11 / 117
第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「目が覚めると助けた男の子がちょっと生意気」
しおりを挟む「ふぁあぁあ。んー、よく寝た。かな?」
まるで自室から目覚めたかのような起きっぷりである。
面食らったロットをよそにケイトはすぐに周りを見回す。
パーティを組んできた経験はここでも活かされており、自分が見当外れな目覚め方をしたのはすぐに忘れた。
そして状況把握を素早くし、どうやら目の前の少年は目を無事に覚まし、自分自身も生き残ったことを理解した。
さらにあたりに散る魔物の身体や血を見てかなりの数を少年が倒してくれたことがわかった。
感謝するとともに全くの初心者で危なっかしい子供から、そこそこ剣の腕はマシな子供に認識を改めた。
その少年が先程からどう話しかけるか困り、こちらの出方を伺っていることも見て取れた。
ま、私のほうがお姉さんなんだからここはリードしてあげなきゃ駄目ね。今まで年上と接する機会が多かったケイトはそんなふうに思う。
「私ケイト。あなたが無事で良かった。目を覚ますまで守ってくれてありがとうね」
微笑みそう言った。パーティの頃も自身が一番年下で妹のように扱われていたケイトにとって自分より年下の者と接する機会は珍しくなんだか新鮮な感じだった。
そのため少し嬉しくなっていたのをバレないようケイトなりの大人びた会話を試みた。
「あ、俺はロットです。助けていただいてありがとうございました」
頭を下げて感謝を伝える。礼儀正しいロットの返事にさらに得意げになる。
「ええ、初心者の子供があんなところで死ぬのはかわいそうだもの」
それが余計な一言となる。礼儀正しいとはいえロットは子供で、多感な時期でもあり、一番子ども扱いさえれたくない年ごろともいえる。思わず言い返してしまうのも至極当然だ。
「……ま、ケイトさんが起きるまで俺が守ってなかったら死んでたけどな」
あえて偉そうに腕まで組んでそういった。精一杯の強がりなものの、ケイトの苛立ちを高めるには十分だ。そしてそれは連鎖する。
「ね、眠っていたのは上級魔法を使ったからよ!……ま、子供のあなたには使えないでしょうけど」
上級魔法はそれなりに魔法を使って経験を積んでいる大人なら使えることは珍しくないが、子供のうちから使えるものはあまりいない。
それをわかった上で明らかに初心者なロットにそういったのだから勝ちを確信していた。なんの勝ちかは知らないが。
「お、俺だって魔法なら上級魔法をつかえるぞ!」
「なっ!?」
まさにカウンターパンチだ。上級魔法をこんな田舎っぽそうな子供が使えるなんて思いもよらなかった。
そんな事実に愕然としケイトはその場にうなだれてしまった。地面に両手を付き、今にも泣き出しそうなケイトに流石にロットもうろたえている。
「ほ、本当なの?」
この子はどう見ても子供、しかも旅なんて初めてみたいな挙動のくせに上級魔法を使えるなんて。威張ったのはバカみたいじゃない。というケイトの心の声が今にも溢れ出そうだった。
「う、うん。本当だよ!……魔力が少なくて一発しか打てないけど」
ケイトの姿が哀れにみえ、思わず言うつもりのなかった自身の魔力について漏らす。そしてその事実にケイトが強い親近感を覚えたのは言うまでもない。
「……私もなの!」
上級魔法を扱えるのにも関わらず一撃で魔力切れを起こす悲しみと周りの失望感をケイトもロットもしっかりと解っていた。
二人の間に見えない友情が芽生えた瞬間だった。
二人は無言でお互いの苦労を称え合い、肩にそっと手を置く。それ以上の言葉はいらない。同じ苦しみを味わう者同士痛みをえぐる会話は控えよう。そんな意志がお互いに込められていた。
「ところで、あれはなにかしら?」
気を取り直したケイトが聞いた。話題を変えるためでもあったが仇となる。
「人骨の山だよ。あそこに落ちたおかげで衝撃もだいぶ和らいだみたいだ」
ロットが正直に答えると途端にケイトの身体はフルフルと震えだした。
「じじじ、人骨ですって?!?わわわたし人の、骨の、上にいたってこと?」
「それもすやすやと眠ったままね」
ロットが無慈悲に付け足す。
「ぎ」
「ぎ?」
「ぎぃぃいいやぁぁあ!!!」
蜘蛛のときのロットの奇声が可愛らしく思えるほどの絶叫が部屋いっぱいに広がった。身体中を手で払い、半狂乱になりながら走り回るケイトは、先程までのお姉さんぽさは完全に消えていた。
当の本人はそんなこと全く気にならないようで、必死に目には見えない人骨に頬などが触れた、という事実を払いのけようともがいている。
その姿があまりにも可哀想で、慰めの意味も込めてロットは水魔法を使ってやった。
「下級水魔法、ウォーターボール」
魔力が小さな水の球に変換される。その水を見るやいなや飛び込む勢いで顔を洗い始めたケイトを微笑ましい気持ちでロットは眺めた。
ひとしきり顔を洗い終わったケイトは限りなく魔力の消費を抑えつつも髪の毛を乾かすため風を作りながら口を開く。
「……ロット君、あなたいい子ね」
爽やかな笑顔でそう言われたロットは今更取り繕うには無理があるだろうと思ったが優しさで何も触れてあげなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる