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≪本編≫

【本編8】

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コンコンコン

どれくらい話に花が咲いていたのか、和気あいあいとした雰囲気に包まれる中、ノックの音が響いた。

ガチャ

「失礼します」

長身のモデル並の綺麗な…男?だよね?

小柄な女の子と、後ろにこれまた長身の男を連れて入ってきた。

あ。

…YORUだ…。

そこだけ別世界になったように優雅に現れた3人に、一瞬でスタジオ内がシンとなる。

「呼ばれてやって参りました。モデルのYORUです。私はマネージャーで月見月と申します。彼はYORU専属のヘアメイク。よろしくお願い致します」

入ってきた3人が優雅にお辞儀をすると、歓声が上がった。

「実在したんだ!」

「生YORU!」

「CGじゃなかったんだ…」

CG説が一番有効だったもんね。

「へぇ、本物初めて見た。ホントに可愛いねぇ」

早速山田さんが近付いてあちこちからYORUを見る。

「実物がこんな美少女だとは…。君、フリーなんだろう?ウチと契約しないかい?悪い話じゃないだろう?」

中澤さんの彼女を目付きが怪しい。

山田さんのように純粋に珍しいものを見たというより、何か邪な感じがするのは俺だけかな?

「年契約ならこれぐらいのお支払が出来ます!」

秘書の人まで前のめりだけど、この人は単純に商品として見ている感じだな。

YORUは静かに目を閉じて、首を横に振った。

その仕草さえ絵になっていて、どこか現実離れして見えた。

「申し訳ありませんが、我々はどなたでも、契約は致しません」

YORUの代わりにマネージャーの月見月さんが答えた。

「どうしてもかね?」

「はい」

「いや、私は彼女に聞いているんだ!」

中澤さんがどなっても、YORUはただ黙って首を降るだけだった。

そして、持っていた可愛らしい鞄からメモ帳とペンを出して、何かを書き始めた。

…ああ、確かに彼女だ。

書き終わると、みんなに見えるように胸の前にメモを出した。

《けいやくはいや
へんなひとくるから
だめならかえる》

「この通り、YORUは喋る事が出来ません。その為、私と彼がボディーガードを兼用しております」

…昔もあんな感じだったな。

懐かしい。

そう言えば…あの人達はどうしたんだろう?

「では、契約したらボディーガードを増やしてやろう。こんな優男達よりはましな者を付けてやる!」

中澤さん、意外と横暴だな。

やっぱり邪な目で彼女を見ているんじゃないの?

するとYORUはまた書き出した。

《ぜったいいや!》

ものすごいデカイ文字だったw

《はなしつうじない
かえる》

って、いやいや。

帰られたら困るんだって。

「社長!ここは引いた方が宜しいかと。幻と言われるモデルです。このまま帰してしまったら2度と会えないかもしれません!」

秘書が中澤さんを止めてくれた。

「そうですよ。それに帰してもらっては困ります。今回、彼女に依頼したのはウチの事務所です」

いつの間に戻ってきたのか、ウチの母さんの凛とした声がスタジオに響いた。

「小野田社長ですね。お電話した月見月です」

「小野田です。わざわざご連絡を頂き、ありがとうございます。早速ですが、時間が押してしまっているので控え室の方でお話をさせて下さい」

母さんと月見月さんは先にスタジオから出て行ってしまった。

「YORU、俺達も行くぞ」

ヘアメイクの人も無駄にイケボだなぁ。

顔は前髪が長いのと眼鏡で良く解らない。

…なんだ?顔が解らないのってヘアメイク界で流行ってるの?

YORUは専属のヘアメイクの人に手を伸ばしかけてやめ、近くにいた俺に向かって手を伸ばした。

え?何?

「OMIくんご指名だよ!エスコートしないと!」

山田さんが興奮しながらYORUの行動の意味を教えてくれた。

「あ、はい!」

俺が彼女の手を取ると、彼女は満足そうに可憐に微笑んで俺の腕に自分の腕を絡めた。

ヤバい、可愛い…。

「こっちです」

絡められた腕を気にしながらゆっくりとスタジオを出た。

…葉月さん!ツチノコ存在しましたよ!

何か、彼にはそう言って報告したくなった。
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