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第三部 勇者への道
「バレてしまっては仕方がありません」
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「おっと、待ちな」
遮る形でアベンが爪を振り下ろした。男とクリスの間の床に三本線の傷がつく。クリスは理解できず驚き顔で見つめるが、視線は男を見据えて微動だにしない。
「なんですが急に」
男は落ち着いた様子を見せる。出した手は下げられて後ろに一歩下がった。
「ひ、ひぃぃい? アベンさん突然どうしたんですかあ?」
状況を理解できていないクリスとトリィのみが慌てふためいていた。男は手を差し伸べる瞬間に殺気を放出し、袖口からナイフを覗かせていたのだった。まさにその瞬間、アベンが爪を振り下ろしたことにより免れたのだ。
「今この人クリスさんのことを攻撃しようとしたよ」
「な、何を言ってるんだ。同じ勇者候補だぞ?」
勇者を目指すものとして、他人を狙うという発想が理解できないトリィは目を剥いた。自身は勇者を諦めてなおアベンが勇者になれるように献身するほどだったので同じ候補者がそうする理由を理解できない。
「残念ながら事実よ。アベンが斬り掛かってなければあなたがやられていたわ」
ケイトは冷静に判断する。その様子を見て男は笑いながら腕を振った。その瞬間ロットが剣を一振してナイフを弾いた。カランという音がしてナイフは床に落ちる。
防がれたことに感心したように「ほう」と声を漏らす。
「おやおや、バレてしまっては仕方ありませんね。他の皆さんみたいに退場していただこうかと思ったのですが」
男は悪びれる様子なく、他の勇者にも危害を加えてきたことを話した。そしてその姿を現す。と言っても肌の色が青黒く変色し、口からは牙、そして背中に漆黒の羽と言った具合に吸血鬼と一般的に呼ばれる出で立ちになっていた。
まさか自分たち以外全員がすでにこの男によって塔の外に追い出されていたことをロットたちは知らない。
しかし男の目的はわからないまでも、実力はかなりあることを悟ったロットとアベンはケイトたちを守るように立ちはだかった。
「なんでこんなことをするんだ!」
「そもそも魔族がどうやってここまで入ったのよ」
ケイトが素直な疑問を問いかけた。勇者は魔王と相反するものである。その勇者を決める塔でもあるのに敵対勢力の魔族が侵入できたことが信じられなかった。
少なくとも今までの歴史では魔族の類が塔に侵入したことはなかった。
「なぜって楽しいからですよ。私お祭りが好きなもので。そして魔族であっても入れました。いやぁ何事もやってみるものですね」
男は平然と言った。確かに塔には入る者の誓約のようなものも制限もなかった。勇者を目指すことができるのは人間だけというのは人側の勝手な解釈でもあり、しかし至極当然なことだったので誰も試したことはなかった。
「ったく、興味関心で勇者に手を出してんじゃねぇ」
現に入れてしまっているため信じる他ない。そして男からさらなる疑問が投げかけられる。
「そもそも勇者ってなんなんでしょう?魔族である私もここに入れました。つまり資格はあるということです。ならばもし他の候補者が死んで私だけが生き残ったら?そうしたら魔族の力を持った勇者が生まれるのではありませんか?そう考えると試してみたくなりました」
好奇心いっぱいの笑みで牙をむき出しに笑った。
「勇者の加護に魔族の力、2つが合わさるなんて恐ろしいよぉ」
クリスが蒼白になりながら言った。勇者はみんな人間の中で常識の域を超えている力を持っている。それを勇者になることで授けられたと青塔の勇者たちは言っていた。もし、そもそも基礎的な力が人間よりも高い魔族が勇者の加護を得るとすれば、それはとんでもない圧倒的な実力をつけるかもしれなかった。
「こんなことさせてはいけない」
それこそ魔王を超える魔族が出てきてしまうかもしれない。そうなると世界のバランスも崩れ人間は一気に窮地に立たされることになるだろう。
戦う決心がついたトリィも大剣を構えた。
「まあ私を止められるのでしたらどうぞ」
いつの間にか涙ぐんでいたクリスも攻撃の構えをとっていた。仮にも勇者の一撃を耐えた五人を相手に男は焦る素振りを一切見せない。それどころか手招きし、挑発までしてのけた。
「全員でかかればきっと倒せるよ」
いよいよ今にも飛びかからんと4人は男の前後左右を囲む。ケイトは魔法を打ち込むために魔力を練り上げている。
「ふふ、私を甘く見ているようですが、これでも四天王と呼ばれていますからね」
先手必勝といこうとしていたロットの手が止まる。ピンときていない彼を裏腹にクリスたちはまた怯えている。アベンでさえも苦々しい顔をしており、額には汗が見られた。
「四天王?」
「魔王の次に強い4人だ。とんでもねえ魔族が来ちまったぜい」
通称魔王を継ぐ者とも呼ばれる四人の魔族。四天王と呼ばれ恐れられていた。魔王が人間を責めなくなった代わりに四天王による被害は数年に一度報告されていたのだ。
そして四天王クラスともなると勇者と対峙しても互角に戦えるほどと言われていた。
遮る形でアベンが爪を振り下ろした。男とクリスの間の床に三本線の傷がつく。クリスは理解できず驚き顔で見つめるが、視線は男を見据えて微動だにしない。
「なんですが急に」
男は落ち着いた様子を見せる。出した手は下げられて後ろに一歩下がった。
「ひ、ひぃぃい? アベンさん突然どうしたんですかあ?」
状況を理解できていないクリスとトリィのみが慌てふためいていた。男は手を差し伸べる瞬間に殺気を放出し、袖口からナイフを覗かせていたのだった。まさにその瞬間、アベンが爪を振り下ろしたことにより免れたのだ。
「今この人クリスさんのことを攻撃しようとしたよ」
「な、何を言ってるんだ。同じ勇者候補だぞ?」
勇者を目指すものとして、他人を狙うという発想が理解できないトリィは目を剥いた。自身は勇者を諦めてなおアベンが勇者になれるように献身するほどだったので同じ候補者がそうする理由を理解できない。
「残念ながら事実よ。アベンが斬り掛かってなければあなたがやられていたわ」
ケイトは冷静に判断する。その様子を見て男は笑いながら腕を振った。その瞬間ロットが剣を一振してナイフを弾いた。カランという音がしてナイフは床に落ちる。
防がれたことに感心したように「ほう」と声を漏らす。
「おやおや、バレてしまっては仕方ありませんね。他の皆さんみたいに退場していただこうかと思ったのですが」
男は悪びれる様子なく、他の勇者にも危害を加えてきたことを話した。そしてその姿を現す。と言っても肌の色が青黒く変色し、口からは牙、そして背中に漆黒の羽と言った具合に吸血鬼と一般的に呼ばれる出で立ちになっていた。
まさか自分たち以外全員がすでにこの男によって塔の外に追い出されていたことをロットたちは知らない。
しかし男の目的はわからないまでも、実力はかなりあることを悟ったロットとアベンはケイトたちを守るように立ちはだかった。
「なんでこんなことをするんだ!」
「そもそも魔族がどうやってここまで入ったのよ」
ケイトが素直な疑問を問いかけた。勇者は魔王と相反するものである。その勇者を決める塔でもあるのに敵対勢力の魔族が侵入できたことが信じられなかった。
少なくとも今までの歴史では魔族の類が塔に侵入したことはなかった。
「なぜって楽しいからですよ。私お祭りが好きなもので。そして魔族であっても入れました。いやぁ何事もやってみるものですね」
男は平然と言った。確かに塔には入る者の誓約のようなものも制限もなかった。勇者を目指すことができるのは人間だけというのは人側の勝手な解釈でもあり、しかし至極当然なことだったので誰も試したことはなかった。
「ったく、興味関心で勇者に手を出してんじゃねぇ」
現に入れてしまっているため信じる他ない。そして男からさらなる疑問が投げかけられる。
「そもそも勇者ってなんなんでしょう?魔族である私もここに入れました。つまり資格はあるということです。ならばもし他の候補者が死んで私だけが生き残ったら?そうしたら魔族の力を持った勇者が生まれるのではありませんか?そう考えると試してみたくなりました」
好奇心いっぱいの笑みで牙をむき出しに笑った。
「勇者の加護に魔族の力、2つが合わさるなんて恐ろしいよぉ」
クリスが蒼白になりながら言った。勇者はみんな人間の中で常識の域を超えている力を持っている。それを勇者になることで授けられたと青塔の勇者たちは言っていた。もし、そもそも基礎的な力が人間よりも高い魔族が勇者の加護を得るとすれば、それはとんでもない圧倒的な実力をつけるかもしれなかった。
「こんなことさせてはいけない」
それこそ魔王を超える魔族が出てきてしまうかもしれない。そうなると世界のバランスも崩れ人間は一気に窮地に立たされることになるだろう。
戦う決心がついたトリィも大剣を構えた。
「まあ私を止められるのでしたらどうぞ」
いつの間にか涙ぐんでいたクリスも攻撃の構えをとっていた。仮にも勇者の一撃を耐えた五人を相手に男は焦る素振りを一切見せない。それどころか手招きし、挑発までしてのけた。
「全員でかかればきっと倒せるよ」
いよいよ今にも飛びかからんと4人は男の前後左右を囲む。ケイトは魔法を打ち込むために魔力を練り上げている。
「ふふ、私を甘く見ているようですが、これでも四天王と呼ばれていますからね」
先手必勝といこうとしていたロットの手が止まる。ピンときていない彼を裏腹にクリスたちはまた怯えている。アベンでさえも苦々しい顔をしており、額には汗が見られた。
「四天王?」
「魔王の次に強い4人だ。とんでもねえ魔族が来ちまったぜい」
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