東京戦線

命の宿った瞬間

　「神話」それは神々の物語。信じるか信じないかはあなた次第、神は見えない存在、そう思われてきた。だが今は違う。

　時は2025年。日本戦線が勃発した。これは2020年に開催された東京オリンピックによる経済影響が大きく、円の価値を大幅に下げ物価が高くなったことが始まりである。開催された2020年はまだどうにかなるレベルだったのだが、翌年、またその翌年と首相の汚職が発覚して経済どうこうの話ではなかったのだ。当然、国のリーダーすら決められない国にこれ以上支援はできないと発言した国も多く出てきた。今まで最大の援助をしてきたアメリカですら食糧や家畜、衣類なども輸入、輸出を停止せざるを得なかった。結果的に日本がオリンピック後に得たものは、多額の借金、国際的信頼の損失、国民の政府への不満だったのだ。これは、そんな荒廃した日本に生まれた「神」の話である。


壱「神」　
　
　2025年東京都奥多摩、東京戦線という混沌の中一人の赤ん坊が生まれた。
「元気な子だなぁ」
「ええそうね」
母親は生まれたばかりの赤ん坊を抱きあげ、喜んで言った。
「名前は決まったの？」
「ああ」
と父親はこれまで見たことのないような笑顔をして、カバンから一枚の紙を取り出した。そこには
「昴」
と書いてあった。
「なんて読むと思う？」
と父親は得意げに言った。しかし、その得意げな顔も
「すばるでしょ？」
この一言で消し飛んだ。なんだこの親は、息子の名前でクイズ大会をするな。
「あっちゃー、読めちゃったかぁ。漢検一級はだてじゃないなぁ」
と、当然父親は悔しそうにしながら言った。そう、この母親漢検一級なのだ。日本人でも使うかどうか怪しい漢字や読みを読める一種の「変態」だ。
全国の漢検一級の人ごめんなさい。
「私に読めないものはないと前にも言ったはずでしょ？」
と両親仲良く話しているのも束の間、
「ドン！」
大きな物音がした後、間髪入れず悲鳴が聞こえてきた。