10 / 117
第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「目が覚めると知らない女の子とがいこつの山にいました」
しおりを挟む「ここは……?」
目を覚ましたロットは困惑していた。
あたりを見回すと人らしきものの骨が積み重なり、その上に自分自身が眠っていたのだから仕方ない。
しかしこのタイミングで目を覚ましたのは幸運だったことをロットは知らない。
さきほど落ちた身投げの穴は自身が想像していた以上の深さだったこと、そしてロットの隣で魔力切れを起こして眠っているケイトのこともまだ気がついていない。
更にはその部屋の端々から、落ちてきた死体を喰おうとするこのダンジョンの虫たちが顔をのぞかせていたこともだ。
それもロットが起き上がったことにより驚き警戒して穴へ戻っていったから運が良かった。
そしてケイトが気絶して五分と経たない時間だった。
ただ、ロットは眠ったままのケイトから聞き出すことができず、状況がわからず困惑することとはなった。
とはいえ虫に生きたまま身体を蝕まれるという事態は運良く避けているからやはり幸運といえよう。
そんなロットはあたりをひとしきり見回してようやく今座っているのは人の骨の上であることに気がつく。
「じ、人骨?」
手に持っていた誰かの頭蓋骨を驚きで放り投げる。哀れにも落ちた衝撃で割れた。
そうして身じろぎ慌てて立ち上がると足元で眠っているケイトにもようやく気がついた。
ケイトはロットが立ち上がる拍子に人骨の山を少し転げたがまだ目を覚まさなかった。
それもまたケイトにとって幸運といえよう。もしケイトが人骨の上で自分が眠っていたことを知ったら恐怖から取り乱していたから。
それを知らずかロットは人骨の山で唯一生きている女性ケイトを担いで足場の悪いところをどうにか下った。
人骨の山は少し離れるとすぐに終わりを迎えてダンジョンらしい不可思議な模様の床が現れる。その床を今度は警戒して歩く。
流石に罠という存在に警戒心を持った瞬間だった。
「この部屋はいったいなんなんだ?俺は確か、穴から落ちて……」
落ちてからの記憶がないものの、かすかなところを辿っていくと、落ちる瞬間の他人の声が思い出された。
その時は勇者が助けに来てくれたと思っていたロットだったが、どうやらそれは違い、目の前で眠る女性のことらしいことはわかった。
(ありがとうございます……)
寝息を立てては眠る彼女がどうやって助けてくれたのか、聞きたいところではあったが、この寝顔をどうしても邪魔する気になれず、なにかに襲われても対処できるように待ち構えた。
しかし残念なことにロットは男らしく守ろうという気概だけはあったものの、未知の場所で見知らぬ人といること、そして穴をかなり落ちてしまったことなど先行きのない不安から傍から見ると怯えた様子になってしまっている。
本人は気張って殺気を込めていたつもりだがダンジョンの虫にとっては全くの無意味だ。
先程ロットとケイトの血肉を狙って顔を出しかけていた虫にも脅威に見えなかったようで、やがて一匹の虫が地面を気味悪く擦りながら姿を表してきた。
その様子にロットの心臓は跳ね上がり、手にもつ剣に力がこもる。
大人の顔程はある蜘蛛だ。しかしそれは糸を持たず鋭い牙とどこにでも引っかかり歩ける八本の足を持っている獰猛な生き物だった。
ロットは蜘蛛自体は見たことがあったが、それはやはり普段見慣れているサイズとは違い数十倍は巨大な姿をしている。
いくら自分より小さくても気色が悪いものである。しかもそれが跳躍し自分の顔より高くから落ちてくるのだから恐怖でしかなかった。鋭い牙が妖しく光っている。
「う、ぅぁあい!!」
悲鳴か気合かよくわからない奇声を発したロットは剣を抜きその蜘蛛に向かって振り切った。
剣の一太刀とともに蜘蛛の身体は二つに分かれる。バランスを失った身体は両側でうねうねと動き続けるが、やがて目的を忘れて停止した。
断末魔がまた気味悪く、ロットは顔を青ざめることになったのだが、他の蜘蛛へと集合のような効果ももたらしたようでさらに悪化させることとなる。
この蜘蛛は仲間意識も強いため先遣がやられたことを知ると、どこに隠れていたのかぞろぞろと十数体が現れ、あっという間にロットとケイトを囲むこととなった。
「ひ、ひひはぁ」
もはや笑っているかのような悲鳴を漏らすと引きつった笑顔のままでロットは剣を振るっていく。
幸いなことにロットが学んできた剣術でも十分に戦える程度の相手であったことと、恐怖が高まりすぎて無我夢中で剣を振っていたことにより、おかげで変な緊張せずに戦えていた。
さらにこの蜘蛛の名を百蜘蛛(ひゃくぐも)といい、通常百体以上の群れを持つのになぜか十数体という少ない群れであったことが功を奏した。
とにかく一生懸命剣を振り続けたロットは動く蜘蛛が見えなくなったのを確認して肩で息をついた。
そしてこれだけ戦闘で騒いで(ロットが叫んでいただけだが)いたのに目を覚まさない女性に呆れていると蜘蛛が出てきたその付近に箱がおいてあったことに気がつく。
それも黒くかなり大きかった。
ロットが入り込めるくらいには大きく、この中身に宝が入っているならかなりの量だなと少し現金なことも考えつつ、開けに行くべきか考える。
蜘蛛との戦闘を乗りこえ、体液もしっかりと浴びたロットは半ばやけくそで開けることを決意する。そして向かおうとしたその時、ようやく女性が身体を起こして目を覚ました。
0
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる