はしない。
「風呂は避けて通れぬ事柄」
「いや、意味が分からないんですけど。ねえ、聞いてます?」
あの目を見ていると、完全に妄想の世界に浸っているのが分かる。
「夫婦が愛を深める場所……風呂!」
ツルツルツルツル。
「あのお兄さん、なにを言ってるの」
「分からない。ちせちゃん、見て見ぬ振りをしよう」
「ん、分かった」
ちせちゃんはゴミでも見るような眼差しで伍賀さんを見ていた。
俺たちがコソコソと話していると、伍賀さんは急に俺の肩を掴んだ。
突然の衝撃に、俺は思わず伍賀さんを振り返った。もう怖い、この人。
「高島」
「……はい」
「まだ手を出すなよ?」
無駄に真剣な眼差し。
「お前はまず落ち着け」
しまった。
思わず伍賀さんをお前と呼んでしまった。
「手を出すって、なに?」
ちせちゃんがピョコッと俺の顔を覗き込んでくる。
「ちせちゃん、このお兄さんの頭がおかしいから気にしなくていいよ」
「ん、分かった」
背後から怒涛の反論が聞こえるが無視をしよう。もう付き合ってられない。何言ってんだ、この糞爺い。
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