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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「ワシ里長、ハゲてはおらんよ」
しおりを挟む姐さんとなったケイトの隣でご機嫌で歩くエレナに一同が付いていくと、やがてエルフの里の奥深くにきた。
行きかうエルフはそれほど多くはなかったが、人間が珍しいのか、チラチラと視線を送ってくる。しかし声を掛けるまでは勇気が出ないようで、結果不躾な視線のみがロットたちに注がれた。
先ほどのような悪意のこもったものはないものの、居心地の悪さを感じながらロットたちは巨大な大木の根元に到着する。
案内役のエレナが、その場所が里長の住む場所であることを告げた。大木の内部に入ると、まるで自然そのものが形作った壮大な空間が広がっている。切り取られたような大木の中に、温かい陽の光が差し込み、木漏れ日が美しく揺れていた。
壁一面は木の年輪で覆われており、その歴史を物語り、中央には大きな円形の卓があり、その周囲にはエルフたちが慎ましく座っていた。
そしてその卓の一番奥、そこに里長が静かに立っていた。白い髪と深い皺の刻まれた顔は、長年の知恵と経験を物語っている。
その隣にはロットがよく見知った少女、ソイルが口をキッと結び、下を向いて目を瞑って立っていた。
「ソ、ソイル!」
ロットが叫び声を上げ、里長の隣にいたソイルに駆け寄った。周りのエルフが立ち上がり止めようとしたが、里長が右手をわずかに挙げてそれを制止させた。
そんなことに気が付かないロットは手を広げて自分よりも小さいその体をしっかりと抱きしめた。
「……っ」
ソイルは目をそっとあけて、兄であることを確認する。兄の胸に体を預け再会の喜びを分かち合った。
しばらくの再会を傍観していた里長はロットに優しく声を掛けて席に付くよう促した。ロットはそこでようやく他のエルフもいて、自分が待たせていることに気が付いて、ソイルの手を引いて慌ててケイト達の座るところに戻った。
「いやはや、勇者様のお仲間とは知らず、ご迷惑をおかけしました」
ロットとソイルが席に付いて自分に視線を合わせてきたのを確認してからそういった。とてもやさしい声でロットやソイルは村長を思い出された。
「いえいえ、こちらこそうちの馬鹿がさっさと笛を吹いてればよかったんです」
ケイトはナルルの背中を二度ほど叩いてそういった。反論できないナルルは大きい体を小さくすくめて頭を下げる。
「ホッホッホ。そう言ってくださるとありがたい。してエレナ、ここまでの案内ご苦労であったな」
「全然いいっすよー」
エレナの態度はたとえ里長になっても変わらないようで、ロットが驚いて周りを見ると他のエルフたちも苦い顔をして見守っていた。
唯一その言葉を向けられている里長だけはにっこりと微笑みエレナの報告を時折頷きながら聞いた。話し終えたエレナは立ち去る前に思い出したかのように追加で言う。
「それより里長。ソイルちゃん返してあげるってことは魔力種は取り除けたんすね?ロット君、よかったっすねー!」
その言葉にエレナが後で怒られやしないか心配していたロットの考えも吹き飛ぶ。
「そうなのか!やったなソイル!」
ロットは興奮気味に言うが、ソイルは首をふるふると振った。そして視線が里長に向くと深いため息をつくのが見えた。
「すまんのぉ。魔力種なんじゃが、どうも、通常のものではなかったのじゃ。かなり凶悪な、わしでもここまでのものはそうそう見たことがないほどでのお。
別名魔王種とも呼ばれる強力な種なんじゃよ。ここまで強力になってくるとわしらではどうしようもない。すまんのお」
「え?そんな、ソイルは治せないんですか!?」
みるみる表情が暗くなり声も小さくなっていく。しょぼくれた顔をしていた里長は静かにロットたちに向き直る。
「そのことなんじゃが、このお嬢さんの魔力種はここに来れば治るといわれましたかな?」
「はいそういってました!」
必死なロットは思わずそう言ってしまう。正しくはそんなこと勇者は言っていない。
「いえ、勇者様はソイルちゃんの魔力種、魔王種でしたっけ? それを直す方法は知っているとは言ってました。ただトワという人にこの場所を教えてもらったときも望んだ結果にはならないかもしれないとおっしゃってました。ただ、勇者様もここに行くことを許可してくださったのでてっきり治るものとは思いこんでいましたけど」
必死なロットに代わってケイトが整理して伝えた。里長はしばらく考え込むようにしてから
「ふーむなるほどのぉ」
とつぶやいた。やけに静かだったナルルがそこでようやく口を開く。
「そこからは俺が話す」
「ナルルさん?」
驚いて視線をやるロットにナルルはウインクした。
「すまんな、ロット。どうやら勇者様はこのことも予想していたらしい。それで里長様、話があるんだが、勇者がこの里を訪ねてくる数ヶ月の間、この里に住まわせてくれないか?
ソイルの魔王種を対処するまでの間、処置の方法がよくわかっているこの里が一番安全だというのが勇者様の見解らしい。
もちろん働くし、できることは何でもやる。それと、これは勇者様から預かったものだ」
と言って手紙を里長に手渡した。
里長は手紙を広げ、静かに読み始めた。しばらくして、里長はナルルに向かって微笑みながら言った。中身はナルルが今言ったことや、ロットたちの旅のいきさつなどが綴って合った。
「なるほど、ナルルさんといったかな? 伝言ありがとう。どうやら勇者様はおっしゃる通り、里では魔力種を取り除けないことを予想していたようじゃ。
ただ、この里は腐っても魔力種を取り除く術を知っている数少ない場所。イレギュラーや、魔力種が発芽間近になったときに何かと都合がいいのは確かでのお。
これほど強大な魔王種は危険も伴うが勇者様の頼みだ、里としては受け入れる方向でお受けしよう」
受け入れる、そう告げた後に表情が曇る。里長の声はトーンダウンして続けた。
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