7 / 7
【終話】
しおりを挟む
「お嬢様。今日もお嬢様と縁を結びたいと仰る方から釣書が届きました」
そう言ってディティが両手いっぱいの釣書と肖像画を持ってくる。
「また?もう、何度断っても送ってくるんだから困ったものだわ」
私の旦那になる方が公爵家を継ぐと聞き間違えた貴族諸侯は、嫡男以外の息子の釣書と肖像画をこぞって送りつけてくるようになった。
「ディティはお嬢様が皆様に認められて嬉しいですけどね」
それにしても多すぎる。
「まぁ、行き遅れになる前に旦那様を決めなきゃならないのだから、時間は限られているのだけれど…はっきり言って面倒だわ」
追加された釣書と肖像画を見て、ため息しか出ない。
「そうだな」
「公爵家に釣り合う身分で年が近い方は大体婚約者がいらっしゃるみたいだし、いらっしゃらない方は素行に難がある方ばかり…」
もちろん、婚約破棄をしてまで私に近付こうとした方のものは問答無用で送り返した。
「大変だな」
「どこかの高貴な方は何故かウチに入り浸るし」
目の前のソファーに座り、長い足を組んで優雅に紅茶を飲んでいるのはハーディ様。
「駄目か?」
シレっと答えるが、問題はそこじゃない。
「頻繁に来すぎです。ご公務はどうしたんですか?」
不敬だろうが何だろうが、あの一件で吹っ切れた私は、言いたい事を言うようになった。
それを見ていた使用人達は、いつもの事なので気にも留めずに自分達の仕事に精を出している。
「ここ最近は、父も母も公務より嫁を決めろと責めるように言い出してな。どうせなら気に入った令嬢がいいと思って、現在、猛攻撃を仕掛けているんだが、見向きもされない。ベルゼ嬢はどう思う?」
ハーディ様はにやにやと私の反応を見ている。
「そうですね。全く脈が無いんじゃありませんか?」
「つれないな」
肩を竦めて苦笑いするしぐさも、腹立たしいぐらいに様になっている。
「貴方様がそのご令嬢のどこを気に入られたのか解らないのですが、さっさと諦めて他の方を探した方が良いのでは?」
本当に毎日来るのはやめて頂けないかと、頭を抱えてしまいそう。
「そうだな。その令嬢は、元婚約者や義妹に冤罪に嵌められると知った途端、独りで戦うような心が強い女だ。保険に権力者を味方に付けた頭の切れるとこ。それも気に入った理由だな。それに、俺の横に立っても遜色無い身分と教養を持っている。お互いに婚約者に裏切られた者同士、裏切られる辛さを知っているところも強みだな。それから…」
「も、もう、結構です!」
本気なのかしら?
「なら、そろそろ腹を括らないか?」
「それとこれとは話が違います!」
私にどうしろと?
「気が弱そうに見えて、実は気が強いのも好みだ」
「話、聞いてますか?」
「怒った顔が綺麗なのも好みだ」
「ハーディ様!」
「なんだ?やっと婚約を承諾する気になったか?」
「そうではありません」
確かに、ハーディ様と私はこれ以上無い程の優良物件同士だ。
お互いに元婚約者と婚約破棄もしくは解消をしていて、更に言えば、私は第二王位継承権を持った方の婚約者だった身。
もちろん、王妃教育も受けていた。
王太子妃に私を推す貴族も少なくない。
「何が不服だ?俺がゼレウスの血縁者なのが問題か?」
「そこは問題ありません」
だけど、私はもう裏切られたり、無い者とされるのは嫌なのだ。
「じゃぁ、何だ?」
「…ハーディ様は何人側室を持つおつもりか伺っても?」
王家に嫁ぐなら側室は当たり前のものとして受け入れなければならないが、私は私だけを見てくれる人がいい。
だからこそ、ハーディ様の手を取る訳にはいかない。
「そうだな。正妃と恙無く子供が儲けられるなら側室は要らんな。金と時間の無駄だ」
「は?」
今、何て?
「俺は、お前だけでいいと言っている」
あり得ない…。
「…もし、何らかの事情で子供が出来ないと解ったらどうするんです?」
「その時は、弟のセインの子を養子にして王太子として立太子させればいいだろう」
「それも叶わない場合は?」
「少し変則だが、ゼレウスとメガイラの子なら血筋はしっかりしている。あの子を養子として王太子にすればいい。それも駄目なら公爵家の孤児院にいる子供を養子にしてもいい」
全ての懸念に対して、予想外の答えが帰ってくる。
「どうしてそこまで…」
「お前が欲しいと思ったからだが?」
ハーディ様の真剣な眼差しに私は息を飲んだ。
「…っ」
ティーカップを置いたハーディ様は、立ち上がると私の座っているソファーの前で跪いた。
「あの断罪の日。真っ直ぐに前を向き、冤罪を晴らしたお前が眩しく見えた。女は着飾る事と、噂話や権力にしか興味ない生き物だと思っていた俺の認識を、お前が変えたんだ。そんなお前に一目惚れしたと言ってもいい。ベルゼ嬢、どうか私と一緒にこの先を生きて頂けませんか?」
この方は人を射殺せそうな目をするくせに、こんなに甘い眼差しも出来るのね。
と、素直に感心した。
でも、私には公爵家を継ぐ子供を作らなければならない。
「ああ、公爵家なら第二子に継がせればいい」
ハーディ様は私の考えを見破っていた。
「他に懸念はあるか?」
負けた…。
「はー。…ありません。降参です」
惨敗だわ。
「では、結婚してくれるか?」
「…解りました。未熟者ではありますが、よろしくお願いします」
私は立ち上がってハーディ様の差し出された手に、自分の手を乗せた。
「「「「「「やったー!!!」」」」」」
途端に、部屋の外から歓声があがる。
何事!?
「「「「「おめでとうございます!お嬢様!」」」」」
部屋の中に使用人達が入ってきて、祝いの言葉をかけてくれる。
みんな気にしていてくれたんだと思うと、涙が滲んできた。
後日、正式にハーディ様の婚約者として世間に発表され、婚約式では、全国民の前でハーディ様が側室は取らないと大々的に宣言してくれた。
しばらくは世間を騒がせたが、一途な次期国王陛下は国民に好意的に受け入れられた。
私も絆された感が否めないが、数年後には待望の第一子が、更に翌年には第二子が生まれ、王家や公爵家の後継ぎ問題も解決された。
ハーディ様に愛され、今では子供達に囲まれて幸せに暮らしている。
あの時、あの決断をして本当に良かったと思う。
<完>
そう言ってディティが両手いっぱいの釣書と肖像画を持ってくる。
「また?もう、何度断っても送ってくるんだから困ったものだわ」
私の旦那になる方が公爵家を継ぐと聞き間違えた貴族諸侯は、嫡男以外の息子の釣書と肖像画をこぞって送りつけてくるようになった。
「ディティはお嬢様が皆様に認められて嬉しいですけどね」
それにしても多すぎる。
「まぁ、行き遅れになる前に旦那様を決めなきゃならないのだから、時間は限られているのだけれど…はっきり言って面倒だわ」
追加された釣書と肖像画を見て、ため息しか出ない。
「そうだな」
「公爵家に釣り合う身分で年が近い方は大体婚約者がいらっしゃるみたいだし、いらっしゃらない方は素行に難がある方ばかり…」
もちろん、婚約破棄をしてまで私に近付こうとした方のものは問答無用で送り返した。
「大変だな」
「どこかの高貴な方は何故かウチに入り浸るし」
目の前のソファーに座り、長い足を組んで優雅に紅茶を飲んでいるのはハーディ様。
「駄目か?」
シレっと答えるが、問題はそこじゃない。
「頻繁に来すぎです。ご公務はどうしたんですか?」
不敬だろうが何だろうが、あの一件で吹っ切れた私は、言いたい事を言うようになった。
それを見ていた使用人達は、いつもの事なので気にも留めずに自分達の仕事に精を出している。
「ここ最近は、父も母も公務より嫁を決めろと責めるように言い出してな。どうせなら気に入った令嬢がいいと思って、現在、猛攻撃を仕掛けているんだが、見向きもされない。ベルゼ嬢はどう思う?」
ハーディ様はにやにやと私の反応を見ている。
「そうですね。全く脈が無いんじゃありませんか?」
「つれないな」
肩を竦めて苦笑いするしぐさも、腹立たしいぐらいに様になっている。
「貴方様がそのご令嬢のどこを気に入られたのか解らないのですが、さっさと諦めて他の方を探した方が良いのでは?」
本当に毎日来るのはやめて頂けないかと、頭を抱えてしまいそう。
「そうだな。その令嬢は、元婚約者や義妹に冤罪に嵌められると知った途端、独りで戦うような心が強い女だ。保険に権力者を味方に付けた頭の切れるとこ。それも気に入った理由だな。それに、俺の横に立っても遜色無い身分と教養を持っている。お互いに婚約者に裏切られた者同士、裏切られる辛さを知っているところも強みだな。それから…」
「も、もう、結構です!」
本気なのかしら?
「なら、そろそろ腹を括らないか?」
「それとこれとは話が違います!」
私にどうしろと?
「気が弱そうに見えて、実は気が強いのも好みだ」
「話、聞いてますか?」
「怒った顔が綺麗なのも好みだ」
「ハーディ様!」
「なんだ?やっと婚約を承諾する気になったか?」
「そうではありません」
確かに、ハーディ様と私はこれ以上無い程の優良物件同士だ。
お互いに元婚約者と婚約破棄もしくは解消をしていて、更に言えば、私は第二王位継承権を持った方の婚約者だった身。
もちろん、王妃教育も受けていた。
王太子妃に私を推す貴族も少なくない。
「何が不服だ?俺がゼレウスの血縁者なのが問題か?」
「そこは問題ありません」
だけど、私はもう裏切られたり、無い者とされるのは嫌なのだ。
「じゃぁ、何だ?」
「…ハーディ様は何人側室を持つおつもりか伺っても?」
王家に嫁ぐなら側室は当たり前のものとして受け入れなければならないが、私は私だけを見てくれる人がいい。
だからこそ、ハーディ様の手を取る訳にはいかない。
「そうだな。正妃と恙無く子供が儲けられるなら側室は要らんな。金と時間の無駄だ」
「は?」
今、何て?
「俺は、お前だけでいいと言っている」
あり得ない…。
「…もし、何らかの事情で子供が出来ないと解ったらどうするんです?」
「その時は、弟のセインの子を養子にして王太子として立太子させればいいだろう」
「それも叶わない場合は?」
「少し変則だが、ゼレウスとメガイラの子なら血筋はしっかりしている。あの子を養子として王太子にすればいい。それも駄目なら公爵家の孤児院にいる子供を養子にしてもいい」
全ての懸念に対して、予想外の答えが帰ってくる。
「どうしてそこまで…」
「お前が欲しいと思ったからだが?」
ハーディ様の真剣な眼差しに私は息を飲んだ。
「…っ」
ティーカップを置いたハーディ様は、立ち上がると私の座っているソファーの前で跪いた。
「あの断罪の日。真っ直ぐに前を向き、冤罪を晴らしたお前が眩しく見えた。女は着飾る事と、噂話や権力にしか興味ない生き物だと思っていた俺の認識を、お前が変えたんだ。そんなお前に一目惚れしたと言ってもいい。ベルゼ嬢、どうか私と一緒にこの先を生きて頂けませんか?」
この方は人を射殺せそうな目をするくせに、こんなに甘い眼差しも出来るのね。
と、素直に感心した。
でも、私には公爵家を継ぐ子供を作らなければならない。
「ああ、公爵家なら第二子に継がせればいい」
ハーディ様は私の考えを見破っていた。
「他に懸念はあるか?」
負けた…。
「はー。…ありません。降参です」
惨敗だわ。
「では、結婚してくれるか?」
「…解りました。未熟者ではありますが、よろしくお願いします」
私は立ち上がってハーディ様の差し出された手に、自分の手を乗せた。
「「「「「「やったー!!!」」」」」」
途端に、部屋の外から歓声があがる。
何事!?
「「「「「おめでとうございます!お嬢様!」」」」」
部屋の中に使用人達が入ってきて、祝いの言葉をかけてくれる。
みんな気にしていてくれたんだと思うと、涙が滲んできた。
後日、正式にハーディ様の婚約者として世間に発表され、婚約式では、全国民の前でハーディ様が側室は取らないと大々的に宣言してくれた。
しばらくは世間を騒がせたが、一途な次期国王陛下は国民に好意的に受け入れられた。
私も絆された感が否めないが、数年後には待望の第一子が、更に翌年には第二子が生まれ、王家や公爵家の後継ぎ問題も解決された。
ハーディ様に愛され、今では子供達に囲まれて幸せに暮らしている。
あの時、あの決断をして本当に良かったと思う。
<完>
13
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王子様とずっと一緒にいる方法
秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。
そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。
「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」
身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった!
「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」
「王子様と一緒にいられるの!?」
毎日お茶して、一緒にお勉強して。
姉の恋の応援もして。
王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。
でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。
そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……?
「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」
え? ずっと一緒にいられる方法があるの!?
――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。
彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。
※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる