LAW BREAKER ― 理不尽に、終止符を。

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【第12話】 序の条

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白。
世界は、一度、真っ白になった。

音も風も消え、街は輪郭だけを灰の影に残した。
しばらくのあいだ、光の粒子だけが漂っていた。
だがやがて、それも薄れていく。

——第十三条 無垢なる者に、未来を託すものとする。

その文だけが、世界の底に沈んでいた。



数十年後。

《無垢ノ地》。

割れたコンクリートを押し上げる若木。
つぎはぎの家並み。
人は少ないが、呼吸は確かに戻っている。

法学校の教室。
窓から射し込む光が、古びた机を照らしていた。

前方の黒板の前に、白髪の教師が立つ。

「ここ《無垢ノ地》は、かつて一度、すべてを失った。
 だが、“第十三条 無垢なる者に、未来を託すものとする。”
 その条文によって、今の私たちは、生かされた。」

「その者が何を願い、どこまで見ていたのかは、記録に残っていない。
 ただ、その行いによって多くの命が失われ、
 同時に、今の私たちが“生かされた”のも事実だ。
 ——これが《第十三条》だ。」

教室の一番後ろの席。
法学校に通う少女——ラルが顔を上げ、窓の外を見つめていた。

遠くで鐘の音が響く。

「ただ……生かされただけで、いいのかな……」

小さな呟きが風に溶けた。

教師は一瞬だけ目を細め、微笑んだ。

「人間は、何度でも立ち直れる。
 それが、私たちの不思議な力だ。……そう、何度でも。」



放課後。
ラルは丘へ向かう。

そこは、彼女がひとりで過ごす癒やしの場所。

草の香り、鳥の声、穏やかな風。
この街で、最も静かな場所だった。

ふと、頬をかすめる風の中に、誰かの気配を感じた。
嫌な感じではない。
むしろ、どこか懐かしくて——優しく背中を押されたような気がした。

「……ん? 今の、なに?」

ラルは首を傾げ、微笑んだ。

そしてノートを開き、ペンを走らせる。

最初の一文は、授業で習った法のままだった。

——第十三条 無垢なる者に、未来を託すものとする。

その下に、小さく前に習った言葉も書き添える。

《法に従う者の魂は、すべて平等である。》

「うーん……どっちも違うんだよなぁ」

ペン先をくるくる回しながら、ラルは呟いた。

「もっと、シンプルなやつがいいな。」

少し考えてから、ゆっくりと書き足す。

《法は未来を生きる人の為にある♡》

彼女は人差し指を立てて、弾けるように笑った。

「うんっ、これだ♪」

そのとき、足もとで草が揺れた。
灰色のもふもふした毛並みの猫が、静かにこちらを見ていた。

「君、またここにいるの? ここは君の特等席かな?
 全然話してくれないから、淋しいんだけどぉ。」

猫は鳴かない。
ただ、ゆっくりと瞬きをした。

「……ふふ、そっか。」

遠くで友達が呼ぶ声。
ラルはノートを閉じて駆け出した。

丘の上に、置き忘れられたノート。
風がめくるページ。

“法は未来を生きる人のためにある♡”

その文字が、じんわりと優しい紫色の光を帯びていく。

芽吹いた若木が、小さく揺れた。
まるで、世界がもう一度歩き出そうとしているように——。

END

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