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獣国編 毒蛇と魔女
目覚めた先は
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意識が浮上していく。フワフワとした妙な感覚を感じながら目を開けると、そこは見慣れない場所だった。
薄暗い。辺りを照らすのは壁にかけられた松明の火。
部屋ではなく、牢屋と言った方がしっくりくるか。事実、顔を横に動かせば、頑丈そうな鉄格子がそこにはあった。
これは、結局あの2人組に捕まったと考えるのが自然かな。……にしても。
「(本当に生きてる。信じられん)」
正直デーモン様の言葉を全て信じきった訳ではなかったから、こうして改めて目の当たりにすると信じられない気持ちの方が大きかった。
でもこれは現実だ。背中に感じるひんやりとした床の温度も、少し埃っぽい匂いも、全て。
「(いって……⁉)」
生き残ったとはいえ全快はしていないらしく、上体を起こした瞬間に鋭い痛みが腹部を襲った。
慌てて見下ろしてみるも、当然そこに傷はない。やはり内蔵を損傷していたのだろう。
傷は確認できなかったものの、ふと新たな事実に気付いた。
何気なく腹を擦る自分の手。その大きさが、明らかに俺が記憶している手とは大きく違っていた。
「(おおっ、成長してる)」
きっとレベルアップの影響だ。レティシア達とそう変わらない程度には身体が大きくなっている。
手足だけに留まらず、その変化は翼や尻尾にも現れていた。鱗の色が、なんというか……母様に近くなったように感じる。それに――。
「(うわーお、かったーい)」
基礎ステータスが上がった分、当然身体的能力も向上しているだろうと思い至り、試しに自分の胸をコンコンと叩いてみれば、その違いに驚愕した。
どちらかと言えばプニッとしていた感触が、今はガチガチの岩盤の如く。デーモン様の言っていた異常な能力上昇の恩恵をこれでもかと受けている何よりの証拠だった。
鱗の強度が増した。それはおそらくステータスにある耐久力上昇によるもの。なら、他は?
この場で試せると言ったら、魔力? なら習得したばかりの皇雷を試してみるか?
「(……いや、無いな)」
冷静に考えた末に却下。
皇雷が魔力を雷に変えて撃ち出すとは分かっていても、その威力がどの程度なのかは未知数だ。下手に撃ってこの牢屋が崩れ、生き埋めにされるなんてオチも十分考えられる。
うーん……なら筋力か。
単純に考えれば、筋力は力。腕っ節の強さを表してる数値だと仮定する。
これならばいくらでも試しようはあるからな。決まりだ。
「(よっこらせ。……お?)」
立ち上がり、直ぐに違和感に気付いた。
上体を起こした時に感じていた腹の痛みが、あの短時間で綺麗さっぱり消えている。
「(あ、そっか。自然治癒)」
自分で習得したスキルの効果を思い出して納得。
にしては回復するの早いな。まぁ一応、死の淵から生還する程度には何者かから治療を受けたらしいし、ほぼ治りかけだったのかもしれない。
でも、これじゃイマイチ効果の程が分からないなー。
「(……ん? あれ、こっちも何か変わってる)」
ふと、竜眼の効果で頭上に表示されている自分の状態の変化に気付いた。
赤い線は相変わらず変化なし。上の数字は1から2へ変わっており、下の数字も0から1940と大きく変化を見せていた。
これも成長によるものか。2って、もしかしなくてもレベルを表してる?
じゃあ下の1940は……あっ、魔力か! これに近しい数字なんてそれくらいしか思い付かない。ちょっと減ってるのは、自然治癒が発動した事によって魔力が消費されたと考えれば説明がつく。
ふむふむ、なるほどなー。
いやぁ、色々と分かってくると楽しく感じるのだから不思議だ。これは俄然、習得したスキルも試したくなって……ってそうだよ! スキル! 基礎ステータスの確認よりもまず優先すべき事があったじゃないか!
俺はずっとその為にポイントを貯めてたんだ。
そう、万能言語。喋れるようになるその瞬間を!
「(よし、よしっ、喋るぞ~)」
無駄にドキドキする。筋力の確認は後回しにして、いざ緊張の一言を放たんと深呼吸を繰り返す。
第一声は何にしよう? 自己紹介? いや誰にだよ。万能言語を得て初めて発する言葉らしい言葉なのだから、もっと相応しいものにしないと。
そうやってうんうんと悩んでいると、不意に腹が盛大な雄叫びを上げた。
さっきまで負傷してたくせに、もう飯を寄越せの催促とは我が肉体ながら恐れ入る。
飯、か。今食べたい物の名前を口にしてみるのはどうだろう? 第一声に相応しいかと問われれば間違いなく否だが、クソどうでもいいっちゃどうでもいい拘りだからな。
この際、ちゃんとした言葉なら何でもいい。それこそ単語でもだ。
「(微妙に頭もフラついてるし、たぶん血が足りてない。だったらやはり、肉か!)」
よし決まりだ。記念すべき第一声は肉としよう!
捕まってる身で何て馬鹿な事をしてるのだろうという自覚はある。しかしそれ以上に喋ってみたいんだよ俺は!
「すぅぅぅ」
たった一言の為に大きく息を吸う。
これで看守がすっ飛んできても構わない。
いざっ!!!
「キュッ!!!!」
まぁうん……分 か っ て た 。
だろうねって感じだ。盛大に肉と言ってみたつもりでも、現実は非情。相変わらず可愛い声でキュッの一言で終わった。
ある意味予想通りである。だって母様も言ってたじゃん。ドラゴンのままでは話せないって。
そりゃ俺より遥かに永く生きてる母様が喋れないんだから、スキルの一つや二つ覚えた程度の赤ん坊が喋れる道理も無い。
やっぱり人の体とは作りが違うから? ドラゴンの喉は言葉を発するには適していないのかなぁ。
……フッ、しかしだ。生憎とこんな事態は想定済みなのだよ。
ドラゴンの姿のままでは望み薄なのは最初から分かっていた事だ。だからこそ別のスキルを習得したのではないか。
そう! 身体創造をな!
詳細の通りならば、俺がイメージした姿に変わる事ができるスキル!
イメージ。つまりそれは人の姿にもなれるし、別のものにだって変わる事が出来るとも取れる。もしそれが可能ならば、選択肢は無限大だ。なんて素晴らしいスキルなのだろう。
母様とレティシアが使っていたボディクリエイトなるスキルと、身体創造がまったく同じものであるならば、その効果の程は実証済み。
くふふふふ! 楽しみで仕方ない!
「(あー、とは言え)」
問題は、ちゃんと身体創造が発動してくれるかどうかだ。
たぶん今も母様に力を抑制されてる状態だとは思うし、俺の思惑通りにいかない可能性も考慮せねばならない。
跳躍の感覚は何となく掴めたからいいものの、身体創造はどうすればいい?
……まぁ試してみるしかないか。
「(イメージ像は……うん、前世の姿が一番簡単だな。慣れ親しんだ兵士時代の俺を再現してみよう)」
強くイメージするんだ。元の俺を。
あ、でもちょっとくらい盛ってもバチは当たらない、よな? 何たってドラゴンなんだから、パッとしない見た目は不釣り合いだと思うんだよ。
だからほんの少し男前に創造してもいいだろ、うん。
あくまでも母様達と再会を果たした時にガッカリされない為だからな。他意は無いぞ? うん。
「(そんじゃま、いっちょ変身と行きまっ――)」
「あーっ! もう大丈夫なのー!?」
「キューーっ!!!? ギュイっ!!」
人がこれからスキル発動を試みようとしてるってのに、いきなり横合いから大声で話し掛けられた。
馬鹿ほど驚いて跳躍を発動。飛び退いた先で転び後頭部強打である。あ、なんか久し振りの感覚。
耐久力上がっても頭へのダメージはそう簡単に減らないのね、そうなのね。跳躍の勢いも合わさって馬鹿ほど痛かった。
ていうか誰だ! 大事な所で邪魔しやがって! 噛むぞオラァンっ!?
「わわっ! ちょ、大丈夫~? ごめんね驚かせちゃって」
「(え、ホントに誰?)」
一言文句を言ってやろうと睨み付けた先には、牢屋の外側からこちらを心配そうに見つめる赤毛の少女が居た。
――――
あとがき。
目指せ書籍化!
多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!
薄暗い。辺りを照らすのは壁にかけられた松明の火。
部屋ではなく、牢屋と言った方がしっくりくるか。事実、顔を横に動かせば、頑丈そうな鉄格子がそこにはあった。
これは、結局あの2人組に捕まったと考えるのが自然かな。……にしても。
「(本当に生きてる。信じられん)」
正直デーモン様の言葉を全て信じきった訳ではなかったから、こうして改めて目の当たりにすると信じられない気持ちの方が大きかった。
でもこれは現実だ。背中に感じるひんやりとした床の温度も、少し埃っぽい匂いも、全て。
「(いって……⁉)」
生き残ったとはいえ全快はしていないらしく、上体を起こした瞬間に鋭い痛みが腹部を襲った。
慌てて見下ろしてみるも、当然そこに傷はない。やはり内蔵を損傷していたのだろう。
傷は確認できなかったものの、ふと新たな事実に気付いた。
何気なく腹を擦る自分の手。その大きさが、明らかに俺が記憶している手とは大きく違っていた。
「(おおっ、成長してる)」
きっとレベルアップの影響だ。レティシア達とそう変わらない程度には身体が大きくなっている。
手足だけに留まらず、その変化は翼や尻尾にも現れていた。鱗の色が、なんというか……母様に近くなったように感じる。それに――。
「(うわーお、かったーい)」
基礎ステータスが上がった分、当然身体的能力も向上しているだろうと思い至り、試しに自分の胸をコンコンと叩いてみれば、その違いに驚愕した。
どちらかと言えばプニッとしていた感触が、今はガチガチの岩盤の如く。デーモン様の言っていた異常な能力上昇の恩恵をこれでもかと受けている何よりの証拠だった。
鱗の強度が増した。それはおそらくステータスにある耐久力上昇によるもの。なら、他は?
この場で試せると言ったら、魔力? なら習得したばかりの皇雷を試してみるか?
「(……いや、無いな)」
冷静に考えた末に却下。
皇雷が魔力を雷に変えて撃ち出すとは分かっていても、その威力がどの程度なのかは未知数だ。下手に撃ってこの牢屋が崩れ、生き埋めにされるなんてオチも十分考えられる。
うーん……なら筋力か。
単純に考えれば、筋力は力。腕っ節の強さを表してる数値だと仮定する。
これならばいくらでも試しようはあるからな。決まりだ。
「(よっこらせ。……お?)」
立ち上がり、直ぐに違和感に気付いた。
上体を起こした時に感じていた腹の痛みが、あの短時間で綺麗さっぱり消えている。
「(あ、そっか。自然治癒)」
自分で習得したスキルの効果を思い出して納得。
にしては回復するの早いな。まぁ一応、死の淵から生還する程度には何者かから治療を受けたらしいし、ほぼ治りかけだったのかもしれない。
でも、これじゃイマイチ効果の程が分からないなー。
「(……ん? あれ、こっちも何か変わってる)」
ふと、竜眼の効果で頭上に表示されている自分の状態の変化に気付いた。
赤い線は相変わらず変化なし。上の数字は1から2へ変わっており、下の数字も0から1940と大きく変化を見せていた。
これも成長によるものか。2って、もしかしなくてもレベルを表してる?
じゃあ下の1940は……あっ、魔力か! これに近しい数字なんてそれくらいしか思い付かない。ちょっと減ってるのは、自然治癒が発動した事によって魔力が消費されたと考えれば説明がつく。
ふむふむ、なるほどなー。
いやぁ、色々と分かってくると楽しく感じるのだから不思議だ。これは俄然、習得したスキルも試したくなって……ってそうだよ! スキル! 基礎ステータスの確認よりもまず優先すべき事があったじゃないか!
俺はずっとその為にポイントを貯めてたんだ。
そう、万能言語。喋れるようになるその瞬間を!
「(よし、よしっ、喋るぞ~)」
無駄にドキドキする。筋力の確認は後回しにして、いざ緊張の一言を放たんと深呼吸を繰り返す。
第一声は何にしよう? 自己紹介? いや誰にだよ。万能言語を得て初めて発する言葉らしい言葉なのだから、もっと相応しいものにしないと。
そうやってうんうんと悩んでいると、不意に腹が盛大な雄叫びを上げた。
さっきまで負傷してたくせに、もう飯を寄越せの催促とは我が肉体ながら恐れ入る。
飯、か。今食べたい物の名前を口にしてみるのはどうだろう? 第一声に相応しいかと問われれば間違いなく否だが、クソどうでもいいっちゃどうでもいい拘りだからな。
この際、ちゃんとした言葉なら何でもいい。それこそ単語でもだ。
「(微妙に頭もフラついてるし、たぶん血が足りてない。だったらやはり、肉か!)」
よし決まりだ。記念すべき第一声は肉としよう!
捕まってる身で何て馬鹿な事をしてるのだろうという自覚はある。しかしそれ以上に喋ってみたいんだよ俺は!
「すぅぅぅ」
たった一言の為に大きく息を吸う。
これで看守がすっ飛んできても構わない。
いざっ!!!
「キュッ!!!!」
まぁうん……分 か っ て た 。
だろうねって感じだ。盛大に肉と言ってみたつもりでも、現実は非情。相変わらず可愛い声でキュッの一言で終わった。
ある意味予想通りである。だって母様も言ってたじゃん。ドラゴンのままでは話せないって。
そりゃ俺より遥かに永く生きてる母様が喋れないんだから、スキルの一つや二つ覚えた程度の赤ん坊が喋れる道理も無い。
やっぱり人の体とは作りが違うから? ドラゴンの喉は言葉を発するには適していないのかなぁ。
……フッ、しかしだ。生憎とこんな事態は想定済みなのだよ。
ドラゴンの姿のままでは望み薄なのは最初から分かっていた事だ。だからこそ別のスキルを習得したのではないか。
そう! 身体創造をな!
詳細の通りならば、俺がイメージした姿に変わる事ができるスキル!
イメージ。つまりそれは人の姿にもなれるし、別のものにだって変わる事が出来るとも取れる。もしそれが可能ならば、選択肢は無限大だ。なんて素晴らしいスキルなのだろう。
母様とレティシアが使っていたボディクリエイトなるスキルと、身体創造がまったく同じものであるならば、その効果の程は実証済み。
くふふふふ! 楽しみで仕方ない!
「(あー、とは言え)」
問題は、ちゃんと身体創造が発動してくれるかどうかだ。
たぶん今も母様に力を抑制されてる状態だとは思うし、俺の思惑通りにいかない可能性も考慮せねばならない。
跳躍の感覚は何となく掴めたからいいものの、身体創造はどうすればいい?
……まぁ試してみるしかないか。
「(イメージ像は……うん、前世の姿が一番簡単だな。慣れ親しんだ兵士時代の俺を再現してみよう)」
強くイメージするんだ。元の俺を。
あ、でもちょっとくらい盛ってもバチは当たらない、よな? 何たってドラゴンなんだから、パッとしない見た目は不釣り合いだと思うんだよ。
だからほんの少し男前に創造してもいいだろ、うん。
あくまでも母様達と再会を果たした時にガッカリされない為だからな。他意は無いぞ? うん。
「(そんじゃま、いっちょ変身と行きまっ――)」
「あーっ! もう大丈夫なのー!?」
「キューーっ!!!? ギュイっ!!」
人がこれからスキル発動を試みようとしてるってのに、いきなり横合いから大声で話し掛けられた。
馬鹿ほど驚いて跳躍を発動。飛び退いた先で転び後頭部強打である。あ、なんか久し振りの感覚。
耐久力上がっても頭へのダメージはそう簡単に減らないのね、そうなのね。跳躍の勢いも合わさって馬鹿ほど痛かった。
ていうか誰だ! 大事な所で邪魔しやがって! 噛むぞオラァンっ!?
「わわっ! ちょ、大丈夫~? ごめんね驚かせちゃって」
「(え、ホントに誰?)」
一言文句を言ってやろうと睨み付けた先には、牢屋の外側からこちらを心配そうに見つめる赤毛の少女が居た。
――――
あとがき。
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