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二人のギタリスト
しおりを挟むその演奏に興奮冷めやらぬと言った会場の雰囲気とは逆に…僕と結衣はライブが終わるとすぐに雪さんとメンバーの所へ駆けつけた。
すると…遅れてきた結真が陽子さんに詰め寄っていた。
「ちょ、ちょっと…落ち着いてよ…結真!!」
「遅れたのは悪かったよ!!
でも…これは一体どういうことなんだよ!!」
「あっ……翔くん!!」
雪さんが僕を見つけてこちらに駆け寄ってくる。
僕は雪さんに会釈した後、陽子さんと入れ替わるように結真の前に出た。
「結真……僕が雪さんにサポートギターをお願いしたんだ!!
時間も過ぎていたし…仕方なかったんだ。」
優花さんも「そうやで結真。この姉ちゃんがおらへんかったらライブがパーになるとこやったで。
大体アンタ何処行っとったんや?遅れて来て…それで陽子さんに文句言うんはお門違いと違うか?」
結真はしばらくその場に立ち尽くした。
そして…
「何だよ。みんなで寄ってたかって…あたしなんかいなくても良いんだろ…くっ!」
結真はその場から走り去った。
「待ちいな!!結真!」
優花さんが後を追う。
「私、彼女に悪いことをしたかもしれない。傷つけてしまったかも…」と言って雪は目を伏せた。
彼女の言葉に首を横に振る翔……
「そんなことありません。
雪さんのギターのおかげでどれだけメンバーが救われたか…どれだけのお客さんが感動したか…
こんな無茶なお願いを聞いてくださった雪さんには感謝しかありません。
むしろ責任を感じなければいけないのは雪さんにこんな無理をお願いした僕の方です…
本当にすみませんでした!!」
「そんな…」
俯き加減の雪さんに陽子さんが優しく声を掛けた…
「バンドの責任は全てリーダーの私にあるわ。それより、翔くんの言う通り…あなたのギター素晴らしかったわ。どこで活動してるの?」
「いえ、私は…」
僕は二人の会話に割って入った。
「陽子さん、雪さんは僕の職場でいつもお世話になっている方なんです。それより、何故…結真は遅れてしまったんですか。
陽子さんは僕達に結真に引き抜きの話があること、またそのプロデューサーが接触して来たことで遅くなったらしいと説明した。
「とにかく今日はありがとうございました。本当に助かったわ。」
陽子さんが雪さんに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ…その…楽しかったです。」雪さんも陽子さんに頭を下げた。
結衣は「お姉ちゃん…大丈夫かなぁ?」と不安気に呟いた。
とりあえずライブ会場の外に出る。
雪さんは演奏の興奮だろうか…
少しぼんやりとしている感じに見えた。
向こうから優花さんが駆け寄って来た。
僕が「結真は?」と訊くと…
優花さんは目を伏せて首を横に振った。
「翔ちゃん…後片付けがあるよってに…堪忍やで…」
「分かりました…後でまた連絡します!!」
僕は雪さんと結衣に「今日は本当にありがとうございました。僕はもう少し結真を探してから帰ります。」
結衣が「翔くん、私も…」と言いかけたので、もう遅いから家で連絡を待って欲しいと帰ってもらった。
僕は心当たりを探す…アンク、結真のマンション…鴨川沿いの河原…しかし結真の姿を見つけることは出来なかった。
車のヘッドライトに照らされながら僕は力無く自分のマンションの階段を上って行く。
僕の部屋のドアの前で結真は顔を伏せてうずくまっていた。
「結真……」
僕はそんな彼女を何も言わず思い切り抱きしめた。
そして僕は溢れてきた涙を拭うことなく、彼女を抱き抱えて部屋に入って、そしてドアを閉めた。
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