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君が好き…これが言えないのに…

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 ──登山口に着いた俺たちは、好きなクラスメイトと各自列になり、山登りを始めていった。

 先導は駿で、後援が俺…
 そう俺と駿で裕翔を挟み、俺は後ろから裕翔の頑張りを見守ってやっていたんだ。

 二時間程度登ったところにある目的地のキャンプ場を目指す俺たち一行。

 十月と言えど、流石に二時間も登るとなると喉も乾き、息も上がってくる…水分補給は欠かさずに、俺たちはとにかく目的地へと一歩一歩、足を進めていく。

 そして前を歩く裕翔…
 Ωだから体力も俺らよりも少ないはずだ。

 なのに、必死に俺たちに着いていこうとしている…やっぱりお前はすごいよ…

 Ωとバレたくないから…
 βのみんなと同じような感じで気持ちを振りまいては、βと偽ってでも俺らと一緒にりたいから…

 お前の嘘を知っている俺は、そんなお前を見守る事しか今は出来ない。ただ、そんな俺にも出来る事があるはずなんだ。
 
「ほら裕翔、頑張れ!」

 疲れが現れてきた裕翔の背中を掛け声と共に俺は優しくポンっと叩いてやった。

 そう、今の俺に出来ること…
 それは、お前の背中を押してやること。
 そして、嘘がバレないように普通に接してあげること。

 大丈夫、仮にその嘘がバレたとしたって、俺はお前から離れたりしないから…

 そんな事を考えながら、俺は裕翔の小さくて大きな背中を見つめ、キャンプ場まで歩みを続けていったんだ。

 ◇ ◇

 ──キャンプ場に着き、クラスメイトも疲れた様子で個々に身体を休め、俺たち三人も木陰の下に座り込み、一時的な休息を取る事にした。

 木々から零れる陽の光と、どこか肌寒い秋風が熱くなった俺たちの身体を優しく包み込んでいく。

 はぁ……疲れた…
 でも、とてつもなく気持ちがいい…
 俺も水を……あ、あれ、もう水がない…

 登山中に水を飲み干してしまった俺。
 はぁ…こういうところの計算が昔から、どうも苦手なんだよなぁ…

 でもそんな俺には、いつも通り優しい天使の囁きが聞こえるわけだ。

「…あれ…大和、飲み物ないの?」

「ああ、飲み干しちまった…」

 水が半分も残っているペットボトルをギュッと握りしめている裕翔からの囁きだ。

 いつもなら『お前のものは俺のもの』なんて言って裕翔から貰おうと考えるけれど、今日はそうもいかないと思ったんだ。

 俺ら以上に疲れているお前から、さすがに奪い取れねぇよ…

 なのに、なのにさ…

「大和、僕ので良ければ飲む?」

 裕翔は、まだ水が残っているペットボトルを俺に差し出してきたんだ。

「で、でも…」

「だって、僕のものは大和のものでしょ?はいっ、飲んでっ!」


   『僕のものは大和のものでしょ?』


 このセリフを裕翔から吐かれた瞬間、俺の鼓動は『ドクンッ!』と大きく脈を打ったんだ。

 嘘、嘘だろ…?俺がずっと求めていた裕翔の気持ちを…き、聞けたのか…?

 振り向かせたいと思っていた俺の思いが伝わって、裕翔は振り向こうとしている…のか?

 か、考えすぎか…?いや、どうなんだ…?

 どちらにしても、裕翔からの一声で呆気に取られた俺は、頬を赤らめながらハリネズミをわしゃわしゃとして、恥ずかしさを誤魔化し…『ありがとう』の一声と共に、裕翔の手からペットボトルを受け取ったんだ。

 裕翔…?そのセリフを吐いたお前は今、どんな気持ちなんだ…?

 俺は…俺は今にも胸がはち切れそうだよ…

 そんなことを思っている時に、いつもナイスパスをくれるのは駿なんだけれど…

「お前らぁ~!もう付き合っちゃえよぉ~!もう完璧、恋人同士みたいじゃねぇかぁ~!」

 そんなナイスパスに俺と裕翔は「バカ言うな!いい加減にしろっ!」と仲良くハモってしまう…

 俺らの気持ちって今、どうなっちまってんだろうな…?

 そんなのを観せられた駿は、ゲラゲラと笑い転げていたけれど、笑われたって仕方ないか…

 裕翔はきっと、動き出そうとしているのに…
 俺は裕翔を振り向かせたいと思ってきたのに…

 まだ、俺の気持ちをαとΩが邪魔をする…
 バレてはいけないと邪魔をするんだ…

 はぁ…俺の意気地無し…
 ちゃんと…ちゃんと裕翔に向き合えよ…
 どうしたらいいのかちゃんと…向き合えよ…!

 そんな事を心で思いながらも、楽しそうにする裕翔と駿の姿を見て、この場の雰囲気を壊さないように、俺も楽しい時間を過ごしていくことにしたんだ。
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