君にこの想いが届かなくとも…

翔(カケル)

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四章 俺の気持ちと秘密、そしてまだ見えぬ君の想い

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 ──そして迎えた週末
 平日は一平からの連絡も忙しさからか途切れ途切れになっていたものの、俺らは時間を見つけては週末の予定を練り込んでいた。

《ここで十時に待ってますね!》

 一平との待ち合わせの場所もしっかりと決め、迎えに行く約束もしていた。こんなに濃厚なやり取りをしているはずなのに、やっぱり一平の顔は忘れてしまっていて…

 でも、それでもいいと思えた。だって、君に会えれば忘れてしまった大好きな顔もすぐに思い出して、幸せな時間を送れるのだから。

「クロ?今日は、一平に会ってくるよ?」
『ニャッ!?ニャニャっ!?』
「ははっ!大丈夫っ!ちゃんと帰ってくるから」
『ニャンニャー!!』

 身支度を終えた俺は、そうクロに約束を交し、以前買ったお菓子のセットを手に、一平と約束した場所へと向かっていったんだ。

 ◇ ◇

 待ち合わせ場所に指定されたのは、札幌の街角から少し離れた最寄り駅だった。

 行ったことが無い駅でもなかったし、ナビがなくても行ける場所。ただ、車を走らせる俺の気持ちは落ち着くわけがなかった。

 あの空間で会う一平とは違う一平。
 いつもスーツ姿の一平とは違うわけだ。
 彼の私服、そしていつもの姿が見れる。

 普通の恋なら当たり前のことも、今の俺らは当たり前のことが当たり前な訳では無い。

 そして、一平の本当の気持ちをまだしっかりと聞けていたわけじゃないからこそ、俺の気持ちは色んな意味で落ち着かなかったのかもしれない。

 そんなソワソワした気持ちで待ち合わせ場所に着くと、いつもなら俺より後に来るはずの一平が俺の車に気付き、可愛くもどこか凛々しくもある姿と共に笑顔で手を振ってくれたんだ。

 初めて見る一平の私服姿。
 暑いからなのか、黒い短パン姿に華奢な足。そして、白いシャツの上には、薄青いストライプ模様のワイシャツを綺麗に身に纏う姿。

 至ってシンプルなのに、全てが一平と一体化し、鮮やかに着こなされている。いつも感じる爽やかでどこか甘くも大人っぽい一平は、私服でも変わらなかった。

「優太さん!おはようございます!」
「ああ、おはよう。待たせてごめんな?」
「え!?待ってないですよ!時間ピッタリじゃないですかっ!さすが、A型!」
「おいおい、バカにしてんのか?」
「ハハッ!してませんよっ!優太さんはいつも僕のことを待っていてくれてるって知ってるから」

 返す言葉が見つからなくなった。
 おちょくられているのかと思ったけれど、君はちゃんと俺のことを見てくれていたんだと、そう感じてしまって。

 『知っているから』

 君にしか見せたことの無い姿を君が受け取り、そして感じ取り、それを言葉にしてくれたら嬉しくて仕方ない。そのことまでも君は理解しているということなのかな?

 そして君が発する一言一言で、俺はどんどん君に魅了されていく。そのことまで君は気付いているのかな?

「分かった分かった!とりあえず暑いから、早く助手席乗りな」
「ふふっ!分かりました、お邪魔します」

 恥ずかしさから強がる俺に対し、いつも通り爽やかな香りを放ちながら助手席に座り込む一平。

 どんなに強がったって、どんなに君に心を擽られたって、俺はこの空間が好き。君とのこの空間を大事にしていきたい。その気持ちは全く変わらない。

「じゃあ、動くぞ?」
「はいっ!どこでも着いていきます!!」

 一平の笑顔とその言葉と共に、俺はハンドルを握りしめ、デートの舵を切り始めたんだ。
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