LAW BREAKER ― 理不尽に、終止符を。

omaru_author

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【第4話】 反動

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朝。
カーテンの隙間から光が落ちる。
小鉄の足音。いつもより静かだ。

テレビでは、同じニュースが何度も繰り返されていた。

《SNS誹謗中傷防止法、正式に施行》
《投稿履歴、全期間で本人照合可能に》
《匿名通報アプリ・モラルポイント制度、全国導入》

街の声は肯定一色だった。

「ようやく時代が追いついた」
「悪口で人を殺す奴は、罰を受けて当然」

正しいことが、正しいまま通っていく。
だが、その均整がどこか異様だった。



俺が、望んだ世界のはずだ。
……それなのに、何かが違う。



出勤途中。
駅前の大型モニターには笑顔の市民。

《あなたの通報が社会を守る》
《一件ごとにポイント付与 正義で報われる国へ》

(……“いいね”の代わりに通報、か)

誰かを指差すことが、善意の証明になっていた。
その指の数だけ、拍手が増える。
笑顔の裏に、微かな焦燥が混じっていた。

会社に着くと、同僚がスマホを見せてきた。

「見ろよ、うちの部長も炎上中。“態度が高圧的”ってさ」

笑いながらスクロールする指。
薫は、笑えなかった。

ひとつの法を変えると、
その周りの法も形が変わる……。

……なるほど、そういう仕組みか。



昼。
社員食堂の雑音が妙に耳についた。

「昨日のニュース見た? 隣の県の主婦、誹謗罪で逮捕だって」
「子どもがいじめられてたらしいけど、SNSで相手の親を晒したんだって。
やり過ぎはやっぱダメだよな。」

共感ではなく、報いを語る声。
誰かの不幸が、昼食の“おかず”になっていた。

スプーンを持つ指が微かに震えた。
世界が静かに“自浄”していく音がした。



午後。
缶コーヒーを片手に、席へ戻る。
机の上には、朝に買った同じ缶がまだ残っていた。

(……疲れてるだけだ。)

そう言い聞かせて、微笑んだ。
その笑みの作り方を、少し忘れていた。



夜。
机の上には、開きっぱなしの法学書。
赤い跡が、かすかに呼吸しているように見える。

(……また直すべきか?)

指を伸ばしかけて、止まる。
冷えた空気が肌を撫でた。

胸の奥で、鈍い鼓動が響く。
それが恐怖なのか、高揚なのか、自分でも分からない。

カーテンにもぐり、外を眺めていた小鉄が不意に駆け寄る。
鳴かない。

ただ、静かに薫の足に頬を押しあてた。
その温もりに、わずかな安堵を覚えた。

秒針が、また一拍早く動いた。

世界はまだ、静かに壊れ続けている。
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