【2部まで完結!】使い捨てっ子世にはばかる!?~妹が最強の魔王になるかもしれない~

うろたんけ

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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い

「私を抱いてくれない?」

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ケイトは深呼吸をしてからノックをし、少し震える声で「は、入ります」と告げた。ドアを開けると、ロットと勇者、ソイルの視線が一斉に集まる。

ロットが驚きと困惑の入り混じった表情をしている。勇者は興味深そうに、でもどこか楽しげに笑っていた。

ケイトはこれから言うことが少々おかしな要求になるかもしれないことは分かっていたけれど、もう後には引けない。そんな三人を黙ってソイルは見ていた。

「ろ、ロット!私を抱いてくれない!?」

意を決して放たれたケイトの言葉は、焦りすぎて言葉がもつれた。本人がそのことに気づく前にロットの顔が瞬く間に赤くなり、勇者はクスクスと笑いながらその様子を見ている。

ソイルは目を丸くしていただけだった。

「あ、えっと!?」

ロットが目線をあちこちに漂わせながら狼狽する姿にケイトもようやく自分の発言を顧みた。

「ち、違うのよ!?そういう意味じゃなくて、ただまたロットに抱いてほしいと思っただけで、あのすごい感覚をもう一度味わいたくて!」

言うだけひどくなっていく。

「ふふふ、ロットは意外とテクニシャンなのかな?」

勇者様がボソリとつぶやいたせいで、ロットの赤面はさらに増していった。ケイトもどうしようもなくなり頬が熱くなった。

「落ち着いて、本当に違うの!そういう意味じゃなくて、調べるために抱くという行為が必要なのよ。ロットじゃないとだめなの!でもやらしいわけじゃないのよ、あの」

「わわわ、わかってる。だいじょ、大丈夫だから!」

パニックの二人をソイルだけが純粋な目でそれぞれ見比べ、やがて自分には理解できないことだと思いむくれたようにむぅっと息をついた。

「ふふふっ、あっはっは。要するに、ボス戦での魔力増加の原因を調べたい。そして一つの仮説として指輪をした者同士の接触、今回は抱きかかえるという行為が条件だと確かめたいわけだね?」

このまま放っておくとさすがに宿屋の店主に怒られそうなほど声が大きくなっていく二人を見かねて、勇者がまとめた。

「は、はい、その通りです!」

ひとしきり笑われたことは気にならないほど焦っていたケイトは勇者様の理解力に感謝した。ロットもようやく納得した様子でホッと息をついた。

そして結局改めて目の前の女の子をお姫様抱っこしなければいけない事実にこっそり赤面した。

ケイトはそんなことは知らずにすっかり落ち着きを取り戻し、説明を続ける。

「ロットがしている指輪は、多分魔力を増大させるもので、私の指輪がその魔力を受け取るアイテムなの。そして、その受け取り方に条件があると考えているの」

「な、なるほど。それで受け渡し方法が指輪をはめるだけじゃ何も起こらなかったからその、あの、抱っこってことなんだね」

「そうよ!ロットさえよければ明日にでも試しに行きたいの。どうせなら森で魔法の試し打ちも兼ねてね!」

ケイトの純粋な魔法を使いたい気持ちに、自分の恥ずかしさが邪に思えてきたロットは仕方なく了承した。

勇者曰くこの町周辺の森はそれほど危険はないので二人で行くこととなった。ソイルはのちに自分だけ会話もよく理解できず、留守番として宿にいなければいけないことを不服そうに兄に当たった。




そして次の日。

「おまたせ」

宿屋の前で緊張して待っていたロットが声を掛けられて肩を震わせる。

「ぜ、ぜんぜん!えっと、じゃあ今日はよろしく」

何故緊張しているのかは明白で、村育ちのロットにとって妹以外の相手もほぼ顔見知りであるし、そうでなくても年の近い人、しかも異性と出かけることなど初めてだった。

昨日勇者とケイトが部屋に戻った後、ソイルがぽつりと

「そういえばお兄ちゃんお友達とお出かけはじめてだね」

なんて言うからそのことを意識してしまっていた。
一緒にダンジョンを突破した仲とはいえ、思春期真っただ中のロットが改まって女の子をお姫様抱っこしなければいけないのだから意識してしまうのは仕方ないといえばそうである。

とはいえ相手のケイトはというと、魔法のことですでにいっぱいで、まったくもって意識されてはいなかった。

そんな二人は早朝ということもあってまずは腹ごしらえのために町を歩く。まだ賑わいを見せていないとはいえ町の人通りはすでにロットの住んでいた村よりも多い。

右左と人や建物を眺める田舎丸出しのロットを導くようにケイトの手はロットに繋がれた。

「うぇ?」

当然驚くロットは何事かとケイトを見つめるが気にする素振りなく進んでいく。しばらく通りを歩くと

「きたきたきたわ!私の魔力がぐんぐん増えてる!」

と満面の笑みで振り返った。

「よ、よかったね」

その笑顔にドキッとしつつも自分のことは魔力供給源としか思われていないことを再認識したロットは少しだけ悲しくなった。

「ここで昼食を取りましょう」

そうして手をつなぎながらしばらく歩くと大きな看板の前で立ち止まった。そこで手が離れてロットもほっとしつつ名残惜しい手を眺める。そうした気持ちも顔を上げてすぐに吹き飛ばされることになった。

「すごい!おっきなパンが飾られてる!」

店の看板に飾られたパンの模型に釘付けだった。それを見ていたケイトが微笑ましくしているが気にもせず興奮している。

きっと弟がいたらこんな感じなのかな、とケイトはそんなことを思いながらロットが満足するのを待っていた。

「もしかして商品も本当にあんなにおっきなパンが!……ってあるわけないか」

看板の模型パンサイズのパンが実際にあるかも、と自分でツッコミを入れていた。その背後から人影が迫ってくる。ケイトは気づいているがあえて放置する。

「おうおうおう、ひやかしかぁ?んなとこで突っ立って、ワシんとこの店で飯食えねぇってか?こっちも暇じゃねぇんださっさと決めやがれ!」

ロットからすると突然背後から絡まれた。とても乱暴に声をかけられた。

確かに少し長めに看板を見ていてなかなか入らなかったし、店先で騒いでしまったのも行儀が悪かった、それにしたっていいがかりだ。

そんな風に言い返そうと振り向いたロットの声はすぐに小さくなる。

ケイトはそんな様子に笑いながらも、乱暴な言葉で声をかけた男性にそんな言い方ばかりしていたらお客さんが来なくなるのではないか。素直じゃないなあと内心思った。

ロットが何も言い返さないのはその外見からだった。筋肉で盛り上がった全身に、それらを今にも張り裂けそうになりながらもどうにか包み込んでいるTシャツ。そしていかつい顔をさらに強調するオールバック。
そんな男が二メートルほどの巨体をもって、しかも手にはいったい何を切るつもりなのか特大の包丁を持ってたたずんでいるのだから無理もないだろう。

蛇に睨まれた蛙とはよく言ったものでロットは見事な蛙となり呼吸すら忘れて固まる。

「どうせこの時間は暇でしょ?」

それなのにケイトが固まっているロットの代わりに軽口を挟んだのだからパニックは必然だった。
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