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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「やぁ、僕は勇者」「遅い!」
しおりを挟むさらに数日。ロットは今日も修練は身に付かずにいた。汗を拭いてソイルが寝ている里長のもとへ向かう準備をしているとその知らせは突然来た。
「ゆ、勇者様が到着されました!」
その知らせを運んできたのは新たに見回りをしているライルだ。勇者の到着は予定より二十日以上早かったので、ロットははじめ聞き間違いかと思っていたが、それが確かな情報だとわかると安堵と希望の色が広がった。
「本当! 一体どこに?」
すぐにでもソイルのもとへ向かってもらおうと辺りを見回すがそれらしき人物は見えなかった。
報告をしに来てくれたライルを見る。
「それが、急いでいるらしくって里の外で待ってるって言ってます」
「どうして入ってこないの?」
勇者が到着したらここで魔王種を取り除く処置をするものと思っていたので、勇者の行動に疑問を感じる。
しかしその問の答えをライルが知っているはずもなく、首を振りながら答えた。
「わかりませんが、魔力種を取り除くには里から離れる必要があるから急いでほしいらしいですよ!」
いったいなぜ里の外に行く必要があるのか、勇者は里に入ってこないのかなど違和感はありつつもソイルを救うという焦燥感に駆られているロットは疑問を振り切った。
「なら急がないと」
急いでケイトとナルルにもその旨を伝えた。そして里長の元へ行き、別れの挨拶と礼を言った。
ケイトとナルルも違和感は持ったようだが、勇者という存在がいい加減なものだということをうすうす感じていたので勝手に納得していた。
気になるのはソイルの調子が悪く、歩いての旅は少し厳しいところがあった。背負う木の板をエルフからもらい、ナルルが背負って運ぶことに落ち着いた。
あまりの展開の速さに里長や他のエルフも勇者様が言うならば、と違和感は飲み込んで準備を手伝った。
「ちょっと待ってほしいっす。いくらなんでも急じゃないっすか?姐さん、それ本当に勇者様ですか?」
唯一エレナは臆することなく疑問を口にした。見送るために集まったエルフたちの視線が注がれる。
「これエレナ、失礼じゃぞ。それにライルは勇者様を見たことがあるんじゃ。見間違えるはずがなかろう」
赤塔の勇者は5年ほど前一度里に来ていた。たまたまその時のお茶出しがライブだったのだ。
「エレナ、心配してくれてありがとう。まあ、勇者様は変わった人だからこんなものよ。ライルもこんなことでもう嘘をついたりしないもの」
「お、お姉様!」
ケイトの発言に感動するライルをよそに納得がいかないエレナは、それ以上仲間を疑ったり、大切な人たちの旅の邪魔をするわけにもいかず仕方なく黙った。
里長が周りを見回し、これ以上反対意見が出ないか確認してからゆっくりと頷いた。
「それじゃあ里長もみんなも、数ヶ月だったけど本当にありがとう!ソイルの症状が落ち着いたら必ずお礼をしに来ます!」
ロットが最後に挨拶をかわし、四人はエルフの里を出た。ライルの案内で里から少し離れた場所に行くと勇者が相変わらずの軽薄な笑顔でこちらに手を振って待っていた。
里ではロットたちの見送りが終わるとみんなまたいつもの生活に戻っていった。里長は思慮深げな表情で、その場を去らずにいた。黙り込んだままのエレナを見つめる。
「なんじゃエレナよ、心配か?」
エレナはしばらく考え込み、見透かされたことで肩をすくめながら答えた。
「うーん、やな予感ってやつですかねぇ。ま、あたしが言ったところで何かあっても助けにはならねぇんすけど」
「ホッホッホ、何が助けになるかはその時にしかわかるまい」
「……出来ることはないかもですけどここで、まあいっかって諦めちゃうと一生後悔しそうで怖いんですよねえ」
「そうじゃのお。ワシ自分の力を信じられずに後悔したこともあるもん」
里長がいたずらっぽく微笑む。
「そうなんすね!うーんあたしも今がその時だったりして」
エレナもそれに呼応するように表情が変化し、先程までのうつむき加減はなくなっていた。
「ホッホッホ。エレナよ、自分を信じてみるのも一興じゃぞ。なあに、今ではライル達も見張りをしておるし、おぬしがおらんなっても何とかなるわい」
「……ニヒヒ、さすが里長」
覚悟を決めたエレナはロットたちが去ってしばらくした後、勇者の違和感をぬぐい切れなかったことと、単純に旅をしてみたいという好奇心が入り交じり、ロットたちを追いかけることに決めた。
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