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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「この指輪売ったらいくらかしら」
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特に読めないことに関して文句を言うつもりはなかったが、残念であることには変わりなく、同じように無言でいるロット。
それがケイトには辛い時間で
「こ、古代文字よ!?少しは習ったことがあるけど別に専門じゃないし、ここまで読めただけでも!」
ロットに顔を近づけてそう訴えた。
古代文字とは、今では使われていない文字で、魔王と勇者の軍勢が世界を二分して戦っていた時代のもの。
今でもダンジョンや勇者の称号を得られる五つの塔にはその文字が眠っているため、学者や著名なパーティには一人は読める人がいるものだ。
とはいえケイトは個人的に勉強していた稀な存在であり、読めなくても責められることはない。
しかし、状況が状況なため読めないことに責任を感じていた。そして彼女の飛び出した言い訳は、そんな事情を知らないロットには意味を成さなかった。
「あぁ、うん。ありがとう、ケイト」
必死の弁明も、ロットの冷静な感謝の前でもろく崩れ去る。ケイトは何も言えなくなり、ロットは悪気なく思考する。
ケイトにとって気まずい沈黙の時間が過ぎた。
涙が出そうなほど長く感じられた時間の後、実際は数十秒ほどだったが。
「とりあえず、この指輪、はめてみない?やっぱり危険かなぁ?」
沈黙を破ったのは、思考から戻ってきたロットだった。その姿にケイトはようやく自身を責める沈黙ではなく、単に思考していただけと気づいた。
「ちょっと危険ではあるけれど、ここがボスの部屋に通じる最後の部屋と仮定するなら、この宝箱は安全よ」
「どうして?」
ロットの疑問にケイトは答える。
「基本的にダンジョンのボスの部屋の前は、安全な最後の場所なのよ。ここで呪いの武器などがあった類の話は聞いたことがないわ」
その発言にロットも安心する。最悪の事態が引き起こされる可能性は低そうだと。
「でも、もしかしたら呪いの武器に出会った人たちは、みんな死んでしまったかもしれない」
安心しても懸念は消えないが、二人はこの指輪が現状を突破するキーアイテムになり得ると期待していた。ボスの前に置かれているのだから、何かしらの弱点や有利な効果があるかもしれない。
「……まあ、これ以上悪くなることはないわ」
そう言ってケイトはロットの手から赤を取る。
赤の背負う、の意味を悪く捉えたとき、悪い何かは自分が引き受けよう、そんな覚悟をこっそりと決めて。
「じゃあ、いくわよ。」
「「せーの」」
息を合わせて指輪をはめる。何度かサイズが合わずはめ直したが、ケイトは右の人差し指に、ロットは左の人差し指に落ち着いた。
「……何も起きない」
「そうね。特に変化はないわね」
覚悟してはめた指輪は全く意味を成さず、光ることも体に変化が起きることもなかった。しばらく待っても体調に変わりがなく、見た目も変わらなかった。
「ケイトの指輪、似合ってるね」
ロットのよくわからない気遣いを見せた以外、何も起きなかった。ロットは剣を振るい、ケイトは辺りを跳ねたり駆けたりしたが、何も変わらなかった。
魔力にも特に変化がなく、結局ただの指輪だったと結論づけた。呪われている心配もあったが、つけ外しも簡単にできた。
「仕方がないわ。次に進みましょう」
試行錯誤の後、ケイトの言葉でいよいよボスの扉へ挑むことになる。ケイトの魔力は上級一発程度、ロットはほぼ満タンで上級一発程度の魔力量。
それなりの剣術と経験、そして使い物にならない指輪を添えて、戦いの準備は整った。
二人は宝箱を後にし、ボスの部屋への扉に向かって歩き出した。扉は予想外にスムーズに開いた。
もしかしたら、二人の挑戦する意志を感じ取ったのかもしれない。重たい音を立てながら、扉がゆっくりと独りでに開き、中は真っ暗だった。
ロットは少し困惑していたが、経験者のケイトは前回のダンジョンのときと同じ流れに安心していた。
「中に入れば火が灯り、扉が閉まる。そしてボスを倒せば転移扉が現れるはずよ」
経験者らしくロットにアドバイスをするケイト。二人はついにその暗闇に踏み入れた。二人の身体が完全に暗闇に包まれたとき、不意に火が灯り始めた。
そして入ってきた扉は同じように音を立ててゆっくりと閉ざされた。ロットはもし一人だったらここでパニックになっていたに違いないと思った。やはり経験者がそばにいるのは、それだけでありがたかった。
「すごい……」
ロットが思わずそう洩らしたのは目の前の光景だ。円形にくり抜かれた部屋は広く、まるで絵巻で見たことのある街のコロシアムのようだった。
硬い地面と壁は石をなめらかに削り取ったように、つなぎ目もわからぬほどきれいに繋ぎ合わされていた。そして等間隔に灯る火は部屋全体を均等に明るく照らし、その空間の真ん中にボスが立っていた。
それがケイトには辛い時間で
「こ、古代文字よ!?少しは習ったことがあるけど別に専門じゃないし、ここまで読めただけでも!」
ロットに顔を近づけてそう訴えた。
古代文字とは、今では使われていない文字で、魔王と勇者の軍勢が世界を二分して戦っていた時代のもの。
今でもダンジョンや勇者の称号を得られる五つの塔にはその文字が眠っているため、学者や著名なパーティには一人は読める人がいるものだ。
とはいえケイトは個人的に勉強していた稀な存在であり、読めなくても責められることはない。
しかし、状況が状況なため読めないことに責任を感じていた。そして彼女の飛び出した言い訳は、そんな事情を知らないロットには意味を成さなかった。
「あぁ、うん。ありがとう、ケイト」
必死の弁明も、ロットの冷静な感謝の前でもろく崩れ去る。ケイトは何も言えなくなり、ロットは悪気なく思考する。
ケイトにとって気まずい沈黙の時間が過ぎた。
涙が出そうなほど長く感じられた時間の後、実際は数十秒ほどだったが。
「とりあえず、この指輪、はめてみない?やっぱり危険かなぁ?」
沈黙を破ったのは、思考から戻ってきたロットだった。その姿にケイトはようやく自身を責める沈黙ではなく、単に思考していただけと気づいた。
「ちょっと危険ではあるけれど、ここがボスの部屋に通じる最後の部屋と仮定するなら、この宝箱は安全よ」
「どうして?」
ロットの疑問にケイトは答える。
「基本的にダンジョンのボスの部屋の前は、安全な最後の場所なのよ。ここで呪いの武器などがあった類の話は聞いたことがないわ」
その発言にロットも安心する。最悪の事態が引き起こされる可能性は低そうだと。
「でも、もしかしたら呪いの武器に出会った人たちは、みんな死んでしまったかもしれない」
安心しても懸念は消えないが、二人はこの指輪が現状を突破するキーアイテムになり得ると期待していた。ボスの前に置かれているのだから、何かしらの弱点や有利な効果があるかもしれない。
「……まあ、これ以上悪くなることはないわ」
そう言ってケイトはロットの手から赤を取る。
赤の背負う、の意味を悪く捉えたとき、悪い何かは自分が引き受けよう、そんな覚悟をこっそりと決めて。
「じゃあ、いくわよ。」
「「せーの」」
息を合わせて指輪をはめる。何度かサイズが合わずはめ直したが、ケイトは右の人差し指に、ロットは左の人差し指に落ち着いた。
「……何も起きない」
「そうね。特に変化はないわね」
覚悟してはめた指輪は全く意味を成さず、光ることも体に変化が起きることもなかった。しばらく待っても体調に変わりがなく、見た目も変わらなかった。
「ケイトの指輪、似合ってるね」
ロットのよくわからない気遣いを見せた以外、何も起きなかった。ロットは剣を振るい、ケイトは辺りを跳ねたり駆けたりしたが、何も変わらなかった。
魔力にも特に変化がなく、結局ただの指輪だったと結論づけた。呪われている心配もあったが、つけ外しも簡単にできた。
「仕方がないわ。次に進みましょう」
試行錯誤の後、ケイトの言葉でいよいよボスの扉へ挑むことになる。ケイトの魔力は上級一発程度、ロットはほぼ満タンで上級一発程度の魔力量。
それなりの剣術と経験、そして使い物にならない指輪を添えて、戦いの準備は整った。
二人は宝箱を後にし、ボスの部屋への扉に向かって歩き出した。扉は予想外にスムーズに開いた。
もしかしたら、二人の挑戦する意志を感じ取ったのかもしれない。重たい音を立てながら、扉がゆっくりと独りでに開き、中は真っ暗だった。
ロットは少し困惑していたが、経験者のケイトは前回のダンジョンのときと同じ流れに安心していた。
「中に入れば火が灯り、扉が閉まる。そしてボスを倒せば転移扉が現れるはずよ」
経験者らしくロットにアドバイスをするケイト。二人はついにその暗闇に踏み入れた。二人の身体が完全に暗闇に包まれたとき、不意に火が灯り始めた。
そして入ってきた扉は同じように音を立ててゆっくりと閉ざされた。ロットはもし一人だったらここでパニックになっていたに違いないと思った。やはり経験者がそばにいるのは、それだけでありがたかった。
「すごい……」
ロットが思わずそう洩らしたのは目の前の光景だ。円形にくり抜かれた部屋は広く、まるで絵巻で見たことのある街のコロシアムのようだった。
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